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第6話 老いも若いも皆同じ

ブリキッドとイリスが潜入してから少しして、教皇の下に来客があった。

「あら、意外と遅かったわね」

 それに対し、同席していた美女は微笑を深め教皇は出迎えるためにゆっくりと席を立つ。

「いってらっしゃい」

「…行ってくるよ。もう一人の自分に会いにね」




「――教皇猊下!」

 教皇が現れたことに来訪者フェルナンドは殺気立つ。

「ダイアナはどこですか!」

 怒鳴りたくなるのを必死に抑えるが、怒気は隠せない。

 この怒りはダイアナを、一番大切な人を拐されたこととそれに気付けなかった事への怒り。

 作戦立案時からフェルナンドは何度この身を焼き尽くすような怒りに飲まれそうになっただろうか。思い出すだけで目の前が赤く染まり、目の前にいる元凶へと襲いかかりそうになる。

「……はて? 言っている意味がわかりませんね。フェルナンド司教?」

 対してさすがは教会の中で幾年もの年月を過ごしてきた猛者。

 フェルナンドが害意を抱いていることぐらいとっくに気付いているはずなのに、平時の時のように何事もなく話を進める。放っておけばそのまま椅子やテーブル、それにお茶菓子を用意して世間話でも始めだしそうだった。


「ふっざけるなよ…!!」

 怒りが溢れ、駆け出そうとしたフェルナンドの足を止めたのは教皇が投げかけた言葉。

「だってそうじゃないですか? ――あなたは度々シスターダイアナに会っていたのですから」

 それは体だけでなく、心も思考もすべてを停止させた。

「…なん、だと……?」

 何を言っている?

 理解できない投げかけに、フェルナンドは危機を感じた。

(聞くな! 聞いてはいけない!)

 聞けばすべてが――自分というものが崩壊してしまう。そんな危機感を抱いても止められることは何一つない。もはやフェルナンドは自分の意思では瞬きすることさえできない状態に陥っていたのだ。


「君に一つだけ真実を教えてあげよう」

 動けなくなったフェルナンドに近付き、少し高い位置にある頭を引き寄せて抱きかかえると耳元にそう囁いた。

 教えるのは餞別。

 どうにも出来ない真実に向き合う絶望を感じるためだけの言葉。――何よりも残酷な真実モノ


「――私と君は元は一人の人間だった」

「…………」

 その言葉にフェルナンドはもう何の反応も示さない。ただ、受け入れていく。

「君は自分のドロップを勘違いしているだろう?」

 フェルナンドはダイアナを含めた周囲の人間に対し、自分のドロップを魅了系の力だと説明している。ダイアナに対してだけは極端な好意による盲目的な傾倒や催眠に近いとより本質に近い内容にしているが、それでも伝えているのはそれだけだ。

 この力で教会の情報を集め、若くして司教に成りあがったのだから、自身も疑っていない力だろう。

 だが、教皇はそれは違うと告げる。

「そもそも、君はドロップを使えない。ただ、そうなると後々に面倒になるから外付けの力を与えたに過ぎない」

 以前、投げ捨てた瓶を取り出し、フェルナンドの眼前に掲げる。

 虚ろな瞳にピンク色の怪しげな液体が映し出されていた。

「これはある女のドロップを弱体化し、持ち運べるようにした物だ。君も同じ物を持っているはずだ」

「………ぁぁ」

 呻くように彼はポケットから同じような瓶を取り出した。いつからか自然と身に付けるようになっていたそれを出す手は、最後の抵抗だと言わんばかりに震えていた。


「私のドロップは分身を作り出す力だ」

 この力を使い、若い頃から地位を高めると共に勇者としても活動してきた。初めは全く同じ分身を作り出せるだけの力だったが、次第にその数が増えてきてさらには分身の姿を変えることもできるようになっていた。若い頃の自分や老いた時の自分、鍛え上げた自分に今にも死にそうな自分。ありとあらゆる自分を作り出し、世界中に解き放っていた。すべてはある目的を果たすため。

「…しかし、ある時とても不便なことに気付いた」

 分身はすべての情報を本体に送る。

「生きた人間として行動するのだから、贈られる情報は必要のないものが大半を占めてくる。そこでお前のような存在を作り出した」

 分身というよりも分体。

 別個の意思を持つ存在を。


「どうだ? 自身の存在がどのようなモノかを知って、素晴らしいと思わないか? 意思を持つ存在を生み出すなど、まさに神に等しき所業じゃないか!」


「さらに、素晴らしいことにいる記憶を引きだしたあとはお前らは都合の良い記憶を植え付けることも出来る! まさに操り人形よ!!」

 フェルナンドがダイアナのことを忘れてしまっていたのはこのためだった。

 あの時、何をしに来たか。

 さらにはダイアナに関する情報のすべてを差し出し、ダイアナに関しては記憶できないようにされていたのだ。

「この力を手に入れてから、私はより一層精力的に動き始めた。自身に眠る神に迫る才能を実感してだ!!」

 別々の意思を持つ個体は必要な情報を抜き取ったりすることが出来た。

 まさに動く端末のように情報を集め、不必要な物は消していく。

「根幹には私の意思が存在する以上、不必要な情報が入ってくることはなくなった。そうなってくると本体の方が窮屈だと感じるほどだったぞ!」

 ――興奮したように語る姿はまさに狂人だった。


「ちなみに、そういう個体をどのように世界中に広めて来たと思う? 答えは簡単だ赤ん坊の状態で私の下僕に配ればいいのだから!」

 フェルナンドの父親もその一人。

 彼は以前、横領の罪で窮地に立たされたところを教皇によって救われている。そこからは言いなりの人生だった。

「……ああ、そうそう」

 そこで何かを思い出したように告げる。

「お前が発見したダイアナ。あれが、私が長年探してきた者だということは知っているだろうが…」

 ここで使うのは『私』。かつては前教皇ファウストと共に練り上げ、今も協力者がいるにも関わらずこの計画に関してもはや己以外については認めていないことを感じさせる。

 本来ならば、ここは『我々』と言うのが正しいはずなのに…。

「そのことを私に教えたのはお前の父親だよ」

「ッ!?」

 微かに残された意識が、身内の裏切りに反応した。

 信じていた者すべてが敵だと言われても、信じられなかった。それが揺らいだのだ。


「――そして、そいつももう死んでいる」




『あの御方が例の娘を追って教会に入信されました』

 ダイアナを襲わせ、魔王を倒してから秘密を知る男をどう処理しようかと考えていたところに、本人から届けられた朗報。

 肩を震わせ、歓喜に打ち震えながらもそれを悟らせないようにフェルナンドの父へと指示を出す。

『――そうですか。では、あなたにはまた別の任務を与えましょう。なあに、次は簡単なことですよ』

 喉から手が出るような儲け話を伝えてやれば、あの男はすぐに飛びついてきた。

 だから、移動中を襲わせ処理した。当然、フェルナンドにもダイアナにも情報が上がらないように細工をすることは忘れなかった。




「悲しいなぁ。偽物の家族。偽物の感情――すべてが嘘・嘘・嘘!!」

 もうすっかり力を失くしたフェルナンドの顔面を片手で鷲掴みにし、軽く力を入れるとフェルナンドは消滅した。

「あ~あ。偽物君は最後まで役に立たなかったな」

 その様子を何の感情もなく見つめた教皇はさして興味も示さずその場を後にする。


「さあ、これでお前が愛した男は正真正銘私になった! 早く力を解放しろ! 神の人形よ!!」

 ――狂気の男の足音が、世界の崩壊と重なる日はそう遠くないのかもしれない…。

 なんか想像以上に嫌な奴に仕上がっていたような…。

 大丈夫ですかね?受け入れてもらえますかね?

 ということで今回は教皇とフェルナンドの関係を明らかにしてみました!!


 あっ、ちなみにこの話で疑問に思っても大抵あとで解決するので気にしないでくださいね?

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