セピア
とある青年の告白
僕は今日好きなことデートがある。
勇気に勇気を重ね誘えた大一番。
少女漫画のような『ごめん待った?』を聞くために待ち合わせの三十分前に駅に着き、彼女をお出迎えした。
彼女は待ち合わせの十分前にやって来た。
「ごめん、待った?」
「ううん、今来たよ。」
このやり取りが出来ただけで悦に入った。
「どうしたの?」
「何でもないよ。」
薄い水色のワンピースに肌色のバッグを持っていた彼女はいつもより儚げだった。
「楽しかったね。」
「うん。特にジェットコースターが良かった。」
日が暮れ、退園者が増え始める。
本当に楽しかった。
文句なしの一日。
でも僕は満たされなかった。
「あ」
「どうしたの?」
目の前に観覧車。
夕日に照らされたそれは物悲しく回る。
「あのさ、最後にあれ乗ってかない?」
「うん。私もそう思った。」
笑顔の彼女。
楽しそう。
彼女の目に映る僕は今どんな顔しているのだろう。
「では、行ってらっしゃいませ。」
お姉さんが扉を閉じ、個室になる。
「‥‥。」
「‥‥。」
気まずくて降りたい。
でも僕は少し勇気を出して切り出した。
「今日楽しかった。来てくれてありがとう。」
「私も楽しかったよ。ありがとね。」
彼女の言葉に心の重りが溶けたように安堵する。
窓外に広がる世界は本当に美しかった。
こころと目を奪われてもおかしくない程に綺麗だった。
でも僕の目の前にはそれ以上に美しい女の子が居た。
「どうしたの?」
「ううん‥‥綺麗だね。夕焼け。」
「うん。本当に綺麗。」
次の言葉が見つからない。まるで僕自身が喋る事を忘れてしまったようだった。
「ねぇ。」
「なに?」
「僕‥、君の事が好きだ。」
ふと口を突いて言葉が出た。
不思議と恥ずかしくなかった。
「‥‥。」
口を開かない彼女を僕は見た。
僅かに微笑んでいた。
「‥‥知ってたよ。」
「‥‥そっか。」
僕たちが乗ったくるまが頂上を過ぎる。
あとは下がるだけ。
「‥‥斉藤さん。」
「はい。」
「僕の彼女になってください。」
「どうしても?」
「うん。お願い。」
「お願いされちゃしょうがない。」
そう言って彼女は再び微笑んだ。
夕景でセピア色の彼女は今迄で一番綺麗だった。
読んでいただき本当にありがとうございます