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あんまりな転生魔王生活~ゴキブリから不死鳥へ華麗なる転身  作者: あなぐらグラム
最終章 ゴキブリから不死鳥へ華麗なる転身
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第8話 魔王の歩み(終)

 なる早と言っていたのに、遅れてすいません!

 お盆の間、一切休みが取れず執筆する時間がありませんでした。

 前回の後書きで書いていた通り、本編は一応完結です。

「――終わったな」

 クロガネは無数に倒れるヨーファンの分体を踏み分けながら、本体へと近付いていく。

 周囲は焼け野原と化しており、ところどころで未だ止むことのない火の手や煙が上がる。

「…………」

「お前の負けだ」

 仰向けに倒れたかつて一時的にとは言え、神も魔王も欺き世界を手に入れた男。その末路はあまりにも呆気ない幕切れとなった。


「――ゴフッ! わ、わだ……」

 ヨーファンは血が喉まで上がって来て咽ながらも、気力の衰えを知らない力強い視線をクロガネへ向けていた。

 クロガネも最大の敵からの怨念を受け止める。そうしなければ、いけないような気がしていた。

「わだ、じの敗因はいびんは――」

「――オレを過小評価したところだな」

 断言し、ありえたかもしれない可能性を口にする。

「……もしも」

 その出だしはクロガネにしては歯切れが悪く、囁くようだった。


「もしも、お前がオレを神の前に排除していたら……きっと負けていたのはオレだ」

 まるでヨーファンの姿を自分と重ね合わせているかのように沈痛な面持ちだった。それだけ、ヨーファンはクロガネ自身ですら認めるほどに酷似していたのだろう。

「ぞうだな……。だが、わだ、しは出来なかった…!」

 クロガネを殺す機会は存在していた。


 ムブラハバが神と戦闘を繰り広げている間。

 ダイアナを救出するためにやって来た時、あるいはブリキッドαを破壊した時。


 教皇が赴かなくても、あの当時は存在していた忠実な駒。ファントムという切り札を使えば、クロガネを倒すことは出来ただろう。

 それをしなかったのは、利用価値を認めていたこと以上に油断があった。

 たかが魔王就任して間際の小僧に、百年以上も戦い続け準備をしてきた自分が負けるはずがないという自信からくる慢心にも油断が。

 ――そして、最終的に勝敗を別ったのもその油断だった。


「お前自身は油断していなかったつもりだろうが…、お前は慢心した」

 倒れたクロガネに執拗に魔法を放ち続けたこと。

 それはクロガネが復活するかもしれないという危惧があったわけではない。ただ、完璧に圧倒的な勝利を――その歪んだ願いで行われていたことに過ぎない。

「あそこで魔法を乱発しなければ、まだ決着はついていなかった。…違うか?」


 無尽蔵に分体を作り出せるヨーファン、不死の魔王クロガネ。

 戦いは消耗戦にもつれ込んでいた。

 いくら致命傷を与えても復活を繰り返すクロガネに対し、ヨーファンは神器もなく生身。必然的に彼が頼れるのは魔法の力のみとなった。

 なまじ、魔法に秀でていたからかヨーファンは同じように魔法を得意とするクロガネに魔法対決を挑む形となったのだ。




 ――戦闘開始直後、ヨーファンの分体たちは一見すると優勢だった。

「「「…………」」」

 無言で意思もなく。ただそうあるように生み出され、本体の命令に従う人形たち。彼らはどれだけ傷つこうとも文句の一つも言わずにクロガネを襲い続ける。

 まさに数の暴力。

 その様はアリが大型の獣に襲いかかっているようにも見えた。

 実際、クロガネもその状況にひどく追い込まれていた。

(ったく、面倒臭え…!)

 そもそも外見年齢こそ違うものの、ほぼ同一の顔立ちをした人間に囲まれるなどという不思議体験をしていることも精神をすり減らしていくと言うのに、襲撃者たちに悪意――というよりもクロガネに対する感情はまったく見られない。

(せめて悪意や敵意があれば、倒すことに躊躇などしないってのに…!)

 元は地球の一般人であるクロガネにとって感情なく襲われるというのはどうにも納得できない展開だった。

 ただし、ここで殺意を滲ませられていればそれはそれで辟易としていたのは間違いないが…。


 そして、何よりもクロガネを追い込んだのは、自身の体質だった。

 数の暴力にさらされ、思うように攻撃が行えない状況。

 いくら魔王と言えども、無傷で乗り越えられるはずもない。

 結果としてクロガネは不死のドロップの影響で死なないだけで、実際には数十回を超える死を体験し、百にも及ぶ致命傷を負っていた。

 無限に襲いかかる人形と無限に再生する体。

 まさに無限ループのイタチごっこ。

 これによってクロガネの精神は極限まですり減らされていた。


(――しょうがない。使うか)

 だから、決心した。

(本当は戦い終わってから使いたかったんだがなぁ~)

 とある理由。主に魔力量的な問題で使うのを躊躇っていた魔法。

 去りゆく神と交わした契約に基づく魔法を発動させる。


「〈世界改変ワールド・チェンジ〉」


(……なんだ?)

 ヨーファンは肌に伝わる空気が変わったような感覚に見舞われた。

「っ! 何をしている! さっさとあいつをやれっ!!」

 唯一わかっているのは、目の前の魔王が何か仕掛けて来たということだけ。

 ヨーファンは人形にクロガネを殺すよう、再度命令を下す。

「〈灰色の復活祭シンデレラ・ストーリー

 それを迎え撃つべく、クロガネも新たな魔法を発動させた。

「――さあ、フィナーレといこうか!」


 再び灰燼と化したクロガネは人形たちの攻撃をすべて受けながら、ゆっくりとヨーファンへ近付いていく。

「――魔法を使えっ! 〈ウォータースラッシュ〉!」

 人形に指示を飛ばしつつ、自身も水の刃を放つことでクロガネから距離を取る。

「フハハハハッ! どうした? 逃げてばかりではオレに勝つことなど出来んぞっ!!」

(おかしい…)

 魔法を受けても笑い続けるクロガネにヨーファンはたしかな疑問を得ていた。

 〈灰色の復活祭〉は命を代価にしているだけあって、強力な魔法である。

 だが、いつまでも発動していられるわけではない。

 それこそ一歩、また一歩と歩くごとに並みの魔法使いならば魔力切れで動けなくなるほどの魔力を消費しているはず。

 だというのに、せっかくの魔法を攻撃には一切使わない。

 その魔王らしからぬ行動には必ず裏がある。歴戦の勇者として、それ以上に長く世界を支配していた者としての直感。もはや確信に近い想いがヨーファンの焦燥を駆り立てていく。

(――何かあるのは間違いない。ならば…)

 何かしようと言うのならば、その前に倒す。

 ヨーファンは決心を固め、さらに魔法を連発していく。

 それこそ、自身の魔力全てを注ぎ込むほどに。


(あと少し…おそらく、三分ってところだな)

 一方、ただ攻撃を受けているだけに見えるクロガネも迫り来るリミットを今か今かと待ちわびていた。

 〈灰色の復活祭〉の効果が切れるまで数分。

 それが切れれば……変わった世界を見せることが出来る。あたかも、魔法の解けたシンデレラのように。

(と言っても、残るのはガラスの靴じゃあないがな…! クククッ、さぁオレに新しい世界を早く見せろっ!!)

 内心でいかにも魔王らしい笑みを浮かべつつ、クロガネは時を待つ。


「――十二分。どうやら時間切れのようだ」

 ピタリと足を止めると、クロガネの体を灰燼へと変貌させていた魔法の効力が切れていくのが感じられた。

「ふふっ、私の勝利のようだなあ!!」

 ヨーファンは魔力切れ寸前のボロボロの体でありながらも、ようやく訪れた勝利に酔いしれたように声を張り上げた。

「さあ、人形たちよ! 今こそ魔法を討ち滅ぼせっ!!」

 最後の命令が下り、人形たちは一斉に動き――だせなかった。

「……なっ、なんだ!? どうしたというのだっ!!」

 ヨーファンは自ら神を切り捨てたくせに、神から与えられた力が失われたかのような錯覚に恐怖を覚えた。動かない人形に代わって、魔王が笑いを堪えるように肩を震わせていたからだ。

「ぷっ、アーハッハッハッ!! たしかに、終わりだよ!」

 クロガネは間抜け面を晒しているヨーファンに敗北を宣言する。


「――ただし、お前のな!」


 それを証明するかのように、人形たちはまるで糸が切れたようにドタバタと重なって地面に倒れていく。

「グッ――!」

 いや、人形たちではない。

 ヨーファン自身も内側からせり上がるような感覚に、口元を抑える。

「…な、なんだ? これはっ!?」

 抑えた手には真っ黒な血がべっとりと付着していた。

(いつだ? 一体、いつダメージを…!?)

 終始人形に攻撃を任せ、一切クロガネに近づくことはしなかった。だというのに、何故自分は今こうして血を流しているのか?

 ヨーファンには皆目見当がつかず、理由を尋ねようとしたところで体を支えていた力が失われていき、仰向けに倒れた。




「〈灰色の復活祭〉は、お前が知っている通り命をかける魔法だ」

 ヨーファンを見下ろしながら、クロガネはトドメを刺す前にと語りかける。

「だが、オレが使った〈世界改変〉は魔法の概念を変えた」

 神からダイアナのための魔法を作れと言われ、クロガネは魔法の研究を進めてきた。

 実際には、DNA鑑定ならば城の設備やマッドレスに頼ればなんとかなるぐらいだったが、それを魔法で体現すること。それがクロガネにとっては重要だと思われたのだ。

 それをする上で、辿り着いたのが〈世界改変〉。文字通り、世界の根底から変える魔法だった。


「〈世界改変〉は膨大な魔力を使用し、限定範囲で魔法の効果を変化させるもの」

 ただし、すべてを変化させるわけではない。

 ヨーファンが使った〈ウォータースラッシュ〉のようにほとんど変わらない魔法だってある。もしも、ヨーファンが別の魔法を使っていれば少しは結果が変わっただろうことを考えるに、運が良かった。

 クロガネは内心でそう感じていた。

「〈世界改変〉の効果を受け、〈灰色の復活祭〉は周囲に溶け込む猛毒となった」


「……ど、ぐ?」

 尋ねるヨーファンの声はもはや掠れて聞き取れない。

 クロガネは肯定すると、彼を蝕む症状を告げる。

「――〈灰色の復活祭〉でオレ自身は灰状になる。灰は宙を舞い、お前の体内に入ったのさ」

「ハ、ハハッ……、そ、ういうごと…か」

 観念したような乾いた笑みを浮かべた。

 どこか悔しそうなそれでいて楽しそうな複雑な笑みを。

「づまり、ばたじは……、魔王を取り込んだ……っと」


「――神を下したつもりのお前でも、魔王を取り込むのは無理だった。そういうことだろう。…だから言ったろ? お前は、オレを――魔王という存在を舐めすぎたんだよ」


 もはや動かぬ骸と化した男。

 かつては世界の実験を握った男の最期は、彼が最後まで利用したと思っていた魔王によって幕引きとなった。

 こうして神に最も近い男、教皇ヨーファンの野望は魔王の手によって撃ち滅ぼされた。

 世間では魔王の勝利よりも教皇の敗北の報せが大きな波紋を呼び、それまで反魔王連盟として立ち上がっていた諸国も一斉に教会への援助を打ち切り、教会は衰退の兆しを見せることとなる。

 ファウストとヨーファン。二人の大きすぎる先導者に頼っていた代価を彼らは払い続けることになるのだが、頼みの綱の神がこの世界に再び姿を現す日は誰も知らなかった。









 ――魔王クロガネが最後の教皇ヨーファンを倒してから数百年後。


 世界からは神の恩恵、ドロップがすっかり鳴りを潜め魔法こそが力ある者の象徴となった。

 人々はかつての活気を取り戻しつつも、恐怖を覚えていた。

 何故ならば、神もおらず神の力もなくなった世界。その世界にはまだ一体の魔王がいたからだ。

 その魔王の名はクロガネ。『不死王クロガネ』と呼ばれる最後の魔王。

 かつて神をウィンドゥズから退かせた魔王連盟の一員であり、魔王討伐を組織していた偉大なる勇者を葬った最強の存在。

 殺すこともできず、寿命も存在しない圧倒的な存在。

 それが我が物顔で世界に居座っている。

 民衆は怯え、かの魔王に近付く者は時代を経るごとに減っていった。


 今を生きる彼らは知らない。

 クロガネがいるのは神が与えた土地であるということを。

 かの魔王は神がなくなり、自由を得た後も律儀に神が定めた領地をほとんど出ることもなく何かを待っているということを。




「貴様が、大魔王クロガネか?」

 そして、数百年が経過した今日。かつての同士と同じように大魔王と呼ばれた存在は応える「否」と。

「オレはただの魔王だよ。魔王クロガネ。それだけだ。……ところでお前は何者だ?」

 待ちに待った存在が目の前にいるという興奮を抑えきれず、伏し目がちに尋ねる。

 その目の前にいるのは少女だ。

「わが名はイリス! 偉大なる勇者――双剣のイリスの名を継ぐものだっ!!」

 かつて戦い、そして共に世界を救った勇者と同じ名を持つ少女。

 その背中には双剣の二つ名に相応しく二振りの剣――神器を携えていた。

「――そうか。待っていたぞ。勇者よ」

(……ああ、長かった)

 待ちわびた時が来たことをクロガネは歓喜する。


「さあ、世界をかけてこの不死の魔王を見事倒して見せよ!!」

 クロガネは物語の悪役に相応しく、勇者を迎え討つ。それはかつて繰り広げられた光景に似ていた。




 イリスとクロガネはヨーファンを倒した後、ある約定を交わして別れた。

『……本当に行くのか?』

『ああ。教皇がいなくなったことで世界は混乱するだろう。私は勇者としてそれを正さねばならん』

 それが真実を知る者の責務だとイリスは語る。

 クロガネは耳が痛いと思いつつ、彼女の背後に目をやる。

『…で? そいつは本当に大丈夫なんだろうな?』


『無論だ』

 答えたのはイリスではなかった。

 彼女の背後に立ち、圧倒的な力を誇示する男。かつて教皇の幻影と称された悪夢――ナイトメアは絶対の自信を漲らせていた。

 魔王に決して弱味を見せない。

 正義に囚われていた頃からは想像できない確固たる意志はクロガネとしては居心地の悪さを感じるものだった。


『まぁ、もしも暴走するようならば私が止めるさ!』

 自身な下げなだが、断言するイリスにクロガネはこれ以上は……と最後に手を差し出した。

『……?』

『おそらく、今生の別れになるだろうが、達者で暮らせ』

 なんだかんだと二年以上の一緒にいた存在との別れ、複雑だが最後くらいは綺麗に終わらせたい。魔王らしくはないが、自分を貫く。

 それがかつて日本人として生きてきたクロガネの矜持だった。


『フッ――』

 イリスは笑うと、彼の手のしっかり握りしめ、その腕を一気に引き寄せ魔王の耳元に口を近付けた。

『待っていろ。私が出来なくても、私の意思を継いだ誰かがきっとお前を倒しに行く』

『!!』

 それは勇者としての宣戦布告かに思われた。

『――きっと、お前を永劫の苦しみから救ってやる』

 だが、続く言葉でどこまでも勇者な少女の想いを確かに受け取った。


 イリスはドロップの影響で不死となった魔王、永遠を生きる定めを受けた彼を解放すると自分に誓いを立てたのだった。

 そして、その誓いを託すために彼女の意志と力、名前。さらには血すらも引く少女は魔王に挑む。


 世界で最も楽しく壮絶な戦いは始まったばかりだった。

 実は今回の作品には密かに50話以内に終了させるという目標を立てていました。それが達成できて満足してます。欲を言えばもう少し世界観を作り込んだ濃厚な作品を書いてみたかったですが…。それは次回以降の課題ということで。


 それでは読者の皆様に伝えきれないほどの感謝を抱きつつ、終了とさせていただきます。

 またいつかお会いしましょう。


2016年8月16日 あなぐらグラム

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