魔鉱石の加工
マサムネによる彫刻で炉の中の呪紋が修正された。
「炉を稼働させるには時間がかかるぞ」
「そうなのか?」
「ああ、薪で段階的に熱量を上げていくんだが、時間を掛けないと炉が割れたりするらしい」
「熱膨張とかかな。わかった、少し他の所に行ってきていいか?」
「ああ、リアルの一時間くらいは掛かるからな。俺は隣の炉でインゴットを使わせてもらうよ」
俺は一度村に戻ることにした。
「うぬ、アトリー。リオンはどうしたのかの?」
村に戻るとルフィア姫がリオンを探していた。
「まだ帰ってないんですね……アリスはどうかな」
俺はポタミナでアリスに連絡を入れる。するとしばらく修行してきますと返事があった。
リオンも一緒という事だろう。となると時間は掛かるはず。
「しばらく帰って来ないようですね。急な案件でも?」
「いや、そうでは無いんじゃが、アリスにリオンがおらぬと警備面で報告が溜まっておってな」
「そうですか。何かあるのかな」
「定期連絡の類じゃと。緊急事態ならわらわに直接上がってくるゆえ」
「わかりました、俺の方で処理してみます」
リオンの執務室に行くと、コルボが待っていた。村の警備と鉱山の警備の報告が机に置かれている。
この村は早めに魔導炉を止めたこともあり、ミュータント化した獣も少なくなっていて、農夫をしている村人もその気になればミュータント化して戦える。
外敵を期にする状況にはなく、警備の方も問題がない。
鉱山の方も昨日見た感じだと、シナリを中心とした温和な空気が出来上がっていた。
元野盗のミュータント達がいきなり暴動を起こすなんて事はないと思われた。
実際、まとめられた報告書でも異常なしの文字で埋まっている。
「リオンとアリスはしばらくここには来られない。異常が無い限りは、コルボが確認してくれるか?」
「ぼ、僕がですか!?」
「元々は村の代表者だろ。子供たちの信頼も厚いし、俺も信用している。問題があればすぐに連絡をくれたらいいから、やってみないか?」
責任を持つ立場になるのは疲れるが、やりがいもある。今までの苦労を考えれば、支えてやれる大人がいる今の方が楽かもしれない。
「わかりました。やってみます」
「警備体勢で不満や不足があるようなら、それも要望として俺やルフィア姫に上げてくれ」
「はい」
やや緊張した面持ちでコルボは引き受けてくれた。
警備報告を見ると鉱山の方に務めてくれているブリーエの兵士達の情報もあった。
交代で入ってくれて、常時10人は警備に当たってくれている。坑夫として働く元野盗は30人、やや多くは感じるが元ミュータント。
ブリーエとしては警戒するに越したことはないだろう。
「となるといつまでも好意だけで働いて貰うのも悪いな」
現状はバルインヌへと護送に付き合ってくれた流れで、そのまま警備体制を作ってくれているが、予算があるわけじゃない。
ブリーエには大工を派遣してもらって、その分の報酬も滞っている。
マサムネから貰った報酬は、ブリーエに回すのが妥当か。
鉱山はこれから稼ぎ頭になると思われる産業。ちゃんとお金もかけた方がいいはずだ。
「次はブリーエかや?」
「そうだな、マサムネの方はまだ掛かるだろうし転移して行ってくるか」
「忙しいのぅ」
「早く片付けて旅行行きたいしな」
「急ぐがよかろう!」
ルーファと2人、ブリーエへと転移した。
ブリーエの街も無理にオタリアへと侵攻していた頃の混乱がなくなり、オタリアとの交易で活気が出ている。
先のブリーエ城占拠も被害が城内で留まっていた為か、街の繁栄には影響を与えていないようだった。
俺達はそのまま城へと向かい、衛兵にポタミナによる身分提示を行うと、速やかに謁見の間へと通される。
「よく来てくれた、英雄殿」
「国王自らそんな呼び方を推奨してるのか」
「余を王座に戻してくれて、城を取り戻してくれた恩人を、他に何と呼べば良いかわからぬ」
「イザベラさん、他国の人間を英雄呼ぼわりで良いんですか?」
「民衆はわかりやすい英雄を求めるものです。貴方はそれで余計な報酬を求めたりしないし、都合が良いのです」
しっかり利用されていた。
「じゃあ鉱山に派兵してくれている兵士に関しては不問でいいんですね」
「それとこれとは話が別。彼らへの報酬はブリーエが支払っています。これはブリーエの国民のお金、取り立てねば国民に申し訳ない」
「まあ、俺も兵士を引き上げられたら困るんで、払いますけども」
大工の出張費、木材の代金、鉱山へと派兵されている人件費。それらをマサムネからの代金で支払う。
更には向こう半年分の派兵資金も先に渡しておく。
「ほう、景気が良さそうだな」
「たまたま臨時収入があっただけで、地盤を作ってる所です」
「ふむ。国政を預かるのであれば、心苦しくてもちゃんと税を取り立てろ。大金でなければ成せぬ事も多く、財力はそのまま国力とも言えるからな」
「はい、肝に銘じておきます」
今回の収入は村の鉱山から出たもので得たものだから、村に還元するのは間違ってないだろう。
ただいつまでも兵士を借りている訳にもいかない。50人の農夫と30人の坑夫、警備に回す余裕が無いのをどうやってカバーするか。
定期的な収入があれば、外から人を雇うこともできる。やはり内政の充実が必要だった。
「商売人の顔をしているな」
「そうですかね」
「損得は大事だよ。無い袖を振っていて、どうにもならなくなったら、そのツケを払うのも国民。全てが得をするなんて甘い考えは禁物だ」
「なるほど……」
「かといって搾り取ればいいというものでもない。人が相手だけに、バランスは随時取らないといけない。悲しいかな人とは現状に満足することは、ほとんどないからな」
「また哲学的な事を」
「現実の話だよ。昔に比べて裕福になってもそれが続けばもっと上を求める。それが向上心でもあり、欲深いところでもある。不満を抑えつつ、完全には解消しない。それが政治の調整だよ」
難しい話だ……やはり執政官を派遣してもらう方が楽だろうか。
「最初から分かる必要もない。まずは己の思う通りにやってみて、どうしても行き詰まったらいつでも聞いてくれ」
「はい、ありがとうございます」
イザベラなりの励ましの言葉だったようだ。失敗なしには先に進むのも難しいか。
「何、困った時にはわらわもおるからの」
「そういえば、ルフィア姫はその手の教養が無いといってたぞ?」
「む、そ、それは、わらわになって何処かで得た知識なのじゃろ」
「記憶を共有してるはずなのにな?」
「母上はアトリーに助けられてからしか知らぬらしいのじゃ。あそこに閉じ込められるまでの記憶は……」
「そこはルーファも覚えてないんだろう?」
「知識とは覚えてなくとも湧き出すものじゃ!」
「ごまかしたな……」
まあメーべで指導したりする姿は堂に入っていたし、何らかの知識はあるのかもしれない。
千年に渡る空白は簡単に予測できるものでもない。ルーファがルーファとして歩んだ道は、確実にルフィア姫との差を生み、現在に至っている。
彼女自身は、彼女であって誰かの借り物ではない。そこに惹かれている俺は、ルーファを抱き寄せつつオタリアへと転移した。
オタリアから馬車でマルセンに入り、マサムネの工房へと戻る。
「やっと来たのかアトリー」
「やっとって、時間通りくらいだろ?」
「もうすっかり炉は温まってるぞ。加熱効率が上がってるみたいだ」
「魔力が抜けてた部分を補修した感じなんだがな」
「炉全体に均等に熱が回るようになって、歪みが生じにくくなってるんだ。さっき、製鉄をやってみたら作業時間が短くなってたし、熱量も上がってるな」
「生産用の機器は魔導技師で向上するのか。となるとちゃんと習得するルートはありそうだな」
「ああ、そのうちちゃんと教えてくれ」
ルフィア姫が指導にあたればそれも収入にできるか。技術を独占できる方が利益は大きいかもしれないが。
「じゃあ魔鉱石を試してみるぜ」
マサムネは俺が見ている前で作業を開始する。炉を開いた時の熱気は、心なしか熱くなっているように感じた。
以前は感じた魔力の漏れは防げている。魔鉱石の魔力も安定したままで推移していく。
「溶けるぞ……大丈夫か?」
「ああ、魔力が暴走する気配はない」
「よし来た。融点到達、インゴットが作れるぞ!」
マサムネは溶け出した鉱石を枠に流し込み、方形の塊へと精製する。
俺が作ったインゴットと同じか、それ以上の出来。鍛冶屋のスキルレベルで品質にボーナスが乗っているらしい。
「よっしゃ、ここまで来たら後は俺だけで大丈夫だな」
「ああ、俺としても魔鉱石の状態で納品できるならありがたい」
「おう、じゃんじゃん買い取るぜ。後これは炉を改修してくれた礼だ」
そういって渡されたのは魔鉱石で作られたマンゴーシュだった。防御用の武器だが、攻撃力が跳ね上がり、シャムシールも超えている。
試しに作っていたショートソードよりも確実に良いものになっていた。
「ある程度インゴットがあったからな。結構試せたぜ。今のところ、それが最高の出来だ」
「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」
「いやぁ、魔鉱石の加工法情報が流れてきた時は焦ったが、これなら全然、俺達の方が上をいけるぜ」
「加工法の情報がでたのか?」
「ああ、炉を温めてる間にな。だけど魔族テリトリーに住む魔族の鍛冶屋に頼むんだと。魔鉱石を持ち込んで、オーソドックスな武器しか作れないらしい。それでも性能はいいらしいが」
「プレイヤーメイドにはかなわんか」
「当たり前だ。こっちは工夫してるからな。さらに魔鉱石が納入されるなら、ドンドンと注文が取れる」
「あんまりがっつくなよ」
「その辺のさじ加減はお前よりわかってるさ」
ぼったくらなくても莫大な利益は上がるだろう。魔鉱石自体の取引価格も上がり始めているが、マサムネと取り決めた値段で納入する。
高値で少数売るよりも、安定して数が売れる方が最終的には稼げるのだ。
ここからマサムネの工房は一気に名声を獲得することになる。




