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第4話 ゴキブリ魔王の領内探索

 約一週間ぶりの投稿です。大体このぐらいのペースで進めていくのでご了承ください。まだまだ牛歩ペースで進んでおります(汗)

「予想していたとは言え、なんっもないな…」

 元日本人として満足のいく水回りを整えたクローヴィスは一旦領地を確認するために外に出ていた。

「ったく鬱陶しい!」

 鬱蒼と生い茂り、伸び放題となった木々に油断すると襲いかかってくる猛獣の類。前世の知識に登場する毒沼の中や溶岩地帯の中にあるわけではなく、ごく普通の荒れた土地――それが歩いて回った感想だった。

 魔王だって元がただの人間なのだから当然と言えば当然なのだが、どこか拍子抜けした気持ちになってしまう。今も森の中を歩いていて襲いかかってきた巨大なヘビを魔法で撃退したところだった。

 魔王領は魔王がいなくなると住人たちは追い出されていく。その際、生活に必要な家具や住居も撤去され、家畜も連れて行かれる。だから魔王領には基本的に家畜に向かない生物しか存在しない。たまに撤去の際に逃げ出したりした動物が混じっていることもあるが、そういうのは大抵が別の動物に食べられるのがオチだ。

「……歩いてたら日が暮れちまう」

 行く先々で侵入を阻まれ、苛立ちが募ったクローヴィスは飛行魔法〈フライ〉を発動して、空高く飛び上がる。

 魔王領全域が見渡せるぐらい高く、それだけを考えて上昇するクローヴィスの行く手はまたもや阻まれることになる。

 突如として何かに弾かれるような感覚を受け、真っ逆さまに落ちていく。何とか体勢を立て直して空を見上げるが、そこには薄暗い空が広がっているだけだった。

 訳が分からない。

 見渡す限り障害物など見当たらないことを確認すると手を伸ばし、その先からは〈ファイアボール〉が飛び出していった。飛び出した〈ファイアボール〉は十メートルほど進むと先程クローヴィスが何かに衝突した付近でバチッ!と砕け散り、火の粉が舞った。

「……何だこりゃ?」

 今度は慎重に上昇し、火の玉が掻き消された辺りで手を伸ばすと見えない壁のようなものが存在していた。ペタペタと触っていくが、どこにも抜け出せそうな場所ない。そこから領内を見渡しすと、どうやら現在の位置は魔王城から数十メートルほど上昇した場所だということがわかった。

 これは何なのか?考えるが、理解できない。

 理解できるのは見えない壁が存在しているということだけ。

「……! まさか…」

 しばらく思案していたクローヴィスだったが、突如何かに気付いたように一気に下に降りる。

 向かったのは魔王領に入ってきた地点。そこまで行き、手を伸ばしたクローヴィスは自分の予感が的中していたことを察する。

 つい先ほどは何もなかった空間には空と同じように見えない壁が存在していた。


「……はぁ、まいった」

 クローヴィスは壁にもたれかかるようにして項垂れていた。手には仕様書が握られている。

「まさか、魔王はここから出られないなんて……。やってくれる」

 仕様書には魔王は領内から出られない旨が記載されていた。しかも、仕様書を受け取ったら出られなくなると書かれており、姑息な神に出し抜かれた感満載だった。

 眷属は外に出ることが出来るそうだが、あいにくとクローヴィスには眷属はいない。もはや、ここで自給自足の生活を送るしかない状況だった。

 一応確認すればしばらく食べる分ぐらいの食糧は特典として貰えるらしく、食料庫などを作ったらそこに置かれるようになっているらしい。あとはクローヴィスにとって、今となっては何の価値もない金も置かれるらしい。

 どれだけ娯楽に力を入れているのか、神の暇つぶしにほとほと呆れるクローヴィスだった。


「――始めるか」

 数十分立ち直れなかったが、過ぎてしまったことは仕方がないと腹を括り再起する。

 まずやるべきこととしてクローヴィスの取った行動は防御を固めることだった。

 気合を入れると、辺りの地面が変化して盛り上がっていく。

 初めは小石が散らばっていく程度の可愛らしい変化だったが、徐々に変化は大きくなっていきついにはまるで津波の如く地面がせり上がっていた。

 せり上がった土をクローヴィスは見えない壁に押し付けていく。

 先程のことで攻撃などが通過しないことを知っていたクローヴィスは土を見えない壁に貼り付けることで防壁を気付こうとしていた。

 見る見るうちに見えない壁ではなく、土壁に覆い尽くされた魔王領。空が見えないのは困るからと天井のない壁だが、それでも高さは十メートルを優に超えている。そんな壁がぐるっと囲んでいるのだから圧巻である。

 だが、これだけではただ土を盛っただけ。

 こんな壁ではすぐに壊されてしまうと今度は別の魔法を使っていく。

 先程のはただ魔力を込めて土を移動させただけの魔法、いや正確には魔法ではないと言えるかもしれないが、今度は違う。

 土壁に手を付いたクローヴィスは〈コーティング〉という魔法を唱えた。

 〈コーティング〉とは、物質の材質を変化させる魔法であり、系統としては金属魔法と呼ばれる魔法である。ウィンドゥズでは地水火風の四大元素魔法と呼ばれる魔法の他にも光や闇などを含めて十種類の系統が存在する。魔法を使える人間はこの系統の中から得意なものや使用可能な系統を駆使している。

 ただ、神が言っていたように前世の頃から才能があったのかどうかはわからないがクローヴィスはこの世界では間違いなく魔法使いの中では天才の類だった。

 通常、二~三の系統を使えるだけの魔法使いだが、クローヴィスが使えるのはすべての系統の魔法を使えた。これは歴史上ではなく、空想の物語に登場する英雄レベルであり、これまでに片手で足りるほどしか存在が確認されていない超レアな魔法使いだった。

 もしも、ドロップがまともだったならば今とは真逆の立場――勇者や英雄としてクローヴィスは名を馳せただろう。

 何よりもクローヴィスの注目すべき点はその身に宿した膨大な魔力量だった。

 普通あれだけの魔法を行使すればひと月は魔法を使えないほどに魔力を消耗する。それも一ダース以上の優秀な魔法使いが集まったとしても、だ。

 だというのにクローヴィスには若干の疲労が見えるものの、特に堪えた様子は見て取れなかった。

 こうして出来上がった質量に対して製作時間はあまりにも短い壁が完成した……かに思えた。だが、クローヴィスはある出来事に気付いていた。

 壁の一部について壁が形成されていなかったのだ。

 魔力量の問題かと思ったが、自分の魔力量についてはある程度の自信を持っているのでそれはありえないと否定する。であるならばこれもまた神の仕業だと考えるべきだろう。

 事実、これは神の仕業だった。魔王領をすべて壁で覆ってしまえば入ることが出来ない。壁を壊せば入ることは出来るだろうが、それも膨大な時間や労力を消費しなければならないだろう。それでは神の楽しみが減ってしまう。そのため、魔王領についてはある特定の地域についていじれないように細工が施されていた。

 つくづく自分の楽しみを優先する神である。

 そんなことは知らないクローヴィスだったが、神の仕業ならばどうにかしようとするのも面倒くさいと考え壁で覆われていない部分には手前側に関所のような物を建てることにした。歓迎するつもりはないが、かと言って無造作に開け放っていてずかずかと侵入者を許すつもりもなかった。

 それでも一人の力で十分に開く程度の簡単な門を作ったことで満足し、とりあえずその場を離れることにした。

 覆われていない場所はまだ複数存在する。そこにも同じような物を作らなければ落ち着いて生活も出来ない――クローヴィスの心中を占めていたのはそれだけだった。


「……ここで最後か」

 いくつかの簡易関所を作り終えたクローヴィスは最後の穴を埋めるべくやって来ていた。

 目の前に広がるのは川だ。向こう岸がなんとか見えることから境界線に沿うように流れていると思われる川で、今までで一番範囲が広い。

 日本のように舗装された水路などはないのだから自然に形成された状態そのままで流れている。

 ただ、クローヴィスにとっては迷惑この上ない。

「押し出そうにも……出来ないか」

 何とか領外に川の水を出そうとするが、魔法は途中で見えない壁に弾かれてしまう。自分で掬って向こう側にやれば攻撃などと見なされずにいくかもしれないが、川は繋がっているのだ少量の水ではすぐに差は埋まるに決まっていた。

 ならば何か仕切りのような物を川底に作ればいいのでは?と思うが、そもそもそれを作れないからこんな穴が出来てしまっているわけで…。ハッキリ言ってお手上げだった。

「……相手側からは出入りできるが、こちら側からは手出しが出来ないなんてまるで絶海の孤島にいるみたいだ」

 周辺を険しい山に囲われているわけでも、海などがあるわけでもないのに孤立したような感覚。この感覚にクローヴィスは覚えがあった。まさに前世の最期がこのような状況だったのだ。

 鉄次郎としては悪いことをした記憶などない。事実、悪事を働いていたのは当時の上司だったし、その罪を擦り付けられたに過ぎない。だが、それを信じてくれる人間はおらず、差し伸べられる手もなかった。犯罪者に手を貸す人間はそういない。

 最終的な死因は凍死であろうとも、自分は社会に殺された……クローヴィスへと転生し、魔王になってしまった今となってはそんな考えが過る。

 かと言って誰かれ構わず当り散らしたいわけでもなく、望むのはただただ平穏な日々。

 だからこそ引きこもりのように閉じこもってやろうと考えたのに、それすらも許してはくれない。まさに理不尽ここに極まれり。

 ひとまずここに至っては放置する以外の方法はなかった。

「……クソッ!」

 まるで戦わずして敗れたような気分で引き下がると同時にもしもここから侵入してくる相手がいたら容赦しないと心に誓うクローヴィスだった。

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