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あんまりな転生魔王生活~ゴキブリから不死鳥へ華麗なる転身  作者: あなぐらグラム
最終章 ゴキブリから不死鳥へ華麗なる転身
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第5話 勇者の正義、正義の幻影

 最後までストーリーが思い浮かんだのでなる早で投稿していきます。

「テ…リア、さん……」

 アナは呆然とテリアに近付いていく。

 周囲の兵士たちなどもはや、眼に入らぬとばかりに。

「テリアさん、テリアさん…」

 うわごとのように呟きながら、一歩また一歩と。

 しかし、テリアからの反応はない。

 アナの胸中を絶望が埋め尽くしていく。

「テリアさぁああああん!!」


「――はい? 何ですか?」


「…………はっ?」

 絶叫のあとでもハッキリと聞こえる声が響き、アナは俯いていた表情を呆然と上げる。

 すると、そこでは自身に謎の液体を浴びせかけた男の手足をもぎ、首をねじ切っているテリアの姿があった。

「……えっと、何をしてるんですか?」

「ああ、これですか? 私に対して粗相をした駄犬にお仕置きをしているところです」

 アナが聞きたかった答えとは違うまったく見当違いな返答に、どうしたものかと狼狽えてしまう。

「……まったく。あのようなドロドロした液体を女性に投げかけるなど…。しかもこれ、どういう液体かわかりませんが、かなり落ちにくそうじゃありませんか……。一応、一張羅なんですけどね」

 本当に困った。

 テリアは表情で訴えかけると、もはや動くことなど出来ない頭も手足も失った男の体を外見に似つかわしくない膂力をもって、蹴り上げた。

「「「……ッ!?」」」

 意識のない男たちは元仲間の体をぶつけられ、転がっていく。その中、感情がほとんど篭もっていない声で「ストライーク!」と控えめなガッツポーズをしているテリアの姿があった。


 さて、そんなテリアの様子にアナ以上に驚いていた存在がいる。

「…嘘。ありえないわっ!」

 その女性。魔王妖艶仙女は自らの力が効かなかったメイドに恐れを抱き、またプライドを傷つけられたことに対して屈辱を感じていた。

 だが、感じていられたのは僅かな時間だった。

「――何を呆けてるの?」

「ッ!?」

 その言葉と共に、腹部に痛みが走り妖艶仙女の意識は強制的に戻されていた。


「…きざまっ!?」

「あれっ? 何か驚いてるね? どうかしたのかな?」

 他人の腹部に深々と刃を突き立てながらも、なんでもないかのように振る舞う女。

 先程、取り乱していた者ととても同一人物に思えない女の瞳は爛々と輝いていた。

「まさか、あたしぃの最高傑作が、あの程度でやられると思ってました~?」

「最、高…けっさ、く……?」

 痛みで頭が回らないのか、虚ろな表情で尋ねる妖艶仙女に、マッドレスは笑みを深くした。

「そうだよ? 言ってませんでしたかぁ?」

 かつての協力者に対して、マッドレスは何でもないように事実だけを伝えていく。

 魔王が絶望する事実を。


「――テリアは神器を材料として組み込み、作り上げた魔導人形。魔王だったら、神器の特性はあたしぃよりも知ってますよね?」

 神器は様々な力を持っており、その力の種類も多様性を極める。

 ただ、一つだけ共通するものがある。

 それはドロップの無効化。

 対魔王用に神から与えられる人類の最終兵器。

 神の力の一端であるその力を、魔王本来の力よりも弱体化したもので破れる道理は存在しない。

「そ、んな…」

 妖艶仙女はどこかでマッドレスを見下していた。

 それは圧倒的に利用する立場であったことからくるものであったが、その傲慢さは油断に繋がった。

 まさか、このイカれた女の作品ちから魔王じぶんの力を打ち破るなどと思いもしなかった。


「あたしぃは発明と改造のドロップを持つ女。他人はあたしぃをマッドサイエンティストと呼びます~」

 マッドレスの右目が内側から光りはじめる。

「それは~、神の力さえも解明していくあたしぃを恐れたものですぅ~」

 正確にはそのためにどんな犠牲も厭わず、自分の目的のためならば神にも魔王にも付く姿勢を恐れられているのだが、本人は気付いていない。

「それでは、偽りの魔王さんさようなら~」

「待っ――!!」

 魔王の制止は最後まで発せられることはなかった。

 その前に、マッドレスの右目から放たれたレーザーが彼女の頭を吹き飛ばしたから。


「……兵士たちが」

 まるで糸が切れた人形のようにバタバタと倒れていく兵士たち。

 魅了という恐ろしい力の持ち主が消え、その支配下から抜け出せたのだ。

「さあ、帰りましょ~」

 息子の仇を取れた科学者は倒れた人間に興味はなく、彼らが魔王に操られていた後遺症なども眼中にない。役目を果たしたとばかりに去っていくその背中を娘と呼ばれる魔導人形メイドと魔王の眷属が呆れたように追いかけて行った。




「ここは…、どこだ?」

 イリスは暗闇の中を彷徨い歩いていた。

 直前までの記憶も思い出せず、何故ここにいるのか、自分が誰なのかすらも思い出せない。

 なのに、進むべき道だけは見えているかのように、目の前に微かな光が見える気がする。


「これは……」

 歩いていると一振りの剣を見つけた。

 なんとなく、それを手にするのが正しい気がしたので拾い上げる。

「ぁあっ!?」

 触れた瞬間なのか、体中をぽかぽかとする陽気が満たしていく。

 前に進むための勇気を迷わぬ指針を授かり、さらに闇を掻き分けていく。

 その歩みは先程までとは比べ物にならないほどに、しっかりと力強い。


「…………」

 もう一振りの剣を見つけた。

 今度は何も考えない。

 当然のように拾い、そして一閃する。

「…………よもや、自力で辿り着くとは」

 切り裂かれた空間の先には一人の男、ファントムが待っていた。


「やあ、ファントム」

 イリスはここが暗闇ではないことを既に知っている。

 だから、驚かない。

 イリスはここが自分にとって脅威でないと知っている。

 だから、恐れを抱かない。

 イリスは目の前の男が勇者だと知っている。

 だから、前に進む。

 イリスは自分が勇者だと知っている。

 だから、迷わない。


「ここはお前の力の中か?」

「……いいや。違うとも」

 ファントムは平然と話しかけてきたイリスに苦々しい感情を抱きつつ、否定する。

 そして真実を伝える。

「ここは忘却の空間。先代教皇ファウストが持つドロップの影響下にある世界だ」


「……先代教皇か」

 自分は知らない存在だが、数々の伝説を残している人物。

 その名が出たことに多少の驚きはあるが、イリスは迷わない。それこそがライオン・ハートの由来。

「オレが持つ、この石板は他人のドロップを奪い、使役することが出来る」

(つまり、本来の持ち主が生前に先代教皇からドロップを奪っていたということか)

「この力は役に立った。……世界の命運を握る少女に魔王に対する憎しみを抱かせることにも、自分を人形と知らない存在を操ることにも」

「……なるほど。そういうことか」

 イリスは先に挙げられた例を的確に理解した。

 そして、目の前の人物をはじめとして教皇たちがどれだけ非道なことを行ってきたのかも。


「勇者の風上にも置けない輩だ」


「それはお前の正義だろう?」

 唾棄するイリスに、勇者の幻影は己の正義を口にする。

「我々を求めているのは世界の正義で、我々を突き動かすのも世界の正義だ」

 小さいことで憤るな。

 イリスよりも遥かに長い間、勇者として勇者の影として正義を執行してきた男は諭すように語る。

「世界のために正しいと思うことが正義でないと思うか? だとすれば、お前は勇者である資格はない。世界の平和のために動けぬ存在など……不要だ」


 一方的に畳み掛ける。

 普通だったら、迷いが生じるかもしれないが、目の前の少女には通用しない。

 何故ならば、彼女は己の正義にのみ、従っているからだ。

 誰も彼女の正義を曲げることは出来ない。


「――人形が良く言う。お前の正義とは、お前を動かす存在にとっての正義だ」

 人形遊びをする子どもは人形を動かすことに罪悪感を覚えることはない。

 それは人形に意思がないからだ。

「お前は、自分という物を持っていながら、勇者という幻影に縛られている!」


「そんなお前を救おうとして、一人の男がずっと努力を続けてきた!」

 左手にある剣の重さが、イリスの脳裏に一人のの聖職者を思い浮かばせた。

「長年、お前を止めようとしお前に自由を与えようとしていたその人物を他ならぬお前が殺したっ!」

 最期に託された思いが声を大きくさせる。

「お前に正義を語る資格があると思うのかっ!!」


「ならば、試してみるがいい…」

 ファントムは構えを見せる。

「己の正義とオレの正義。どちらが強く、どちらが正しいのか! それは勝敗のみが知ることと知れっ!!」

 幻影は己の正義を疑わない。

 それが例え作り物であり、意味も意思もましてや実体もないものだとしても。疑うということを知らない勇者の影は、光を放つ勇者に戦いを挑んだ。


「――勝負だっ!!」


 気分転換に始めた新連載『金命の豚』もどうぞよろしくお願いします。


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