酒場での依頼
酒場へと繰り出した俺は、とりあえずビールとツマミとなりそうな軽食を頼む。
メニューを見るとグリデンの街も海岸に近いからか、海産物が多いようだ。
「はい、おまたせ〜」
魚の切り身の盛り合わせとビールを女性店員が運んできた。
20代半ばのなかなかにグラマラスな女性だ。明るめの茶髪をアップにしていて、動きも軽快。キビキビとした動きに、豊満な胸も踊っている。
出された魚は、白身の薄造り。程よい歯ごたえと、噛むと甘みのある身は、新鮮で臭みもなく旨い。
「旨いな」
「ありがと。アンタ冒険者かい?」
「ん、ああ」
他に客がいないせいか、店員の女性が話しかけてきた。
「オタリアから?」
「ああ、そうだ」
「こんな田舎に何しに来たの?」
「冒険者用の依頼が無くてな」
「残念だけど、この街じゃ大した仕事はないよ」
いきなりクロウラーとの激戦を繰り広げた身としては信じがたいが、街の規模としてはそれほど大事件も起こらないか。
「今は依頼はないのか?」
「そうだねぇ、昔からある幽霊小屋の調査ってのはあるんだけど」
「ほう」
レベルやら装備を考えるとゴースト系には対処できそうにないが、序盤のクエストでそんなデストラップもないだろう。
「正直、報酬も少ないし、面倒そうだってことで敬遠されてる案件なのよ」
提示された報酬は20G、裁縫ギルドで内職した方が稼げる額だ。
「この辺の地主様の依頼なんだけど、幽霊問題が解決しても立地も悪くて、買い手がつきそうにないって事で、報酬ケチってるのさ」
「なるほどな」
しかし、ゲーマーとして色んなゲームをこなしてきた俺には魅力的なクエストに思える。
あからさまに下げられた報酬に、投げやり気味の紹介。それでいてプレイヤーに興味を持たそうとするクエストは、何らかの意味があるだろう。
「詳しく話を聞かせてくれるかな?」
「アンタも物好きねえ」
そういいながらも酒場の給仕女性は話をしてくれた。
依頼の主はさっきも聞いた通り、少しケチな地主。いつの頃からか、入った住人が次々と出て行く。
その理由を聞くと、幽霊が出るという。
日が沈み、夕食頃の時間帯。カリカリ、カリカリと壁を引っ掻くような音がする。
森の入り口にある小屋なので、獣の類が寄ってきたのかとしばらくは無視していた。
しかし、毎日決まった時間に、カリカリ、カリカリと音がする。
やがて住人は、ドアの前で待ち伏せて、音が始まると同時に飛び出して辺りを伺うが、生き物の気配はない。
友人に頼んで、外から見張ってもらった事もあったが、音は鳴って犯人の姿は確認できなかった。
そんな日々が続いて我慢しきれなくなり、住人は出ていくことにしたという。
その後、神官を呼んで調べてもらったが、特に怪しいところはない。一応、お祓いをしてもらって、新たな住人を入れてみたが結果は変わらず。
そのまま放置される事となったのだ。
すでに神官に調査してもらって芳しくなかった事も手伝って、報酬は低くなってしまっていた。
「なる、ほど」
「依頼されてもう2年ほど経つけど、放置されっぱなしってワケ」
神官が見て幽霊ではないって事は、やはりアンデットではないのだろう。
「面白そうだ、行ってみるよ」
「ふぅん、その辺が冒険者なのかしらね」
少しおかしそうに笑みを浮かべながらも、小屋の場所を教えてくれた。
小屋は森と畑の境目付近に建っていた。森から切り出した木を使って建てられたのだろうが、かなり大雑把に作られている。不揃いな木が無理矢理重ねられていた。
入り口は一つ、部屋も一つ。窓は左の壁と右の壁に一つずつ、木戸はしまっている。
森が侵食してきているように、壁には蔦が絡まり、苔も生えていた。
「こりゃ確かに、幽霊問題が無くても客呼べないわ」
中もかなり埃が溜まっていて、歩くと足跡が残る。
簡素なベッドが一つ、テーブルが一つ。畑の見張り小屋だったのかもしれない。農具を引っ掛けるための金具なども見て取れた。
「竈なんかは外か」
木を輪切りにしただけの椅子から埃を払って座る。テーブルも一応、片付けるか。
裁縫ギルドで分けてもらった素材から、端切れを取り出すと水筒の水を付けて拭いていく。
すぐに真っ黒になってしまった。
「これ以上掃除すると、埃が舞って大変か」
俺が移動するだけでもそれなりに粒子が舞っている。掃除は諦めて口元を布で覆うと、幽霊の引っ掻き音が聞こえる時間まで刺繍をすることにした。
布に刺繍を入れると、裁縫ギルドで買い取ってもらえる。小遣い程度だが、スキルをあげながら稼げるので空き時間の暇つぶしにはもってこいだ。
そして、いよいよ日が傾き、問題の時間を迎えようとしていた。




