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リベンジへの準備

「あ、大工の話をするの忘れてた」

「それならもう話は付けてあるぞよ」

「おう、英雄の旦那。久々だな」

 転移した所にくだんの棟梁が偶然居合わせていた。


「新たな家ってことで、城壁の中は手狭だし、外の方に拡張する事にしてまさぁ」

「何か口調がやけに砕けたな……」

「あ、す、すいません。結構長く作業させてもらって、ついつい」

「いや、親身になってくれてる証なら問題ないよ。堅苦しいのはこっちも疲れるし」

「そう言って貰えると助かりまさぁ」


「それで外への拡張は分かった。資材に関しては?」

「ああ、こっちに木材が少ないのはわかってますから、ある程度持ってきてまさ。例のゴーレムも使っていいんだよな?」

「土木1号は鉱山の方に行ってるから、後で回収してくる。あと報酬なんだが」

「わかってやす。ブリーエのお偉方からも言われてやすし」

「いや、ちゃんと正規の契約で払わせてくれ。国家間のやりとりをなぁなぁで済ませてると後が怖いからな」

「へぇ、そういう事ならちゃんと見積もりを作っておきやす」

「頼むよ。あと家屋の数とデザインに関しては、グラフとか実際に住む人と詰めてくれたらいいから」

「わかりやした。なる早で仕上げますんで!」

 景気のいい声と共に棟梁は去っていった。ブリーエ首脳陣が送り出しただけあって、実務には長けた棟梁だ。

 ブリーエは戦争があったとは言え、戦場はオタリア側。首都でゴーレムが暴れた一件もあったが、それほど大工の需要はなかったのかもしれない。

 バルトニアの工事は彼らにとっても特需として、やりがいのある仕事なのかもな。



「してアトリー、慌てて戻った理由はなにかや?」

「そろそろバスティーユ城にリベンジしに行きたいと思ってな」

「バスティーユ城に?」

 旧バルトニア王国の首都にして、王族の住んでいた居城。今は暴走したゴーレムに占拠されている。

 一度挑んだ時は、巡回する最初のザコ敵に成すすべもなく俺とリオンは殺された。

 あれから色々とあってスキルレベルとしては、4倍以上になっている。

 まあ、戦闘スキルではなく〈魔導技師〉としてだが。ただゴーレムに対するなら下手な戦闘スキルよりも〈魔導技師〉のレベルの方が重要だろう。

 当時は視覚的に魔力の流れを見る技術も未熟で、かなりの時間が必要だった。その為、機能停止に追い込める弱点を見つける前に、倒される結果になったのだ。


「今ならあのザコは余裕だろ」

「しかし、リオンもおらぬのに」

「わらわがおるからのぅ」

 心配そうなルフィア女王に、ルーファが軽く請け負う。

 ルーファの元になった悪魔のレベルは俺の〈魔導技師〉には届かないものの、当時の俺の3倍ほどのレベルを持っていた。


「レイスもおまけにいるしな」

「私はあてにするなよ。ゴーレムとか魔法生物は、吸うべき生気がないからな」

「魔力は吸えないのか」

「そ、そんな役立たずを見るような目でみるな。専門外だというだけで、レベル的には余裕で倒せる」

「でも無理なんだろう?」

「そ、それはそうだが……」

「役立たずじゃないか」

「敵の攻撃も食らわないから、偵察はできるぞ」

「ふぅ〜ん」

 霊体であるレイスは物理的な障害も無視できる。壁抜けなどで探ってくれるのは楽かもしれない。


「わらわはお留守番かや」

「女王様には皆を監督してもらわないといけないからな」

「分かっておる。足手まといじゃかなら。バスティーユ城の内部に関しては、ルーファも知っておる」

「故郷に帰りたい気持ちは分かってる。安全を確保したら迎えに来るから」

「そうではないのじゃが……まあ、邪魔をする気もないゆえ、早く帰ってくるがよいぞ」

 やや諦めた様子でため息をつくと、女王は引き下がってくれた。



「まずは土木1号を回収して、増築の準備だな」

「アトリーさ。また一緒に行くだか」

「そうだな。鉱山まで一緒に行こう」

「アトリーさん。鉱山の警備に関してですけど」

 コルボがやってきて、隠れ村から連れてきた女性陣の情報を受け取る。

 皆なにがしかの戦士レベルを持っていて、黄昏の傭兵団の団員をやや上回るくらいのレベルを持っている。その上でミュータント化による強化を持っているので、戦力としてはかなりのものだ。


「彼女達から5名ずつ派遣する形で様子を見ようかと思っています」

「うん、いいと思う。じゃあ俺と一緒に向かうか」

「はい。初回のメンバーはもう人選を済ませていますから」

 ゲーム内で10日ほどが過ぎ、隊長代理としてのコルボは、急激に成長しているようだ。

 その表情からもやる気が見て取れる。またそのレベルも上がってきていた。隠れ村の女性陣に可愛がられているのだろうか。




 リーダー格であったシルビアを中心に、5人が集められてシナリと共に鉱山を目指す。


「シナリ、いつもすまないな。往復にも時間がかかるだろう」

「あたしは楽しいだよ。坑夫の人達も気さくにしてくれるだで」

「ふむ、シナリにはちゃんとご褒美をあげておるのかや?」

「ご褒美……何か欲しい物ある?」

「え、あたしはアトリーさと話せればそれで……」

 そう答えるシナリは少し頬を染めながらも嬉しそうにこちらを見上げてくる。

 漁村メーべでは日焼けしていた肌も、バルインヌのやや緩やかな日差しで元の色に戻り、東洋系の少し黄色がかった肌になっている。

 リーナがデザインしたシンプルで動きやすい水色のワンピース姿で、自然な雰囲気がシナリの良さを引き立てていた。

 健気で愛らしいこの少女に、俺は何をしてやれたのか。彼女の献身に甘えすぎてた気がする。


 不意に俺の右手が柔らかな感触に包まれる。程よい暖かさで弾力があり、甘い匂いも伴っていた。


「な、何だ、ルーファ」

「ほれ、左腕が空いておるぞよ」

「え、あの」

「この男に細やかな気遣いなぞ期待する方が間違いじゃ。自ら動かねば、おばあさんになってしまうのじゃ」

「は、はいっ」

 慌てたシナリは勢いのままに俺の左腕を抱えるようにくっついてきた。

 ワンピースに包まれた思ったより成長をしている感触が伝わってくる。

 しがみつくように抱きついて俯くシナリの耳は真っ赤に染まっていた。

 ただ腕を取るだけで、こんなにも遠慮していた少女。どうしてこんなに好いてくれるのかと思案するよりも、ちゃんと受け止めてやるのが俺の役割なのだろう。


「ちゃんとシナリの為にも時間を作るから。食事の準備が終わったら、少し一緒に過ごそうか」

「え、でも、あの……」

 シナリは俺越しにルーファの様子を伺う。


「アトリーの扱いが悪いようなら、すぐに言ってくるがよい。わらわがキツく仕置いてやるからのっ」

「なんかシナリには親身だな」

「それは当然じゃろう。シナリはわらわを想ってくれておるゆえ、それに応えるのは当然の事じゃ」

 シナリとの約束。それが今の俺とルーファの関係を作ってくれた。その想いはルーファにとっても大事なものなのだ。


「元はと言えば、ソナタがちゃんと想いに応えてやらぬのが悪いんじゃがな」

「そうだな。ごめんな、シナリ」

「い、いえ、そったら事。あたしはあたしにできる事を、やりたかった事をしただけだで」

「ほんに、ええ子じゃのぅ」

 俺の右腕から離れたルーファは、シナリへと抱きついていった。



 シナリとルーファが俺から離れたのを見てか、シルビアが近づいてきた。


「英雄殿は色事にも長けておられる様子」

「皮肉は止めて下さいよ。見ての通り振り回されっぱなしです」

「でも彼女達に悪しき嫉妬はないようです」

「そうなんですかね。俺にはどうにも分からないんで」

「少なくとも『英雄』という地位を狙って迫ってるわけでもなし、純粋に貴方を好いておると思いますよ」

 実年齢は40を超えるというシルビアの言葉は、俺を少し安心させてくれる。



「で、シルビアさん。鉱山の警備に関してですが」

「ええ、あらましは聞いています。ゲーニッツの配下で野盗出身の者達が集まっていると」

「はい。ミュータント化する能力は封じていますが、乱暴者ではあるので」

「分かっていますよ。でも貴方が見て大丈夫だと判断したんでしょう?」

「ええ、実力的には何倍もシルビアさん達が強いです」

「なら大丈夫ですよ。それよりも……」

 少し不安そうな顔になるシルビア。


「どうかしま」

「とぉーっ」

「ぶべらっ」

 背中の中心に膝蹴りを食らって息が詰まる。かろうじて転倒は免れたが、シルビアさんに抱きつく形になってしまった。


「あらあら」

「少し目を離すとすぐに女に近づいておって!」

「今後の打ち合わせをだな」

「ほれっ、シナリを待たせるでないわっ」

「し、シルビアさん、よろしく〜」

 ルーファに引きずられるように連れて行かれる俺を、シルビアさん達5人は穏やかな笑みで見送ってくれた。

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