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春爛漫

 春爛漫そんな言葉にふさわしい一日に、僕は一人でショッピングモールに来ていた。

 目的は勿論、魔法少女の監視というれっきとした魔王の役割を果たすため・・・・・・と言うのは置いといて。


 今日は愛すべきチクマのために高級ちくわを買って帰るためだ。


 というのも、魔王着任式を終えてから、四天王の主にライトやキルティアさんが妙に僕の近況やら個人的なことを通信で聞いてくるものだからチクマが休む暇をなくしてぐったりとして元気が無いからである。

 そんな、最愛のチクマのためにショッピングモールで買い物をしていると、日頃の行いが悪いせいか試食販売をしているおばちゃんたちに冷たい視線を向けられてしまい、おまけに高級ちくわ意外に特に買い物をすることの無かった僕はゆっくりと買い物することが出来ずすぐに店を出た。


 試食コーナーで少しでも腹を満たそうかと思っていたのに、と残念に思いながら僕はレジ袋を片手に魔法少女四人の写真を眺めながら歩いていると、突如吹いた突風により僕はその写真を思わず手放してしまった。


 風によって中を舞う魔法少女たちをおいかけながらようやく地に落ちた写真の元へと向かうと、なんとそこには人の姿があり、今まさに僕が撒き散らかした写真を拾っているところであった。

 絶体絶命、即刻通報、即逮捕な状況の中で僕は呆然と立ち尽くしてしまった、なぜならそのまき散らした魔法少女の写真を拾ってくれていたのは、なんと魔王城で蹴られ、そして魔界の湯を通して見た小春ちゃん似の少女だったからだ。


 まさか、こんなタイミングこんな状況で出会うことになろうとは、まさに夢でも見ているんじゃないかと目を必死にこすりながら何度も目の前の少女の姿を確認していると、その小春ちゃん似の少女は僕に近づいてきたかと思うと彼女は「落としましたよ」と言ったかと思えば何事も無く写真を返しそのまま歩き去って行ってしまった。


「・・・・・・あれ?」


 そんな気の抜けた声を上げながら、あまりにもそっけない小春ちゃん似の少女の態度に、これなら「変態」とか「気持ち悪い」とか言われてののしられる方がどれだけ幸せだっただろう。

 そう思いながら振り返ると小春ちゃん似の少女は横断歩道で赤信号が青にかわるのを待っており、手には大きな袋を両手で持っていた。

 そんな彼女に僕はお礼でも言おうとこそこそ近づき「さっきはありがとう」と話しかけると彼女はペコッと頭を下げた。


 おそらく現代日本では犯罪スレスレの行為をこなしただろう僕はドキドキしながら横断歩道で信号が青になるのを待った。

 しかし、こうやって横断歩道に立っているとつい横断歩道で人を助ける妄想を繰り広げてしまうのは僕だけだろうか?


 今なら隣いる小春ちゃん似の彼女が横断歩道で車にひかれそうな所をギリギリで助けちゃったりして、そこから恋にめばえちゃったり将来的にはお嫁さんになってくれたり・・・・・・

 なんて考えていると、いつの間にか僕の耳に青信号を知らせる珍妙な音が聞こえてきて、隣にいたはずの小春ちゃん似の少女は横断歩道を歩いていた。


 そんなとぼとぼと元気がなさそうに歩く彼女の後ろ姿を見ているとふと、遠くから聞こえる車の音に気づいた僕は視線をその音がする方に向けると、明らかに異常なスピードと音で僕達がわたっている横断歩道に向かってくる乗用車に気づいた僕は、小春ちゃん似の彼女をすぐにでも横断歩道から救い出そうと必死に走った。

 彼女を追いかける最中轟音を鳴らす車は止まること無く本来なら赤信号で止まるはずの停止線を悠々と抜けて僕達に突っ込もうとしている。


 やばい、これは絶対にやばい・・・・・・そう思い僕はただ彼女を救うことだけを考えた。


 そんな無我夢中で僕は小春ちゃん似の少女にタックルするように飛びつき優しく抱きとめた後、車道から逃げるように歩道にダイブすると、息つくまもなく車が猛スピードで僕らの後方を通り過ぎていった。

 僕は車に引かれなかったことに安心しつつ猛スピードで走り抜けた車を確認しようとすると、その車は甲高いブレーキ音を鳴り響かせながら止まった。

 そして、車からはスーツを着たメガネの男性が慌てた様子で飛び降りてきて、僕の所に駆け寄ってきた。


「大丈夫かい?」


 メガネを掛けた中年の男性は僕達のことを心配そうに見つめながらそんなことを尋ねてきた。

「大丈夫かい」だって?

 何を思ってそんなスピードを出したのか、おまけに良くものんきにそんな言葉を掛けられるのか、と僕はそんな気持ちでメガネを掛けた男をじっと見つめると、彼は真顔で僕の目をじっと見つめてきた。


 しかし、今はそんな男に叶うことよりも小春ちゃん似の少女が気になった僕は腕の中で収まっている少女の顔を見ると腕の中できょとんとした様子で僕のことを見つめており特に外傷はなく見えた。

 そして、僕は念のため彼女にどこか痛いところや意識がはっきりしているかを尋ねると、彼女は静かに頷いたあと、小さく「ありがとうございます」と答えた。


 そしてしっかりと抱きとめていた小春ちゃん似の少女を開放した後、僕はすぐにメガネをかけた中年の男性に大丈夫であることを伝えると、彼は真顔で「そうか」と言ってすぐに僕の元から離れ車に戻ったかと思うと、逃げるように車に乗り込み再び猛スピードで走り去っていってしまった。

 あれ、これってひき逃げってやつなんじゃないの?普通警察とか呼んで事情聴取やら何やらやらなきゃいけないのにあいつ逃げてし・・・・・・まぁ、あとで 警察に電話すればなんとか頑張って見つけ出してくれるだろう、そう思いひとまず僕達に特に外傷がなかったことを安心した。


「いや、それにしても危なかったね小春ちゃ・・・・・・」


 そんな気の抜けた表紙に変なことを口走りそうになった僕は口をおさえようとしたが、それよりも先に僕の頬に痛みが走った。


「いてぇっ」


 あまりの強烈な痛みに僕は叫び、すぐに小春ちゃん似の少女から離れた。

 まさか、小春ちゃん似の少女が冷静になって僕みたいな奴に抱かれてることを気持ち悪く思ってビンタをお見舞いしてきたとか?

 そんな妄想を抱きながら恐るおそる視線を小春ちゃん似の少女に向けると、そこには見覚えのない少女がいて、とても心配そうに声を荒らげていた。


「大丈夫、ハルちゃん?」

「うん」

「怪我してない?何処かいたい所無い?この指何本に見える?」

「2本、大丈夫だよなんともないよ」

「よかった・・・・・・あ、そうだ変なことされてない?」

「変なこと?」

「うん、あの変な男に変なことされてない?」


 あの変な男ってなんだよ・・・・・・変なことは想像してても悪いことはしてないんだよ僕は。


「僕は何もしてない」


 そんな僕のことなど無視して普通に会話する彼女たちの背後に立ち話しかけると、見知らぬ少女は僕のことを見上げながら睨みつけていた。

 ロングヘアーに冷たく鋭い目つき、「子どもだからといってなめるなよ」と今にも言い出しそうなどぎつい表情に僕は思わず後ずさった。


 いや、しかしこの顔何処かで・・・・・・そう思い僕はジロジロと冷たい目付きの少女を凝視すると彼女は更に目を細めて僕を睨みつけた。


「何ですか?」


 冷たい目つきの少女は近づくなと言わんばかりの牽制を僕に仕掛けてきた。


「いや、何ってその子大丈夫だったかなと思って」

「大丈夫です、あなたはそれ以上近づかないで下さい」

「なっ」


 別に、助けたからって変に偉そうな態度をとるつもりはないが、何なんだこの子は?

 いきなり僕の頬を叩いてくるし、まるで変態のような表現で僕のことを警戒するしで、夏海の時もそうだったけど本当子どもとろくな出会い方しないよな。


「だめだよ、フユミちゃん、そのお兄さんは私を助けてくれたんだよ」

「・・・・・・う、うん、でもハルは大丈夫?」

「私は大丈夫だよ、ちょっとぼんやりしてただけ」

「ぼんやりしてたってハルちゃん、そんなのぜんぜん大丈夫じゃないよっ」

「え・・・・・・うん、ごめんフユミちゃん」

「待ってて今警察を呼ぶからちゃんと病院行ってちゃんと検査してもらおう」

「・・・・・・うん」


「ハルちゃん」「フユミちゃん」と呼び合う彼女たち、僕はそんな彼女たちの話し聞きながら先ほどハルちゃんとやらに拾ってもらった写真をこっそりと見た。

 写真に映し出されている魔法少女4人のうちふたりが 僕の目の前にいる二人と瓜二つの顔をしており、ついに残り二人の魔法少女を見つけ出すことに成功した僕は思わずガッツポースをした。。

 そしてそんな確信をした頃、僕は警察に電話をかけその数分後にはパトーカーがやってきた。

 そして、パトカーから二人組の警察官が降りてきたかと思えば真っ先に僕のもとにやってきた。


「君がこの子たちを?」


 二人組のうちベテラン警官らしき人が僕にそう尋ねてきて、僕は絶対にばれないように魔法少女四人の顔写真をポケットに隠した。

 警察官から事情聴取など受けたことない僕にとってこの状況は僕の心を跳ね上げそして体の震えを助長させる他ならなかった。


「ち、ちがう、僕はなんにもしていないっ、ロリコンでもない」

「ロリコン?」

「いや、僕は何もしていないんですよ?」


 そんな慌てた様子の僕を不思議そうに見る警察官二人、すると、隣にいた若い警官がそんな僕の様子を見てベテラン警察官に耳打ちをした。

 何を言ってるんだろう?あ、もしかしてロリコンの意味でも伝えてくれているんだろうか?


「あぁ、違う違う、あのねお兄さん僕達事故があったからって言うからここにきたの」

「あ、あぁ、そうなんですっ、あの娘が車に轢かれそうになって」

「うんうん、それでねこれからあの子達の保護者に連絡して病院につれていくとして」

「はい」

「お兄さんはちょっと事故の話を聞かせてもらえないかなって思ってるんだけど」

「・・・・・・はい、わかりました」


 僕は優しげに話すも終始怖い顔をしている警察官に促されるままパトカーに乗り込み警察署につくと事の顛末を散々話し尽くした。

 ハルちゃんとフユミちゃんは救急車で病院まで運ばれその後顔を合わすことはなかったが、今日収穫できたものは非常に大きなものとなった。


 ようやく事情聴取が終わった所で、事故の時は真っ先に警察に連絡するよう注意を受け今日の所は家に返してくれるということなので警察署を出て、自宅へと直帰した。

 誰も居ないはずの部屋に「ただいま」と言いながら部屋にはいると、チクマが玄関前で僕をじっと見上げるようにして待っていた。


「チクマ、お前僕が帰ってくるのを待っててくれたのか?」


 そう言うと、チクマは勢い良く僕のもとに飛びついてきてプニプニとした柔らかい肌を僕の頬にすり寄せてきた。

 そんな可愛いチクマに擦り寄られる僕は、悪魔族という割には随分と温かい心を持っているチクマに感動して思わず涙がこぼれてきたしまった、そうだ、今までは帰ってきても誰も迎え入れてくれる人がいなくてさびしい思いをしたが今は違う、僕にはチクマという愛すべき存在がいるんだ・・・・・・チクマ、僕はお前を一生大切にするからな。

 なんてこと思っていると、まるで僕の帰りを見ていたのかと思う位のタイミングでインターフォンが鳴り響き、僕は思わず肩をすくめた。

 まさか、とは思いつつも僕は恐るおそる玄関を開けると、そこにはいつもニコニコ笑う女が大きな皿を持ちながら「こんばんは」と元気よく挨拶してきた。


「こ、こんばんは」

「あれ、加藤さんおつかれですか?」

「まぁ、ね・・・・・・」

「今日は鯛ですよ、鯛」

「あぁ、鯛ね」

「はい」

「・・・・・・え?」

「はい、おすそ分けです」

「な、なんだよ鯛めしって、あれか俺を何か変なことに巻き込もうとしているとか、だまそうとか考えてるんだろう?」


 そう言うと胡麻は不思議そうに首をかしげた。

 なんだか一人もりあがってしまったことを反省しつつもさすがに鯛めしを。しかも、ここ最近ほぼ毎日と言っていいほどおすそ分けをもらっている僕はなんだか申し訳なくなって表情を歪ませるた。


「もしかしていらなかったですか?」


 しかし、そんな僕の感情を読み取ったのか、胡麻は僕を見上げながらまるで「もらってくれないんですか?」と言わんばかりの彼女は非常に巧妙で悪質な上目遣いを用いて僕の心を撃ちぬいた。


「な、なにいってるのさこんな美味そうなものもらう他にすべはないだろ?」

「はいっ、たくさん食べてください」


 そう元気に言った彼女は僕に皿を渡し手を振りながら玄関を閉めるまでその場を動くことはなかったかと思えば今にも閉まりそうな扉の間に足を入れてきて玄関は閉まること無く少しあいた隙間から笑顔の胡麻の顔が覗きこんできた。


「な、何?」

「昨日」

「え?」

「昨日、何度かお尋ねしたんですがお留守みたいでしたけど、どこか行かれてたんですか?」


 何やら胡麻は真剣な表情になり、僕の額からはじんわりといやな汗が噴出し始めた。


「あ、あぁ、まぁ色々とね」

「帰ってこられる様子もなかったですし」

「え?」

「お部屋の中に確実にいたはずなのに・・・・・・もしかして私のことがめんどくさいって思ってたり」

「そ、そんなわけないじゃん、隣人がこんなにかわいい子で、おまけにおすそ分けしてくれる子をめんどくさいなんて思うわけ無いじゃん」


 僕がそういうと、胡麻は「そうですか」とそれはそれは満面の笑みで言った後、少し乱暴に玄関の扉を閉めた。

 いや、しかしなんだろう胡麻は計り知れない怖さというか、狂気を感じるのは僕だけだろうか?それに管理人さんみたいなこと言い出すし・・・・・・大体、小声で聞こえないようにいっていたかもしれないが、僕が部屋にいることを確認していたり、帰ってくる様子を確認している辺り、彼女は俗にいうヤンデレという部類、いやデレた所を見てないからただの「病んでる少女」いや「ストーカー」という類なのかもしれない。

 二次元でよくある展開のようで少し位わくわくするのかと思っていたが実際あんなふうに言われるとさすがに可愛い女の子でもちょっと引いてしまう、今度からはできるだけ彼女には親身に接する方が身のためなのかもしれない。


 しかし、実際問題、事情聴取がめんどくさすぎて帰りに夕食を買うの忘れてたから、ありがたいのはありがたい、ただ、こうなってしまえば本格的に胡麻に対してお返しを考えないと非常にまずい状況になってきている。決して裕福ではない学生生活のなか一体どんなものをお返ししたら良いだろう?


 有名店のお菓子?それとも商品券?


 だめだ、僕の経済状況的に駄菓子の詰め合わせくらいしか彼女にプレゼントすることは出来ない。

 そんな情けない僕は、もう彼女に合わせる顔がないと思いつつも向こうから顔を合わせてくるので僕に逃げ道はない。

 なんで事を考えながら今日の目的であったチクマの大好物であるちくわを取り出し与えると、嬉しそうに飛び跳ねながら今すぐにでも包装を剥がしてほしそうに僕に懇願してきた。

 僕はすぐに包装を開いて中に入っているちくわを口元に持って行くとチクマは大口を開いてちくわを噛みちぎって食べた。


 まぁ、そんなチクマだかちくわだかよくわからなくなってきた所で、僕は今日出会ったハルちゃんと呼ばれた少女のことを思い返していた。

 ついに見つけた念願の彼女、しかし、彼女の様子は僕が想像していたものとは全く違っていた、暗く、そしてどこか気の抜けた、まるで魂が抜け落ちた様な彼女、そんな彼女の様子に僕は魔王として彼女たちをひんむいた時のことを深く後悔した。

 あの時、僕が素直にやられていれば、もしもあの時僕が彼女たちをひんむいていなかったとしたら、僕は彼女たちのあんな姿を見ることはなかったのかもしれない。

 もしかすると、僕が魔王として魔界の召喚されそして魔法少女を追い返したこと、それは彼女たちに多大なる不幸をもたらしていたのかもしれない。


 そう思うと不思議と僕が魔王でいることや世界の破壊を願ったことに急に恐怖感を抱いてしまった。


 しかし、そう思いながらもやはり様子のおかしい彼女ら四人を見ていると、どうにも彼女たちの魔法少女としての役割に疑問を感じてくる。

 それに、僕が理解していないだけかもしれないが、彼女らはどうして魔界を侵略しようと思っているんだろう、彼女たちは何か魔界に恨みでもあるのだろうか?

 いや、王道の物語的には魔王を倒すことが目的だからそれは間違いないと思うんだけど・・・・・・そうだとすると僕が聞かされていないだけで魔界にいるライトやキルティアさんは悪いことばかりして様々な方面に迷惑かけている事になる。


 やはりここは一度魔界にでも行ってその辺りのことを詳しく聞いてみることが必要なのかもしれない。そう思いながらもらった鯛めしをがむしゃらに頬張り胃の中へと流し込んだあと、僕はすぐに夢の中へと誘われるように眠りについた。

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