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死霊術師の業

 マサムネの工房から村に帰った俺は、裁縫用の建物を訪れていた。カミュとリーナがせっせと製糸、生地作成に励んでくれていて、ボロボロになっている村人の衣服を生産していっている。

 下の子供達もカミュ達を手伝って勉強していた。


「リーナ、ちょっといいか?」

 俺が呼びかけると無口な少女は顔を上げて、とてとてと歩いてくる。

「ルーファ、すまないが席を外してくれ」

「むむ、アトリーが幼女に目覚めてしまった件について」

「違うわっ」

 ルーファも分かっているんだろう。クスクスと笑いながらも俺から離れていった。



 リーナと2人きりで小さな部屋へと入る。丸椅子に腰掛けたリーナは、小首を傾げながら俺が話すのを待っていた。


「リーナ、お父さんの事なんだが」

 俺は伝えるべきか迷ったが、知ってしまった以上、俺だけで抱えておくのが辛くなった。

 リーナはハッとして顔を上げたが、俺の顔を見てある程度は察してしまったらしい。視線を落としてしまう。


「俺が知った時には既に亡くなっていた。最後の時に心配していたのはリーナの事らしい」

 死霊術の死者の声としてそれを聞いた俺は、その未練を感じ取ってしまっていた。


「リーナ。お父さんと話すか? それはもうお別れでしかないが」

 ピクンと少女の肩が跳ね、恐る恐ると言った感じで俺の方を再び見上げた。

 彼女に選ばせるのは酷なのかもしれない。ただ霊としてそこに居る彼の未練を晴らすことができるのは彼女だけだ。


「パ、パ……」

「ああ、君のお父さんを少しだけ俺の身体に宿らせる。僅かな時間だが、その間にお別れできるか?」

 リーナはじっと俺の顔を見ながらしばらく考えて、こくんと一つ頷いた。

 俺はそれを確認すると、呪文の詠唱を始める。呪文と言うよりは祝詞に近い。

 歌うように言葉をつなぎ、俺の中へと死者の声を招き入れる。

 俺自身の意識は薄れ、周囲に来ていた誰かの意思が俺を動かしていく。



「リーナ……」

「パ……パ?」

「ああ、アトリーさんのお陰で少しだけ時間が貰えた。さあ、おいで」

「パパっ」

 俺とは微妙に違うアクセント。その僅かな差をリーナは聞き分け、ためらいなくその腕の中へ飛び込む。


「ごめんな、リーナ、1人にして。俺はもうこの世にはいない。死んでしまったんだ」

「……」

「でも少し前にこの村に戻って、リーナが頑張ってる姿を見ることができた。俺は嬉しかったよ。皆の為に頑張ってるリーナが見れて」

 俺の胸に頭を押し付ける様にしながらブンブンと首を振る。


「まだ、まだまだ、ダメ。パパ、帰って来て?」

「ごめんな。それは無理なんだ。こうして話せるだけでも奇跡のような事。俺は幸せだよ、リーナのような立派な娘を持てて。これからも……元気で……がん……ば」

 途切れ途切れになる声に、リーナはその時を感じてぎゅっと抱きついてくる。

 そんなリーナの頭を撫でて上を向かせると、前髪を掻き上げ額へとキスをした。


「母さんは生きている……」

 え?

 その言葉と共に彼の意識はすっと俺の中から抜け出ていった。未練を晴らし、健やかなる気持ちで成仏していくのを感じた。

 リーナも最後の言葉に呆然と俺を見上げたまま固まっている。



「リーナの母親が生きている?」

 リーナの父親が残した言葉に、俺は行動を開始した。まずはゲーニッツの知識を持つルフィア姫に尋ねる。


「リーナの母親……ミュータント化した女達の記憶はあるか?」

「すまぬ、わらわにあるのは魔導技師に関する知識だけじゃ。その記憶全てを覚えておるわけではないのじゃ」

「となるとゲーニッツ本人から聞くしかないか」

 ゲーニッツの身柄はブリーエに預けたままだ。処刑はされていないはずだが、どうなっているだろうか。



 俺はすぐさまブリーエに戻る。

 さっき交渉を終えたところの訪問だけに、イザベラにも不思議な顔をされた。


「ゲーニッツはどうなっている!?」

「地下で監禁しているが……」

「会わせてくれ」

「それは構わんが」


 忌まわしき場所だった地下牢も、ルーファが蘇った今はそうでもない。

 その一角にゲーニッツは監禁されていた。歩哨は2人、厳重とはいえないが、魔導技師としての力を失ったゲーニッツに脅威はないのだろう。


「ゲーニッツ。聞きたいことがある」

「うぁ、うぉ……」

 俺の声に反応してこちらを見たゲーニッツ。そこには知性の欠片もみえず、残された左目も濁って感じられた。


「おい、ゲーニッツ!?」

「我らが捕らえた時にはこの状態。よほど失敗が堪えたのだろう」

「じゃあ、会話なんて」

 イザベラは首を振る。

「我々としても一連の騒動の責任を取らせたいところだが、本人が罪を認識できない状況だからな。食事も採っていないが、ミュータントなので魔力で生きているのだろう?」

 俺の〈魔導技師〉の目には、微弱ながら魔力で生きているのは感知できた。

 魔力を操作すれば意識を取り戻すか?


「止めた方がいい。霊脈が弱っている。下手な刺激は寿命を奪うだけになる」

「うおっ、レイスか」

 唐突に姿を現す死神のような存在は、地獄から憑いてきた悪霊。死霊術での師にあたる。


「まあ最早抜け殻のこの男、情報が得られないなら命を刈り取ってやった方が慈悲になるか」

「霊体になれば情報を得られるか?」

「いや無理だろう。こいつはもう現世に未練も執念もない。霊にならずに消えてしまうだろう」

「くそっ」

「何、手段は他にもあるだろ」

「な、何があるんだ!?」

「お前、普段はグチグチと要らんことで悩むのに、こういう時は感情的になりすぎるな」

「そんな事はいいから、方法を教えろ」

 俺はレイスの霊体に触れると罰を与える。苦痛を与えても喜ぶだけなので、逆に感覚を奪うように操作する。


「うおっ、視界が、感覚がっ。や、やめろ、これ以上私を闇に閉ざさないでくれっ」

「なら早く方法を言え」

「霊体から情報を得たなら、他の霊体からも情報を得ればいいだろっ。あの地域には無念、執念を残した霊がたくさんいるんだ!」

 それもそうか。ゲーニッツの酷い実験の被害者は他にもいる。バルインヌの地には、思っていた以上の霊が未練を残して漂っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ。酷いな、私を恐怖させるとは。でもそれもまた新たな刺激、ゾクゾクする……」

 何をやってもレイスは堪えないようだが、今は構っている余裕もない。



「イザベラさん、協力ありがとうございました。俺はもう行きますんで」

「お、おい、説明もなしに」

「また今度話しますからっ」

 俺はまた村へととんぼ返りする事になった。




「ゲーニッツの奴は何か話したのかの?」

 転送ポイントではルフィア姫が待っていた。

「いえ、奴は廃人のようになっていて、会話もできませんでした」

「ふむ、では村人総出で辺りを探すか」

「ミュータント化した獣はまだ残っています。二次、三次被害を出す可能性もあるので……」

「ではどうするのじゃ?」

「先人に知恵を借ります」



 俺は霊を集める為の祭壇を準備する。霊に捧げる供物を掲げ、この地に残った怨念を鎮める。

 死後も現世に残るほど未練があったり、何か執念を持っていたりする霊は、時間と共にその自我が崩れ始め、やがて他の霊と融合していき、怨霊と化す。

 そうなってしまうと最早浄化して送り出すしかないが、霊として彷徨っている段階ならその未練を晴らして成仏へと導くことができる。

 死霊術の源流はそうした先祖の霊を供養する所から始まったらしい。


 供物を捧げる祭壇に、周囲から霊気が集まってくるのがわかる。

 恨みを抱えて死んだ者、未練を抱えて死んだ者、ただただ死を受け入れられない者。

 それらが集まり怨霊と化す。

 その禍々しい霊気が押し寄せると、レイスが飛び出し手にした大鎌で刈り取っていく。

 骸骨に黒いボロ切れを纏った姿で、彷徨える魂を刈り取っていく姿は、まさに死神だった。


「ふんふふ〜ん。これで霊気がたまるわ〜」

 と、本人は鼻歌混じりで楽しんでいるようだが。周りで見守っているルーファやルフィア姫は、その姿を畏怖して眺めている。


「あ、アトリーの奴。いよいよあのようなモノまで従えるとは」

「恐ろしい奴じゃな」




 強い霊力を持つ怨霊をレイスが片付けていくと、まだ死んで若い霊達がふよふよと集まり始める。

 それでも死者であり、何らかの不満を持って現世に留まっている。

 その中からミュータント化して亡くなった者を探し、そこからゲーニッツと関わった者を選り分けていく。

 するとゲーニッツと関わった霊はほとんど男である事が分かる。

 そしてようやく1人の女霊に会うことができた。

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