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第1話 大魔王のお宅訪問

 この第二章は基本的に時系列がごちゃごちゃになる予定ですので注意してください。時系列がずれる時は前書きに書かせていただきます。

 アポバッカ王国が魔王領になってから数日。

 国の人々は王族改め領主となったサンドルの下で落ち着きを取り戻していた。

「…それにしても、この橋を渡れば魔王様の居城に行けるなんて驚きだよなぁ~」

「正確には、魔王領に入るだけだけどな! 城はもう少し先にあるってサンドル様が言ってたぜ?」

 多少の変化。その中の一つとして、ハイドと繋がる橋の前に敷かれた警備。数人の者が常にそこを見張っていた。

 ――カランコロン。

「……平和ボケした国じゃ」

 その警備の中を一人の人物が何事もないように通り過ぎていく。堂々たる行動にも関わらず、誰一人気付くことはなかった。


「暇だぁ~~~」

「…まったくだ」

 そして、こちらは魔王領ハイド。

 以前は正門を見張るように建てられていた見張り台は橋の出口にまで移動していた。

 今日も三バカは見張りを続け、イサロとキカルはサボっていた。それでも前回のようにこの場を離れないだけマシかもしれない。

 …さすがに、あのお説教は効いたようだ。

「…おい! ダラダラしてんじゃねえよ!」

 まあ、結局のところ仕事をしているのはミザレひとりなのだが…。

「そうは言っても、そうそう問題なんて起きねえだろ?」

「張り詰めてても疲れるだけだって」

「お前らなぁ…!」

 ――カランコロンカラン。

「残念。意味がないのぅ。精進せぇよ若いの」

 軽い喧嘩に発展しつつある三人の脇を平然と通り過ぎる存在に彼らは気付かなかった。


「……さて、新しい魔王。お主が時代を、世界を変える器かどうか……試させてもらうぞい?」

 その人物は離れた位置に見える魔王城を不敵な笑みを浮かべて、散歩でもするかのように歩みを進める。誰もこの人物を止められない。




「ほいっ、邪魔するぞい」

 クロガネは突如として現れた人物に対して二つの意味で驚愕した。

 一つは突然現れたこと。

 今は城で寛いでいるとはいえ、自身とアナ、ハミル、コルトと四人もいて誰一人気付かなかった。

 そして、もう一つはその人物の服装だった。

 見た目はひげを生やした老人であり、特に違和感はない。しかし、その服装はクロガネが予想できない装いだった。

 老人は下駄や着物――いわゆる和服を身に付けていたのだ。

 まさか、この世界に和服というか日本を彷彿とさせる物が存在するとは…!


「……お前は誰だ? 一体どこから入って来た?」

 動揺はあったものの、まずは当たり障りのない質問から入ったつもりだったが、老人は呆れたようにやれやれと首を振っていた。

「……まったく、何で何でと。まるで幼子じゃな」

「…あ゛っ?」

「これが今話題の魔王かと思うと…。見込み違いじゃったかもしれんのぅ」

 明かな挑発。

 苛立つ気持ちを抑えつつ、それでも辛抱強く老人の言葉を待つとようやく老人はその正体を明かした。


「――儂はお主と同じ存在じゃよ」


「……同じ?」

 それは、つまり……。

 頭に答えが思い浮かんだものの、クロガネはそれをあり得ないと否定する。

「意味が分からねえな。答えるつもりがねえなら無理やりにでも追い出すぞ?」

「…ハッ! 常識に囚われるとは、やはり見込み違いじゃったか」


「わかりやすく伝えてやろうか? 儂は魔王じゃよ。それも魔王の中の魔王――大魔王ムブラハバじゃ」

「バカなッ!」

 あり得ない!魔王は自分の領地から出られないはずだと目を見開く。それに加えて初めて聞く単語『大魔王』。それがクロガネの困惑を誘った。

「不思議そうじゃな。……まず、大魔王について無知なお主に教えてやろう」


 ムブラハバと名乗った老人は語る。

 大魔王とは、大陸に一人だけ存在する魔王だと。

「――大陸に魔王は多い。だが、魔王とは災害のような存在。脅威度によってはそれを統べる者がいてもおかしくはあるまい?」

「……理解はできる。だがっ――」

 それでもやはり納得が出来ない。

 あまりにもムブラハバがクロガネの理解を越えていた。

「そして、もう一つの疑問じゃが、これについては簡単じゃよ。これが儂のドロップというだけじゃ」


「儂のドロップ、名は領域テリトリー。この力は儂のいる場所を領地へと変える力じゃ」

 ムブラハバは若き魔王に自身の力を示していく。

 驚き椅子から腰を上げた状態で固まっている。

 その姿を見て、まるで自分の孫を見ているか気持ちになるのだった。


「ああ、もちろんこれは後から授かった方の力じゃよ?」

 クロガネはムブラハバの言葉を聞いてももはや何も言うつもりはなかった。

 相手が魔王であろうとなかろうと、取るべき行動を決めていたからだ。

「――もういいよ。あんたが誰であろうと」

 クロガネは〈アースウィップ〉を発動した。


「むほっ!」

 いきなり襲いかかってきた土のムチにムブラハバは笑みを浮かべる。

「やっと魔王らしい対応をしたの!」

 背中から抜き放った剣で向かってくるムチを切り落とした。


「……ぬぅ! 魔法か、厄介じゃの!」

 クロガネは厄介と言いつつも笑いながらムチを切り落としていく老人を見ていた。

 とても老人の動きではない。

 この動きを見ても只人ではないと断じることが出来る。

「アナ、二人を連れて少し離れてろ!」

「はいっ!」

 相手の出方次第だが、このままでは終わらないだろうと予測しアナたちを避難させる。

 次には一気にこちらに突っ込んできたムブラハバが振り抜いた剣から黒い影のようなものが伸びてくるのを見ていた。


「――がっ!!!」

 アナはクロガネが黒い何かに弾き飛ばされるのを見た。

「クロガネ様!?」

「うがああああああっ!!」

 駆け出そうとしたが、すぐに瓦礫をどかして姿を現したクロガネに安堵するも肩口を中心に大きな切り傷を負う姿に驚きを隠せなかった。


「クソッ!」

 クロガネは苛立ちを感じていた。

「……なるほど。それがお主のドロップか」

 ムブラハバはクロガネのドロップを見切ったと伝える。

「先程の攻撃、避けようと思えば避けられたはずじゃな? しかし、お主はそれをせなんだ」

 それはドロップに頼った怠慢だとムブラハバからの叱責を受ける。

 実際、クロガネは避けなかった。

 イリスの時と違って攻撃に脅威を感じなかったし、避けるまでもないと考えていたからだ。普段だったら危機感を感じて勝手に避けていることもあり、避けるということに鈍感になっていたのかもしれない。

 同時にクロガネは相手の厄介さを感じていた。

「自分だけが、見切った気になってんじゃねえよ…!!」

 クロガネもムブラハバのドロップを見切っていた。

(さっきこの爺さんが言ったことは嘘じゃない。だとすれば、今の攻撃こそがもう一つのドロップ…!)

「――あんたのドロップは他人のドロップを無効に…、いや違うな」

 それにしてはおかしいと否定し、より正確な答えを告げる。

「ドロップを一部無効にする。それが正解ってところか」


「ほぅ、ただのバカではないようじゃな」

 ムブラハバは正解を導いて見せたクロガネに正解だと笑みを見せる。

「……まあ、八割方正解じゃな」

「強がりか?」

「……試してみるか?」

 ひげを撫でながら、挑発してみると目の前の魔王は血を舐め取る。すると、見る見るうちに傷が癒えていった。

「それがお主のもう一つの力じゃな」

 おそらくは後天的に手に入れた力だと思うが、なかなかに良い能力だと期待に胸を膨らませた。




「まったく! さっきから何なのだ!!」

 イリスは城内を肩を怒らせて歩いていた。

 訓練をしていたら聞こえてきた破砕音に文句を言うために魔王がいる謁見の間に辿り着いた。

「おいっ! うるさい……ぞ?」

 そこでイリスは勇者の宿敵の姿を目の当たりにした。


(…なんじゃ? この小娘は?)

 いきなり現れた女にムブラハバは訝しげな視線を向けたが、女の発する嫌な気配からすぐにその正体を看破した。

「……このタイミグで勇者とは、まったく間の悪い」

「――うおおおおおおおおっ!!」


 イリスは大魔王が自分に注意を向けたタイミングで斬りかかって行った。

「……少し、大人しくてしておれや」

 自分が攻勢に出ていたはずなのに、近付いた瞬間ゾッと背筋に寒気が走るのを感じる。

 それはイリスにとっては久方ぶりに感じる恐怖だった。

(何だ? 私は、一体……?)

 それまで体に入っていた力が入らない。

 今まで体験したことのないことに驚きを隠せない。

 ライオン・ハートを持つイリスにとって正しさは恐怖を超越するものであり、自身が屈するものではなくなっていたはずだった。それなのに、恐怖で前に進むことが出来ない。それどころか、知らず知らずのうちに足が下がっている。

「――戦場で迷ったら、おしまいだぁな」

 声にハッとして顔を上げると、そこにはムブラハバの足が迫っていた。


「――――」

 悲鳴を上げる間もなく壁に叩き付けられたイリスをクロガネを含めた全員が見ていた。

 それはあまりにも衝撃的な光景だった。

 イリスはバカではあるが、強さはクロガネ自身も認める本物。そのイリスが為す術もなくやられるなど到底信じられなかった。

 また、クロガネはイリスの動きの不自然さも見て取った。

(……攻撃を受ける前に、イリスの動きが一瞬止まった?)

 前々からイリスのドロップは精神的な何かだろうと感じてはいた。それが切れたことでいつもと同じ動きが出来なくなったのだろうと推測する。

(それ以前に、奴の力は何なんだ?)

 自分の時に使った黒い影のような力。斬りかかってきたイリスに対してその力を使ったようには見えなかった。それなのに、何故イリスは力を封じられたのか?八割方正解だと言っていたが、それも関係しているのか?

 疑問が次々と溢れてくる。


 ウィンドゥズに転生してから幾度となく感じてきた死の恐怖。

 だが、これほどまでに得体の知れない相手はいない。

 まさに心の底から感じる恐怖にクロガネの思考は完全に停止してしまった。


(……やれやれ。とんだ横やりが入ったもんじゃ)

 ムブラハバはクロガネが動きを止めたのを見て、名も知らぬ勇者に文句を言いたくなっていた。

 と言っても、自身で気絶させてしまったのでそれは難しいことだったが…。

(まあ、今日のところは引き上げるとするかの。ある程度の目的は達成したことじゃからな)


「小僧! 邪魔も入ったことじゃし、今日はここで引き上げる! 三日後、またここに来るでの! その時は茶の一杯ぐらい出せよ!」

 ムブラハバはそう言うと、来た時と同じように堂々とクロガネの前から去って行った。

 クロガネは、放心状態でしばらく去っていくムブラハバの背中を見つめていることしか出来なかったのだった。

 クロガネにとっては初めての敗北。それも惨敗。さて、今後大魔王がどのように関わってくるのか……。見物ですね!

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