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英雄たちの影法師  作者: kim
6/13

ネクロメア市にて(シェスの語り 1)

  ネクロメア市にて

 (シェス・ヴィクセンの語るところ)



「また王国の神官か!」

 おそらく街の自警団だろう。

 雑多な種類の武器。あきらかに普段着、作業着と思われる服装。

 組織立って囲んでいるようには見えないし、構え一つとっても訓練を受けているとは思えない。

「んー。王国直属でないし、別に戦いたいわけでもないし、魔女狩りに来たわけでもないし。

 デル、どうするの?」

「どうしよう…

 あの、とりあえずどなたか責任者の方を呼んでもらえませんか?

 …呼んでもらえないみたいね。」

 弟のあからさまなため息に周囲が気色ばんだ。

 あたしは自然と腰元を確認してしまった。一斉に襲い掛かられても、捌ききれる自信はある。いっそのこと武力制圧して、問答無用に吐かせようか。

 でも、ウチらが武器を抜いたら、交渉はほぼ決裂する。

 ウチらは困って顔を見合わせた。

「どーしよ。」

「現状はどうしようもない。」

「でも、このままってわけにもいかないわ。」

「だって、ムリなものはムリ。」

 殺気立った街の人々を尻目にひょうひょうと非建設的な会話を続けていたら、次第に囲う輪にほころびが生じ始めた。

 苛立ち、今にも武器を振り回しかねないヒト。

 あまりに隙だらけなのが逆に怖くて逃げ腰になっているヒト。

 冷静になってウチらの話を聞こうとするヒト。

 デルは、一番最後のパターンに当てはまりそうなヒトを探して、きょろきょろと周囲を見回してた。

 はたしてすぐに、それらしきヒトを見つける。 

 見た目は二十代半ば。口元を真一文字に噤んで、ウチらから瞳をそらさずにいる青年。右手に片手持ちの剣を中段に構え、もう片方の手で隣で今にも暴走しそうな男性を制していた。


「すいません。

 あなた、ロミアン卿をご存知ですか?」

 デルはその青年に、この街では極当たり前のことを尋ねた。

 とつぜん話をふられて戸惑うかと思いきや、度胸もあるらしい。

「知らないわきゃないだろ!

 バカにしてんのか!」

 と怒鳴る逆隣触れられまくりなオヤジも制して、青年は小さく肯いた。

 やはりこの青年はウチらのことを偏見もっては見ていない。味方とまではいかなくとも、王国から派遣された神官兵団、つまりは敵対勢力だともみなしていない。

 デルもそう確信したらしく、まっすぐその青年を見据えて告げた。

「僕の名前はデルヴィ。隣がシェス。

 ネクロメア当主スクル・ロミアン様にお逢いしたいのですが。

 おそらくヴィクセンの姉弟が来たと伝えてもらえれば、私たちへの疑いも晴れるかと思います。」

 ヴィクセンの姓を名乗ると、周囲がいっそうざわめいた。

 とうぜんだ。

 ヴィクセンは王国神官兵団の総指揮官。

 つまりはウチら二人の父親が王国兵のてっぺんということになる。

「やっぱり王国のニンゲンじゃねーか!

 早くやつらを殺してしまえ!」

 後ろのほうで煽り立てる。

 デルが隣で小さく舌打ちして周囲を見渡すも、人物の特定はできそうになかった。

 手前の街で耳にした噂どおりだ。

「扇動者がいる。王国によって仕組まれた内乱だ。」

 そんな噂話だ。

 あたしは苛立って、弟の制止も聞かず、怒鳴り返した。

「ヒトに責任押し付けてないで、言った奴出てきなさいよ!

 タイマンで相手するわよ!」

 前列付近が一気に殺気立った。

 しかし、煽った本人が名乗り出ることもなかった。


 この街の内部で反乱を煽動しているヒトがいて、近いうちに王国が討伐隊を派遣するかもしれない。 しかも、その煽動者はホントは王国のヒトで、王国サイドの大義名分を作るためにスパイとして送り込まれている。

 そんなまことしやかな話が舞い込んできたのは、つい二週間前。

 なぜ、そんな話が王国の離反者であるウチらに舞い込んできたかというと、デルが死の管理人だからである。

 正確に言えば、死体の管理人。

 ウチらの住むローム・トリアール王国だけではない。

 東の隣国デノイア、北の大戮国、大陸の西部に存在した故ゴース王国やローム・トリアール王国に滅ぼされたルイノア。

 大陸のヒューマン族の国々が絡む戦争で失われる多数の死体を管理しているのが、あたしの弟デルヴィ・ヴィクセンだ。

「なんでしたら、アポストーレ・ゴラを名乗っても構わないのですが。」

 街人がさらにいっそうざわめいた。

 さすがに輪が大きく広がった。

 デルと対峙した青年だけが、彼の挑発にも眉一つ動かすことはなかった。

「光明神ではなく死神の使いできたというのか?」

 アポストーレ・ゴラとは死神ゴラに仕える者といった意味になる。

 彼だって決して好き好んで名乗ってはいない。

 ウチらが信仰しているのはあくまで光明神ラ・ザ・フォーであり、教会を破門された身とはいえ他の神を崇めるつもりはない。

 それでも、あえてこの冠を被るのは、一般市民に知れているのが、いや恐れられているのが、こっちの名前だから。

 どこか都市伝説化していて、全身光った死神が時速百キロで追いかけてくる、なんて話もあるくらいだ。


 閑話休題。


「つまり、この街に多数の死者が出るということか。」

 青年はウチらと対峙したまま、苦々しげに剣先を下ろした。

「まるで死神本人みたいに言ってくれるけど、別に意図的にはヒトを殺さないって…

 ま、いいや。

 とにかくロミアン卿にお逢いしたい。

 この街の行く末について話し合いたいのです。」

 デルがそう告げると、前列にいた数人がウチらの前へと出てきた。

 年齢や服装こそバラバラだが、全く訓練されていないであろう他の街人らに比べて、醸し出す雰囲気が異なっていた。

 その中でも最年長と思われるヒトに青年が何事か伝えた。

 青年は若いながらも組織の中では中堅クラスなのだろう。

 表情仕草を見ている限りは、意見を頭ごなしに否定されるようには見えなかった。

 にわかに信じがたいといった表情を見せながらも、リーダーと思わしき最年長のヒトが、青年含め5人で僕の前に歩いてきた。

「やや、遠くにいたもので君らの話がよく聞き取れなかった。

 ようこそネクロメアへ。」

 別に訊いてもいないことに言い訳してから、リーダーが歓迎の意を述べる。

 心にもないことを、と小さく舌打ちをする。

「ゴラ神の使いであるヴィクセン殿とのことだが、にわかに信じるわけにはいかない。

 ただ、何も確認せずに危害を加えようとしたことは謝りたいと思う。」

 彼の言葉と同時に、残る四人が背後の自警団員たちに合図を送る。

 するとクモの子を散らすように団員たちが、各家々に帰っていった。

 誰も文句一つ言わないのは彼らへの信頼なのか、戦闘にならなかったことへの安堵なのか。

 それぞれの表情が微妙すぎて判断がつかない。

「さて、誤解も解けたところでロミアン卿の屋敷に案内してもらえるかしら。

 結構時間ロスしちゃったから。」

 あたしはさっさと歩き出すしたら、慌ててリーダー格のじじぃに制された。

「待て!

 確かに王国の略奪者ではないと判断したが、言葉の全てを信用したわけではない。」

 あからさまに面倒くさそうに溜息をついて訊いてみる。

「あと何をどうすれば会わせてくれるわけ?

 印籠でも出せばいい?」

 と、なんかの本で読んだネタで皮肉った。とうぜん皆の頭上にはクエッションマークが浮かぶ。

 デルはそれらを無視して、鞄からあるものを取り出した。

 決して印籠ではなかったけど。

「はい、これ契約書。」

 一枚のペラ紙をリーダーに渡した。

 果たしてそこにはデルの名前とネクロメア当主のサインがされていた。

 たしかにこれなら内容を読まなくても、ウチらが当主と関わりある人間であることが、理解できるだろう。

「…わかった。」

 しぶしぶとリーダーの男がうなずいた。


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