新たな冒険の舞台
社会人になって一時ゲームから離れていた主人公が、プレイ時間を気にせずに遊べるゲームを与えられて、ゲーマー心をくすぐられながら遊ぶ様子を書いていくつもりです。
「な、なんだ、この世界は!?」
俺が受けた衝撃は凄まじかった。VR映像をはじめて見た時もかなりの衝撃だったが、それを大きく上回る。
まさに新しい世界に踏み入れた。そんな感覚だった。
開発者いわく、人間の記憶にある情報を利用して、人の肌はこんな感じ、土の感触はこう、布の質感はこうだろう。
そうした補正を掛けているらしい。
モデル自体はポリゴンを利用した仮想のものらしいが、そこに貼られているテクスチャが、別次元のクオリティなんだそうだ。
ここが仮想の世界であることを示すためか、空の色は緑に染まっていた。
おぼろに浮かぶ月も2つあり、明らかに地球ではない。
ただそこにいる感覚は、まさに現実であった。
『Sleeping Online』
専用ハードで売り出された人が寝ている時間をゲームに使えるという、画期的なオンラインゲーム。
人の脳へと直接データを送り、夢を見る感覚でゲームをプレイするという、体感しないことには想像しづらいシステムだった。
しかも新規ハードということで、テストプレイの機会も限られ、実機を購入するにはかなりの勇気が必要だった。
購入価格は軽自動車が買えるくらい。1ヶ月の試用期間が設けられているとはいえ、一般のリーマンがひょいと手を出せるものではなかった。
しかし、実際にゲームを開始してみたら、自分の英断を手放しで褒めたい。
正にゲームの世界に飛び込んだ感覚だ。手足は思ったように動き、少し埃っぽい土の匂い、吹き抜ける風の感触。全てが現実としか思えなかった。
「すげぇ……」
地面に手を触れ、土の塊を手に取り、指で潰してみるが違和感がない。
「この世界で冒険……か」
社会人になって色々と疲弊がたまっていた俺は、久しぶりに感じるわくわくした気持ちを抑えられなかった。
「さてと……」
飛んだり跳ねたり、体の具合を確かめた俺は、自分の身を確認する。
装備はまさに布の服。七歩丈のシャツにズボン。簡素なサンダル。武器もなく、道具は腰に付けた皮袋のみ。
中を確認すると、情報端末が出てきた。
「こいつは?」
タッチパネル式のディスプレイ端末。サイドにあるスイッチを押すと、電源が入った。
画面には幾つかのアイコンが並んでいて、その中から人型のシルエットが描かれたモノをタッチしてみる。
『アトリー・コーシュ』のステータスと表示された画面が広がる。
アトリーは、俺のこの世界での名前だ。その他、能力値の数値や着ている装備などが並んでいる。
なるほど、この世界でのキャラ情報なんかは、この情報端末で確認するみたいだ。
所持金は150G、単位はゴールドらしい。その下にシルバーの項目もある。
他のアイコンはSと書かれたものとBBSと書かれたもの。あとはMと書かれたアイコンもある。
SはスキルでBBSは情報掲示板が開いた。共にまだ空欄になっているので、詳細は不明だ。
Mは地図だ。
アイコンを開くと縮尺の小さい地形が記された地図が表示される。
四角錐に丸い玉の乗ったマークが回っていた。多分、現在地だろうとタップすると、縮尺の大きくなった自分周辺の地図が表示される。
スライドさせると、一定範囲の地図が見られた。
「ゲーム内でもながらスマホにならないようにしないとな」
スマホに夢中で、モンスターに襲われるとか洒落にならない。
とりあえず、街道沿いに進むと街があるようなので、情報端末をしまって歩きだす。
俺が出現したのは街へと続く街道、左右にはなだらかな草原が広がり、少し先に木々が茂る森が広がっていた。
道の先を眺めると建物の影がちらほら。煉瓦造りの建物らしい。
街自体は木の柵に囲まれているようで、入り口には門番が立っていた。
「駆け出しの冒険志願者か」
不躾な言い方だが、門番としては相手の素性を確かめるのが仕事なのだろう。
「ポタミナを出せ」
「ポタミナ?」
「こういう物を持っているだろう?」
門番がスマホを取り出して見せてきた。この世界ではポタミナという名前らしい。
俺が腰の皮袋から端末を取り出すと、門の脇にあるクリスタルへとかざすように促される。
ピッという電子的な音と共に、門番が頷く。
「これで街の中に居ることが了承される。新しい街についたら、登録することだ。色々と便利な機能が使えるようになる」
初心者な俺に説明してくれる。
「まずは道なりに進んで、正面の建物を目指せ。職業訓練学校がある」
冒険者に必要な知識はそこで教えて貰えるようだ。
「盗みや暴力などの犯罪を犯せば、兵士に通報され捕縛される。軽々しい行動は慎むように」
最後に警告されて、街へと通された。
Onlineの誤植修正 20161118