キミロリコン?
そんな笑う女と管理人さんとの晩餐会を終えた次の日、魔法少女のためとはいえ、大学のない日にまでわざわざ登校する事に抵抗を覚えた僕は怠慢という欲に抗うことが出来ずだらだらと過ごしていると、いつの間にか週末を迎えてしまっていた。
初回授業だからどうせ大したことを話さないだろうと思ったから休んだけど、こういう感覚は大学生としてかなり間違っているのかもしれない。
それに今思い起こせば秋葉ちゃんに逃げられてからもう3日くらい会ってない・・・・・・
この間は秋葉ちゃんにすごい勢いで逃げられちゃったし、図書館にも行けてないなぁ、元気してるかなぁ秋葉ちゃん?
それにあの一緒にいたナツミちゃんって言う子も気になる。そう言えばナツミちゃんは野球のユニフォームを着ていたけど、彼女は野球をやっているんだろうか?
もしかして、エースで四番をやっている超絶小学生だったり、なんてことを考えていると、俄然興味がわいてきた僕はそんなナツミちゃんとの接触を図るためにシャワーを浴びた後、大学に向かうことにした。
ナツミちゃん接触の際に有効となるように服装は身バレを防ぐためにさながら野球部のスカウトのような出で立ちで大学へと向かうことにした・・・・・・まぁ、いざと慣れば学生証があるし、何位も問題はないが、確実に警備員に引っかかるかもしれないのは非常に面倒だ。
しかし、この原動力を続けて使うことはでいないものかと自らの怠慢を反省しながら玄関を飛び出し大学への道中珍しく笑う女こと胡麻に出会うこと無く、久々に何事もない日常をかみしめていると、ふと僕のパーカーのフードになにか違和感を感じた。
僕は虫でも入ったのだろうかと、内心焦りながらフードを確かめると、何やらプニプニとしたものが入っていた。
まさかとは思い、僕はそのプニプニとしたものを掴み取り出すと、手の中にはプニプニと僕の指を跳ね返すほどの弾力を持ったチクマが元気よく手の中ではねていた。
僕は思わず、チクマの名前を叫ぶと、周りにいた人たちが一斉に僕のことを見て不審がった。そんな今にも警察でも呼ばれそうな状況の中僕はいそいそとその場から離れ、人のいない所まで来て改めて手に握っているチクマを見ると、チクマはまるで、「付いて来ちゃった」と言いたげに僕を見上げて、そんな姿に僕は思わず笑ってしまった。
まぁ、滅多なことがなければばれないだろうとふんだ僕は再びパーカーのフードにチクマをいれて、とりあえず大学へと向かうことにした。
大学へと向かう途中附属小学校の大学と何ら見劣りすることない設備に羨望の眼差しを向けながら僕はひとしきり小学校内を歩いていると、何やらグラウンドで騒がしい声が聞こえてきた僕は、その声に釣られる様に声がする場所を目指し歩いた。
それにしてもすごい設備だ、僕が小さい頃はこんな設備が良い所一つもなかったっていうのに。
そんな事を思いながらグラウンドの到着すると、様々な野球器具に多くの少年たちがグラウンドで打って走って投げていた。しかし、野球をしているのはさわやかな小学生男児ばかりで、ナツミちゃんらしき子をみつけることは出来なかった。
そして保護者様に作られているのか、近くにある観覧席では僕同様にサングラスを掛けたスカウトらしき人間たちがたくさんキており、さすがは有名校の野球部だけはあるんだなと感心した。
しかし、このまま少年野球を見続けるっていうのもわるくない所なんだけど、やっぱりお目当てはナツミちゃんだからなぁ。
なんて思いながらひたすら目を凝らしていているのだがやはりナツミちゃんらしき姿は見当たらず僕は少し落胆しながら、ぼーっと野球少年たちを眺めていた。
そんな時、突然背後から声を掛けられた僕は驚いてすぐに声のする方へ向くと、そこにはナツミちゃんが肩にバットを担いで、バットの先にはグローブを差し込んでいるというまるで昭和の野球小僧の様な出で立ちで立っていた。
「なぁ、自分何やってんの?」
「え?」
「ここ小学校のグラウンドやけど何やってんの?」
「あ、スカウトだよスカウト」
思わぬ登場に動揺しつつも僕は咳払いをした後ナツミちゃんに自己紹介をした、どうやら今のところ僕が昨日出会ったやつだとは気づいていないようだ。
「ストーカー?」
「違う」
「なんや、そこはノリツッコミでもせんと」
「ノリツッコミ・・・・・・」
「まぁええわ、自分スカウトなん?」
「う、うん、ほらあそこにも同業者がたくさんいるだろ、僕も将来有望な子どもを見つけに来たのさ」
僕がそういうと、なつみちゃんは何やら怪訝そうな顔をしたかと思えば、僕が指さした方向を見たあと、ゆっくりと僕に視線を戻してきた。
「あれ保護者やで」
「保護者?」
「せや、うち有名校やさかい有名人や金持ちのおとんとおかんが格好つけてサングラスしとるだけや」
「え、あれ?」
改めて自分が通う学校の大きさを自覚した僕だったが、だとすればスカウトというのは かなり怪しい設定だったのかもしれない、そう思いながら目を逸らしているナツミちゃんの横をこっそりと逃げ出そうと思ったのだが、ナツミちゃんに突然腕を掴まれてしまった。
「なぁなぁ、自分スカウトなんやったらうちのピッチング見てや、うちセンスあると思うんやけど」
「えぇっ?」
ナツミちゃんは僕のような怪しいスカウトを一切疑わずに、半ば強制的にグラウンドの端に連れて来られた。
「ちょっと、君は」
「うち青空 夏海言うねん宜しくな、あ、あと夏海でええでストーカー」
「スカウトだっ」
「あはは、いくでー」
そんな夏海ちゃんに手を引かれグラウンドへと足を踏み入れた僕は野球少年たちが練習する場所とは正反対に位置する、場所にあるバックフェンスにきた。
そして夏海ちゃんはバックフェンス際の壁に向かってボールを投げた。
きれいなフォーム、まっすぐと球持ちの良い球を投げる彼女は確かにセンスがあるように思えた。
「結構いい球な」
「せやろ、へへへ」
そんな、楽しげにボールを投げる夏海ちゃんの姿を見ていると、不思議と自らの少年時代を思い出してしまった。
ろくに友達のいない小さな村で、いつも一人で野球ボールやサッカーボールで一人遊びをしていた。暇さえあれば色んなスポーツに取り組み、事あるごとに全力疾走していたあの頃。
そんな、過去の話をしてナツミちゃんと自分の姿を重ね合わせてしまったが、彼女の場合はきっと友達はいるだろうし、僕のようにはならないと思う。
だけどなんだか今の彼女をみているとどこかつまらなさげな顔をしているように見えて仕方がない。
「あのさ」
「ん、何?」
「一人で野球やって楽しい?」
「・・・・・・おもろない」
少し考えてからそう答えた夏海、そうか、おもしろくないか・・・・・・
僕は思う、彼女なら遥か遠くで野球に熱中している男子たちに混じっても大丈夫なくらいのものを持っていると思う。
「じゃあ、なんで一人で野球やってんの?あそこで練習してる男子たちに混じっても大丈夫そうだけど」
「何が大丈夫なん?」
「いや、運動神経良さそうだし、身体の使い方が上手いなと思って」
「あ、あっそ・・・・・・っていうかあんな奴らと一緒に野球やってもおもんないねん」
「面白くない?」
「あんな連中と一緒に野球やってもおもろない、あいつらレギュラー争いに必死でおもんないっ」
なんだかよくわからないが、ぷんすか怒りながら地団駄を踏むナツミちゃんはちょっと可愛かった。
しかし、大概にしてスポーツというものはそうやってレギュラー争いが行われるものだけど、ナツミちゃんはそういうのが嫌いなんだろうか?
「あいつらはレギュラーになることだけが目標で、ちゃんと野球をやってへんのや」
「じゃあ夏海ちゃんはちゃんと野球してんの?」
「せや、うちはちゃんと野球をやっとるし楽しんでる、何事も楽しくないとアカンのや、楽しんだ奴が結局一番野球やっとるんや」
夏海ちゃんは腕を組みながら頬をふくらませていた。
「ふーん」
「せや、キャッチボールしようやストーカー」
相変わらず僕を犯罪者的な呼称で呼び、そんな夏海ちゃんに呆れながらも、とてもキラキラとした目でそう言った彼女に僕は少し付き合ってみることにした。
「でも、グラブがない」
「大丈夫や、うちが思っきり投げるからストーカーはキャッチしてや」
そう言って夏海は使い込まれたグローブを渡してきた。
「使っても良いの?」
「ええよ、その代わりちゃんとキャッチしてや」
「・・・・・・オッケー」
そう言って僕と夏海ちゃんはキャッチボールを始めた。
終始ニコニコとしながら僕に球を投げてくる夏海ちゃんの球は同年代の女の子とはかけはなれた球威だった。そんな彼女の球筋からは、かなりの運動センスとグローブの使い込まれた様子からの努力を感じることが出来て僕は思わず感心した。
「夏海」
「なっ」
僕が彼女の名前を呼ぶと夏海はボールをすっぽぬけさせた。
「え、どうしたの?」
「なんでうちのこといきなり呼び捨てすんねん」
「いや、さっき夏海で良いって言ったし」
「せ、せやったな、で、なに?」
「夏海は野球を一緒にやる友達とかいないの?」
「・・・・・・おる、でも最近あんまし遊んでへん」
「喧嘩でもしたの?」
「ちゃう、みんな遊ぶ元気がないみたいや、だらしないやろ子どもやのに」
秋葉ちゃんの一件で夏海ちゃんのこの言葉は、より秋葉ちゃんと夏海の魔法少女であることを確信付ける理由となっているような気がするが、そこはやはり彼女たちが本当に魔法少女になっている姿や、彼女たちがこの世界では異質な言葉を用いている姿を見なければ彼女たちが本当の魔法少女である確信にはならない。
「元気がないねぇ」
「まぁ、うちは元気やさかいこうして遊んどるけどな」
夏海ちゃんはそう言って笑った。そんな笑顔をみせた夏海ちゃんだったが、その笑顔は少し曇っているように見えた。
「そうか、何なら僕がこれから毎日夏海の球を受けてやろうか?」
「え?」
「友達元気になるまで夏海の球を受けてやろうかって言ったの」
「ホンマに?」
夏海は僕の冗談交じりに言った言葉をに随分と興味を示しているようだった。
「あ、あぁ、ここにきたら夏海はいるんだろう」
「おるー、ほな明日も来てなストーカー」
「・・・・・・あぁ」
そう言うと、夏海は少し意地の悪そうな顔をした後、ニヤッと笑ったかと思えば「いくでー」と威勢のよい言葉を吐いた後思い切り振りかぶってボールを投げてきた。
しかし、そのボールは力んでしまったのか胸の位置に構えたグラブの遥か上を行く軌道で飛んでいった。
「あ、ごめーん」
そんな気の抜けた声と共に飛んでくるボール、僕はそんなボールに自然と身体が反応して遥か上を駆け抜けるボールをジャンプしてキャッチすると、夏海ちゃんが「すごっ」という声を耳に入ってきた僕は少しだけ気分が良くなった。
そんな、ちょっとした大人の実力を子どもに披露した後、僕はドヤ顔でも決めてやろうかと思ったが、夏海ちゃんは口をぽかんと開けながら僕にむかって指を指していた。
「え?」
「じ、自分、もしかしてこないだのロリコンかっ?」
どうしてバレたんだろう、そんなことを思いながら、僕は目元にあるはずのサングラスをさわろうとしたが、僕の指にサングラスの感覚を感じとれなかった。
そして地面に転がっているサングラスを僕はいそいで拾い上げてかけ直して夏海に向かってニッコリと笑顔を決めた、が、夏海は完全に僕を疑いの目で見つめていた。
そんな夏海は僕に近づいて来たかと思うと、ニット帽とサングラスをジャンプして奪ってきた。
「あっ」
「・・・・・・ホンマにロリコンやった」
ニット帽とサングラスを抱えて夏海は少し怯えた様子で僕を見てきた。
「自分もしかしてうちにも変なことしようとか考えてんのやろ?」
「違う、この間だって秋葉ちゃんに何もしてないって証明したろ、僕は君たちになにもしない」
「思い返せばどっかで聞いたことのある声やと思ってけど・・・・・・」
少し涙目の夏海ちゃんは今度は「あっ」と大きな声を出したかと思えば僕の手にはめられているグローブに手を伸ばし必死に引き抜こうとしている。
「か、返してや、自分うちのグローブ付けて変な事考えとるやろ」
「なっ、夏海から僕に貸してくれたんだろ」
「そ、それは自分がスカウトやって言うたから信じて貸したっただけや」
夏海は僕から中々外れないグローブを取り返したと同時にその反動でゴロゴロと転がりながら僕の元から離れた。
「はぁはぁ、グローブやっと返ってきた」
「そんな必死にならなくても普通に返すのに」
「あかん、どないしよこういう時は・・・・・・はっ、警察や」
「け、警察?」
「せや、ロリコンは警察に・・・・・・」
そう言いながら見たこともないような携帯を取り出した夏海ちゃんは何やら番号を打っているように見え、僕はすぐさまその場から逃げ出すことにした。
ただひたすらにひと目を気にすること無く僕は走り続け、しばらく逃げた後で、後ろをふりかえるとそこに夏海ちゃんの姿は無かった。
そんな、彼女が追いかけてきていないことを悟った僕は一旦走るのをやめて近くにあったベンチで一休みすることにした。
くそ、夏海ちゃんは一見活発そうな元気印の女の子だけど、どうも、一度走り出したら止まらないタイプでちょっと厄介だ。やっぱり魔法少女の情報を得たいなら秋葉ちゃんが一番効率的で一番癒やされるかもしれない。
「大体、キャッチボールしてただけで子どもに警察を呼ばれるような世の中って、本当世も末だな」
そんな呑気な事を呟いていると、突然背後から「ロリコン」言葉が聞こえてきて僕は聞こえてきて僕はすぐ振り返った。いつの間にか追いついていた夏海が僕の背中に立っていた。
「堪忍しーや、ロリコン」
「まさか、本当に警察を呼んだとか?」
「せや、ロリコンはこの世にはいたらあかんのや」
「ち、違う僕はロリコンなんかじゃない、警察はやめてくれ」
「あかん、罰金100万円と懲役」
「小学生とキャッチボールしただけで?」
「小学生女児とキャッチボール出来るだけで100万なんて安いもんやろ」
確かに・・・・・・という言葉をいいたくなったが、ここは冷静に考えてキャッチーボールで100万は明らかにぼったくりだ、いや、関西弁を使いこなす彼女のことだから100万円も実は百円だったり
「ゆるしてくれ、100万なんて金は僕には用意できない」
「近くにあるニンマリ金融で金でも借りてきたらどうや?」
「だ、だめだあそこから人相の悪い奴らが出入りしているのを見かけたことがある、そんな所で金を借りたら僕は確実にバラされる」
わらにもすがる思い出ベンチから離れ小学生の夏海に平謝りする僕ははたから見れば相当行かれたやつなんだろう、しかし、そんな事に構ってもいられない僕はただひたすら頭を下げることしか出来なかった。
しかし、この現代で子どもを相手にするということはこういうことなのだ、僕はあまたのニュースを見て知っている、男性にとってこの世で一番怖いのは女と子どもだということを・・・・・・
「しゃーない、ほな、代わりにジュース奢って」
「は?」
一体何を言われるのかと期待、ないし覚悟をしていると、夏海はそんなことを 言い出した・・・・・ジュースを奢れ、100万円ではなく?
僕は顔を上げて夏海を見ると彼女の頬には汗が滴っていた、おそらくここまで 追いかけてきた時に書いた汗だろう、彼女は腕でその汗を拭いながら僕を見下ろしていた。
「なんか、今日は妙に熱くて汗かいたから水分補給したいねん」
そんな汗をかいている夏海の姿を見て、まぁ、ジュースぐらいで許されるならと思い、ちょうど近くにあった自販機に千円札を入れてスポーツ飲料水を買って渡した。
すると夏海は「ありがとう」といったあと、まるでCMのように喉を鳴らしながら気持ちのよいの飲みっぷりを見せてくれた。
そんな見事な飲みっぷりを見た僕はなんだかほっこりとしたと同時に警察に連絡されていないことを安心してため息が出た。
「どないしたん?」
「いや、本当に警察にお世話になるんじゃないかと思って」
「ははは、ちゃんと通報したに決まっとるやん」
「はぁっ?」
「うそや」
「はぁ」
僕はため息をついて、夏海は腹を抱えながら高笑いしていた。
「あはは、おもろいなぁロリコン」
「からかうのはやめてくれ」
「こんな笑たん久しぶりや、芸人なれるな」
「芸人っていうのは気まぐれで慣れるようなもんじゃないし、なろうとも思わない・・・・・・あと、ロリコンって言うの止めて」
「でも、大人が子どもと遊んどるとロリコンになるんやろ」
「違う、子どもと遊ぶ大人は大人じゃない、子どもなの・・・・・・そしてロリコンっていうのを止めて」
夏海ちゃんはそんな僕の言葉に首をかしげながら険しい顔をした。
「せや、言うたかてうち自分の名前知らんもん」
「あ、そっか」
「うん」
そう言えばそうだ、僕は全くもって彼女たちに自己紹介をしていなかった、いや、もしかすると名前は伏せていて方が後々めんどうなことにならずにすむかもしれないし、名前を知らないほうが、お兄ちゃんとか、兄ちゃんとか、お兄さんなんてそういう萌える単語を発してくれるかもしれない。
だが、実際問題僕のことをまともにお兄ちゃんとかそういう理想的な言葉をリアルの少女が発してくれていないことを察するに普通に名前を教えたほうが自然なのかもしれない・・・・・・さぁ、どうしようか?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そんな妙な間を作ってしまった僕は色々考えるより、ここは素直に名前をいうべきだと判断し何のひねりもなく本名を名乗ることにした。
「加藤、加藤 楼」
「カトウ、ロウ?」
「うん」
「ロウってどんな漢字?」
「木へんに米、その下に女がついてろうって読む、うちの父親が米と女が好きだからこの名前になった」
「変な名前・・・・・・なんや米と女が好きって」
「ほっとけ」
「・・・・・・」
僕に変な名前と言った夏海はなにやら急に黙りこくり、僕の隣に座ってきた、何だ、人のことをさんざんロリコンとか言っていたくせに隣に座ることは出来るのか?
「ロリコンの隣に座っても大丈夫なの?」
「ジュース奢ってもらったしロリコンの称号は取り消されたんやで」
なんだそれ、めちゃくちゃちょろいじゃないか小学生よ、ジュース一本でいともたやすく僕を信用するなんて、親や先生から言われなかったのか、何かもらっても知らない人を信用するなと。
そんなちょろいのか素直なのかわからない夏海は何やら顎に手を当てて何か考え込んでいる様子だった。
そんな、夏海を横目に僕はベンチで空を仰ぎながらボーっとしていると、夏海が急に声を上げ、僕は思わずベンチから立ち上がって身構えた
「なに?」
「いや、なんでもない」
「なんだ・・・・・・ってか、さっきから何考えてんの?」
「いや、なんて呼んだらええんかなって思って」
「僕のこと?」
「うん」
「あぁ、別になんでも良いよ」
「ロリコンって、響きがええし呼びやすいよな」
「それ以外でお願い、大人達に変な目で見られるから」
「うーん、じゃあ・・・・・・楼兄」
「え?」
「楼兄」
「もう一回言って」
「は?・・・・・・楼兄」
まさかのお兄ちゃん発言に内心興奮しつつも夏海から兄と慕われる呼び方をされたことに喜んでいると、夏海は急に立ち上がった。
「やっぱ、呼び方なんてなんでもええわ」
「そ、そんな・・・・・・」
「ほな、またなロリコン、あ、またキャッチボールしよなー」
そういいながら最後の最後に再びロリコンという名前に戻ってしまった僕を背に元気に走り去っていった夏海、どうやらロリコンロリコンとは言いつつ元気印の彼女はこれからも僕と仲良くしてくれそうでひとまず安心した。
そんな彼女の背中を見ながら、生意気だけどああいう元気な子も秋葉ちゃんのようなおとなしい子とはまた違った可愛さがあるなと思いつつグラウンドをあとにした。
その後、僕は大学内をひと通り探索した後、秋葉ちゃんがいるかもしれないと思って入った図書館では必死に勉学に励む生徒しか見当たらず今日の収穫は夏海によるお兄ちゃんコールのみとなってしまったが、それはそれで大きな収穫だと思った僕は今日の晩飯を考えながらコンビニに立ち寄り、帰宅した。