バスティーユ城内へ
城門へとやってくるとそこの門扉も既に壊れていた。しかし、そこを守るように1体のゴーレムが守っている。
腕が4本あり、盾と2本の短槍、そして剣をそれぞれの手に持っている。
さっきのゴーレムよりも一回り大きいくらいで、レベルも高かった。
「次はわらわの番かの」
「いや、俺がやるよ」
「わらわに任せるがよい!」
「ちょっ」
ルーファは俺の制止も聞かずに魔法を唱え始める。かつては魔導人形で使える魔力の制限が低かったが、今は悪魔の体となり魔力のキャパシティが増えている。
レベル的に言ってもルーファの方がかなり高いので、問題はないのだが……。
「ファイアボルト!」
力強い言葉とともにルーファの右手から火球が生み出され、一直線にゴーレムへと突き刺さる。
体が傾げるほどのダメージに、ゴーレムがこちらを向いた。
槍を持つ2本の腕が鋭く振るわれると、勢い良く投じられた。
「言わんこっちゃない」
ルーファの前へと飛び出して、迫り来る槍を受け流す。
「ま、守ってくれると、信じておるからのっ」
「全然予測できてなかっただろっ」
「だって、槍を投げてくるとは思わぬではないかや!?」
「あの形は投げるための槍だろう」
オリンピックの競技に使われるような短めの槍。ゴーレムは腰にある矢筒のような所から、次の槍を取り出していた。
「とりあえず、魔法でダメージを与えろ。守るから」
「わ、わかっておる!」
次々と投じられる槍を俺が打ち逸らす間に、ルーファが魔法を飛ばしていく。
5発目の魔法が炸裂したところで、ゴーレムはその動きを止めた。
「ルーファは戦闘経験が少ないんだから、1人で無茶をするなよ」
「む、むぅ。わかったのじゃ……わらわも役に立ちたかっただけなのじゃ」
「わかってるって。ルーファの魔法は期待してるから。それにあった状況があれば頼むからな」
なんだかんだで5発の魔法でゴーレムを仕留めた火力は凄い。状況に応じて使ってもらう事になるだろう。
「!?」
「ど、どうしたのじゃ!?」
「ゴーレムが群れでやってくる。どこか隠れる場所は?」
「あそこじゃ、あの路地は道が狭くなっておる」
門から右手側にある小道を指差した。俺達はそこへと駆け込んでいく。
「クレイウォール!」
路地へと飛び込んだ所でルーファが振り返り、路地の入り口へと土の壁を作り出す。
「ウィンドシールド!」
更にもう一つの魔法が俺達に掛かり、緑のエフェクトに包まれた。
カツッ!
そこへ上から矢が降ってきた。ただ緑の風に威力は削がれ、俺達を避けるように壁や地面へと落ちていく。
「狭い路地に誘い込んで、上から殲滅する為の通路か」
「風の魔法を掛けたゆえ、しばらくは大丈夫じゃ……前からのゴーレムは防げぬがの」
「それは俺に任せろ」
ガチャガチャと金属音を響かせながら迫ってくるゴーレムに、俺は自ら近寄って戦いを挑んでいく。
巡回していたゴーレムと同タイプで、狭い路地だと1体ずつ相手ができる。負ける要素はなかった。
「ただ数は面倒だったなぁ」
ゴーレムを倒しながら、上から降る矢を気にしつつ進み、路地の先までたどり着いた。
距離にしたらそれ程ではなかったが時間を取られ、ルーファも何度か風の守りを張り直してくれている。
「あれが三の郭の城門じゃな」
「おいおい、砦じゃないか」
見上げる高さの城壁に、弓を持ったゴーレムが立ち並び、門の所には4本腕のゴーレムが2体。
さらに奥には巡回するゴーレムの姿も見て取れる。
しかも相手はロボットのようなもの。疲れがあったり、油断があったりする訳じゃないだろう。交代する必要もない。
「どうやって突破するんだ」
「こっちじゃよ」
ルーファは城門から離れるように歩いていく。また抜け道でもあるのかと思ったが、着いた所は兵の詰め所だった。
「何かあるのか?」
「これじゃよ」
取り出してきたのは、かなり大きなカゴと布の塊、それに何らかの魔道具だった。
使い方の分からない俺は、ルーファについて作業を見守るしか出来ない。
詰め所の外に持ち出されたカゴは1辺が1.5mほどの方形で、かなり丈夫に作られている。
そこに布の塊から伸びた紐を取り付けていき、その紐の間に魔道具を仕掛けた。
「ウィンドブロウ」
ルーファが布の塊に魔法を唱えると、塊が解けていって袋状になっているのが分かる。
そして魔道具を操作すると箱状の機器から熱風が吹き出し始めた。その風をルーファが布の袋へと誘導すると、徐々にそれが何なのか分かってくる。
「気球か!」
暖められた空気が袋に満ちて、徐々に空へと浮かんでいく。それに伴いカゴにくくられた縄がピンと張った。
「乗り込むのじゃ」
「あ、ああ」
カゴの縁を飛び越えて中へと入る。2人でもそんなに余裕のあるスペースではないし、中央には熱風を吹き出す装置があるので、かなり狭く感じる。
「そろそろ浮くぞよ」
その言葉から、しばらく待つとカゴが徐々に浮き始めた。一度上昇を始めると、一気に屋根の高さを越えて城が見渡せる高さまで上がっていく。
「ひぐっ」
思わず下を見て目眩を覚える。そんなに高い所は得意じゃなかった。
「情けないのう。悠長な事はやっておれんぞ。ほれ、影が見えてきたのじゃ」
ルーファの指差す方を見ると、鳥が飛んでいるのが見えた。いや、こちらに近づくに連れて詳細が分かってくる。
背中から羽根を生やした人型のゴーレム。
「ガーゴイルじゃ」
「って言われても、俺に攻撃手段はないぞ!?」
「仕方ないのぅ。こやつの操作を頼むのじゃ」
気球の装置から離れたルーファは、魔法でガーゴイルを迎撃する体勢に入る。
装置を任された訳だが、全く分からない機械。どうしたものかと思っていると、脳裏に操作法が浮かんでくる。
〈魔導技師〉として知識が補完されていたようだ。気球の装置自体はシンプルで、熱すれば上昇、加熱をやめれば下降。
緊急降下用に気球上部の弁を操作する紐もついていたが、それは触らない方がいいだろう。
「ファイアボルト!」
ルーファの力強い言葉と共に火球が、ガーゴイルへと吸い込まれて爆発。バランスを崩したガーゴイルが眼下へと落下していく。
俺は気球の高さを調節している。高度によって微妙に風向きが違い、流される方向が変わるようだ。
俺はその流れを掴みつつ、城の本丸を目指す。1から3の城郭を空からパスできるのはありがたい。
「これで終わりじゃ。ウィンドストーム!!」
「おわわっ」
ルーファが唱えた風の魔法は、渦を巻くようにガーゴイルを絡め取っていく。ただ俺達の気球もそれに引っ張られて加速。
魔法自体はそれほど長時間ではなかったが、勢いのついた気球はかなりの速度で王城へと突っ込んだ。
「イテテ……」
王城のテラスへと突っ込んだ気球。カゴの下端が手すりに当たり、中に乗っていた俺達は城の中へと放り込まれた。
辺りを見渡すとすぐ近くにルーファが伸びている。そして正面にある玉座は空席で、その傍らに甲冑を着込んだようなゴーレムが待ち受けていた。
〈看破〉を発動すると、かなりの高レベル。ルーファと同じくらか。
〈魔導技師〉としては俺の方がレベルは高いが、戦闘スキルではかなり劣っている。ちゃんと戦えるのか?
一方のゴーレムも侵入者に対して動き始めた。玉座を守るゴーレムは、3mほどの高さで体型はシャープ。腰に履いた剣を抜きながらゆっくりと歩いてくる。
形状としては普通の剣だが、3mの体に合わせた長さがあるので、間合いはかなり広そうだ。
俺もマンゴーシュとシャムシールを構えながら近づいていく。
そして正対して気づいた。
「こいつ、魔力が見えない!?」
ゴーレムが動くために必要な魔力。その流れが見えることが、ゴーレムに対する大きなアドバンテージ。
しかし、ゴーレムの表面に刻まれた複雑な呪紋。それがゴーレム自身の魔力の動きを見せないように仕組まれていた。
「ちょっとマズイか? いや、今までがチート状態だっただけ。純粋に戦士として戦うだけだな」
その決意を待っていたわけじゃないだろうが、ゴーレムが一気に間合いを詰めてきた。
チィィィィーッ!
マンゴーシュで相手の剣を受け流す金属を擦る音が響く。器用さ補正でかなり威力を逸らせているはずだが重い。
それだけの威力、一太刀でも浴びればひとたまりもないだろう。
しかし、剣の軌道を見ることはできた。更に踏み込み、シャムシールを打ち込む。
ガィーン!
まるで手応えもなく弾き返される。魔鉱石で作られたシャムシールですら、微々たるダメージも与えられそうにない。
またゴーレムの表面に施された呪紋が、目にチカチカして落ち着かない。まるで魔導技師と対する為に作られたようなゴーレムだ。
「くっ」
一度受け流した剣が、再び襲ってくる。マンゴーシュによるディフェンスで、極力その威力を殺して受け流す。
動き自体は大雑把で、攻撃する時にはかなりの隙ができるのだが、こちらの攻撃は通じない。
魔力の流れも掴めずゴーレム相手の必殺の一撃も繰り出せない。
「くそっ、どうすれば」
「困っているようだな」
俺の手首に巻いたロケットから、レイスが飛び出してきた。しかし、レイスは物理的な攻撃手段はなく、ゴーレムには生気も無いため役に立たない。
「何しに出てきた!?」
「もちろん、助けてやろうと」
「何ができるんだよ」
「私にできることを。まあ、多少は見返りが欲しいところだが」
「くっ」
悠長に話している場合でもない。ゴーレムの打ち込みは続いている。
「私にもちゃんとしたご褒美をくれないかね?」
「わかった、わかったから、何かできるならやってくれ」
「言質はとったぞ」
レイスはそのまま俺を離れて何処かへと行ってしまう。
しかし、そんかレイスを気にかけている場合でもない。ゴーレムの攻撃は、一撃一撃が重い必殺の太刀。防御は堅い鎧に任せて、攻撃一辺倒だ。
上段からの重い一撃をいなして避けると、ゴーレムはパターンを変え始めた。
必殺の剣術から、連撃の太刀筋へと。
素早い動作で左右に斬り返す剣を、マンゴーシュとシャムシールで受け流す。魔鉱石で無ければ折れるか曲がるかしていたかもしれない。
変幻自在に振るわれる太刀筋は読みにくく、かなり無理して弾いている部分も多くなる。
ジリジリと押されて、やがてルーファの倒れる付近まで。これ以上さがるとルーファを先にやられるかもしれない。
それだけはさせるわけにいかなかった。
「おらっ」
相手の剣を弾いた隙に、脇腹をシャムシールで薙ぐ。そのまま背後に回って更に斬りつける。
しかし、堅い防御に守られたゴーレムは意にも介さない。
俺を振り返る事なく、目の前に倒れるルーファへと剣を振りかぶった。
「くそっ」
気を引くのに失敗した俺は、再びゴーレムの脇を駆け抜け、ルーファに覆いかぶさるように倒れ込む。
その衝撃でようやく目が冷めたらしいルーファが、間近にある俺を見上げた。
「アトリー、後ろじゃ!」
「分かってる。ルーファだけでも生き延びてくれ」
「な、何を、諦めるのかや」
「俺は死なないからな。ルーファを守れたら本望だよ。レベルは高いから、何度か切られても大丈夫なはず。その間に逃げて」
「あ、アトリー!」
俺の背中へと死の刃が振り下ろされた。




