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マサムネの工房

「はい、あ〜ん」

「や、流石にそれは」

「ふふっ、冗談ですよ」

 彼女は断られても嬉しそうに微笑んで、自らの口へとミートボールを放り込む。

 先週、映画に行ってから一気に距離が詰まってしまった感がある。一回り違うと言うことで抵抗はあったが、ゲーム好きと言うこともあり、思ったより会話に困らない。

 昼食は宅配の車の中が多いのだが、今まではコンビニ弁当。今日は彼女が弁当を作って来たのだった。


「S.O.のおかげで朝がすっきり起きれるんで、弁当作る時間も余裕あるんですよ」

 自分の分を作るついでですからと、俺の分まで用意してくれた。

 甘酸っぱい雰囲気を噛み締めながら、彼女が喜んでいるなら俺の方から断る理由もない。


「勇気を出して良かったです」

「なんで俺なんだとは思うけどな」

「きっかけは色々ありますが、最終的には理由もなく、好きだったんだなって感じですよ」

「おっさんには恥ずかしいよ、そういうの」

「うふふ〜」




「ケイトからの連絡はないな」

 こっちではこっ酷く振った手前、連絡は入れづらい。彼女としたらどうなんだ。現実とのギャップに悩むことはないんだろうか。

 こっちに来てすぐに連れ回したから、自分なりにこの世界を楽しんでいるなら良いのだが。


「帰ってくるなり、他の女の心配とか……寂しいのぅ」

 分かりやすく拗ねるルーファ。そっと抱き寄せて頭を撫でてやる。


「皆を幸せにするんだろう?」

「それはそうじゃが、時と場合があるじゃろ?」

 おねだりするように唇を突き出し、瞳を閉じる。うう〜む、こんなに甘々で良いのかと思いつつ、そっとキスしてやる。

 しかし、唇が触れた途端に、魔力が流れ込んで来そうになったので、ばっと身体を引き剥がす。


「なっ、何を!?」

「くぅっ、失敗したのじゃ。主導権を取れるかと思ったのじゃが」

「おいおい、何をする気だったんだ?」

「アトリーばっかり、技術でわらわを翻弄できるのが悔しかったのじゃよ……」

「もう魅了チャームには心底掛かってるぞ」

「言葉だけじゃなくて〜わらわの事しか考えない1日があっても良いではないか」

「まだやる事が一杯あるから。もっとゆっくりとしてから楽しもう?」

 などとやり取りしてるとマサムネから連絡が入った。工房の準備が出来たらしい。

 俺は一度村に跳んで、魔鉱石を一定数確保して、ルフィア姫に外交してくると言い置き、マサムネのいるマルセンの町へと向かった。



 職人の町マルセンは、以前よりも活気を帯びているようだった。魔族の住む山脈を攻略するのに、冒険者達が武具を求めて集まっているようだ。

 魔物の素材や鉱石などが運び込まれ、試行錯誤が行われている。

 マサムネは個人経営なので、表通りからは少し離れた位置に工房を構えていた。

 それでも入り口には数人の冒険者の姿がある。


「お、アトリー」

「また女連れてやがる!」

「例の姫様……じゃないのか!?」

 黄昏の傭兵団の団員だった。

 ルーファの髪色が変わった事すらちゃんとチェックしてくる。


「久しぶりだな」

「なぁ、どうやってモテたらいいんだ?」

 開口一番、切実に聞かれた。

「クエスト探したらどうだろうか。ルーファにしても、シナリにしても、アリスにしてもクエスト絡みだよ」

「クエスト! そういえば、軍団に入ってあんまりやってなかったな」

「よし、クエスト行くか!」

「魔族討伐は武器ができるまで時間がかかるしなっ」

 団員達は我先にと街の方へ走っていった。


「必死だなぁ」

「くくっ、持てる者の余裕じゃの」

「いやぁ、全くだな」

「マサムネ、おはよう」

「本体は眠ってるけどな」

 確かにそうだ。ゲーム内での挨拶はどういうのがいいのやら。


「とりあえず入ってくれ」

 武器屋に入ると受付には、マサムネのパートナーになっているミリーナが受付に立っていて、笑顔を向けてくれる。

 元はメーべの村出身で、野盗から助けられてマサムネと良い仲になったらしい。やはりクエストは大事だな。



 工房内部に入ると熱気がすごい。金属を溶かし、加工するための炉が稼働している為だ。

 俺は村から持ってきた魔鉱石をいくつか取り出してみる。


「ホント、あっさりと出しやがるな」

「ウチの名産になりそうだな」

「場所を教えると、野良プレイヤーが掘りに行くだろうけどな」

「ひとまずの利益が出たら、解放するのもいいだろうけどな」

「俺がしっかり稼げるまでは待ってくれよ。さて、じゃあ魔鉱石を預かろうか」

 所持袋から取り出した鉱石をマサムネに渡す。


「まずは俺が他の鉱石を加工するのと同じ手順でやってみるぞ」

「ああ、任せる」

 マサムネが炉の脇についている棒を押し込み、2度、3度と繰り返し動かす。

 フイゴによって熱を高めているようだ。本来ならずっと空気を入れ続けるんだろうが、1人でも加工できるように操作は簡略化されている。

 そして炉の蓋を開けると更に熱気が吹き出した。マサムネは上半身を脱いで、スコップで魔鉱石を拾うと炉の中へ。

 俺はその様子を見るべく目を凝らす。しかし、熱気の中で目を凝らすとすぐに乾いてくる。


「ほれ、ちゃんと防御せぬか」

 ルーファが魔法を唱えて、俺の身体を冷気が包む。目の乾きも癒やされて、更に炉を見詰めていると、魔鉱石の中の魔力が動き出すのが分かった。

 熱によって魔力が刺激され、暴れようとしている。


「マサムネ、限界だ。引っ張り出せ」

「ん、分かった」

 スコップを取り出すと、魔鉱石は赤熱し始めているが、溶けるほどでもない。それでも魔力は暴走寸前の状態だ。

 手で触れることはできないので、沈静化するのを待つしか無い。



「今の所で限界だと、加工するどころの話じゃないぞ」

「みたいだな」

「とりあえず、昨日買ったインゴットの方も試してみる」

「ああ、そうだな」

 インゴットの方は、鉱石の状態よりも魔力が安定している。また溶かし切る必要もないので、ある程度熱が回った所で、加工に入ることができた。


 熱の入ったインゴットは、黒から赤へと変色し、それをマサムネがハンマーで叩いていく。

 薄く長く引き伸ばされた棒状になり、そこから形を整えていくとやがで剣の刃へと変化していった。


「いきなり大物は難しいから、初歩的なショートソードだ」

 形がととのったら水に入れて刀身を引き締め、アイテムへと転じる。



「おお、すげぇ」

 アイテムになったところで、その能力を確認できるようになる。その数値を見たマサムネが感嘆の声を上げた。


「細かなチューニング無しでこの数値か。ちゃんと作り込めば、更に2ランクは上がりそうだな」

「魔法効果はナシか」

「みたいだな。別の要素を足さないとダメなんだろう。属性の篭った石を加えたりしたら、そのまま付きそうだがな」

 鍛冶とはいえゲーム内のスキル。新たなアイテム作成もそれつぽい素材を加えると効果が出るという。

 例えばカニ型魔物の爪を足すと、鋭さが増し、甲羅を足すと硬さが増すといった感じだ。

 もちろん何でも足していけばいいというわけでもなく、一定ラインを超えると能力が相殺されたり、耐久度が著しく低下したりとデメリットが大きくなる。

 その限界を突き詰めるのが、鍛冶師としてのチューニングと言われる作業だった。 



「インゴットからの加工はできると……しかし、素材が作れないのに加工はできるって不思議だな」

「金属は違ってもやってる事は変わらないしな」

「実際に延べ棒にする際は、あれからどうやるんだ?」

「金属が溶け出したらソレを炉の中の枠に流し込む。すると純度の上がった加工しやすい状態に出来上がるって感じだ」

 ただ魔鉱石の場合は、溶ける前に魔力が暴れだす。


「ルーファが肉焼きに使った術式で加熱すればどうだろう?」

「あれじゃと魔鉱石内の魔力を消費してしまうゆえ、ただの鉄鉱石に戻るじゃろうな」

 それもそうか。

 魔力を使わず、魔力を鎮める。そんな術式が必要だ。

 加熱する事で活性化している原因を追求しないとダメだな。原子と同じような仕組みなんだろうか。


「魔法で加熱する時って、どうなっているんだ?」

「魔力を熱に変えておるな」

「原子同士をぶつけてエネルギーを放出している感じか?」

「???」

 ルーファにはその手の物理学の知識はなさそうだ。


「魔力をこういう感じで変換するのじゃ」

 サラサラと紙に呪紋を書いていく。〈魔導技師〉のスキルがなく、知識だけで描いた図形は歪んで効力を発揮していないが、仕組みを伝えるには十分だった。


「お、おう。魔力エネルギー自体が熱に変わる感じか。冷気の方は?」

「こんな感じじゃな」

 やはり歪みがあるので正確ではないが、意味は理解できる。熱と魔力が相殺しあって失われる感じになっていた。

 物理法則とはベクトルが違うエネルギーという感じだな。となると熱で魔力が反応している訳じゃないのか?


 俺は再び作業を始めたマサムネの様子を観察する。魔鉱石を炉の中に入れて熱し始めるのを、〈魔導技師〉の目で観察していく。


「お?」

 すると確かに魔力が動き始める訳だが、魔鉱石だけではなく炉の方も魔力が働いているのに気がついた。

 フイゴを動かし、熱量を上げるに連れて、炉の魔力が上がっていく。その魔力に呼応する様に、魔鉱石内の魔力も暴れはじめていた。

 どういう事だ?


「マサムネ、そろそろヤバイ。あと炉の作りってどうなってるんだ?」

「炉の中の事か? そっちに冷えた奴があるから見てみたらどうだ」

 そう言いながらマサムネは魔鉱石を外へと出した。やはり赤熱してはいるが溶け出す程でもない。



 俺はもう一つの炉を見せてもらうことにした。

「暗いな……」

「ほれ、灯りじゃ」

 ルーファは玉状の光を生み出し、炉の中へと入れてくれる。

 浮かび上がった内部構造には、思った通りの呪紋が刻まれていた。

 火力を高めるように魔力を使って増幅を行っている。その魔力が魔鉱石に影響を与えているようだ。

 となると熱を出す部分と、鉱石の間に魔力を遮断する処置があれば、加工できるようになるかもしれない。


「というより、魔力が漏れてる方が問題か。この呪紋自体が適当なのか?」

 〈魔導技師:分析〉で幾つかの歪みが感じられる。

「マサムネ、炉の呪紋をいじっていいか?」

「呪紋? 何のことだ」

 俺は自分の感じていることをマサムネに伝え、炉の内側に刻まれている呪紋の意味を教える。


「その模様で火力を上げてるのか」

「フイゴ部分に魔力を注ぐ装置があるな。これを動かす時に疲れないか?」

「ああ、精神力を使ってる感じがあるな。あれで魔力を吸われているのか」

「みたいだな。そこから使用者の魔力を吸い上げて、炉の中の呪紋を起動している。仕組み自体は結構高度な割に、呪紋がずさんだ」

「そこを直せたら魔鉱石も溶かせるのか?」

「多分……な。しかし、溝を彫るのはスキルがいるのか」

「多少の装飾なら覚えているから、指示してくれたらその通りに彫ってやるよ」

 魔導技師でも作業はできるかもしれないが、本職に任せたほうが確実だろう。

 俺は炉の図面を起こして、まずい部分を修正していく。それを元にマサムネが炉を修正していった。

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