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第5話 イリス登場!

 短いです。

「ほぅ、なかなか粋だな…」

 昨日まではなかった巨大な壁と門。それを見上げて最近お気に入りの異国の言葉で表現するのは、勇者イリス。準備を整えたイリスは何も迷わず、誰に相談することもなく魔王領ハイドへと単身やって来ていた。

「……確か、こう言うのだったか?」


「たのもーーーー!!」


 実際には聞こえるはずもないのだが、高揚しているイリスにとってそれは一種の儀式だった。

 思った以上に軽い手応えで開く門に拍子抜けしつつ、警戒することなく領内へ足を踏み入れる。その瞬間、過去に経験したことのある不快感に見舞われるがイリスの足取りが鈍ることはなかった。

「〈気配察知〉」

 いつ敵が襲ってくるかわからない場所で周囲への警戒は怠ってはいけない。いつの間にか身についていた感覚で発動すると、早速引っかかるものがあった。


「……六……いや、七人か」

 自分に向けられる敵意や殺意のようなものはない。むしろ、まだ気付いてすらいないようにイリスに注意を向けない反応が一か所に固まっていた。

 うち一つがやけに気配が弱いことに疑問はあったものの、取るべき行動は変わらない。


「「「!?」」」

 突如背後に現れたイリスに驚愕の表情を浮かべたのはイリスが発見した七人――それも子どもだった。

「……子ども?」

 それには敵を倒そうとしていたイリスも動きを止めてしまう。

「――ッ! 逃げろっ!!」

 一番大きな子どもの声で蜘蛛の子を散らすように散り散りに逃げ出す子どもたち。

「ま、待て!」

 声をかけ、近くにいた子どもに手を伸ばすイリスだったが、その手は虚しく空を切るだけだった。


「なんだ、あの女!」

「……わからない。だけど、持ってた装備は平民じゃない」

 散り散りに逃げながらも合流を果たした子どもたちの中で大きい男女が話し合う。その間、足を止めることなんてしない。

「……貴族かっ」

 女の子から言われた言葉にイリスが忌々しいとさえ思っている存在だと考え、苦々しげな表情を浮かべる。

「……わからない。貴族みたいな凄い装備だったけど、剣とかを持ってる理由にはならないと思う。…むしろ、そういう意味では騎士とかの方が近いんじゃない?」

「どっちにしろオレたちにとっていいことじゃないな」

「…そうだね。コルト、とりあえずここを出よう」

「もちろんだ!」


「……ふ~む、困った。まさか、逃げられるとは…」

 子どもたちを逃がしたイリスはその場に留まり、考えていた。

 ――あの子どもたちは魔王の眷属なのだろうか?

 だが、これについてはイリスは即座に違うと考えていた。魔王の眷属ならば侵入者に何もしないというのはおかしいし、子どもだけで行動させるとも思えない。

 何よりもフェルナンドが話していた情報と異なる。

 ただ、そうなるとまた別の理由で子どもたちを見逃すわけにはいかなくなる。勇者であるがゆえに。


 魔王領はその名称の通り魔王が住まう領地だ。

 普通は魔王とその眷属以外は住まない土地である。

 それは神と教会が決めたこと。そもそも神が指定して作り上げた土地なのだから勝手に入るのはどうかという意見、それに悪に染まった存在に会うのは信仰上見過ごせないという教会側の意見。これには魔王が領内から出ることが出来ないので魔王と関わりを持つことを忌避する意向も含まれていた。

 この世界を実質的に支配している二つの勢力の意見、それを合わせて魔王領への立ち入りは原則禁止とされている。

 入っていいのは教会関係者を除けば、イリスのような勇者――魔王を討伐せんとする者たちだけだった。

 それ以外の侵入は何人も許されない。国によって変わるが、教会と深い関係のある国によっては重い刑罰を科せられることもある。

 魔王領ハイドがあるノーキンダムは比較的軽い方だったが、それでも罪は罪だ。

 イリスは溢れ出んばかりの正義の心に従い、駆け出した。


「勇者流捕縛術――正義の楔!」

 一瞬、まさに瞬く間に子どもたちに追いついたイリスはあえて追い越して真正面から捕まえていく。勇者流捕縛術って一体何だったんだ?と問い掛けたくなるほどにシンプルで偽りようのない力技だった。

 子どもたちは為す術なく…というよりも何が起こったのかわからない間に捕まり、気を失っていた。

 そんな子どもたちを適当にそこら辺に生えている蔦で縛ったイリスは満足気な表情を浮かべつつ、ある重大な事実に気付いてハッとする。

「…し、しまった!」

 周囲を見渡し、内側に出っ張った門を見つけたことでイリスは自分がやってしまったことに気付く。

 門が出っ張っているということはここはまだ魔王領内。基本的に魔王領への侵入が罪であり、国によって対処が異なる。だが、それは魔王領に()()()()()場合に限られる。

 魔王――つまりは王に分類される者がいる土地は国だ。

 だから魔王領で犯した罪を裁く権利は魔王にある。

 教会関係者がいれば話は変わるが、この場合捕らえた子どもたちは魔王に引き渡さなければならなかった。

「ど、どうしよう…?」

 そんなもの無視して領内に連れ出してやればいいじゃないかと思うかもしれない。だが、イリスにそんなことは思いつかない。


 ――何故ならば、イリスはバカだった。


「……いや、待てよ?」

 バカなイリスが何かを思いつく。そして、途端に堪え切れないと笑みを浮かべ始めた。…傍から見れば子どもを捕らえた変質者に見えなくもないが、イリスは勇者なので無問題。問題はあるけど、気にしてはいけない。

「そうだ。そうだよ! 私はここに何をしに来たんだ!」

 自らの目的、課せられた使命…そこから見えた解決策に小躍りしそうなイリス。

「私は魔王を倒しに来たんだ!!」

 イリスはこう考えた。魔王を倒せばここは魔王不在の魔王領になる。魔王がいなければ子どもたちを裁く存在もいなくなる、と。

 そうなれば子どもたちを教会に連れて行けばいい。

「フェルナンド神父だったら、そこまで厳しくないし少々お叱りを受ける程度だろう」

 自分の策が最善だと信じて疑わないイリスは子どもたちを抱え、再び魔王城へと歩き出す。


 イリスのドロップは挫けぬ心――本人曰く、ライオン・ハート――というもの。

 その名の通り、イリスの心は何があろうとも折れない。イリスは何度でも再起する。まさに勇者に相応しいドロップだと言えよう。

 ただし、どんなドロップにも欠点があるようにライオン・ハートにも大き過ぎる欠点が存在した。

 心が折れないということはイリスが納得しない限り、考えを決して変えない頑固さがあるということだった。

 平民出身であまり教養が高くないイリスに理詰めで理解させるのは難しい。その結果、答えが変わるまで同じ失敗を繰り返すという愚行を取らせることになる。

 本来、答えとは不変のものだからこれはあり得ない。ほとんどが頑固なイリスに相手が折れるまでゴリ押しするという結果に終わる。

 ライオン・ハートというドロップ自体は素晴らしいドロップだ。他人の意見を真摯に受け止める心があれば最上といえるかもしれない。

 だが、イリスが使用することで間違ったまま突き進む。そんな盲進をするだけの残念なものに成り果てていた。

 短いですが、区切りとしてよさそうなので投稿しました。次回は魔王VS勇者になります。


 改めて読み返してみると……コルトって誰だ!?

 以前のアレックス。それが今ではコルト。何故こうなったのか、原因がさっぱりでした(笑)

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