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王妃からの贈り物

「女王は?」

「奥の私室へと入っている」

「執務室の奥は王族の居住区となっておった」

「なるほど」

 家族との思い出が詰まった場所か。かつての住居に帰れる。それは嬉しいことかと思っていたが、逆に失ったものを痛感させる事にも繋がるか。


「ちょっと行ってくるよ」

「仕方ないのぅ」

 ルーファも多少は心配そうに俺を見送ってくれた。



 執務室の奥の扉から進むと、いくつもの部屋が連なっている。王族自身の部屋と、そのお付きの者達の部屋。もちろん、ゴーレムなどの格納場所なども設置されている。

 ルーファに聞いた間取りから、まずはルフィア自身の部屋へと向かう。

 ノックをしても返事はなく、しばし逡巡した後に引き返す。

 そこから姉姫のアーシャの部屋、国王となった兄の部屋、父王の部屋とノックしていき、たどり着いたのは王妃の部屋だった。



「ルフィア女王、おられますか?」

「……!?」

 僅かに反応する気配。俺はそのまましばらく待つ。


「すまぬ、アトリー。入って良いぞ」

 許しの言葉に俺は扉を開く。オレンジ系の暖色が主に使われた部屋は、華美な部分もなく落ち着いた雰囲気があった。

 日当たりの良いバルコニーに、観葉植物が並び、そよ風に緑の香りが含まれる。

 化粧台の椅子に腰掛けたルフィアは、入ってきた俺を見て毅然と構えているが、その瞳は赤くなっていた。



「すまぬな、アトリー。連れ戻ってくれたこと、感謝しておる」

「俺の方こそ、あまり考えずに連れてきてしまった」

「いずれは帰らねばならぬ場所。覚悟はしておくべきじゃったが……準備ができておらなんだのは、わらわの落ち度じゃ」

 その瞳は再び揺らぎを見せ始める。

 俺はそんなルフィアへと歩み寄っていく。


「俺は、その、身近な人間を失った事はないんだ。だから、何と言ったらいいか分からない」

「アトリーが気にする必要はないのじゃ。こういうことは、結局のところ、自ら受け入れねばならぬ」

「俺は側にいる。困った事があれば、頼ってくれ」

「ずっこいのぅ、アトリーは」

 俺の服を掴み、座るように促された。



「母上は寛容な方でな。わらわが礼法をそっちのけで、魔法の研究に明け暮れておっても許してくれておった」

 礼法を修め、東国へと嫁いだ長女。大人しくて草木を育てつつ、文学にはまっていた次女。少々お転婆で、研究室に入り浸っていた三女。

 それぞれに個性的な三人を、押さえつけることなく、それでいて無茶して体調を崩した時には、しっかりと叱ってくれて。

 それでもやっぱり優しく看護して育ててくれた母。

 ルフィアが魔導炉の魔力に汚染されて眠る時には、ついに直接は話せず手紙を残したらしい。


「ちゃんとお別れを言えなかったのじゃ……なのに、わらわのせいで王国が滅亡に向かうなぞ」

 おさまっていた涙が、再び頬を伝っていく。

「王国を滅ぼしたのは女王のせいじゃない。力を悪用した者達の欲だ」

「されどわらわが技術を渡さなければ、彼らとて暴走せんで済んだのじゃ」

「それは魔導技師の更なる発展を望んだ結果だろう。そこを否定する必要はないよ」

「しかし……」

 俯いてしまうルフィア。

 俺にできるのはそんなルフィアの背中を擦りながら、周囲を見渡すこと。

 やはり千年の時を重ねて、霊は残っていないようだ。ただ朧気に生活の名残りのような気配を感じられた。

 ここはくつろぐための空間で、テーブルでお茶を楽しむ事が多かったのだろう。

 その残滓の中に少し違和感のようなものを感じた。俺はルフィアから少し離れると、部屋に飾られた風景画へと向かう。

 のどかな田園風景を描いたそれを調べて外してみる。



「ん、これは……」

 現れたのはちょっとした棚。収められていたのは小さな金庫。そこに名前が刻まれている。


「女王の名があるぞ」

「え……!?」

 金庫には4桁のダイヤル式ロックが掛かっていた。その小箱をルフィアへと渡してやる。

 ルフィアはその箱をしばらく見つめると、ダイヤルを回し始めた。

 程なくカチンと音を立てて小箱が開き、中が見えるようになる。

 そこには書状とブローチが入っていた。


 ルフィアは書状を手に取り、ゆっくりと読み始める。部外者である俺は立ち入るべきでは無いだろう。

 バルコニーへと向かって外を眺める事にする。

 手前に並べられた観葉植物は、しっかりと手入れがされていて青々としていた。ゴーレムによる手入れが続いているのだろう。

 長きに渡って主が不在でもずっと作業を続けるゴーレム。もしかすると代替わりして作業を続けているのかもしれない。


 バルコニーの外には、城下町が一望できる。人の気配はないが整然と並んでいる様は、ゴーストタウンというのともちょっと違った雰囲気だ。

 荒廃した様子はなく、引っ越してくればすぐに住めそうな街。

 しかし、実際はゴーレムによって支配されている。

 あるじもなく、目的もなく、ただただ侵入者を排除して守られる街。


「魔導技師達は何処へいったのかな」

「うぐっひぅっ母上……」

 書状を読み終えたのか、ルフィアが手紙を抱きしめるように崩れ落ち、号泣を始めた。

 下手に慰めるよりも全部吐き出した方がいいのかもしれない。

 いや、単に俺が慰めの言葉を持たないだけか。してやれるのは、側でそっと見守るだけだ。


 千年の時を眠り、目覚めた時には知る者は無く、かつて暮らした王都は、形こそ残っているものの人の営める場所ではなかった。

 その胸中を推し量る事などできはしない。

 俺はそっとルフィアの背中を撫で続けた。



「すまぬ、アトリー。もう大丈夫じゃ」

「無理はしなくていいからね」

「いや何か作業をやっていた方がよさそうじゃ。わらわにやって欲しい事があるのじゃろ?」

「ああ、それはそうなんだけど。急ぐほどでも無いからね」

 俺はルフィアが持ち直したことを確認して、書庫にある〈魔導技師〉の入門書の書写をお願いすることにした。


「母上、遅いのじゃ。まあ、羽目を外さなかったようじゃがな」

 執務室に戻るとルーファが噛み付いてきた。淫魔として何やらチェックしたようだが、そんな事はしていない。


「うむ、すまぬな。アトリーは返すのじゃ」

「え、あ、うむ……」

 言い合うこともなく、すんなりと俺を解放したルフィアに、ルーファの方が戸惑っていた。

 ルーファにとって両親、家族の記憶は、どこか借り物だったのだろう。ルフィアとは受け取り方が違った。

 同じく俺とルーファの記憶は、ルフィアにとっても借り物。その辺の差が出始めているように感じた。



 ルフィアを書庫まで送り、一度村に帰って清掃拠点で得た物をシナリに渡す。

 それからログアウトして一日のプレイを終えた。

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