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ブリーエの祝祭

 ブリーエ城内もまた祭りの為に色々と飾られていた。謁見の間にテーブルなどが運び込まれ、立食パーティーの会場になっている。

 これから客を迎え入れるのだろう。テーブルの間を給仕達が忙しそうに歩き回っている。

 そんな中、1人フラフラと歩きながら、つまみ食いをしている不埒者を発見した。

 しかもその不埒者は、動き回る給仕を捕まえ文句を言っている。


「芋料理ばかりではないか。もっとトンカツや豚トロ、角煮などを用意せぬか!」

「ボアはまだまだ貴重で数が用意できていませんので」

「そこを何とかするのが料理人の腕の見せ所じゃろう」

 食材がなかったら無理だろ。

 というか、人様に迷惑を掛けている不埒者の頭を叩いた。


「何をやってる、食いしん坊」

「おお、アトリー。良い所に。まだミュータントの肉が残っておろう」

「そりゃあるにはあるが」

「さっさと準備せい。芋ばかりでは、食欲をそそる匂いが足りぬ」

 有無を言わせぬルーファの様子に、呆れながらも所持袋を漁る。


 ミュータントの肉と呪紋が描かれた敷布を取り出し、テーブルの一つを借りると調理というか、加熱を開始。

 ミュータントの肉は、内部に蓄えられた魔力を、呪紋によって活性化させられ内側から熱を持ち、焼けていく。

 脂身は自らの熱で溶けつつも、外側はまだ保たれている為に逃げ場がない。

 ナイフを入れた途端に溢れ出す事だろう。

 表面は別口で炙ってやれば、香ばしい匂いが会場へと漂い始めた。

 確かに穀類が主体で華やかさに欠けた会場が、一気に賑わう感覚になっていく。


「ほれほれ、もっとあるじゃろう」

「おいおい、そんなにがっつくな……ていうか、悪魔になったお前は食べる必要はないんだろう」

「不要な物にこそ人生の豊かさと彩りがあるのじゃよ」

 もっともらしい事を言うただの浪費家であった。とはいえ、急に聞かされたシャリル国王の婚礼。出せるものは肉くらいか。

 俺は所持袋のストックを解放し、呪紋が描かれた敷布と共に給仕係へと提供した。



 そうやって準備を手伝ううちに、表の方が賑やかになってきた。来賓の貴族達が謁見の間へとやってきたようだ。

 ほほぅ、これは見事な。

 順調に再興されているようで。

 投資した甲斐があるというもの。

 恰幅がよく、豪奢に着飾った親父達が、会場へと入ってくる。

 給仕達は飲み物を手に、それらを迎えるように動きはじめた。

 黒のドレス姿のルーファはともかく、俺の方は冒険者姿。場違いな恰好なので、舞台袖へと引っ込んだ。


「何をなさっています、英雄殿」

 そんな俺を呼び止める男がいた。イザベラの部下の1人だ。

「早くお召し物を」

「は?」

「ルフィア姫は英雄殿がエスコートせねばなりますまい」

「え、いや、なんで?」

「ブリーエとバルトニア、その友好性をオタリアの貴族達に知らしめる為ですよ」

 そんな事をいいながら、近くの給仕を呼び止め俺を更衣室へと連れ込んだ。

 あれよあれよと言う間に、精緻な装飾の施された軽装鎧を着せられていた。

 普段は使わない細身の剣を腰に履き、マントを羽織らされてどこぞの騎士のような姿にされる。


「素材はともかく貴族は外見で判断します。このくらいは着てもらわねば」

 今、素材はともかくって言った!?

「社交マナーなどは期待してませんから、にこやかに笑っているだけで十分です」

 あんまりな言われように涙が出そうだよ。

「ささ、姫様がお待ちかねですよ」

 メイドの1人に連れられて、控室へと案内された。



 少女は普段とは違う青色のやや古めかしいドレスに身を包んでいた。チョーカーから赤色の宝石が胸元に落ち、金色の髪は結い上げられて、白銀のティアラで彩られている。

 疲れた表情が持ち上がり、微笑みを浮かべた。


「英雄殿にも衣装じゃのぅ」

「そっちはちゃんとお姫様……女王様か。似合ってるね」

「ふむ、その一言で報われてしまう乙女心。受け止めてくれると嬉しいのじゃが」

「それとこれとは別だからなぁ」


「仕方ないかの。急いては事を仕損じるのじゃろう。今はこの場に居てくれるだけで満足じゃ」

「ルフィア女王、本気で疲れてるのか。無理はする必要はないぞ」

「わらわは継承5位の王位に縁遠い姫じゃったのが、今では唯一の王族。慣れぬ式典に寄せられる視線。中々に疲れておるよ」

「シャリルに言って来るから、休んでてくれ」

「待て待て。バルトニアにとってもここは正念場。オタリアの有力者にちゃんと見せつけておかねばならぬ」

「それで体調でも崩されては、こっちが困るんだが」

「ふふっ、ソナタが側におってくれるなら頑張れそうじゃよ」


「はいはい、母上の下手な芝居に騙されるでないぞよ」

「ん、ルーファ。いつの間に」

 つまみ食い王女がいつの間にかやってきていた。その装いも少し変わっている。

 基本的には俺の仕立てた漆黒のドレスだが、少し形が変わって肩が大胆に露出している。

 ルフィア女王と同じく結い上げられた銀髪には、小振りだが金のティアラ。悪魔の角を隠すように、花で作られた髪飾りが被せられていた。


「アトリー、騙されるでないぞ。母上は純粋可憐を装っておるが、中身はわらわと同じじゃからな」

「おお、何という説得力」

 といいつつ、ルーファと同じなら他人の為に頑張っちゃう所もあるだろう。注意しといた方がいいな。



「女王様、そろそろお時間です」

「うむ、わかったのじゃ」

「お、俺はどうしたらいいんだ?」

「母上と並んで歩けばよかろ」

 ルーファもまた公私をきちんと使い分けられる。英雄の立ち位置は女王の隣となっていた。




 3人で謁見の間に戻ると、既に国王夫妻が賓客をもてなしていた。そこへルフィア女王をエスコートしながら入って行く。

 従者により先触れがなされて、注目を集めながら入っていくのはかなり恥ずかしい。

 しかし、人々の注目は俺よりもルフィア女王へと向いている。王族としてその視線をしっかり受け止め、しずしずと歩むルフィア女王。それに合わせるように進んでいけば、自然と背筋も伸びて落ち着いてきた。


「ルフィア女王、英雄殿。よくぞ参られた」

 ルフィア女王がバルトニアの代表として応じると、国王達へと歩んでいく。

 俺もついていくべきかと思ったら、ルーファから止められた。


「しばらくは母上に任せておけば良い。どちらかというと、ソナタの相手はあの辺の連中じゃ」

 ルーファが視線で示すのは、比較的若い年齢で集まっている一角。

 〈看破〉で見つめると、戦闘系スキルを持った騎士達であるのが類推できた。


「ブリーエはもちろん、オタリアにとっても、ソナタは英雄なのじゃよ」

「いつの間に」

「あの砦で戦争を止めた時からじゃ」

 ああ、忘れかけてた。白い悪魔と恐れられていたアリスを止めた事で、オタリアを助けた事もあったなぁ。



「こ、これは、英雄殿」

「お初にお目に掛かります」

「堅苦しいのはやめてくれ、俺はいち冒険者だからな」

 ルーファから砕けた調子が良いとアドバイスされた俺は、気さくさを装うために少し乱暴な口調で返す。


「は、はい」

 それでも若き騎士達は少し堅い。そこへ割って入ってきたのは、見覚えのある顔だった。


「お久しぶりです、英雄殿」

「砦の隊長さんか、久しぶりです」

「ますますの活躍ぶり、砦の者達も喜んでますよ」

「半分以上、作られたウワサですよ。イザベラさんが利用してるだけです」

「火のない所に煙は立たぬよ。貴方の働きは私の部下を救っただけで十分に分かる」

 なるほど、この隊長も尾ひれを付けた1人なのか。


「単身敵地に乗り込み猛将を討ち果たし、戦を止めた功績はオタリアにこそ認められるべきでした」

「たまたまですよ」

「その後の軌跡を見たら、偶然ではない」

 プレイヤー補正だと思うんだがな。実際、オタリアの中心で讃えられているのは、プレイヤーが集まって作られる軍団。

 その団長達が魔族を退け、英雄視されているという。


「あ、あのっ。白き悪魔を倒した話を聞かせて下さい!」

 若い騎士が意を決したように声を出した。周りの騎士達も目を輝かせている。


「正直、倒したって言えるかわからないぞ。相手の自爆を誘っただけだからな」

 そう前置いて、あの時の事を思い出しながら話してやる。忘れかけている部分は、ルーファが補間してくれた。



「というわけじゃ。我らが英雄、アトリーは敵にも情けをかけて取り込み、それをもってブリーエの解放にも尽力するのじゃ」

 途中から俺よりも前に出て力説を始めたルーファが、更に尾ひれを追加していた。


「で、では、白き悪魔はまだ……」

「うむ、アトリーの配下としてバルトニアを治める戦力となっておる」

「おいおい、ルーファ」

「アトリー、こちらへ来てもらえるかの?」

「ほれ姉上が呼んでおる。ここはわらわに任せて行ってやるがよい」

 歳格好が変わらない女王を公では母上とは呼ばない分別はある。

 このまま放って置くと、さらに尾ひれを付けられそうだが、女王に呼ばれて無視することもできない。


「変な事吹き込むなよ」

「わかっておる」

 ニヤニヤと自信ありげに答えるルーファには、不安しかないが任せることにした。


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