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鉱山と魔鉱石

「俺も移動手段を手に入れないとなぁ」

「こうやって歩くのもいいだよ」

 リオンの馬車なら15分の距離が、徒歩だと30分掛かってしまう。といって今のリオンを呼び出そうにも応えてはくれないだろう。

 俺は鉱山の様子を見に、魔導炉跡を目指している。

 シナリはそこで働く元ミュータント達に食事を運んでいた。魔力で活動するミュータントだが、その回路を封じた事で、食事をする必要があった。

 そこで虜囚の管理をしている兵士達も含め、シナリが食事の準備をしてくれている。


「尽くしてくれておるのを当たり前と思うでないぞ」

「わかってるさ。いつもすまんな、シナリ」

「それは言わない約束だよ、アトリーさ」

「そうではなく、もっと、こう、身体で労ってやるとかじゃな」

「色情魔じゃないんだから、そういうことが労いにはならないよ。なぁ、シナリ?」

「あ、あたしは、アトリーさに望まれるなら……」

 しまった、否定されない。

 ルーファと一線を越えてしまっただけに、節操がなくなるわけにもいかない。慎重に行動せねば。



「そういえば、皆を喜ばせろといった割には、ルフィア姫には厳しかったな」

「それは、母上がわらわの記憶に引きずられておるだけじゃからのぅ。勢いでアトリーを求めるのは違うじゃろ!?」

 そこはちゃんと倫理観があるのか。


「でもルフィア姫も長い眠りから覚めて、誰も知り合いがいない状態だ。少しでも助けてやらないとダメだろう」

「己の立場を利用して迫るのは良くないのじゃ。それに現状ではアトリーにすがっておるだけ。やはり自分の力で絆を積み上げてもらわねばな」

 自らのオリジナルに対しては、厳しい所があるようだ。


「ルフィア姫様も良いお人だで。ちゃんと話し合えば大丈夫だよ」

 この一週間ほど、ゲーム内では3ヶ月を共に過ごしたシナリは、ルフィア姫の人となりをそう評価した。




「おお、英雄殿。ご帰還なされたのですな」

「う、あ、ああ」

 あの時の老兵が兵所に詰めていた。かつてゴーレムの充電施設だった部屋は、ベッドに置き換えられて居住エリアに。

 奥の魔導炉のあった場所が、球形施設兼食堂となっていた。

 思ったより穏やかな様子で談笑する声が聞こえている。


「げぇっ、アトリー」

 野盗の1人が俺を見つけて声を上げると、周囲の野盗達もこちらに注目してきた。

 しかし、隣にシナリがいるのを認めた途端、その表情が緩む。


「シナリちゃん、いつもすまねえな」

「いえいえ、皆さん頑張っとるだでな。あたしにできる事をやっとるだけだで。今日は遅くなってすまねぇだ」

「なんの、そこの英雄殿のせいだろ」

 何だかすっかりシナリと打ち解けているようだ。シナリにとっては自分を監禁した相手のはずなんだが……。


「大丈夫ですよ、英雄殿。彼女が彼らに接する際は、我々が目を光らせてますからな」

 見ると食堂には10人ほどの兵士が集まっていた。

「それにシナリ殿にかかれば、荒くれどもも大人しくなっとります」

 一人一人に弁当を渡して回るシナリには、野盗達も笑顔で接している。


「今日はリオン殿とアリス殿は来られないんで?」

「あ、ああ。そうだな、しばらく来ないかもしれない……」

「何かやらかしましたな。謝るなら早い方がよいですよ」

「こっちから謝りにくい事案なんだよなぁ」

 今のリオンには自分で考える必要があるだろう。こちらから手を出すと余計に反発すると思われる。

 アリスに期待……というと責任逃れになりそうだが、彼女に任せようと思っていた。




 皆が食事をする間に、俺は個室を借りて魔鉱石を調べる事にした。

 ある程度まとまった延べ棒を用意して、マサムネに見てもらう必要がある。

 時間を加速させて作業時間を確保。黒っぽい鉱石から、魔力に反応する金属を引っ張り出す作業を開始する。

 一度精製方法を確立したら、後はスキル任せで考える事はできた。


「器用なもんじゃのぅ」

 魔鉱石から金属を抽出している様を見て、ルーファが呟く。

 ルーファは悪魔化した段階で魔導技師のスキルは失っていた。魔術の方は以前よりもスキルが増えているらしい。


「個室に篭もるからお楽しみの時間かと思うたのに」

「そんな事考えてないだろ」

「リオンの事は少し聞いたが、大丈夫なのかの?」

「大丈夫……と信じたいな。少し俺に依存する部分が目立ってたが、この一週間で変化があった」

 自分なりに考えて行動する期待はあったが、アリスに恋愛感情を抱くとは思ってなかったが。


「ならもう少し、次のステップへと自分を押し上げて欲しいしな」

「身勝手な言い分じゃの」

「大事な妹をくれと言われたんだ。少しは苦労してもらわないとな」

「アリスはくれてやるつもりなのかや?」

「そこはアリスの判断次第だ。アリスも俺の事を命の恩人と思ってどこか束縛されている。俺に依存しない考え方に至って欲しい」

「またまた身勝手な」

「俺はルーファ1人でも手一杯なんだよ。そんなに責任を持てない」

「むう、わらわをダシにしておるだけに聞こえるのじゃ」

「嫌いになった?」

「更に酷いのぅ〜」

 そう言いながら背後から抱きついてくる。ただ作業の邪魔にならないように気をつけているのが、ルーファらしい心遣いだ。


「ソナタ無しでは生きられぬ身体にされたわらわに、何を問うておるのかのぅ?」

「人聞きの悪い言い方を」

「誰も聞いておらぬじゃろ?」

「まあ……あっ!」

 俺は作業を中断し、手首に絡めた銀のロケットを所持袋へと放り込んだ。



「ど、どうしたのじゃ?」

「あのロケットには、レイスが憑いていてな。前の様子もばっちり見られてたんだ……」

「レイスじゃと?」

「地獄に落ちた時に協力してくれて、地上まで憑いて来たんだ」

「ふむぅ……まあ、今は見られてないのじゃな」

「ちょっ、作業があるから」

 と言葉で抵抗するも、愛しい相手に絡まれて邪険にする事もできず。またもたっぷりと可愛がってしまった。



「む、むぅ、アトリー。ずっこい、のじゃ」

「作業もあるんだから仕方ないだろ」

 いくら加速状態とは言え、時間には限りがある。スキルを駆使して、早々とルーファをノックアウトしていた。


「もうちょっと余裕がでたら、ゆっくり旅行でもしたいところだな」

「新婚旅行かえ?」

「そういうのもアリかなぁ」

「では早く用事を済ませるのじゃ!」

「まだまだかかるよ」

 苦笑しながら魔鉱石から延べ棒を精製していく。



 小一時間でそれなりの量になったので、マサムネに会いに行くことにする。

 マサムネの店は、直接転移できないので、オタリアで待ち合わせる事に。

 マサムネオススメの店で商談をすることにした。


「お、何や嬢ちゃん、印象変わったな」

「ふふふ、そうかのぅ?」

「ようやくアトリーを落としたってところか」

「そ、そんなもの、見て分かるのか?」

「こっちは商売人だからな。相手の顔色伺うのは得意さ。特にNPCは騙そうとはしないしな」

 どうやらマサムネなりの観察術を持っているらしい。


「で彼女を自慢しに来たわけじゃないんだろ」

「当たり前だ。刀鍛冶のマサムネに見てもらいたい物があってな」

 そう言いながら俺は魔鉱石の延べ棒をテーブルに置いた。

 それを手に取り、鑑定を行う。鍛冶スキルなら、詳しい鑑定ができるはずだ。

 するとマサムネはガタッと席を立ち、奥を借りるといって俺達を連れて店の奥へと進んでいった。

 そこは個室になっていて、内密の商談ができるスペースになっている。

 改めて腰を下ろしたところで、マサムネが切り出してきた。



「アトリー、お前、これがどれだけのモンか分かってないだろ」

「ま、まあな。鍛冶屋じゃないし」

「ちょっと掲示板で検索してみろよ」

 言われてポタミナを取り出し、魔鉱石で検索。レアドロップ、未加工、高位素材。情報求む!

 中位魔族の治める土地で、稀に見つかる素材らしい。まだ数が揃えられず、加工しようとすると魔力が暴走して爆発する事もあるらしい。

 鍛冶スキルをかなり上げないと精製すらできないと、言われているみたいだ。


「なるほど」

「なるほどじゃねぇよ。魔鉱石ですら高値で取引されてるのが現状で、インゴットとなるとどうやって作るかすら分かってないんだ」

「そ、そうだったのか。マサムネ、ありがとうな」

「何がだ?」

「事情を知らない俺から買い叩く事もできたのに、丁寧に教えてくれて」

「俺にとっては最古の知り合いだしな。それにここで縁を切られるよりは、絶対捕まえときたいヤツだからな」

 なかなかに商魂たくましい。


「だからどうやって採れたかとかは聞かない。どれだけ準備できる?」

「そうだな、延べ棒にするのは俺しかできないから、大量は無理だ……とりあえず」

 ゴトゴトと所持袋から取り出してテーブルに並べる。8個作っていた。


「これを俺に預けると?」

「確かに凄い素材なんだろうけど、加工できないと意味がないからな」

「いくらで?」

「すまんが、相場に疎い」

 武器はマサムネに用意してもらってたし、それもブリーエで大臣達を追い出す時。もう1ヶ月以上前になるのか。


「まあそうなんだろうな。じゃあこんな所でどうだ?」

 提示されたのは80万。80万!?


「桁1つ違わないか?」

「これは手付だ。実際に物が作れないと回収できないからな。もし流通に乗せれたら、もう一桁増やしてやるよ」

「や、逆逆、多すぎるんじゃないのかって……」

「ホント、相場に疎いのな。正直、この値段提示なら他に行かれても仕方ないところなんだぞ。それこそ生産メインの軍団なら、800から1000は出してくる可能性もある」

「そ、そんな事になってるのか」

 金銭感覚でも浦島気分を味わってしまった。


「魔族領土への侵攻が中位層に入って、少し停滞してるからな。その主な要因は、武器の貧弱さ。敵が固くなってるのに対して、与ダメがかんばしくない。より強力な武器が求められている。そこで見つかった魔鉱石は、状況を打破する有力筋って事だ」

「なるほどな。となると数も必要になってくるのか」

「鉄に変わる素材として注目されてるからな。今後のメインになっていくはずだ」

「もしかして魔鉱石の状態の方が良かったりするか?」

「そうだな。魔鉱石からインゴットにするのにも鍛冶スキルを上げれるだろうから、鉱石の状態がありがたいのかも。問題はどうやって加工するかの手段だが」

「俺の手法は使えないだろうな」

 ルフィア姫より上のスキル習得が必要になる。


「一度現場を見せて貰えばいいのではないかの?」

「ん?」

「予測じゃと加熱によって暴走した魔力が爆発しておるのじゃろ。ならばそれを抑える回路が作れれば加工できるのではないかのぅ」

「なるほど、魔力を安定させる式が描ければ、加工できる可能性はあるな」

「例の魔導技師ってやつか?」

「ああ。このインゴットを作るのもそのスキルの応用だからな。その分、使える奴がいない訳だが」

「覚えれば色々と便利そうだな」

「魔族を相手にするなら、そのうち必要になってくるのかな」

「瞬間的な力じゃと、魔法の方が圧倒的なのじゃ。あくまで〈魔導技師〉は、魔法が使えない者達の為の技術じゃから」

「生産向けには都合良さそうだな。どこで習える?」

「俺はルーファから習ったが」

「わらわはもう使えぬし、母上に教わるしかないのかのぅ?」

「ふ〜ん、今度機会があったら紹介してくれよ」

「そのうちな」


 思った以上の高値で売れて、今後の産業としての目処もたった。

 後はマサムネの所でインゴットにする方法を模索しないといけないが、ログアウト時間を迎えてしまった。


「明日、工房の方に来てくれよ」

「ああ、よろしく頼むよ」

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