表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/117

王族の社交場

 ルフィア女王に呼ばれて行った先は主賓が集まっている。国王と王妃、それと豪奢な衣装を纏った貴族達だ。

 イザベラはバルコニーにいた時とは少し装いが変わっている。白を基調としたドレスではあるが、装飾は少なめで裾も少し短く、動きやすそうになっていた。

 それでも新婦としての清楚さが醸し出されていて、いつもの凛々しい雰囲気から大きく変わっている。


「この度はおめでとうございます。満足な祝儀も用意できず、申し訳ない」

「ちゃんと伝える機会がなかったので仕方ありません。それに英雄殿は我らの恩人、礼を尽くすのはこちらの方ですよ。貴方に助け出されなければ、私は軟禁されたまま寂しい余生を送るところでした」

 そこでイザベラへとちらりと視線を送り続ける。

「イザベラとの出会いも英雄殿のおかげです」

 イザベラ共々頭を下げてくる。


「これはこれは英雄殿。お初にお目にかかる」

 主賓の挨拶が終わった所で、貴族達が俺へと寄ってくる。

 やや不躾な視線が俺を値踏みするように集まってきた。ただ貴族達の瞳が僅かに見開かれる。

 なるほど外交官としてブリーエを訪れた貴族は〈看破〉を持っていて不思議はない。

 俺の方からも相手を鑑定すると、やはりかなりのレベルの〈看破〉を持っているのが分かった。

 ただレベルが分かるということは、相手よりもこちらの方がレベルが高いことを意味する。知らぬうちに〈看破〉も成長していた。

 本来は敵の強さを知るためのスキルで、成長すると相手の弱点が見えるようにもなってくる。

 〈魔導技師〉でミュータントなどの魔力の流れを読み取るうちに、〈看破〉も成長していた。



「流石は英雄殿。かなりのレベルのようですな」

「今後もオタリアとブリーエの為に尽力していただけますな」

「魔族討伐でも期待していますぞ」

 〈看破〉を持つ者同士はレベルが高い方が、相手のスキルを読み取れる。相手のスキルが読めないという事は、こちらよりもレベルが高いということだ。

 外交で情報を武器に戦う者達にとって、相手の強さが読み取れないのは不安なのだろう。

 当たり障りのない雰囲気で距離を取られた。



 そんな中、1人の貴族が寄ってくる。白髪が混じった初老の男性。スラリとしたたたずまいは、他の貴族達と少し様子が違った。


「初めまして、英雄殿。私の娘にいい嫁ぎ先を見つけて下さって感謝します」

「イザベラさんのお父さんですか」

 笑みを浮かべながら頷く。やや攻撃的にも見えるイザベラとは対象的に、温和な雰囲気を纏っていた。

 思わず〈看破〉を発動させるがレベルが読み取れない。俺よりも高レベルなのか。


「娘は男勝りなところがあって、戦場を駆け回り婚期を逃していました。まさかこのような良縁に恵まれるとは。英雄殿、まことにありがとうございます」

「いえ、俺はあの時、必要があってイザベラさんに協力を願っただけですよ」

「その運命の結びつきに関わった事は間違いない」

 父親は俺の手を取り頭を下げる。


「これからもよしなに」

「は、はぁ、こちらこそ」

「英雄殿の婚礼の際には、私も馳せ参じますので気兼ねなく呼びつけて下さい」

 チラリとルフィアに視線を送りながら告げてきた。

 ルフィアが外堀から埋める作戦に出たのかと危惧したが、ルフィアの方が慌てたように入ってきた。


「あ、アトリーには感謝しておるが、そのような関係にはなってないというか、勘違いなのじゃっ」

「そうでしたか。申し訳ない」

 優雅に一礼する姿には、その反応込みでカマを掛けてきた気がした。

 伊達に〈看破〉レベルの高い政治家ではないという事か。王族とは言え末席に近いそうなので、それなりに苦労をしてきているのだろう。



「そういえば、ルフィア姫の素性は認められたんですか?」

「ふむ。その目を持っていれば、疑うべきでは無いことは分かるだろう?」

 言われて改めてルフィアを見てみると〈看破〉スキルで読み取れる情報の称号の欄に『バルトニア王女』と記されてあった。

 目の前の人には『コーラル伯爵』と出ている。

 他の貴族達も確認すると、どこそこ男爵、子爵と位の分かる称号がついていた。


「そうか、こういう使い方ができるのか。戦いの場ではそこまで見てなかったなぁ」

「さすが英雄殿。ただ我らにとってはここが戦いの場、情報が武器なのですよ」

 穏やかな笑みの中に凄みを感じる。なるほど、イザベラよりも一回り厳しい人だと感じさせられる。


「ということは、オタリアでもバルトニアの存在は認められると」

「そうですな。女王だけならどこぞの貴族が、縁談を持ちかけて内に取り込もうとして来たでしょう。だが英雄殿がいるなら、バルトニアを国として交渉する余地は出てくるかと」

 それは逆に言うと、バルトニアという国は現段階では認められていない。欲しいのは王家としての血筋だと言う事か。


「なるほど、貴重な意見をありがとうございます」

「娘とは隣国同士。浅からぬ縁がありますので、ぜひとも利用してやってください」

 再び一礼すると離れていった。それと入れ違うように、イザベラが寄ってきた。



「変なことを吹き込まれていないか!?」

「娘と仲良くしてやってくれって言われただけだよ」

「そこを切り口に何をさせるつもりだ……」

 何かを思案するイザベラ。

「とにかく、あの男には気をつけろ。口車に乗せられると気づかぬうちに窮地に立たされるぞ」

「え、えーっと、イザベラさんのお父さんだよね?」

「ああ、油断ならない男だ。私も知らぬうちに縁談をまとめられそうになって、慌てて戦場に逃げたからな」

「なるほど……」

 戦地調停官という命を掛ける職業に、傍流とはいえ王族の女性が勤めている理由はそこにあったのか。

 コーラル伯の権力を手繰るための下糸を、俺達に張り巡らせるのがこの場。

 政治家の戦場。社交の場での駆け引きか。俺は無縁でいたいものだな。となるとイザベラを盾にオタリアと距離を取るべきか。

 いやそれがコーラル伯の狙いなのか……考え始めるときりがなさそうだ。


「すまない、イザベラさん。俺にはその手の論理やら駆け引きがわからん」

「不用意に近づかぬことを気をつけろ。歯車にされてからでは抜け出すのは難しいからな」

「頼りにさせてもらうよ」

「ああ、気兼ねなく相談してくれ」


「それはそうと綺麗ですね。普段とのギャップがより美しさを際立たせている感じで」

「む、普段はそんなに酷いか」

「いやいや、普段は凛々しくかっこいい感じで、今日はちゃんと花嫁として可愛い感じだって事ですよ」

「そ、そうか」

 少し照れるように顔を染める。その様がまた可愛く見える。


「わらわも早く着てみたいのう」

 ぽそりと小声で、それでいて俺には聞こえるように呟くルフィア。

 その身分から政治利用されるかもしれない女王。身を固めてしまうのも一つの防衛策なんだろうが、俺にはルーファがいるし、男になったリオンはアリスが好きらしい。

 他から相手を見繕うとなると、それこそ政略結婚みたいで本末転倒。どうしたものかなぁ。



「とりゃーっ」

 俺の背中に軽い衝撃が走る。体当たりするようにルーファが抱きついて来ていた。

「お、おい、何だ、いきなり」

「姉上のいらぬ気配を感じたので馳せ参じたのじゃ」

「い、いらぬ気配などっ。わらわは純粋にアトリーの側にいたいだけじゃ」

「アトリーはわらわを選んでおるのじゃ」

「わらわは側室でもよいのじゃよ。側に置いてくれるのなら……」

「だからその気持ちはわらわの記憶で」

「違うのじゃ。これはもうわらわの気持ち」

「くっ、む、むぅ」

 切なげに俯くルフィアにルーファが押し黙る。

 淫魔として恋愛感情に精通するからか、元々ルフィアと繋がっていたからか。ルフィアの『本気』を感じ取ったようだ。



「とりあえず帰るか」

「宴の本番はこれから何だが」

「やるべき事は色々あってね」

 イザベラが引き止めるのを断って、俺達は村へと戻ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ