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隣人は笑う女1

 図らずも運命的な出会いをした僕は普段はしないような鼻歌を歌いながら帰宅していた。


 すると自宅玄関前に、なにやら人が立っている事に気づいた僕は、そんな怪しげな影を物陰に隠れながら観察していると、その人はどうやら昨日から妙に僕に固執してくる笑う女だと判明した。


 間違いない、引き締まった身体とまるで人形のように長い髪、そしてなによりもそのスタイルの良さを魅せつけるかのようなタイトで露出的な服装。


 我ながら、良く笑う女のことを覚えているものだと感心しながら玄関前で何やら怪しい行動を取る彼女の動向を見ていると、どうも彼女は玄関に備え付けられている僕の表札を手でなぞっているようだ。


 なんなんだ、一体、何が目的ででそんな表札を触ろうと思うんだ?あれか、表札フェチか、表札のくぼみが好きすぎてつい触っちゃうっていうやつか?そんな馬鹿げたことを考えていると何やら笑う女は一つため息をついた素振り見せた後、自宅へと戻っていった。


 僕はそんな彼女が玄関を締め終えた様子を見計らい、すぐに玄関前の加藤という表札に何かされていないか確認した後、静かに自宅に入った。

 そんな僕は部屋に入り人お生き付いていると、チクマがピョンピョンと跳ねながら僕のもとに飛んできた。


 チクマはまるでイヌのように僕に擦り寄ってきて、ぷにぷにとした感触に僕は癒やされた、あぁ、ペットを飼うのってこんな気分なんだろう。

 そう事を思いながらじゃれつくチクマをあやしたあと、僕はチクマと共にシャワーを浴びてさっぱりすることにした。


 これといって汗をかいたわけでもないが、今日は図書館でナツミちゃんこと魔法少女(仮)にえらい目に合ったから体中に色んなモノがついていて気持ち悪い。全く、僕が小学生のころも思っていたけど、どうして小学生の女子というものは暴力的で男勝りなんだろうか?


 そのくせ中学生や高校生になるとまるで別人、まるでライオンが猫になったかのように変貌した女子達はおとなしくなり、男に対し恋心や下心を見せるようになる、それは男子にも同様に言えることなので、決して女子を非難しようとは僕は思っていない。


 だが、僕が経験してきた学園生活ではその様子が見て取れた、もちろん個人差はあるが、カップルができるということは、それだけ恋心と下心であふれている証拠であり、それだけ人間が一番動物的になる時期なんだろうと思う。


 そんなことを考えているとせっかくの今日という素晴らしい日を台無しにしてしまう思った僕はそうそうにシャワーを浴び終え、今日の成果を一応ライトに伝えようと思いチクマにライトの名前を伝えると、チクマはぷるぷると震えだしたかと思えば、すぐさまライトの声が聞こえてきた。


 キルティアさんの時はもうちょっと時間がかかったのに・・・・・・


「どうかなさいましたか魔王さまっ」

「いや、そんな緊迫した感じじゃなくていいんだけど」


 相変わらずの大声で、思わず僕は耳を閉じ壁を見つめた、大丈夫かな壁ドンされないかな?


「魔王さまからのご連絡受けて私ライトは大変に嬉しゅうございます」

「あー、うん、それでさ一応今日の成果でも伝えとこうかなと思って」


「魔法少女について何かわかったことがありましたか?」

「うん、多分魔法少女であろうの二人と接触したんだけど、まだ魔法少女って確定したわけじゃなくて」


「いえいえ、さすが魔王さま、瞬時に魔法少女の正体を突き止めるなんて、大変素晴らしい」

「そう?」

「そうでございます、何なら今すぐにでも魔王さまの・・・・・・はっ」


 ライトは何かを思い出したかのように奇妙な声を上げた。


「どうしたの?」

「ま、魔王さま申し訳ありません、少し急用ができましたので、通信を切らせていただきます」


「別に、いいけど」

「申し訳ありません、失礼しますっ」


 そう言うと、乱暴に通信が切れてしまい、そんな乱暴なやり方にチクマはなんだかぐったりとしていた。それにしてもライトは急にどうしたんだろう、かなり急ぎのようだったみたいだけど何か重要な事が起こったのかな、それともまたキルティアと喧嘩でもし始めたのだろうか?


 そんな事を考えながら、僕はいつの間にか眠りについてしまった。


 翌日、僕は部屋中に響き渡る電子音に目を覚ました、まだ 目を覚ましたばかりなので、一体誰がぼくの睡眠を妨げているのだろう、そんな事を思っていると、部屋中にインターフォンの音が鳴り響いていることにようやく気がついた僕は、寝ぼけながらもすぐに玄関に向かい、扉を開けた。


「はい」

「おはようございます」


 目の前には、笑う女が立っていた。


「新聞の勧誘は結構で」

「違いますっ」


 そう言って扉を締め用途すると、さすがに昨日の今日で学習したのか、彼女は突然、僕の部屋に押し入るように身体を近づけてきた。


「ちょ、待てって」

「えへへ」


 なにをしても笑っている笑う女に少しばかりの狂気がみえかくれしたところで、バッチリ目を覚ました僕はようやくはっきりとした意識の中、笑う女を見た。目をこすりながら笑う女を見ると、彼女は手に鍋のようなものを持っていた。


「何?」

「実は、おかずを作りすぎちゃったみたいなので、よかったら」


「おかずを作りすぎた?」

「はい」


 おいおい、朝だぞ、そういうのって普通夕飯時にするんじゃないの?ほら、よくアパートに一人暮らしで住む独身のサラリーマンがつかれた身体で家帰ってきて、「あぁー、飯作るの面倒だな」って言ってる時に持ってくるやつじゃないのか?


「あはは、いま朝だよね」

「そうですよ、朝はしっかり栄養を摂らなっきゃって思ってたらつい、作りすぎちゃいまして」


「僕はいいんで、他の人に・・・・・・」

「あげました」


 笑う女は僕が喋り終わる前に喋り出したかと思えば、常に笑っている瞼の隙間から妙に迫力のある目玉が見えて僕は思わず腰が抜けそうになった。


「い、いや、嘘つかなくていいから」

「あげました、みんな喜んで私の料理を受け取ってくれました」


 笑顔でそう言う笑う女は妙に威圧感があるというか、なんと言えばいいのやら。僕は結局、難を逃れるためにとりあえず笑う女からおかずの差し入れをもらいうける事にすると、彼女は僕が鍋を受け取った途端、常時笑顔の彼女が更に笑顔を強めて笑い、「では」と言い残し部屋を出て行った。


 あぁ、結局もらっちゃった、まぁ、ちょうど昨日からなんにも食ってなかったし頂くか・・・・・・そう思い鍋の蓋をあけると、そこには僕の大好物のにんじんとじゃがいもの煮っころがしが入っており、僕は思わず生唾を飲み込んだ。


 僕はすぐさま冷凍ごはんをレンジでチンして、朝食を摂ることにした。そして、まるでできたてのような煮っころがしにを僕は口に含んだ。うまい、そのひとこに尽きた。


 くちで煮転がしをあじわいながらすぐさまごはんをかきこむと言葉に出来ない快感と満足感でいっぱいになった。この所まともな料理なんて食べてなかったからか、手料理が非常に美味しく感じ、僕はあっという間に鍋の中をからにして、腹を叩きながら胃が満たされたことを実感した。 


 それにしてもうまかった、なんだか実家の味をおもいだすようなあじつけだったな、たぶんだしがきいてるんだろうけど、それにしてもあの笑う女料理がうまい。


 意外や意外、おすそ分けをもらったのは成功だった、またおすそ分けしてくれないかな、なんてのんきな事を考えていると、ふと、今日は大学の授業日だったことを思い出した僕はすぐに大学へでかける準備を始めた。


 そして家をでる際、何やらチクマが連れて行ってほしそうに擦り寄ってきたが、さすがにこんな日現実的なUMAを世間にさらすわけにはいかないと思った僕は断腸の思い出玄関の扉を閉めて鍵を閉めた。


 悪いチクマ、帰りにはお前の大好きなイワシちくわを買って帰ってやるからな。


 そう思い、僕は勢い良く玄関を飛び出した、幸運なことに今日はとなりの笑う女に遭遇すること無く大学へのみちのりを進むことができたが、ついつい後方を振り返っては誰かがつけてきていないかを確認するあたり僕の心には笑う女という存在ががこびりついてしまっているようだ。


 しかし、そんな思いとは裏腹に今日は特に変わった様子は無く大学にたどり着いてしまった、僕は安心したがどういうわけか笑う女がいてくれれば・・・・・・なんて妙な妄想を繰り広げてしまった。


 ひとまず、僕は大学で履修しなければならない科目を受けるためにだだっ広い教室に入った。


 中ではすでに多くの学生たちがざわざわと喋りながら笑っている、よほど友達と授業を受けるのが楽しいであろう彼らは常に教室後方の席を陣取ったり、コンセントが近い所に座っては携帯を充電しようとする人たちで一杯だ。


 そんな中僕は教室のどまんなか最前列から数えて二番目の列に座った、そんな状況は上からみれば僕がたった一人で敵軍に立ち向かう勇者のように見えなくもない・・・・・・まぁ、あるひとからすれば僕は魔王らしいけど。


 ともかく、一番前の二列目、ここに座る理由は、授業が終わればすぐさま教室から抜け出せること、後は配布物や出席票なんかを提出するのには最適な場所だ。


 ただ、問題は僕の後ろに座るような奴がいないこと、配布物を貰えば、すぐさま僕が立ち上がりわざわざ後方の人間に渡しにいかなくてはならない、そこが問題だ、と思いふと視線を後ろに向けると、そこにはひじを付きながらにこにことした顔で僕を見つめる笑う女の姿があり、僕はゆっくりと、そしてさり気なく顔を前に戻した。


 いや、まて、たしかにこの授業は必修だから学年が下の子がいるのはわかるんだけど、どうして笑う女がここにいるんだ?


 たしかはいってきたときはここにいなかったはずなのに、あれか、僕の姿を発見したから前に来たとかじゃないだろうな?


 そんなことを思っていると、授業のチャイムが鳴り響き講師が偉そうに入ってきた。


 笑う女を背に僕は緊張の面持ちで、どうか、今日はワークショップが内容に、配布物がないようにと頭の中で呪文を唱えた。


 大丈夫だ、僕はこれで魔界へといくことができたんだ、ワークショップをなくすことぐらい容易いはず。


 そう思いながら目をつむっていると、授業開始早々ワークショップを始めるといいだした講師を僕は睨みつけた。

 そして講師はワークショップ用のプリントを渡してきた、そんな講師の顔が心なしかニヤついているように思えたのは僕だけだろうか?


 僕は配られたプリントをなるべくうしろを向かないように器用に渡した。

 大方配り終えた様子をみはからってか、講師が「自身の結婚観と結婚相手に求めるものを3つ書いて、互いに意見交換してください」と言い放った。


 結婚観か、まぁ、結婚なんてどうせしないからこんなの考えても意味ないんだけど、一応課題だからな。


 そうだな、もしするとするなら、料理ができて、何かと世話好きで、あとはそうだ、小春ちゃんみたいな素敵な笑顔を見せてくれる人がいいな、そしてその人と25歳位に結婚して・・・・・・なんてことを思いながら思い思いのことを書き連ねた後、普段こういうワークショップの際にペアになってくれそうなぼっち男子のところへ向かおうとした所、突然肩を叩かれた。


 なんなんだ、なんでこんなにも僕に構うんだこの女は?


「は、はい?」

「あの、よかったら私の見てもらえませんか?」

「・・・・・・あはは、勿論いいですよ」


 ことわる理由が無い、結果僕はまうしろにすわる笑う女と互いの結婚観について意見交換することにして、僕が自らの結婚観を書いた紙を渡すと、彼女はまるで食い入るように紙を見つめていた。

 なんだろう、かなりの近眼なんだろうか、もし、そうなんだとしたら僕のことも誰かと見間違えているという可能性が・・・・・・


 なんて淡い期待を抱いたが、初対面の際に笑う女にちゃんと名前確認されていたことを思い出し先ほどまで抱いていた淡い期待はさながら泡のように消えていってしまった。

 そんな事を思いながら僕は笑う女の結婚観が書かれているであろう紙をながめると、そこにはこう書かれていた。


『私は二十歳になるまでに結婚して子どもを授かりたいと思っています、具体的には男の子一人と女の子一人の家庭が理想です。あと結婚相手に望むことは何もありません、私が相手のことを全力でサポートします。私は相手の望むことを全て受け入れ全力でその希みを叶えます。』


 はぁ、相手の事を全力でサポートするってなんか怖いな・・・・・・っていうか二十歳までに子どもって大学入ったのにそれで良いのか?

 そんななんだか不気味にも感じる事を書き連ねた笑う女は相変わらず僕の紙を熟読しているようだった、そんなに文章量はなかったはずなんだけどどこか変な所でも合っただろうか?


 ともあれそんな笑う女の紙に「とても良い結婚願望をお持ちだと思います」と、至って普通な意見を書いた後静かに笑う女の机においた。

 しかし、笑う女は僕の紙に必死に書いているようで、中々紙を返してくれない、そんな彼女を半ば呆れ気味に眺めていると、彼女は突然顔を上げたかと思うと満面の笑みで僕に紙を返してくれた。


 そんな返された紙を見ると底には裏面に大量の文字が書かれており、適当に目を通してみると「とても素晴らしい結婚観ですね」「私も子どもは男の子と女の子が欲しいです一緒ですね」「とても良い父親になれそうです」などなど、やたらと褒めちぎってくれている笑う女にやはり不気味さを感じざるを得なかった。


 さすがに全てを読むきにはなれず、かつ、笑う女の態度に恐怖を感じながら僕は机に突っ伏し、講義が終わるのをただひたすら待った。

 そして、救いとも呼べるチャイムが鳴り響き僕はすぐに教室を出る準備して、この耐え難い空間をぬけだそうとすると、突然肩を掴まれた。


 叩くとか、呼び止めるじゃなくして肩を掴まれたなんて初めてだ・・・・・・


 そして、どうして僕も反応してしまったのかわからないが、立ち止まって無意識に笑う女の方に目を向けると、笑顔で「美味しかった?」と聞いてきた。


「え?」

「朝、おすそ分けしたの美味しかったですか?」


 なんだ、こんな状況で朝にもらったおすそ分けの話をするのか?


「あ、あー、うん美味しかったよ」

「えへ、良かったです」


「う、うん、えへへ、じゃあー」

「あの、加藤さん良かったらこれからご飯一緒にどうですか?」


 時刻は12時10分確かに今から昼休みだが、どうしてだろう僕の口が勝手に「いいよ」と言いたくて仕方なくなっている。

 今までろくに大學学飯をしたことなかった僕にとっては最大のチャンス、しかし、ここで 笑う女に捕まってしまったら何かとんでもないことに巻き込まれそうな気がしてならない。


「どうですか加藤さん?」

「い、いーよー」


 女性にご飯を誘われるというなんとも貴重な体験に屈した僕はそのまま笑う女と運命的なランチタイムへと入る事になった。

 場所は移って大学内にあるカフェエリア、ここは昨日のカフェとは違ってカフェと言うより食堂よりとなっている。

 そして僕は今笑う女と対面する形で座っている、しかし、彼女は突然もじもじし始めたかと思うと、突然僕の左側に移動してきた。


「何でこっちきたの?」

「えへ、こっちが良いです」


 何が良いのか、全く理解できないでいると、突然「あーいたいた」という人生でトップスリーに入るくらい憧れているセリフが聞こえてきた。

 そんなこえが聞こえてきたらと思えば、僕と笑う女の目の前に隣に茶髪で、まるでキノコのような髪の毛をした男が現れた。


 ・・・・・・キノコは嫌いだ


 僕はそんなキノコヘッドに目を合わせないようにしてここに来るまでの間に買った缶コーヒーを一口飲むと、どうやらキノコヘッドは笑う女に用があるみたいだ。

 ま、あたりまえだな、彼女は新入生だし、色々引っ張りだこになりそうな容姿だから無理もない。


 と、思っているとなぜだか笑う女はわらうことをやめて真顔になっていた、その顔は何処なく凛としていて、なんだか思わず見とれてしまった・・・・・・これがギャップ萌えってやつか?


「君新入生だよね」

「はい」


「この間のあれ、どう?」

「バドミントンサークルのことですか?」

「そうそう、バドミントンサークル、どう、入らない?君可愛いから是非はいって欲しいな?」


 何やらドの部分を強調して言うキノコヘッドは容姿だけでなく喋り方だけでも嫌悪感がつたわってくる、大体何でバドミントンサークルの勧誘で容姿の話をするんだよ。


「えー、でも私サークルには興味ないですし」

「いいじゃんいいじゃん入ろうよ、絶対楽しいから、なぁ」


 そう言うと、後から付いて来たキノコヘッドの金魚のフン一号二号の男がニヤニヤとしながら近寄ってきて口々に「可愛い」とか「スタイル良すぎ」とか言っていた。


「他の一年生の女の子とかもいっぱいはいってるから友達も作れるよ」

「・・・・・・友達」


 友達という言葉に引っかかったのか、笑う女は少し考えるような素振りを見せると、そんな姿を見逃さなかった金魚のフンたちがサークル入会を迫ってきた。


 何なんだこいつら、まるで僕がみえてないように女に食いつきやがって、そんなに女がいいってのか、それしか脳がないのか?


 そんな、まるで発情したオスが子孫繁栄のためにメスに群がる様子を見ているよう状況に気分が悪くなった僕は口を開くこと無くただひたすら笑う女の姿を見ていた。


 そんな間にも笑う女を囲むキノコヘッドと、金魚のフン一号に豪はこれでもかと言わんばかりに喋り続け、そんなクソみたいな事を喋る男どもに笑う女はぎこちなく笑っていた。


「ね、入ろうよ、絶対楽しいから、ほら初めてでもしっかり、しっとり優しく教えるからさぁ」

「でも本当に興味ないので」

「大丈夫大丈夫、優しくするから、ひゃっははは」


 何がおかしいのかバカ笑いを始める金魚の糞二号、そんな笑い声に僕の耳はキーンと鳴った。


 最悪だ、もう今すぐこの場から逃げ出したい、そんなことを思っていると、キノコヘッドが笑う女の身体に触れながら無理やりどこかへ連れて行こうとしており、そんな行為に笑う女はただ流されるように立ち上がった。


 そんな、男三人に女一人が連れて行かれる様子を見た僕は心の奥底がグチャグチャに握りつぶされたような感覚に陥り、そして僕はいつのまにかバドミントンサークルの男たちを引き止めていた。


 そしてそんな言葉に金魚のフン一号が僕のもとに近寄ってきてヘラヘラと笑いながら顔を寄せてきた。


「え、なに、なんか用すか?」


 そんなことを言う金魚のフン一号の言葉を無視して、僕は笑う女の前に立った。


 僕が彼女の前に立つとを笑う女はさきほどまでの凛とした表情は何処へやら、急に満面の笑みを浮かべた。


「加藤さん?」

「あのさ、バドミントン興味あるの?」


「え、ううん」

「じゃあ、今の話を聞いて面白そうって思った?」


 そう言うと、笑う女は首を横にふった。


「じゃあ、そんなサークル入る必要・・・・・・」


 僕がそう言いかけた時突然キノコヘッドが僕と笑う女の間に入ってきた。


「ちょっと、なになに、この子の知り合いですか?」

「いや・・・・・・別に」


「じゃあ、そんなこと言われる筋合いないんですよね、それに入るかはいらないかはこの子が決めることですし、あなた関係無いでしょ?」

「・・・・・・いや、でも」

「でも、ってなんですか、僕はただサークル入会の交渉をしてただけなんですよ、邪魔しないでくださいよ、ね?」


 ・・・・・・そうだ、僕は何を熱くなってるんだ?


 どうして笑う女のためにわざわざ引き止めるようなことをしたんだろう?


 彼女はこれから楽しい大学生活を送っていく身、僕なんかが邪魔して良いものじゃない、それをちょっと彼女に構ってもらったかって、浮かれて、あんな笑う女に運命感じて、くそ、本当ばかみたいだな。


 僕はそう思い、すぐに笑う女に背をむけてその場を離れた。


 知ったこっちゃない、ただの隣人にそこまで気を使う理由は無いんだ、そして僕は、早歩きで食堂を抜けながらどうして笑う女にあんなことを言ったのかを考えていた、そりゃ、朝にうまいもんおすそ分けしてもらったし、変に優しくしてもらったからっていうのもあるけど・・・・・・


 くそ、何はともあれあのキノコのせいでこんな状況になったんだ、大体やっぱり僕はキノコが嫌いだっ。


 苛立つ気持ちを抑え、僕は先ほどの出来事をなんども頭の中で再生させながら学内を歩いていると、突然腕を捕まれ振り返った。


 すると、そこには笑う女が立っていた、なんだ、なんでここにこいつがいるんだ?


「なに?」

「えへへ、断ってきました」


 そう言って彼女は頭をかきながら笑った、そんな彼女の表情に僕は先ほどまでの出来事なんて吹き飛んでしまった。


「・・・・・・あっそ」

「はいっ」


 彼女はやはり満面笑みで笑ってみせた。


「それで今度は何?」

「何って、お昼ごはん時間ですよ、良かったらいっしょに食べませんか?」


 そう言うと、笑う女に手を引っ張られるようにして、ちょうど近くまで来ていた大学公園のベンチに二人揃って座った。


 公園には昼時という事もあり、たくさんの学生達がいてその年齢は様々、もしかすると、この中にアキちゃんやナツミちゃん同様に魔法少女がいるかもしれない。


 しかし、今はそんなことよりも隣に座っている妙に僕に絡んでくるこの笑う女のことについて考えなきゃならない。


 そして笑う女は僕の隣で鞄の中から弁当を取り出したかと思えば、その弁当を僕の横で開いた。


 中には色とりどりの食材と日本人としては一番に目が言ってしまう日の丸型の白米と梅干し。


 そんな弁当を眺めていると、急に僕のふとももの上に弁当を突き出してきた。


「なに」

「良かったら食べますか?」


「いや、いいよ悪いし」

「そんなこと言わずに、あ、私パンもってきてるんで、私はそっちを食べますからっ」


「いや、本当良いって、今朝もおかずもらってるからなんか悪い」

「えへへ、そんなこと言いつつも加藤さん朝はとっても美味しそうにご飯食べてましたよね」


 まさか飯食いながら「上手いっ」とか、「たまらん」とか言っていたのを聞かれてたのだろうか?


「あれだけ美味しそうに食べてもらったら作る方はとてもうれしいんですよ、ですから今日のお弁当も食べて下さい」

「もしかして、聞こえてた?」

「はいっ」

「・・・・・・あぁ、そう、じゃあ頂きます」


 そんな、まるで笑う女のペットにでもなった気分で僕はふとももの上におかれた弁当をしばし眺めたあと、静かに合唱して頂くことにした。


 一番最初に手を付けるのはやはり玉子焼き、綺麗に焼かれた表面は少しきらきらと輝いていた、おそらくだし巻き卵なんだろう、そう思いながらたまごやきを口に入れると、それはもう言葉に出来ない美味しさに僕は無意識のうちに「うめー」と声に出していた。


 そんな、僕の様子をずっと見ていた笑う女は僕の顔を見ながら嬉しそうにしている、いや、実際にはほとんどわらっているので、良くはわからないのだが、それでも、彼女がなんだか嬉しそうにしているように見えた。


 しかし、僕はそんな姿を見られたことにより、恥ずかしくなりその後は黙ってお弁当を頂くことにした。


「あれ、どうして急に黙っちゃうんですか?」

「いや、なんとなく」

「なんとなく?」


「いや、普段こういうこと言わないから恥ずかしくなったっていうか・・・・・・」

「え?」


「いや、なんでもない」

「ふふっ、変わらないね・・・・・・」


 変わらない、また彼女は妙なことを言い出した、何をどう見て今の僕が変わらないと思ったんだ、いつの頃の僕とくらべているんだ?


「え?」

「あ、いえ、なんでもないです、それより加藤さんこの後授業ですか?」


「あぁ、僕はもう授業ないから」

「そうですか、私はたくさんあります、今日も夕方までみっちりです」


「まぁ、一年生の間はたくさん授業受けといたほうが良いしね」

「・・・・・・はい」


 笑う女が少し残念そうにそう言い終わると、ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴り響き、笑う女は僕の食べた弁当を鞄にしまった後、パタパタと足音を立てながら僕の元から離れていった。

 あぁ、お弁当美味しかったな、卵焼きが特にうまかった。

 でも、なんかこのままだと笑う女にお世話になってばっかだしなんだか気持ち悪い、後でちょっとしたお返しに差し入れでもした方がいいかもしれない。

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