シナリへのご褒美
鉱山へと到着、ブリーエから派遣されている兵士とシルビア達を引き合わせて、今後の警備について打ち合わせを行ってもらう。
その間にシナリとルーファは、食事の準備。俺は採掘された魔鉱石を搬送する準備を進めた。
「お、マサムネからメッセージがあるな」
まずは元々の取引がある『黄昏の傭兵団』へと数本の武器を納品。団長との駆け引きはあったが、大体予想通りの金額で買ってもらえたらしい。
追加の素材を待っているとのことだ。
「流通ルートをどうするかだな」
ホーム設定してある村から、鉱山までは現実の約30分がかかる。
マサムネの工房があるマルセンも転移ポイントのあるオタリアから馬車で30分ほど。
重さは所持袋に入れさえすれば関係ないので、それなりの量を運べるが、やっぱり時間を軽減する方法は必要だな。
「一つ考えてはいるんだが、その為にもバスティーユ城の書庫を見てみたいんだよな」
バルトニアの首都として、魔法や魔導技術に関する知識が蓄えられているというバスティーユ城。
ルフィア姫を故郷に戻してあげるという目的の他にも、俺としての目的もあった。
流通速度は経済の発展に大きく寄与する。馬車よりも船、船よりも飛行機と、移動速度が上がるに連れて、より広域での取引が成立するようになった。
転移システムは定点しか移動できない事を考えると、高速で移動する手段はどうしても欲しい所だ。
「あ、アトリーさ……」
「シナリ、そっちは終わったか」
「ああ、皆に配膳を終えただよ。アトリーはご飯どうするだ?」
「俺はいらないかな」
「そ、そうだか」
少し寂しそうにするシナリ。俺としてもシナリの料理を楽しみたいところだが、もっと優先するべき事がある。
食堂で坑夫に混ざって弁当を頬張っていたルーファを置いて、先に村へと戻る。
棟梁に土木1号を預けると、俺はシナリの部屋へとお邪魔した。
「あ、あまり見ないでけろ」
シナリの日々の忙しさが垣間見える少し物の多い部屋。メーべの村から持ってきていたのだろう、釣り竿や銛といった漁師道具が壁に掛けられている。
そして寝台の上にある女の子の部屋らしい一品に目が止まった。
「まだ持ってたのか」
「あ、当たり前だで」
俺が持ち上げたソレは、ウサギを形どったぬいぐるみ。後ろ足の所にシナリと銘が入っていた。
時間の経過からか少し煤けた感じに汚れ、糸のほつれも目につく。俺は裁縫セットを取り出して、綿が飛び出そうになっている綻びを縫い始めた。
「あ、アトリーさ。そったら事せんでも」
「カミュ達に頼まなかったって事は、俺に直して欲しかったんだろう?」
「そ、それは……」
俺の隣に腰掛けながら、作業を見詰めている。
「アトリーさの手先は、魔法のようだで」
「半分以上、スキルのおかげだけどな」
「ふふっ、あたしのおねだりに快く応じてくれて、嬉しかっただよ」
「頑張ってる子には、ご褒美をあげないといけないからな」
「でももうぬいぐるみっていう歳でもないよな。服でも作ろうか。そのワンピースも似合ってはいるけど」
「そんな、あたしは側に居られるだけで幸せだで」
「俺は不幸だな」
「え!?」
「シナリがしてくれた事に、十分に報いれていないまま、側に居るのは辛い。俺からもちゃんとご褒美をあげたいんだ」
「アトリーさ」
「服を作るのにサイズを測らないとなぁ」
「あ、アトリーさ。おじさんくさいだよ」
「俺の中身はおっさんだよ。幻滅したか?」
ブンブンと首を振るシナリ。俺が服に手を掛けても、抵抗する素振りはない。
あえて正面から首の後ろにある襟を留めている紐を解いていく。シナリの身体を抱き寄せるように、自然と顔が近づく。
「シナリ、抵抗するなら今だぞ。正直、事が始まると止められないからな」
耳元に口を近づけて囁く。
「あ、アトリーさは、本当にいいだか?」
「俺が今までどんだけ我慢してきたか」
「でもルーファ様やアリスさの方が綺麗だで」
「比べるものじゃないよ。シナリは俺にとって可愛い。それじゃダメか」
「だ、ダメじゃ、ねぇだよ」
俺の手は首の紐を解き、腰の帯も外していく。緩くなったワンピースがすとんと落ちる。
日焼けして活発そうな細い身体の少女から、大人びて丸みを帯びた女性へと移り変わる途中の奇跡的な均衡。
恥ずかしそうにしながらもされるがままの姿を、俺は採寸していく。
育ち始めた双丘に、クビレのある腰つき。柔らかく張りのある肌。
もう建前の採寸なんてしている場合じゃなかった。寝台へと押し倒しながら肌を重ねていった。
「うぅ〜なんかフワフワするだよ」
「大丈夫か?」
「うん、とっても幸せだで」
とろけた笑顔で答えてくれた。ルーファのおかげで妙に激しくなった気がしないでもないが、シナリが喜んでいるなら良かったか。
「ちゃんと服も作るから、待っててくれよ」
「んだ、楽しみにしてるだ……よ……」
とろんと瞼が重くなり、声が途切れたかと思うと眠ってしまった。
電池が切れたように眠るのは、子供の頃と変わってないな。あれからもう2年くらいは経っているのか。
メーべの村にも連れて行ってやりたいな。その為にも移動手段を手に入れたい。
俺はシナリを起こさないように、そっと部屋を抜け出した。
加速状態が解除され、家を出ると夜になっている。まるでタイミングを見計らっていたように、転移ポイントからはルーファが飛び出してきた。
「ふむ、ちゃんとご褒美できたようじゃな」
「分かるのか?」
「くくっ、淫魔を舐めるでないぞ。浮気はすぐにバレるでな」
怖い嫁だなぁ。
俺はそのまま作業場へと向かう。夜になっているので、カミュやリーナも居なくなっている。
そこらにある布を見繕ってデザインは、リーナの物を参考に自分なりにアレンジするつもりだ。
普段から身につける物か、特別な時の服か。少し悩んだが、やはり特別な物の方がいいだろう。
メーべの村から見えた海をイメージして、エメラルド色をベースに、白のレースでさざ波を縫いとっていく。
ルーファのゴシック調ドレスよりは随所を絞らず、動きに制限は出ないように。
胸元なんかも強調しないように、レースの波とリボンでアクセントを付けた。
ジャンルとしてはイブニングドレスになるだろうか。喜んでくれるといいんだが。
「喜ばぬはずがあるか。というより、わらわのドレスより凝っているではないかや」
「シナリをイメージしたら、やっぱり海かなって」
「似合うのじゃろうなぁ」
「ルーファのドレス姿も似合っているよ。ブリーエの時は立派な姫様だったし」
「カリスマが溢れ出るからのぅ」
「だからルーファのを作ろうとすると、たっぷりと時間をかけないと。俺のセンスじゃ野暮ったくなりそうでな」
「ふむ。しばらくは我慢してやるかの」
それから俺はオタリアへ。そこからマルセンへと向かい、マサムネに魔鉱石をどちゃっと渡す。
「本当に採れるんだな」
「まあな。もう暫くは稼がせてくれ」
「ああ、俺も稼がして貰ってるから問題ない。というか、炉を改造してくれたおかげで、鉄の武具もクオリティが上がってるしな」
「そうか、ならよかった」
「後は魔導技師を教えてくれたら言うことない」
「それに関してはもう少しだな。バスティーユ城の書庫に行けたら、資料がありそうだから」
「おいおい、あそこって高レベルで攻略が進んでないだろう。良質のゴーレム素材が採れるからキャンパーは居るはずだが」
「む、手を出してる奴がいるのか」
「まだ入口だけどな。一体を釣って、パーティで撃破するのが精々らしいぞ」
「とりあえず行ってみるよ」
「じゃあコレも持ってけ」
魔鉱石で作られたシャムシールを渡してくれる。魔鉱石もベースは鉄なので、重さは変わらない。形も同じように整えられていて、握った時の違和感がなかった。
「ありがとう、助かるよ」
「魔導技師を頼むぜ?」
マサムネは不器用なウィンクをしながら送り出してくれた。
「しかし、他のプレイヤーも攻略を開始してるとはな」
「内部構造が分かっておるわらわがおるから遅れることはなかろう」
「私も偵察してやるからな……なんなら、他のパーティを妨害しようか?」
「まてまて、PKとかは止めといてくれ」
物騒な事を言うレイスをたしなめつつ、俺は村へと戻った。




