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マルセンの廃坑

「よう、待たせたな」

「早い仕事だな」

「炉さえあればその場でも作れんことはないんだが……って、なんだそれ?」

 さり気なくやり過ごそうと思っていたが、俺の肩に座ったルフィアをスルーするスキルはマサムネにはなかったようだ。

 いや、俺も無理だな。


「亡国の姫君ねぇ」

 クエストで入手した経緯とルフィア自身が騙った正体を説明すると、マサムネは興味深げに聞いていた。

「まだメインにするクエストも決めてなかったし、成り行きでやっていこうかなと」

「いや、すげえよ……人形を連れ歩く勇気とか」

 後半はぼそっと付け加えられたが、しっかりと聞こえた。

「ま、マサムネはクエストとかまだやらないのか?」

「今んところはな。ただ鍛冶系のクエストを進行しても何かありそうだな」

「一子相伝の技術とかか?」

「わからんが、刀鍛冶の逸話には、技術を盗もうとした弟子の腕を切り落とすとかいうのもあるからな。クエストとして何かあっても不思議はないだろう」

 片手失う覚悟のクエストってなんだよ。


「っと、本題だ。ほれ」

 そういってリュックからひと振りの短刀を取り出す。あの時のデッサンが、そのまま形になったような出来栄えだ。

「おお、すげーな。まさにあのまんまじゃん」

「いや、もっとこう曲線美が足りない気がするんだが」

 クラフターのこだわりは凄い。

「俺としてはこれで十分だ。あとは実戦で使っていって不具合がないかくらいだな」

「そうだな。使い勝手が大事だろう。また俺の腕が上がって、上等の素材が作れるようになったら、連絡するわ」

「ああ、素材を集めるのに手がいるようなら誘ってくれ」

 報酬を支払い、俺は早速新しい武器を試すために街を出た。



 マルセンの街の外は、北方の山が近い。そこは鉱山になっていて、手頃なモンスターが徘徊しているという。

 現在も掘られている鉱山は、街の兵士が警護にあたっていて、モンスターは退治される。しかし廃坑となった坑道には、モンスターが徘徊しているのだ。


「暗いな」

 使われていない鉱山に松明が掲げられる事はなく、自前の灯りを持ち込むしかない。

 一応、油で灯りを確保できるカンテラはあるものの、それを持つと折角の護剣マンゴーシュが装備できない。

「仕方ないのぅ、ライトよ」

 ルフィアが手をかざしながら言葉を発すると、手の先に光が灯る。

「おお、さすが魔道の姫君」

「ふふん、当然なのじゃ」

 胸を反らしてバランスを崩し、慌てて俺の髪を引っ張って体を支える。

「ただわらわには活動限界があるから気をつけよ。大体半日じゃ」

 太陽光を魔力に変えて可動している人形。魔力が尽きれば休眠状態になってしまう。

「そうだったな」

 ポタミナを取り出し、タイマーをセットしようとすると、すでに『召喚ゲージ』なるものが追加されていた。名前の欄にはルフィアと入り、太陽光を受けている現在は『1:00』となっている。

 ゲームの中で半日ということは、現実の1時間ってことだな。


「戦闘になったら、降りてくださいよ」

「わかっておるわ」

 俺は右手にシャムシール、左手にマンゴーシュを構える。まだ抜刀するのがスムーズにこなせないので、抜き身で歩くことにした。

 ルフィアはまだ肩の上、さすがに戦闘となると厳しい。

 そのうちリュックに席でも作るかなぁ。



 暗闇の坑道をルフィアの光で進んでいく。坑道として整地されているので、思ったよりも歩きやすい。ただ、時折大き目の石も転がっているので、灯りは必要だ。

「ワォーン」

 坑道にはいくつもの横穴が開いていて、人は入れないがモンスターの巣になっていた。


 這い出してきたのは、二足歩行の犬、コボルトか。ルフィアの光に土に汚れた灰色の体が起き上がる。

 背丈は俺の胸辺りまで、やや後ろ足の太い犬といった外見で、威嚇するように開いた口からは、だらだらとヨダレを垂らしている。

「噛まれたくはないな」

 俺が身構え、ルフィアが飛び降りた。


 右足を引いて、左手を前に構える。右手のシャムシールは肩に担ぐように持っていた。

 対するコボルトは両手を肩よりやや上に構え、口を開閉しながらタイミングを計っている。

 左足をややすり足で動かした時、コボルトが襲い掛かってきた。


「わうっ」

 鋭く振るわれる右の前足、伸びた爪をマンゴーシュで受ける。ダガーと違って、拳の部分で受けれるのでより素手に近い感覚で払えた。

 左の拳を外に払いながら、上体を回し、右手のシャムシールを振り下ろす。

 コボルトも爪でそれを止めようとするが、こちらは刃物だ。赤いものが飛び散り、コボルトは少し下がる。

「ファストアタック!」

 そこへ追撃を掛けるように、アクションコマンドを発動。振り下ろした右腕が、くるんと一回転するように持ち上がり、右足の踏み出しと共に、振り下ろされる。

 一歩前に出ながらの斬撃は、下がるコボルトの胴を浅く斬りつけるに留まった。


「おろっ」

 技後の硬直、そこにコボルトが噛み付いてくる。

 上体を引き戻してガードするには余裕がない。いっそ前にでる。

 昔やった格闘ゲームでの動きが自然と再生されていた。体を更に半回転させてのバックバンドブロー。

 コボルトは獣の俊敏さで上体を反らそうとするが、それがかえって護拳部分に当たるはずの打点を、刀身の部分へとずれることになった。


「キャインッ」

 顔の半ばを斬られて怯む。動きが止まった所へ、更に回転してのシャムシールを叩きつけた。

 肩口から入った一撃は、致命傷となり、コボルトはポリゴン片となって砕け散った。



「なかなかやるのじゃ」

「ひぁー紙一重な感じなんだが」

 敵が倒れた事をみて、近づいてきたルフィアに苦笑を返す。

 咄嗟に思い描いた動きがでたのは、個人的に嬉しい。実際、ゲーム内の体は、リアルの体よりもスムーズに動く。

 これが若さと言う奴か。

 ゲームのキャラクター設定は二十歳過ぎ。身体的に一番伸びやかに動ける設定だ。

 軽く素振りをしつつ武器を構え直す。さすがにルフィアを再び肩に乗せることはせずに、先へと進む。


 ふと遅れずについてくるルフィアに目をやると、足を動かさずにスーッと動いていた。

「浮いてるのか、それ」

「うむ、この体で足を使うとかなり動かさねばならぬからのぅ」

 さらっと答えるルフィア。

「風魔法の応用でこの程度は造作もないのじゃ」

 ふふんとドヤ顔である。人形だから表情は変わらんが。

 とりあえず移動速度には気を使わなくても良さそうだ。


 廃坑の中は結構、くねくねと曲がりながらも一本道。固い岩盤に当たると、それを迂回するように道を作り、鉱石がありそうな箇所には横穴を作って採掘していたのだろう。

 俺が今進んでる道は、木材で補強されているが、横穴にはそうした跡はない。

 短期間の掘削用の通路だからだと思われた。


「わふぅん」

 その横穴から這い出してくるコボルトを撃退しながら進む。隙の多くなるアクションコマンドは、極力トドメに回して、左でジャブ、右の斬り下ろしでダメージを積み上げる。

 思った以上にマンゴーシュとの馴染みが早い。もしかすると、オーダーメイドしたことで、補正が働いているのかもしれない。

「いよいよ、武器はマサムネ頼りになりそうだな」

 そのうちシャムシールも発注した方が良さそうだ。


 ダンジョンとして見ると廃坑は一本道。宝箱の類もなく、たまに拾える銅鉱石が多少価値がある程度だった。

 そして初級ダンジョンとして配置された廃坑の最深部に到達した。



「ワオオオーン」

 そこには今までのコボルトより二回りは大きいコボルトが待っていた。更にはお供が二匹。

「おいおい、いきなりかよ」

 一声鳴いたボスが突っ込んでくる。背丈で俺と変わらないサイズ、前足がやや長くリーチがあった。


 この手の攻略の基本は、雑魚の数を減らして、ボスに集中することだ。

 長く鞭のようにしなりながら振るわれる前足。ただそれは大ぶりで、マンゴーシュで受け流すと次の攻撃までの時間が稼げた。

 ボスの脇を駆け抜け、こちらに駆け寄ってくるお供の一匹に斬りかかる。

 ボスの影から現れた俺に、お供の動きは鈍い。駆け抜けざまに胴をなぎ、振り返って『ファストアタック』を叩き込む。

 それでポリゴン片になるのを確認して、こちらを振り返ったボスと向き合う。


「いけるな」

 ニヤリと笑いながら、一歩踏み込む。そこへボスコボルト……略してボボルトが腕を振るう。今度は横薙に迫るそれを寸前で後方にステップして躱し、続けて振るわれた逆側の腕も見切る。

 自らの腕に絡まれるようなボボルトへ、蹴りを放って距離を取ると、助けに入ろうとしたお供コボルトを正面から斬りつけた。

 さすがに一撃ではケリがつかなかったが、大きくダメージを受けたお供は放置して、体勢を立て直しているボボルトへと駆け寄る。


 腕を大振りする攻撃は不利と悟ったのか、小刻みなパンチ攻撃に切り替えてきた。

 しかし、左右の連携はなく、ワンツーにはなっていない。これではワンワンパンチだ。

「コボルトだけにー」

 左手でボボルトの拳を打払い、がら空きになった胴体を斬り下ろす。そこから、手首を返しつつ刀身を跳ね上げ、更に円弧を描いて振り下ろし、跳ね上げる。

「インフィニットスラッシュ!」

 二度8の字を描いた斬撃に、ボボルトは耐えきれずに砕け散る。

 思わず格ゲー時代の持ちキャラの必殺技を叫んでいた。


 そのままシャムシールを鞘に納めて決める。

 と、そこに背後から衝撃。

「あぐっ」

 一匹忘れてたっ。

 首をひねると、俺を抑えつけて大口を開けるコボルト。ダラダラとヨダレが垂れて、俺の顔を濡らす。

 その口が俺の首筋にかかる瞬間、その顔に火の玉が弾けた。

 割れた火の粉が俺へと降りかかる。

「あちっあちちっ」

 どしゃっと伸し掛かってきたコボルトも砕け散り、俺は何とか解放された。

「わらわがおらぬとダメなようじゃのう」

 この姫君、ドヤ顔である。



 いや、俺の油断が招いた事だ。ここは素直に反省しよう。

「いんふぃにっとしゅらっちゅ〜うびゃ〜」

 その場に倒れて、ジタバタともがいている。

 ぐぅ、ここは堪えて無視無視。

 ボボルトの部屋の奥には、廃坑から集められたらしい鉱石が積み上げられていた。

 大半は銅鉱石だが、中には銀鉱石も混ざっている。マサムネへの手土産になりそうだ。

 未だ倒れてジタバタやっている姫を抱えると、俺は廃坑を後にした。

文言変更

インフィニットスラスト→インフィニットスラッシュ(20161214)

併せてルフィアのセリフも

いんふぃにっとしゅらっちゅ〜

に変更(20161214)

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[一言] 姫、楽しそう(笑)
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