女性陣とミルバ
「ここが村……?」
連れてこられた女性陣は広がる光景を見て、呆気にとられていた。
改めて見るともう村の域は十分に脱している。
ブリーエの職人が作った町並みは、規則正しく軒を連ねて、都会のような整然さを見せていた。
土木1号を使用した土壁に、村を囲うように建てられた城壁。その外には開墾から3ヶ月を経て、収穫期を迎えた畑も広がっている。
しかし、そこに住む人の数はまだ少なく60人ほど。そこに30人もの人を連れて行進してくれば、ひと目は引く。
さらにそれらが20歳そこそこの女性ばかり、男ばかりの村には刺激として十分だった。
村の広場へとやってくる頃には、畑仕事をしていた男達も集まってくる。
元はミュータント化した事で別れ別れになっていた人達。見知った顔も見つけられた。
広場のあちこちで再会の喜びが沸き返り、祭りのような賑やかさになっていた。
「リーナ! それにカミュちゃんも! 大きくなって」
「レイナおばさま!?」
「マ、ママ!!」
再会した母子と幼馴染は互いの無事を確かめ合う。若くなった母親でも、そこを間違うことは無いだろう。
父との別れを経験した少女が、立ち直ってくれる事を切に願うばかりだ。
「ゲーニッツに匿われていたのは32人。この子はゲーニッツの養子だったらしいミルバ」
騒ぎを聞きつけやってきたルフィア姫に、状況を説明する。
ミルバは何かを思案するように俯いてしまっていた。
「元々は農村部の出の人で、この村に知人がいる人も多い。受け入れるのに問題はないと思うけど」
「まあミュータントである以上、食料の面で問題はないのぅ。住む場所は新たに必要になるが」
「そうか、帰った大工達をまた呼びつけるのも気がひけるなぁ」
今度はちゃんと報酬交渉からはじめて、来てもらう人を選んだほうがよいだろうか。
「多少手狭にはなるが、しばらくは何とかなるじゃろ。その間に新たに建築を進めれば良い」
「この子をブリーエに連れていくついでに、大工を見繕ってきます」
「また出かけるのかや!?」
「住むところは早く何とかしないとね。それにあんな奴だけど、この子にとっては信頼する親みたいだし」
「というか、わらわをブリーエに案内する約束は、忘れられたままじゃが?」
そういえば、国王と引き合わせる約束をしていた気がする。
「じゃあついでに済まそうか」
「うう、この国の女王のはずがついで扱いかや……」
「昔のわらわを見るようじゃ……アトリーは、目の前の事しか見えぬ奴じゃからなぁ」
「アトリーさん」
やってきのさたのはグラフとリーナの母親のレイナ、女性陣のリーダーであるシルビアだった。
「どうですか、馴染めそうです?」
「ええ。多くは知人が居ますので、合流するのは問題ありませんね」
シルビアが答えてくれた。
「ただどこで何をしてもらうといいでしょうか?」
人が一気に増えた事でやれることも増えるが、急に仕事が増えるわけでもない。
「カミュ達を手伝って貰おうかと思ってますが、実のところ警備員の方にも回って欲しいかなと」
「警備?」
「ええ、彼女達の実力は俺と大差ないんです。今はコルボと子供達だけなんで、何人かそちらにも回ってもらえたらと」
「なるほど。こちらで人員を調整してみます」
「まあ、まだ来たばかりですから。まずは落ち着いてからでいいですよ」
「実のところ、あの村は平和でしたがやる事もなかったので、暇を持て余してるんですよ」
「私もリーナ達を手伝います」
その後、シルビアの人選で警備隊が整備された。一応、隊長はリオンの代行であるコルボだが、年上のお姉さんに囲まれて、肩身の狭い状態になっている。
しばらくすれば慣れるだろうか。
もう少し様子が分かれば、鉱山の方にも回せるかもしれない。そうすればブリーエの兵に頼らなくても済むのでありがたいところだ。
「それじゃ、留守を頼むね」
「はい、わかっただよ」
坑夫に弁当を納品しているシナリには、村に残ってもらって俺達はブリーエを目指す。
ルフィア姫、ミルバとルーファにレイスといった面々で、中々にかしましい。
そんな中で浮いているのは沈んだままのミルバだ。
村では女性は死んだと教えられていた男達が、思いがけない再会に喜んでいた。
それは喜ばしい光景であると共に、ゲーニッツが嘘をついていた証でもある。
ミルバにとっては良い保護者だったのかもしれないし、たくさんの命を救った賢者かもしれない。
その反面でそれを己の利益の為に利用してもいた。
「ゲーニッツ様は悪だったのか」
「一概にそうは言えない。彼には彼の正義、成すべきことがあったんだろう」
「ではなぜ囚われている」
「より多くの人の正義を踏みにじったから……だろうか」
理想を掲げ、その為に他人を犠牲にする。多かれ少なかれそれは誰にもあるのかも知れない。
それを力でねじ伏せるのか、他人にも理解してもらうのか、諦めるのか。
そうした事を繰り返しているのかもしれない。
「私はゲーニッツ様に拾われ、多くの事を学び、戦う力を授かった。村をミュータントから守る事を使命とし、多くの獣を仕留めてきた」
「その事に否はないだろう」
「ただその事で彼女達を閉じ込めていたんだろう?」
「守っていた事実は消えない。君は彼女達よりも強かったが、全員を制するほど強い訳でもない。彼女達が本当に逃げたかったら、逃げられただろう」
あの村、ミュータント化した木材を加工して小屋を作り、岩山の谷間で守られた地。そこには一定の平和は築かれていた。
「私は……己の力を失いたくないとも思うし、ゲーニッツ様を放っておけないとも思っている」
「当然だろうな」
良くも悪くも彼女の人生には、ゲーニッツに占められている。
「ゲーニッツ様に会う前に能力を封じられるのか?」
「いや、俺がいるうちは大丈夫だ。ただゲーニッツの側に残るなら、戦う力は必要ないから封じるしかない」
「なるほど……」
「ただ変な気は起こすなよ。俺やルーファ、レイスからゲーニッツを連れて逃げる事はできない」
「わかっている」
「また新たな女の子に粉を掛けておる」
「そういう性分じゃよ、母上。アトリーの側に居るという事は、それを許容せねばならぬ」
「凡庸そうで目立った所のない奴なのに、モテるのか。不思議な奴だな」
えらい言われようである。プレイヤー補正の無いリアルでの姿を……最近は、ケイトと仲良くなりかけてるのか。でもソレくらいだし。
「お前の正義は何だ?」
「正義って言い張れる程の事はないけど、自分の周りが幸せそうなら、それが目的……かな」
「何股も掛けているのに?」
「別に口説いて回った訳じゃないんだけどなぁ。真剣に口説いて追いかけたのはルーファだけだ」
「どうじゃ、母上。諦めがついたかや!」
「選択肢がなかっただけであろ。アトリーの優しさにつけ込んだだけではないかや」
「それが運命というものじゃよ。わらわが最初にアトリーに会えたのじゃ」
「わらわが先に会う可能性はなかったのじゃ……」
母子で何か揉めているが、触らぬ神に祟りなし。今はミルバの相手で誤魔化そう。
「私はどうすれば」
「君の前に全ての情報が揃った訳じゃない。知れることを知った後で、自分で判断すればいい」
「お前は指示してくれないのか」
「君が壊れてないうちはね。君の判断が俺の周りを傷つけるようなら、全力で止めるけど」
「選ばせて阻止するとかタチが悪いな」
「そうだな。俺の我儘を通すのが、俺の正義だからな」
「私の正義が勝れば踏み潰せる……か」
そうして会話するうちにブリーエが見えてきた。




