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副武器の発注

 日向ぼっこするうちに、覚醒の時間が来てしまった。

 午前七時半、休日だけどいつもの時間だ。

「寝直す……?」

 例によって記憶は無いし、すっかりリフレッシュした体は、二度寝を欲していない。

 掃除でもするか。


 半日かけてしっかりと掃除をこなして、より安眠できる環境を整えた。しっかりと夕食を食べ、ゆったりと風呂に浸かり、夜に備える。

 記憶を現実に持ち出せないSleeping Onlineのユーザーレビューは、点数は高いのに具体的な内容がない。

 というかゲームのレビューなのに、翌日の目覚めが違う。よく眠れる。疲労回復効果。といった健康器具のようなレビューがついているのだ。

 『参考になった』の項目で、圧倒的にNoが多い。うん、俺もこんなレビューでは買わないわ。

 かといって自分で効果的なレビューを書くこともできない。ぜひプレイしてくれと言うしかないのだ。

 少数ながら、試用体験会も随時行われている。ただ、寝ている間にプレイするだけに、泊まり込みの体験会になるので、敷居は高いらしい。

「プレイヤーが増えるといいんだがなぁ」

 そんな事を思いながら、俺はようやく眠りに入る。



 ログインするとそこは公園。ベンチに座りながら日向ぼっこしている。

 傍らには色鮮やかなドレスを着た隻眼の人形。さすがに呪いの人形と思う人はいなくなったと思うが、人目に晒したいものでもない。

 リュックに入れておくか。


「ん?」

 ポタミナを見てみると、メッセージが届いていた。マサムネからだ。

『ブロンズの小物ならデザインできるようになった。マインゴーシュとやらの詳細を教えてくれ』

 フレンドのリストを確認すると、マサムネもオンラインのようだ。こちらから依頼するんだし、会いにいってみるか。


 マサムネにそっちに向かうと返事を送って、馬車で次の街へと向かう。

 マサムネがいるのは鍛冶が盛んだというマルセンという街だ。あの後、マサムネはそのまま次の街へと移動したのだ。



 マルセンの街は今までの街とは少し違っている。何というか全体が煙たい。

 街のあちこちから煙が立ち上っている。

「何か体に悪そうな街だな」

 あちこちからトンカンと金物を打つ音が響き渡っている。

 街を行き交う男たちも、半裸で筋骨隆々。鍛冶で鎚を振るうのは、体力のいる仕事なのだ。


 そんな鍛冶一色の街だが、もちろん酒場なんかもある。そのうちの1軒でマサムネと落ち合う。

「おう、アトリー。こっちこっち」

 さほど広くない酒場。見ればひと目でわかるのだが、陽気に手を振ってくる。


「何それ、和装? 売ってるのか」

 マサムネの姿が一新していた。俺と同じ布の服だったはずが、作務衣になっている。

「ああ、作業着の中にあったからな。この街の商店は、鍛冶屋に特化してるみたいだ」

「ふうん、日本風のもあるんだな」

 俺もそろそろ服装にこだわりたいところだ。


「まあ、それはさておき、マインゴーシュだよ、マインゴーシュ」

「いや、マンゴーシュだから」

「え、俺の記憶だとマインゴーシュなんだが」

「外国語だからカタカナ表記すると色々になるんだろうけどな。俺はマンゴーシュ派なんだよ」

「まあどうでもいいか」

 よくねーよ。とは思ったが、ここでごねても仕方ない。


「具体的な形を決めてもらわねーと作り難いんだよ」

「そうだよな」

 多分生産系のデザイナーは、その辺のイメージストックが多いのだろう。

 ドレスを即席で作れるマリオンなんかは、かなりの知識を蓄積しているはずだ。


「とりあえず、防御用の武器ってのはわかるな?」

「そもそも何で盾じゃないんだ」

「そりゃ、二刀流は格好いいだろ」

「いや、盾も格好いいだろ」

「刀匠目指す奴が盾褒めるのかよ」

「それとこれとは別じゃね?」

 俺もそうだが、マサムネもこだわりがある。話し始めるとなかなか止まらない。ただそんな半ば意味のない会話が、妙に懐かしさを伴って楽しかった。

 が、それじゃ進まんのだ。


「ひとまず置いておこう。先に進まん」

「そ、そうだな」

 我に返るとマサムネも少々照れくさそうに話を進める。

「マイン……マンゴーシュな。持ち手を守るように鍔が広いんだっけ?」

「マインゴーシュでもいいよ。とりあえず手は守る感じだな。刃は柄と同じ程度の直刃で両刃」

「ふむふむ」

 そういいながらマサムネはデッサンを描き始める。何そのスキル。

「何、昔ちょっと落書き程度にな」

「すげーな」

「いや、この程度は慣れだよ。実生活じゃ役に立たないし」

 プレゼンとかする時に役立ちそうだがなぁ。と呟くと、そんなのは専門職が居るんで素人絵には用がないんだよ、と返された。


「で、こんな感じか」

「おお、確かにこんな感じでいいと思う」

 鍔から柄の先まで繋がった護拳がついていて、拳半分が隠れる感じだ。刃部分は幅広でまっすぐ。相手の攻撃を払いやすい形になっている。

「刀身部分は、もうちょっと肉厚で、切れ味は無くても折れない感じが欲しいかな」

「なるほど、なるほど」

 しゃしゃっとデッサンに厚みを加える。

「多少重くはなるが、その辺は大丈夫か?」

「その辺は慣れるしかないかな」

「よっしゃ、とりあえずこの形で作ってみるわ」


「それで費用は?」

「う〜ん、試作品だし材料も近くで取れるしなぁ。タダでも……」

「そりゃダメだぜ。自分の作業で金取れないと。材料費とデザインで、一般の武器と同じから倍くらいは払うよ」

 ダガーが一本、100Gだったのでその倍の200Gでひとまず契約。後は手直しがあったり、追加の仕様があればその都度加算という形にした。


「まだ最初は、はした金だけどな」

「いや、納品だと一本20Gとかだからなぁ、本当にいいのか?」

「使い勝手がよければ、今後素材を上げて作ってもらわないとダメだしな。その為の先行投資だよ」

「うっし、気合入ってきた。時間はかからないから、今日中にできるよ」

「じゃあ、その間に街を歩いてみる」

 俺はマサムネと別れて、マルセンの街を歩いてみた。



 鍛冶がメインの街だが、作られた刀剣なども売られている。他にも装飾品の類も充実していた。

 刺繍針なども素材に応じて、出来上がりに補正がかかるが、使うにもスキルがいるので今のところは買い換える必要はない。

「髪飾りか」

 人間用の髪飾りはルフィアには大きいよなぁと思っていると、フェアリー用の髪飾りなんてものがあった。

 フェアリーは小さな羽の生えた妖精で、ペットの一種としてサポートしてくれるキャラクターらしい。

 体長は50cmほどとルフィアに比べると大きいが、ルフィアは人形としてやや頭が大きくデフォルメされているので丁度良さそうだ。


 俺はリュックからルフィアを取り出した。

「ふぁ〜〜〜んっ」

 リュックから現れたルフィアは、泣き声をあげながら俺の首にしがみついてきた。

「お、おい、どうした?」

「く、暗くて何も見えないのじゃっ」

 リュックのある種の魔空間。暗いのはもちろん、手足もつかない無重力。かなり不安を掻き立てられたようだ。

「す、すまん。そんな事になってるとは……」

 リュックの中に入れれば休眠状態になると勝手に思っていた。

 耳元でグスグスと鼻をすするような音を立てるルフィア、その背中をポンポンと叩いてやる。

「もう絶対、リュックには入れないから」

「絶対じゃぞ」

「ああ、絶対だ」

「絶対に、絶対じゃぞ」

「ああ、絶対の絶対に」

「絶対の絶対に、絶対じゃぞ」

「ああ〜、これ無限にループするバグじゃん。それよりルフィア、髪飾りがあるぞ」

「ん?」


 髪飾りが並べられた台に下ろしてやると、すぐに泣き止んで一つ一つを吟味しはじめた。

 現金なやつだ。

 しかし、女性の買い物を甘く見ていた。

「これと、これ、どっちが良いかのう?」

「う〜ん、右っかわのかな」

「センスがないのぅ、お主は。こっちじゃろうが」

 と足元に置いてあったやつを指す。いや、どっちって聞いたじゃん。

 そんな不毛なやり取りが小一時間続けられた。

「じゃあ、これじゃな」

「いや、流石に金の装備は金が足らん」

「じゃあ、これ?」

「いや、銀も無理だ」

「くっ、この甲斐性なしが。仕方ない、これでよいわ」

 そう言って買わされたのは、中央にバラの装飾がほどこされたカチューシャだった。

 金色の髪にカッパーで出来たカチューシャを載せてやると、すっかり上機嫌になっていた。

 磨き上げられた銅は、なかなかに綺麗でルフィアの髪にも合っている。

 鏡の前で角度を変えながら自分の姿を確認していた。


「お、メッセージか」

 丁度その時、マサムネから連絡が入り、さっきの酒場で落ち合う事になった。

誤字修正

もつ絶対→もう絶対

ダメ出しな→ダメだしな(20170107)

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