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第1話 ゴキブリ魔王爆誕!

 この作品はあらすじにも書いてあった通り『不死な魔法使いは魔王認定されました』のリメイク作品です。文章の書き方を変更するために改稿しようと思っていたのですが、その際結構な変更点を作ってしまいいっそのこと新たな作品にしてしまおうと思い立ちました。

 ストーリー自体はあまり変更点はありませんがところどころ変わっています。一応ストーリーが追い付くまでは『不死な』の方も掲載している予定ですが、ストーリーが追い付いてしばらくしたらあちらは削除する予定です。

「グギャアアアアアアッ!!」

「…………」

《ウホホホ~イ! こいつぁ、面白そうな逸材はっけ~ん!! ――もうっもうっ大っかくて~い!!》

 炎に捲かれ黒炭となっていく男とそれを見つめる男。そして、場に不釣り合いな能天気な声。

 この日、アーラジン大陸で二大強国と呼ばれるオーランド王国の将来有望な若者と将来的な資産価値が今のところゼロの筆頭ごく潰し候補が死亡し、魔王が誕生した。



「誠に遺憾ながら」

 そんな枕詞とは裏腹に、それを告げる女性の顔は遺憾の意を全く感じさせず、その顔に見て取れるのはただただ不快の感情に尽きる。

「本日、神託が下りました。よって、クローヴィス・ド・ブリュッセウス……あなたをアーラジン大陸第八十五代魔王として魔王認定されましたことを私、神聖教会オーランド支部所属ダイアナが宣告いたします」

 不快感から眉間にしわが寄り、大きな谷が出来てしまっているダイアナからの宣言を受けたクローヴィスだったが、こちらもダイアナに負けず劣らず不快、不愉快を全面に押し出した仏頂面をもって応える。

「帰れ」

「帰りません!」

 あまりにも端的な拒絶にダイアナはそのうち断崖でも出来るのではないかと心配してしまうほどに眉間のしわを深くすると怒りで顔を赤く染めて怒鳴り返した。

 ダイアナ自身、帰ることが出来るのならば今日の日のことをすべて忘れてしまうほどに帰りたい。だが、それは出来ない。

 この世界ウィンドゥズでは神から様々な恩恵を授かっている。

 それはこの世界を創造したことから始まり数えだしたら止まらないほどにたくさんの恩恵だ。そんな中でも、最も特出した恩恵が存在する。それがドロップと神託なのである。

 ドロップとは、元々は神が気紛れに落とした力ということからその名が付いた力であり、神からすれば使い捨てのポケットティッシュを落とした程度の感覚だった。それでも地上の人間に与えた影響は大きい。その力があるおかげで神との繋がりを感じることが出来、人々には生きる希望が与えられた。

 そして、神との繋がりという点において最も感じているのが教会の人間なのである。元来信者とは親交の下に集う者たちであることから当然と見られがちだが、ウィンドゥズにおいては意味が異なる。ウィンドゥズでは教会に所属することで神と直接対話することが可能になる。

 とはいえ、あくまでもこれは一方的な話であり、正確には対話ではない。それでも、神からの言葉を授かるというのは大変名誉なことであり、教会に所属しようとも神託を授かれない者は半人前として扱われる。

 ダイアナも今日までは見習いとして扱われていたが、神託を受けたことによって正式な信徒として扱われるようになる。その恩恵は計り知れない。

 さて、神託とは言うが内容はこれまた独特な物である。

 普通は神託と言えば、災害が近付いているので人々を避難させよ、病が蔓延するので治療せよ、虐げられている民を率いる王になれ……そんな風に人々を導くものと思われる。

 だが、ウィンドゥズでは神託=勇者あるいは魔王の誕生という意味でしかない。

 勇者は世界を救う者。

 魔王は世界を滅ぼす者。

 相反する役割を与えられているようだが、しかして彼らの仕事は共通である。それすなわち、神を愉しませることなり。

 言うまでもないが、勇者の担当と魔王の担当になるのでは意味合いが大きく異なる。かたや救世主であり、かたや世界の天敵にさえなり得る存在。同じような扱いになるというのがそもそも無理な話だ。

 中でも教会に所属する者にとっては。

 神託を受けた者は言ってしまえばその者の後見人のような立場になる。

 勇者は国という組織に利用されないように、魔王は世界の敵であるがゆえに迫害などをされないように。彼ら本来の役割を果たすための支援や責任を持つのが神託を受けし者の仕事。当然、勇者や魔王の功績は彼らの評価に直結する。

 勇者の場合は評価が上がり、魔王の場合は評価が下がる。真逆の結果だが、功績が反映されていくのだ。つまり、魔王の担当になった者は魔王の行った悪事に応じて悪評が高まっていく。だからこそ、神託を受けたいと願っていても魔王の担当にはなりたくないと彼らは常に神に祈りを捧げている。

 中でもダイアナは熱心に祈りを捧げていた信者であり、魔王を毛嫌いしているところがある。

 なので魔王の担当に決まった瞬間に天へ嘆き、元凶の魔王クローヴィスには怨嗟の念を今も放ち続けている。


 一方、クローヴィスはクローヴィスで魔王になるなんて冗談じゃない!という思いがある。

 そもそも魔王になるようなことをした覚えがないのだから当然だ。

 神託を受ければ勇者や魔王になるとは言っても、条件が全くないわけではない。少なくとも魔王に関してはその条件が明確にされている。

 魔王になるには世界を震撼させるほどの悪行が必要になる。その点については明確ではないが、神が楽しめるぐらいの派手な行動が必要なのだ。

 それに関してもある条件が存在する。それは成人してからの悪行でないとカウントされないということだ。さすがに成人前の子どもの悪戯を悪行とするのは酷な話であり、子どもが魔王になってもすぐに討伐されておしまいだろう。

 クローヴィスが不満を感じているのはこの点だ。

 クローヴィスはほんの数時間前に成人を迎えたばかり。つまりは、神に魔王と認定されるほどの悪行を重ねた記憶もなければ、重ねるだけの時間もなかった。それなのに、魔王とされてしまうのは納得できない。目の前のシスターが神託を間違えたか謀っているのではないかと疑っていた。

 そんなことをするメリットは思い当たらないが、一応は名門貴族の血が流れているのだからそういうこともあり得るかもしれない。その程度には考えていたのだ。


「あなたがいかに拒絶しようとも神託は変わりません。これよりあなたを魔王領へと移送します」

「……上から目線でえらっそうに!」

 理由もわからずに連れて行かれるなど納得できない。クローヴィスは剣呑な雰囲気を漂わせ、それに気付いたダイアナもまた教会から支給されている杖へと手を伸ばす。


《はいは~い、二人ともストップだよ~》


 一触即発の状況に割り込んできたのはそのような呑気な声だった。

「なっ…!?」

 しかし、呑気な声にもかかわらず、ダイアナは眼を見開いて天を仰ぐ。

「…………誰だ?」

 クローヴィスはというと声はすれども姿の見えない状況に辺りを見渡し、ダイアナ同様に天を仰いでみるもののやはり何もないことを確認すると訝しむような視線をダイアナへと向ける。

《まったく! 何でいきなり喧嘩しようとしてるの!? ボクチンは激怒ぷんぷん丸だよ!》

 さっきの二人は喧嘩なんて生易しい表現では収まらないと思う。

「…いや、誰だよ? てか姿を見せろ!」

「ちょっ!? あ、あなた一体何を…!」

 一方的に話を進められることに怒りを顕にするクローヴィスだったが、それに慌てたのは先程までクローヴィスを害虫のように見ていたダイアナだった。ダイアナの心境としては何言ってんの!?私を巻き込まないでよ!というのが大半を占める思いであったものの、これを止めないと後々まずいことになるのを承知しているので必死である。

 まだ魔王になってもいないのに既に担当の胃を攻撃し始めたクローヴィスはもしかしたら本当に魔王に向いているのかもしれない。

《誰って……神様だよ?》

 慌てふためくダイアナとは打って変わって声の主はのほほんとしたものである。クローヴィスに何言ってんだこいつ?みたいなトーンでさも当たり前のように名乗っていた。

 そう、ダイアナが慌てるのも無理はない。この謎の声の主こそがダイアナが――いや、世界中の人間が崇め奉る神なのだから!

 だが、神に親しみのないクローヴィスにとってはこんな能天気な奴が神であるはずがないと思っていた。

「嘘つけ。お前みたいな神がいてたまるか」

 終わった。この時、ダイアナはこう思い眩暈を感じる。

《アハハハッ、ハッキリ言うね~。まあ、いいや。じゃあ、君だけしか知らない秘密でも言い当てちゃおうかなぁ~?》

「…ハッ、やれるものならやってみな!」

 できるはずがない。そう高を括っていたクローヴィスだったが、神の返した答えに絶句することになる。

《ババン! クローヴィス・ド・ブリュッセウス、君は実は……転生者である!!》

「!?」

「…………へっ?」

 何とか意識を保っていたダイアナの口から間の抜けた声が漏れる。

 だが、クローヴィスにとってはそんなことはどうでもよかった。それほどに神から告げられた言葉が信じられなかった。

《前世の名は鉄次郎くろがね じろう。地球という星の日本という国で鉄家の五人兄弟の末っ子として生まれたことからついたあだ名はジゴロ。享年は三十九歳。死因は凍死》

 次々と語られるのはクローヴィス、鉄次郎が知っていることだけでなく知らないことも含まれていた。自分が前世で死んだということは理解していてもどうして死んだのかまではクローヴィスは知らない情報だった。

《凍死するまでは散々だねぇ~。大学を卒業してから真面目一辺倒で勤め上げた会社でそろそろ出世が見えてきてたのに上司から横領の罪を被せられてクビ。あっ、しかも上司が君に罪を被せた理由が君が好意を寄せていた娘が彼の愛人だったからみたいだね!》

 クローヴィスとしてはクビになった理由なんて今更知ったところでそんな理由だったのかと思う程度。むしろ凍死した理由の方を詳しく知りたかった。

《会社をクビになった時に私財を奪われるっていう不運が重なってすぐにホームレスに。そして、まさかの数十年に一度の大寒波が襲ってきて死亡。ぷぷっ、ウケる!》

「ウケるなっ!」

 苛立ちから何もない空間へ吠えるが、見えていないので意味がない。むしろ、吠えたことで神の言葉が事実だと証明しているようなものでダイアナが何やら不穏な視線を向け始めたことに気付かなかった。

《この世界に転生してから三歳までは普通に暮らしていたけど、兄の特訓に巻き込まれて重傷を負って生死の境を彷徨う》

 さらに神の言葉は続き、今世クローヴィスとしての人生に突入する。

 そして語られるのはクローヴィスの人生が大きく変わるきっかけとなった事件。

《まだ魂が不安定だった幼い頃に生死の境を彷徨ったから本来だったら思い出すことのなかった前世の記憶が蘇り、混濁してしまった君は襲いかかる苦痛から逃れるためにあることを願った》

 死の淵にあったクローヴィスは幼い心と体に不釣り合いな精神が目覚めてしまった。鉄次郎の精神は本来だったら痛みを和らげたいなどの願いへと繋がるようなクローヴィスの精神を埋め尽くし、前世の死を乗り越えるために『死にたくない』という強すぎる思いを抱いていた。

《そして、君の中でドロップが目覚めた》

 これが転落人生の始まりとなった。

《奇跡的に生還を果たした君を当時家族たちは歓迎した。けれど、それは五歳を超えるまでだった》

 ドロップが発現する時期は五歳までと決まっている。

 これは成長してからだと世界に悪影響を与えるような強力な力になってしまう可能性があるためであり、また子どもだからこそ純真な力が芽生えると思えるという理由だったりもする。また、この法則がわかってからは親が願う子どもに育つような教育も増えたがそういう場合はむしろ逆の力が目覚めたりしたので今では滅多に行われない。

《五歳になってもドロップが現れない君をおかしいと思った君の家族は教会で見てもらおうとしていた》

 その時のことはクローヴィスもよく覚えている。

 高位貴族である現世の父は自分の子どもが神に見放されたという可能性に恐れを抱き、対処をしなければならないと考えていた。

 そして、クローヴィスを馬車に乗せて口止め用に賄賂などを用意していた時、突如馬が暴れ始め馬車が横転してしまった。それにはさすがに慌てて近付いて行ったが、そこでは顔を背けたくなるような光景が広がっていた。

 転倒した馬車は壊れ、その下敷きになった御者や使用人の血が溜まりとなっていた。

 しかし、そんな中であってもクローヴィスだけは下敷きになった使用人たちの間にいて傷一つなかった。

 これはいくらなんでもおかしい。そう思うと同時に、これこそがクローヴィスのドロップなのではないかと思い至った。

 それからクローヴィスの力を検証していったが、どうやら極端な死の原因を回避する力なのでは?と考えるようになっていた。死の原因を回避する。その程度だったら役には立たないが貴族である以上困ることもないだろう。そう思われていた。

 この時まではクローヴィスと家族に確執はまだなく、クローヴィスが大人びた子どもだということを除けば普通の貴族家庭だった。

 事態が急変し、クローヴィスと家族の確執が深まることになったのは翌年。つまりは六歳になった時に開かれたクローヴィスの誕生日パーティーの時だった。

 大人びているとはいえ、これほど豪勢なパーティーは前世では体験したことがない。だからこそクローヴィスは浮かれていた。だが、そのパーティーは凄惨な出来事によって閉幕した。 

 なんとなく違和感を感じたクローヴィスは挨拶をするところを渋っていた。それを集まった来客たちは子どもだから上がっているのだろうと考え、笑顔で安心するように近寄って行った時頭上からシャンデリアが落ちて来たのだ。

 どうやらブリュッセウス家に不満を抱く者が細工をしていたようだが、クローヴィスは近寄ってきた来客が盾になる形で守られており、軽傷で済んでいた。

 それからはブリュッセウス家の子どもは呪われているという噂が流れ、危惧した家族から監禁されていた。碌な愛情を注がれることがなくなり、何とか殺そうと家族は躍起になっていた。

 時には毒を仕込んだり、暗殺者を仕向けたり。それでもうまくいかなかったので、次には食事を与えないようにしてみたりもした。だが、それでもクローヴィスは死ななかった。

 あまり大っぴらに、それも未成年の子どもを殺すのは外聞が悪いと干渉を控えることにし、とうとう成人を迎えたことで排除に動いた者がいた。

 それがクローヴィスの兄ヘイディオだった。

 父親も幼い頃に殺しかけた実績があり、戦闘系のドロップを持っているヘイディオならば殺せるのではないか?と期待していた。結果としてクローヴィスの力の方が強く、死んだのはヘイディオだった。普段だったら決して起こらないほどの大暴走を起こした魔法が術者であるヘイディオ自身へと襲いかかった。

《悪運が強いって言っても限度があるね! まあ、そんな君だから見ていて飽きないと思ったんだけど》

 神の言葉はヘイディオの死にもクローヴィスのドロップが関係していることを示唆していた。暴走は偶然ではなく、ドロップが働いたことによるものだった。


《まあ、ドロップなんて使わなくても君はお兄さんを殺せていたと思うけどね?》

 意味深に問い掛けるような声。それに対してクローヴィスはもはや何も答えない。だけど、それでは神は面白くない。

 もしも、クローヴィスに神が見えていればむすっと頬を膨らましている神と何か悪戯を思いついたような顔も見えただろう。

《…まったく、これだから童貞は。堪え性がないよね~》

「!!」

 これまでとは明らかに違う話の振り方に慌てるクローヴィス。そして、ダイアナへ視線を移そうとして体が動かないことに気付き、顔色が羞恥の赤から絶望の青へと変わっていった。

《前世では三十九年、今世と合わせると実に半世紀以上も童貞を守るなんてねぇ~。それにしてもある意味凄いのは、君前世では珍しく魔法に適性があったみたいだよ?》

 自由が利かず、為す術もないままに語られていく内容を聞くしかないクローヴィス。せめて何も見ないようにと眼を閉じたいのだが、それも出来ずただただダイアナがこちらを見ていないことを願うことしか出来ないまさにまな板の上の鯉状態だった。

《地球では魔法の才能があっても魔力が存在しないから使えなかったけど、この世界では結構頑張って魔法を勉強してるみたいだね。感心感心》

 もはや何を言われているのかも耳に入ってこない。

 神としては一応誉めているつもりなのだが、そんな思いは伝わらず押し黙ったまま痛いぐらいの沈黙が流れる。不意に沈黙を破る笑い声が聞こえてきた。

《アハハハッ、そんなに脅えなくても大丈夫だよ? 彼女には聞こえないようにしておいてあげたから》

 ハッとして体に力を入れると、動く。そして、ダイアナを見れば彼女は不審な目を向けているだけだ。その瞳にはからかいや嘲笑の類は見て取れない。

《だ・け・ど、あんまり調子に乗るとバラしちゃうからね?》

 ホッとしたクローヴィスだったが、神から告げられたことで再び恐怖したのだった。


 もはや神に逆らうような気持ちがなくなり、項垂れたクローヴィスを見て満足した神は本題に入っていく。

《さて、君が魔王になることを快く承諾してくれたところで名前を決めようか》

 誰が快くだ!キッと空中を睨むクローヴィスだったが、その視線には先程までの力は感じ取れない。

 魔王名というのは、神が付ける魔王としての名前であり魔王としては本名よりもこちらの名前の方が周知される。また、本名を残しておくことで関係者に被害が及ばないようにする意味も込められており、教会が神に要望していることでもある。

 言ってしまえば魔王名を付けられると正式に魔王として認められることになると言ってもよい。

 この魔王名、基本的にドロップに由来して付けるだが、クローヴィスについては難しいと考えていた。

 世間的には誤解されているが、クローヴィスは『死ににくい』だけ。別に悪運が強いわけでも不死というわけでもない。かと言って、それをすると大したことがない人間として早々に処理されて観ている側としては面白くない。

《悪運……、死ににくい、いや生き汚い? う~ん……悩むな~。…………あれっ? そう言えばあそこでは……!》

 どんな名が魔王としての恐怖と本質を表すか。良さそうなものがいくつか浮かぶが今一つ。困った魔王はクローヴィスの前世について思いを馳せ、ある一つの名を思いついた。

《決めたっ! 君は今日から黒甲蟲くろこうちゅう魔王と名乗れ!》

「……くろこ、何だって?」

《黒甲蟲だよ。それが君の魔王名だ》

 黒甲蟲。そう言われても、いまいちピンとこない。クローヴィスの頭の中ではくろこうちゅーだったり、クロコーチュウなどといった単語が渦巻いていた。

 必死にウィンドゥズの言葉を思い出すが当てはまりそうにない。

 困ったようにダイアナに視線を向けるが、ダイアナはこちらを見るなと言わんばかりに睨み返しておりとても聞ける雰囲気ではなかった。

《しょうがないな~》

 そんな時、反応がなかったので説明するかといらん気を回した存在がいた。説明するまでもなく神である。

《黒甲蟲っていうのは地球からヒントを貰ったんだよ》

 地球から、そう言われて前世の言葉を思い浮かべるが自分の知っている言葉に似たような物がないので早々に諦めりクローヴィスの姿があった。

《ほら、君の世界に生命力を象徴するような虫がいるだろう?》

「!? ま、まさか…」

 嘘であってほしい。思い至ってしまったことを否定するが、この神にそんな常識が通じるはずがない。

《ほ~らっ、ゴキブリ並みの生命力ってやつさ。…ズバリ君はゴキブリ魔王だ!!》

 ガーン!そんな音が聞こえてきそうなほどにクローヴィスは凄まじいショックを受けてその場に崩れ落ちる。

「……ぷっ!」

 崩れ落ちたクローヴィスの頭上に堪え切れない…そんな笑い声がかけられた。

 見ると先程までしかめっ面をしていただけのダイアナが口元とお腹を押さえてプルプルと小刻みに揺れていた。

《それじゃあ後はよろしくね~》

 神の雰囲気が消えた瞬間、クローヴィスは心の中で悪態を叫び先程縮み上がった神への対抗心が沸々と再燃していったのだった。


 めでたく魔王名も授かったことでクローヴィスは世界からも魔王として認定され、命名の際に笑ったことなど忘れたダイアナと共に不貞腐れながらこれから魔王として過ごす領地――隣国ノーキンダムに隣接する魔王領ハイドへと移送される。

 こうして転生した鉄次郎ことクローヴィス・ド・ブリュッセウスにとってゴキブリ魔王という断固拒否したい名で呼ばれる生活が始まろうとしていた。

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