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ミルバの決断とお祭り

「何というか暇なのか?」

 イザベラの開口一番はそんな言葉だった。確かにここ最近、頻繁に顔を出していればそう見えるのかもしれない。

 こちらとしては色々と忙しく動き回っているんだが、傍目には時間を無駄にしている感も否めなかった。


「もう一度ゲーニッツに面会を」

「何か情報を引き出せる手段でも見つかったか?」

「わからない。彼女はゲーニッツの身内らしくてな」

「大丈夫なのか?」

「何かあれば俺達で抑えるよ」

「英雄殿にそう言われては、止めようもないか」

 イザベラはお付きの部下に視線だけで指示を出す。

 すると袖を引かれて振り返る。


「わ、わらわの立場は?」

「ああ、忘れてた。これ、ウチの女王様」

「ぬおっ、なんとおざなりな」

「流石に不憫じゃのぅ、母上」

「あ、ゴメン。どうしてもルーファの時の癖が抜けなくて」

「ぐふっ、わらわのトラウマが」

「ふむ? それだけ気のおけない仲になっておるという事か。ルーファとの差もあまり無いわけじゃな」

 などといつものペースで話していたら、ブリーエ側の対応は違った。

 イザベラ以下、部下達が一斉に膝を付き、頭を垂れる。


「バルトニア王女ルフィア姫、訪問を歓迎いたします」

「う、うむ。苦しゅうない、面を上げい」

「改めて歓迎の用意をいたしますので、しばし英雄殿と時間を過ごしてください」

「うむ、よきに計らうが良い」

「ははっ」

 イザベラは膝をついたまま一歩分下がると立ち上がり、改めて部下に指示を出し始める。

 一体何がと思ったが、バルトニアの名は千年経ってもそれだけの権威を持って然るべきだったらしい。

 後に聞いた話では、オタリアの王家にもバルトニア王家から分家した経緯があったのだ。王家の主筋、蔑ろにはできないのだろう。




「ゲーニッツ様!?」

 地下牢を訪れ格子越しにゲーニッツを認めたミルバは、格子に掴まりながら呼びかけた。

 しかし、ゲーニッツは顔を上げることもない。

 俺はイザベラの部下に鍵を開けてもらい、ミルバを伴って牢の中へと入る。

 ミルバは倒れ込むようにしてゲーニッツの前へとしゃがみ込み、その手を取って呼びかける。


「ゲーニッツ様! ミルバです」

「う……ぁ?」

 それは名前に反応したと言うより、近くで声を掛けられた事による反応。濁った瞳は力を失ったままだ。

 ミュータントとして食事を必要としておらず、排泄の必要も無いために、着の身着のままで放置されても、異臭を放ったりはしていない。

 ベッド等も配慮されて綺麗に整えられているが、当のゲーニッツは床に座り込んで虚空を見つめるばかり。

 己を支えてきた〈魔導技師〉の力を失った事は、耐え難き事だったのか。それとも自らが求めた答えが、自らの利にはならなかった事への絶望か。

 ゲーニッツはルフィア姫を妻として迎え、バルトニア再興を目指してはいたのだろう。

 どうやってルフィアの瞳を受け継いだのかは、知識を受け継いだ姫にも伝わってはいない。

 魔導技師の知識は継承できても、人の記憶までは受け取れないからだ。

 自らを野望の糧としようとした男を、ルフィア姫も複雑な表情で見つめる。


「わらわが残した瞳のせいなのかのぅ」

「技術を活かすも殺すも使う者次第。その使い方を誤れば相応の報いを受ける」

 それは俺自身にも言える。〈魔導技師〉〈死霊術〉〈悪魔使い〉という特異なスキルを身に着けた俺は、人よりも高みにいるようだ。

 だが使い方を間違えば、他のプレイヤーから恨みを買う可能性もある。

 とはいえ自ら優位性を捨てる気もないが。


「ゲーニッツ様には介護が必要……なのだな」

「厳密には必要はない。本人の手でミュータント化されているので、魔力さえあれば生きていられるからな」

「でも、私は……側に居てあげたい……」

「わかった。君は幼い頃からミュータント化に慣れているだろうから、しばらくは辛いと思うが頑張ってくれ。じゃあ脱いでもらおうか」

「へっ?」

 そこでミルバの表情が固まった。


「ゲーニッツの呪紋。全身に及んでいるんだろう?」

「そ、それはそうだが、お前に見せるとか、それはちょっと」

「何を今更。ゲーニッツの側に居たいなら能力を封じる約束だ」

「それはそうなんたが、お前に肌を見せるとか、そんなのは」

「往生際が悪いぞ、さっさと……」

 両手をワキワキさせながら、怯える女性に向かおうとした俺の後頭部を、激しい痛みが襲い前のめりに倒された。


「たわけっ。その処置は母上に任せるがよかろうっ」

「へぶっ、ぼうば……」

 鼻先をしこたま打ちながら俺はルーファを振り返る。

 ルーファが〈魔導技師〉の力を失ったから、俺が施術するしかないと思いこんでいたが、ルフィア姫がいるんだった。

 ゲーニッツの術式を瞳に宿した彼女のほうが、俺よりも適している。


「ほれ、さっさと行くぞよ」

「わかった、わかったから、引きずるなっ」

 悪魔となって腕力もそれなりになったルーファは、俺の足を掴んで引きずりながら移動する。レイスもフヨフヨと憑いて来た。




 地下牢を出る頃に、ようやく解放されて立ち上がり、良い時間になっていたのでログアウトする事にした。


「姫様にはよろしく言っておいてくれ」

「ははっ、精一杯の宴を催しておきます」

 イザベラの部下がそう承って下がっていった。

「そういえば、そんなのもあったな。ルーファもルフィア姫をサポートしてやれよ」

「仕方ないのぅ。母上は上に立つものの気概が無いゆえ、わらわがついてやらねばな」

「任せたよ」

「じゃあ報酬の前払い」

 そんな事を言いながらキスをせがんでくるルーファを抱き寄せて口づける。

 程よく生気を吸い取られながら、別れを済ますとログアウト。

 しようと思ったら、想像以上に生気を吸われて倒れ込んだ。


「アトリー、どうしたんじゃ!?」

「れ、レイスにも吸われたのかっ」

「私への報酬が滞っているのを無視するからだ。色々こき使った分は回収せねばな」

「ずっこいのじゃ、アトリーの生気はわらわのものじゃぞ」

「早い者勝ちだ」

 二人掛かりで生気を吸われ、意識が薄れるようにしてログアウトした。




 翌日、ログインし直すとそこが何処だかわからなかった。石壁に囲まれた階段の出口。


「お目覚めのようだな」

 レイスの声にログアウト時の記憶が戻ってくる。

「お前ら悪ふざけが過ぎるぞ」

「悪霊に悪魔、絶えず隙を狙われていると覚悟するんだな」

 カテゴリー的にはプレイヤーの敵になる存在。そういう事もあるんだろうか。


「私とて意思のあるレイス。おざなりに扱われて喜ぶ性癖はないからな」

「いやぁ、お前はいじめれば喜ぶ体質かと思うんだが」

「まずはその曲がった思い込みを治そうか」


「それはさておき」

「さておかれた!?」

「何だか賑やかそうだな」

「ああ、姫様の歓迎式典が行われているからな」

 俺がログアウトして約10日、準備に1日掛けたとしても長過ぎないか?


「ブリーエ再興を祝した祭典と併せて行われているそうだ」

 元々ブリーエだけで祭りが行われるところに、ルフィア姫の来訪が重なったようだ。

 オタリアに戦争を仕掛けて、国内が疲弊しきっていた所から、オタリアの支援を受けつつ回復の兆しが見えてきたのだろう。

 街の人々に明るさが戻ってくるのは良いことだ。


「それじゃあ俺も混ざってくるかな」



 地下牢の出口から城門の辺りまで出てくると、バルコニーからロイヤルファミリーが手を振っているところだった。

 シャリル国王とその隣に立つイザベラ。その姿はいつもの男装とは違い白く豪奢なドレスを纏っていた。まるでどこかの姫様のようなおしとやかな雰囲気で、小さく手を振っている。


「シャリル国王、バンザーイ。イザベラ新王妃、バンザーイ!」

 民衆の声にその姿の意味を知る。ルフィア姫の来訪も、再興の祭りもおまけで、このお祭り騒ぎは妃としてのお披露目がメインだったらしい。



「しかし、お妃様ってオタリアの役人なんだろう? いよいよ傀儡政権になっちまうんだな」

「バカ、お前、イザベラ様がどんだけブリーエの為に動いてくれたかわかってないだろ」

「分かるわけねぇよ。王族との付き合いなんてないし」

「バカ、現場監督の俺でさえ会った事があるよ。街の方に何度も視察に来て、足りないところは無いかと細かく聞いてまわってたんだよ」

「はぁ〜役人から王族への玉の輿ってやつか」

「バカ、イザベラ様はオタリアの分家とは言え王族だぞ。末席に近いとは言え王位継承権すら持っていらっしゃる方だ」

「へぇ、オタリアの姫様なんかぁ」

 妙に詳しい男が近くの男に話しているのが耳に入る。イザベラは再興事業に、現場レベルで関わって地盤を築いていたようだ。



「ほんであのちっこい姫さんは? 国王の隠し子け?」

「バカ、お前、あれはバルトニアの女王様だよ」

「バルトニア?」

「バカ、ここから北に行った辺りの国だよ」

「あそこは不毛の大地だろう。汚染が広がってて、人が住めなくなっている」

「女王様自身は、長く眠っておられたんだと。不治の病で倒れ、長く封印されていたのを、治療法が見つかって助け出されたんだ」

「へぇ、じゃあやっぱり北の方には住めねえのか。領地のない女王に意味があるんか?」

「バカ、バルトニアといえば、その昔大陸の半分を支配していた王国。魔法文明が栄えて、今に残る様々な技術を開発していた国だ。このブリーエ城もバルトニアの支城の一つだし、オタリア王家だってバルトニアの血筋なんだぞ」

「はぁ〜とりあえず偉いお人なんだな」


「バカ、お前。あの人を見たことないのかよ。あの方は英雄様のコレよ、コレ」

 小指を立てて見せる。

「英雄様の?」

「先のオタリアの戦を終わらせ、大臣の圧政を挫き、国王を返り咲かせた英雄様。その傍らで支えておられたのが、あの女王様だ」

「ほぇ〜じゃあ俺達にとっても恩人だなぁ」



「アイツ妙に詳しいな……ってか、見覚えがあるような。イザベラさんの部下か!?」

 俺が見詰めているのに気づいたのか、説明していた男はパチリとウィンクを飛ばしてきた。

 ああやってイザベラ王妃のイメージを構築してるんだな。ブリーエでやたら英雄扱いされるなと思っていたら、ああいう伝達方法でウワサを広めていたのか。

 しかし、ルフィア姫とルーファを混同して伝えている。文句を言ってやりたいが、今出ていったらそれこそ英雄扱いで身動きがとれなくなるだろう。


 俺の顔を直接知ってる奴は少ないはずだが、ああやって喧伝してたら似顔絵ぐらい広まっていても不思議はない。

 民衆に気づかれないうちに移動することにした。

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