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城下町の様子

 村からバスティーユ城まではかなりの距離がある。以前はリオンの馬車があったから、半分の時間で進むことができたが、今は徒歩。

 バスティーユ城に辿りついた所で一度ログアウトする事になった。


「すまないな、ルーファ」

「まあ、仕方なかろう。時間に縛られるのは冒険者のサガじゃからな」

 そう言いながら身体を寄せてくるルーファを抱いて、お別れにキスを交わす。

 以前はかなり気を使っていたのに、変われば変わるもの。抵抗がないどころか、無いと落ち着かなく感じる程だ。

 その際に生気も吸われるんだが、それもまたルーファの味の一つ。たっぷりとその感触を楽しんで離れた。


「じゃあまた明日」

「うむ、待っておるぞ」

 少し寂しそうに微笑むルーファを残し、俺はログアウトした。




 ログインすると別れた場所とほぼ変わらない位置で、ルーファが眠っていた。

 時刻は明け方。東の空が明るくなってくる時間。その光にルーファの横顔が照らされていく。

 長き時を生きながら、まだ生まれたばかりでもある少女。銀色の髪が頬に掛かっているのをそっと動かして、まだ幼さも抜けきっていない顔を見つめる。

 悪魔になったことで頭の横に渦を巻くような角が生えている。お尻には細く長い尻尾もついていた。

 今は俺が即席で縫い上げた黒のドレスを着ているが、その裾から尻尾の先端が覗いていた。


 古風な語り口と黙っていれば気品のある面立ち。ゴシックドレスが似合っているな。

 ただ眠る時には窮屈そうだ。コルセットでウェストを絞られ、胸が強調されるようになっている。スカートもふわりと膨らんでいて、足元側から見ると色々際どい。


「寝間着になるような服ってなんだろうか」

 パジャマは合わない気がするし、ジャージもなぁ。かといって色気のある下着とかもどうかと思うし。

 浴衣なんかも意外と似合うのか?

 どちらかというとバスローブの方がそれっぽいか。厚手の上着を用意すると、中は少し色っぽくてもいいなぁ。

 ブツブツとつぶやきながら、〈裁縫〉スキルで手を動かし始めた。



「んんっ」

 小さな呻きと共にルーファの瞳が開く。パチパチとまつ毛の長いまぶたが瞬き、やがて焦点が合ってくる。


「むう、起こしてくれればよかろう」

「寝顔も可愛いからな。しっかりと見ておかないと」

「む、むむっ、お主変わり過ぎではないかや!?」

 少し赤くなりながら照れるルーファ。あたふたした姿を愛でるのも一興だな。


「また良からぬ事を考えておるであろう。寛容なわらわでも許せぬ事もあるのじゃぞ」

 元々わがまま放題のルーファの何処に寛容さがあるかは謎だが、そこを指摘するとまた暴れるので、そこは大人として受け流す。


「さて、それじゃあルーファのお宅訪問といくかな」




 バスティーユ城へと近づいていくと、城下町の入り口が見えてくる。

 城を中心に円形に広がり、東西南北に大きめの門がそびえていた。ただ門の扉は壊れていて、閉じることはない。

 そしてその門の所で戦闘する一団が見えた。


 人型の2mくらいあるゴーレム。俺とリオンを殺したゴーレムだ。動きが早く、鋭い斬撃を放ってくる難敵。

 それを大きな盾を持った冒険者が正面から受け止める。連続する金属音、冒険者は盾の陰に隠れるように必死に耐えた。

 そこへ両サイドから斧や槍を持ったアタッカーが突き掛かる。ゴーレムはそれを俊敏に避けるが、今度は正面の盾持ちがその盾でゴーレムを叩く。

 面による攻撃は避ける訳にもいかず、手にした剣で受け止めると動きが止まる。そこを更に両サイドから攻めていく。更には後衛に控えている魔術師からも魔法が飛んだ。

 それでもゴーレムは手足を使って盾持ちを弾きかえすと、返す刀で斧持ちを斬りつける。


 一撃で大きく下がった斧持ちに、回復魔法が掛けられる。その間に盾持ちが再びゴーレムの気を引くために、脇腹を攻撃。ゴーレムが盾持ちに向くと、槍が突いていく。

 連携の取れたパーティプレイで、致命傷をもらうことなくゴーレムを撃破してしまった。



「やるなぁ」

「ソナタとリオンとは違うのぅ」

「あの時は役に立たない人形様もいたからな」

「それは関係なかろう。で、今のソナタはどうなのじゃ?」

「とりあえず“見える”ようにはなってるな」

「なら問題ないかの。わらわは見えぬようになっておる……ちょっと寂しいのぅ」

 〈魔導技師〉のスキルを失ったルーファには、ゴーレムの魔力を見極める事はできなくなっていた。

 その分、魔法は威力を増しているので、戦力としては上がっていた。



「あんたら、中へ入るのか?」

 ゴーレムを撃破したパーティの側を通ると話しかけられた。

「まあ、偵察程度にな」

 がっつり書庫を目指すつもりだが。

「パーティでも1体がギリギリなんだ。連れて逃げてくんなよ」

「ああ、MPKになるくらいなら、潔く死ぬよ」

 モンスター・プレイヤー・キル、またはキラー。

 釣ってきたモンスターを近くのパーティになすりつけて、殺させる手口だ。もちろんマナー違反となって嫌われる。


「もし余計なのを連れてくるようなら、晒すからな」

 そう言ってリーダーらしい盾持ちは、魔術師の方を見る。

「アトリーだ。アトリー・コーシュ」

「名前はわかってるからな、アトリー」

 魔術師は〈看破〉スキルを持っているようだ。俺の方がレベルが高いから、変な情報は伝わらないはず。


「アンタが連れてる彼女、NPCだよな?」

 その〈看破〉持ちの魔術師が聞いてきた。そういえばルーファはどう見えるんだ?

 俺からは〈悪魔:淫魔〉とまで見えてしまっている訳だが、レベルは彼らの2倍はある。


「あ、ああ、そうだ。クエストで連れている」

「なるほど、非破壊キャラか……」

 強さを推し量れないほどに強いキャラクターとして認識されるレベルの高いルーファを、そういう風に解釈してくれた。



「わらわはクエストキャラ扱いかや?」

「ああ、そうだぜ。俺の『ルーファを幸せにする』っていうクリア目標も分からないクエストの」

「む、むぅ。無理ゲーではないが、難易度は高いから覚悟せよ」

 赤くなって視線を逸らすルーファ。攻められると弱いんだよな、そこもまた可愛い。




 気を取り直して俺はバスティーユの城下町へと入って行く。

 人の手をはなれて久しいが、それほどに荒廃はしていない。修復用のゴーレムがいるのだろう。

 巡回するゴーレムは、魔力の流れを確認すれば、移動ルートも予測できるので、回避して進んでいく。

 まだ他のパーティに、俺の強さを知られたくはない。名前が押さえられた以上、派手に動くのはまずいだろう。


 バスティーユの城下町でパーティが入り込んでいるのは、門のある辺りだけのようだ。

 パーティの1人がゴーレムを誘って、門の所で戦うスタイル。どうやらゴーレムの思考に街から出ないというのがあるらしい。

 本格的にやばくなれば、門から出れば逃げられる。そのセーフティがレベル上げを行うポイントとして、バスティーユが使われている理由だった。



「とりあえず城の近くまでは戦闘を避けて進むよ」

「わかったのじゃ」

 俺とルーファはゴーレムに見つからないルートで先を目指す。一応、レイスも居るはずだが銀のロケットから出てきてはいない。

 まだ日中と言うこともあり、屋内でしか出てこれないだろう。


 城下町を抜けて、城壁が近くなった所で、俺は適当に巡回するゴーレムを探す。

 定点を巡っているようで、1体ずつ行動しているのもレベル上げには向いているようだ。

 倒された分は、どこから補充されているのか。ゴーレムの工場的な物が生きている?


 などと考えているうちに、1体のゴーレムを発見。魔力の流れから近くに仲間が居ないことを確認して、俺はゴーレムの正面に立った。

 不審者を見つけたゴーレムの動きはスムーズだ。腰の得物に手をやりつつ一気に走ってくる。

 リオンのローラーブレードには及ばないまでも、かなりの速度。更には居合にも似た抜き打ちを狙ってきている。

 俺は神経を研ぎ澄まして間合いを測った。


 ブン!

 敵の方が先に間合いを捉え、横薙ぎの一撃が俺を襲う。しかし、魔力の流れからタイミングが見えていた俺は、それにマンゴーシュの刃を当てる。

 かなり適当に打ち払ったはずだが、〈魔導技師〉に底上げされた器用さによって補正が掛かり、ゴーレムの体が大きく揺らぐ。

 そこへと右手のシャムシールを走らせる。ゴーレムの魔力はミュータントに比べてかなり素直だ。

 魔力を蓄えたタンクの位置へとシャムシールが吸い込まれる。

 魔鉱石で作られた刃は、ゴーレムの防具の隙間を縫って、タンクへと。

 動力を失ったゴーレムは、俺の脇を通り抜けた所で、力なく倒れて動かなくなった。


「あれ、俺って強くね?」

「油断するでないぞ……まあ、中々の手際ではあったがの」

 やはり〈魔導技師〉が攻守に渡って有効だった。敵の動きが読めるというのは、かなりのアドバンテージ。これならば先へと進めそうだな。

 確証を得られたので、城下町から城内へと続く門を目指して、移動を開始した。

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