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出会いと始まり

 翌日、僕はひとまずキルティアさんに電話してみることにした、理由は魔法少女の居場所について知るためだ。


 そんなことをせずとも魔界の湯を使えば?

 なんて思うかもしれないけど、ライトのによれば魔界の道具は魔界でしか使えないらしく、魔界では便利な鏡も人間界ではただの鏡になってしまうらしい。

 だから僕は今、唯一の魔界との通信手段であるチクマにキルティアさんとつないでもらっているところだ。


 そうそう、チクマというのは昨日キルティアさんにもらった悪魔族の名前だ。これからどれだけ付き合うことになるかはわからないけど、いつまでも「悪魔族っ」なんて読んでたらこの子が可愛そうだし、何よりこっちが疲れそうなので、名前を決めることにした。


 名前は単純明快、小さい悪魔族だから「チクマ」我ながら感心するほど可愛い名前に、どうやらチクマ自身もよろこんでくれたようで、チクマと呼ぶとすぐに飛んできて頬ずりをしてくれる。


 どうしてそんなになついてくれるのかはわからないが、とにかくチクマは今日も元気に僕の方でピョンピョンはねている。


 そしてキルティアさんと連絡をとってくれているチクマはと言うと、なんだか不思議な音を出しながら頑張ってくれているようで、悪魔の羽をアンテナのようにしてあちこちに伸ばしている。

 そして、ようやくつながったのか、チクマはぴょんぴょん跳ねながら僕のもとに駆け寄ってきた。


「やーん、魔王さま、早速ラブコールかしら?」

「あ、キルティアさんおはよう」


 チクマ聞こえてくるのはセクシーなキルティアさんの声だった。


「違ーう、おはようのキッスを頂戴、魔王さま」

「え、キスですか?」

「そう、情熱的ににそしてエロく」


 朝っぱらからどうもテンションあげあげなキルティアさんだが、そんな彼女の声を断ち切るかのように聞き覚えのある、通りの良い声が聞こえてきた。


「キルティア、貴様、魔王さまになんて無礼な事を」

「ちょ、ちょっと、バカライト今私が魔王さまと話してるのよ邪魔しないでよ」


「うるさいっ・・・・・・あ、魔王さま元気でいらっしゃいますか?私は魔王さまが遠くにいかれて大変寂しい思いをしています」

「ちょっと、本当うるさいわバカライト」

「なんだと?」


 そんな昨日あったばかりだというのにもう聞き慣れたライトとキルティアさんのやりとりを何分か聞いた後、爆発音のような聞こえた。


「だ、大丈夫か?」

「もしもし魔王さま?」

「あ、キルティアさん」


 爆発音が鳴り終わると共にキルティアさんが声を荒げながら返事をした。


「それで、何のようだったかしら魔王さま?」

「実は早速魔法少女の居場所を突き止めて監視を始めたいなって思ってるんですけど」

「わかったわ、じゃあ今からいう言葉をしっかり覚えてね、魔王さま」


 そう言うと、キルティアさんはとてもエロい声をだしながらゆっくり、そしてねっとりと魔法少女が住んでいると思われる場所を事細かに教えてくれた。


「それじゃ、頑張ってね魔王さまっ」

「はい、キルティアさんもありがとうございました」


 そう言ってチクマごしにキスらしい音を聞こえるとチクマ通信は切れてしまった。なんかよくわからないけど、キルティアさんの声を聞くと耳の中がものすごく敏感になってしまったような気がするのは気のせいだろうか?


「それにしても、ありがとうなチクマ」


 僕がそう言うと、ピョンピョンと嬉しそうに僕に擦り寄ってきて、今や特等席となった僕の右肩に乗った。しかし聞いた場所からして僕が住んでいる辺りを指しているに違いない、まさか、こんなに近くに魔法少女たちが住んでいたとは。


 魔法少女が住んでいたのは僕が住んでいる地域のすぐ近く、そして小学校に至っては僕が通う大学と同じ系列だったことが判明した。となると、僕はこれから大学に行かなければならないということになるのだろうか?


 すると、そんな僕を心配するようにチクマが僕の頬に擦り寄ってきて、励ましてくれているように思えた。心なしかチクマの励ましにあとおされた僕は勇気を振り絞り大学に行く準備を始めることにした。


 普段はめったに摂らないはずの朝食を食べ、シャワーを浴びた後大学生らしからぬ少しだらしない格好をして外にでると、ちょうどお隣さんと鉢合わせてしまった。くそ、しかも昨日引越しの挨拶に来た笑う女だし、話しかけられたりしたら嫌だな・・・・・・いや、でもまて。


 こういう場合大概離しかけられることなんてない、そうだ、昨日少し引越しの挨拶で優しくされたからってそんな朝の挨拶まで期待してたらのちのち辛い思いをするのは俺の方なんだ。

 そう思い、すぐに鍵を閉めて笑う女の後ろを通りすぎようとすると、突然肩を叩かれたのではなくぎゅっと掴まれた。

 そして僕は反射的に後ろを振り向くと、笑う女がやっぱり笑っていた。


「おはようございます加藤さん」

「お、はよう」


 予想外すぎる朝の挨拶に僕は少しきょうふを 感じながら返事を返すと笑う女は相変わらず笑顔だった。


「今から大学ですか?」

「いや、別に」


 くそ、なにやってんだ、なんで無視して立ち去らないんだよ俺は?


「えー、大学なんですよねちゃんと大家さんから聞いたんですから」


 あぁ、やっぱ大家から聞いてたのか・・・・・・でも、もういい僕はこの娘を無視して逃げ出す、走って逃げる、走るのにはそこそこ自信がある。


 追いつかれる心配はない一度振り切って大学まで行ってしまえばもう後は僕を見つけることは不可能だ、理由は勿論大学に入った途端僕はまるで幽霊のように存在感をなくしてしまうからだ、大学ぼっちは中学高校とは違いそういう風に出来ている。


 そう思って僕は笑う女に見向きもせずにその場からすぐさま逃げ出した。

 とりあえず後ろを振り向かずにひたすら走ったあと、もう大丈夫だろうと思い後方を確認するとそこには先ほどの笑う女が追いかけてきているような素振りは無く、人の姿すら無かった僕は少し駆け足に戻しスピードを落とした。


 むしろあの笑顔のまま追いかけてきていたとしたら相当恐怖だな・・・・・・なんてことを思いながら走っていると、突然左耳に聞き覚えのある女性の声が聞こえてきて、僕は思わず走るのを止めて声がする方向から距離を置いた。


 すると、そこにはアパートに置き去りにしたはずの笑う女が立っていた。


「な、なんで?」

「えへへ、走るの早いね・・・・・・相変わらず」


 相変わらず?なんのことを話してるんだこの笑う女は、僕は女性と接点を持ったことなんてほとんどなんだぞ、それが相変わらずなんてまるで僕を知っているような口調、そしてこの足の早さ、一体何者なんだ?


「所で、その肩に乗ってるの何?」


 そう行って笑顔を止めて不思議そうな顔をしながら近寄ってくる笑う女、僕は思わず尻もちをついてしまった。


 そうだ、そういえば家をでるときにチクマを隠すのを忘れてたっ、そう思い僕はすぐに肩に乗ってるチクマを隠した。


「何で隠すんですか?」

「い、いや本当なんでもないから」


 くそなんなんだよこの笑う女、僕の邪魔ばっかりしてきて、こういう時こそあの魔法少女を追っ払った時みたいに辱められたらいいのに。


 そんな事を思いながら僕は小さな声で「壊れろ」なんて呟いてみるも、笑う女の服が破れるわけもなくただただ笑っている彼女の顔をみつめ、そして笑う女は徐々に僕との距離を詰めてきた。

 そして、笑う女が僕に手をかけようとしてきた時、たまたま通りがかったとても早い自転車が笑う女のスカートを風圧で見事にまくりあげ、僕の視界にはローアングルから見える幸せのピンクトライアングルが僕の瞳に映しだされ、そしてそんな僕はというと口をアングリとさせながらそれを見ていた。


 そしてそんな状況の笑う女の顔を見上げると彼女は笑っておらずとってもアングリーな表情をしたかと思うと、表情をいつもの笑顔に戻してグリンと左を向いた。

 笑う女は何をするんだろうと思いながら見ていると、彼女はすさまじい早さで先ほど通りがかった自転車を追いかけていった。


 いや、しかし助かった、そんな言葉を先ほどの自転車野郎には言ってやりたいが、同時にお大事にという言葉も送っておいたほうが良いだろうか?

 ・・・・・・いや本当、今の出来事を表現するなら「ランドリーファンドリー」って感じだな、うん。


 しかし、自転車野郎のお陰で助かった僕は通学途中に笑う女と接触しないために、いつもとは違う道のりで大学へ向かうことにした。

 そして、目的地である僕の通う大学に到着すると、相変わらずの人の多さで思わず顔を俯けた。

 いや、別に気分が悪くなったとか、そういうわけじゃないんだけど、人がいっぱいいると無意識のうちに頭を下げてしまう、これはもう大学入学の時からの癖だからどうしようもない。


 だからこその留年であり、この間違った思考なのだと僕は常々思っている。


 さて、そんなネガティブはさておき、僕にはやらなければならないことがある、それは勿論この大学の附属小学校に潜入と行きたいところだが、そんな事をすれば即刻ロリコンとして偉い大人の人に目をつけられてしまう。

 そんな事を考えながら僕はちょうど小腹がすいた頃なのでカフェエリアに向かうことにした。


 広い校内をひたすら大股で歩き、そして辿り着いたカフェエリアでは世間的に言うリア充どもがおしゃれな格好をして女連れ、あるいは男連れでやってきていた。


 そんな中、僕はお一人様という周りをみわたせば大変珍しい存在として乗り込んだ。いつもの僕ならこんな事を耐えられるわけがないのだが、今の僕はただカフェに来ているのではない、ここは学内でも有名なカフェエリア、何故有名なのかというと、このカフェエリアは付属の小学生がよく出没すると言われている場所であるからだ。


 何故そんなことを知っているかは置いといて、要するに、僕にはれっきとした任務があり、それに従うために仕方なくここに来ているだけだから何も恥じることはない。そう思うだけでも僕はこの場所にいても良いのだという変な存在証明に駆られて僕の中のもやもやは解消された。


 さすがに何も頼まずに椅子に座っているのも変だと思い、綺麗なお姉さんが接客しているカウンターに迎いオレンジジュースとサンドイッチを注文して二人用の席に座った。いや、緊張した、ただ注文するだけなのに、緊張した、本当はもっと美味そうなものが合っから吟味したかったのに。


 もっと普通の子とか、あるいは少し容姿が残念な子が店員の方がどれだけ買い物しやすいことか、全く世の中どうかしてる。


 でも、やっぱり容姿が良いほうが優遇される世界だから仕方ない事なのかもしれない、今だって、こんなカフェテリアにいるような奴はほとんど彼氏彼女もちなんだもんな、一人でいるような奴なんて・・・・・・

 そんな事を思いながら辺りを見渡していると、一人、全身真っ白な服に金髪という異様な出で立ちで席に座る男を発見した。


 僕は思わず目をそらし、そして再びその金髪白服男に目を向けた。


 すると、その金髪の男は座っていてもわかるモデルのようなスタイルに海外モデルのような顔立ち、まるでどこかの王子様のようなルックスで優雅にコーヒーカップを傾けていた、なんだ、あんなやつ大学にいたか?

 しかし、驚いた大概ああやっていけ好かない感じで座ってる奴はスタイルは良くても顔が悪かったりしてその弱みをネチネチと心のなかで暴言吐きながら楽しんでるのに、今回ばかりは全てが完璧すぎて何もいうことが無かった。


 あれがいわゆる勝ち組というやつか、僕は、そんな姿を見た後、やけになってサンドイッチにかぶりつき空腹を満たした・・・・・・朝のサンドイッチはどうしてこんなにも上手いんだろう?


 ともあれ僕が考えなければいけないことは魔法少女の存在を確かめることだ。


 そんな張り込みをしている刑事のような真似事をしながらカフェで時間を潰すこと数時間2時過ぎから貼りこみをしているが、一向に女子小学生が現れる様子は無くむしろ男子小学生がスイーツを食べながら楽しそうに話しているという状況。


 おい、男子お前らもっと外で遊べよ、そう突っ込みたくなるほど現代の小学生男子は腐っているようだ。そんな事を思った僕はこれ以上カフェエリアにいても魔法少女に出会えそうにないと判断した僕は他の小学生が出没しそうな場所に向かってみることにした。


 あてがあるとすれば大学内にある全学共有の大きな図書館くらい、それから多くの人で賑わう大きな公園、僕はよくここで大学生活の暇な時間を過ごしたものだ。


 まぁここにも小学生がよく訪れる場所だから魔法少女が現れる可能性は少なくない。

 そう思い携帯で時間を確認すると時間はちょうど4時、僕はひとまず図書館に向かい小学生を探してみることにした。

 一応、ライトから受け取った魔法少女四人分の写真があるお陰で彼女たちを探すのは簡単なんだけど、この写真をもっている所を誰かに見られたり、持ち物検査でもされた時には僕は確実に社会から抹殺されるだろう。


 それだけは避けなければいけない状態で、僕は広い図書館をひたすら歩きまわり、どこかに魔法少女らしき小学生がいないかさがし回ってはみたが、お目当ての小学生は見当たら無かった。

 そんな僕はしばしの休憩をと思い人が少ない地下書庫で少し休憩をしようと階段を降りていると、何やら大きな物音がした。


 なんだろうと思い僕はかけあしで階段を降り、大きな音がする方へ様子を見に行くと、地下書庫には人がいるような気配はなく、喋り声が聞こえることもなかった。


 僕は恐る恐る碁盤の目の様にひらがる地下書庫を歩いていると、一つの通りに大量の本が山積みになっているのを見つけた。そんな奇妙な状況にすぐにその本の山に近づきそして辺りを確認した。


 棚から本がごっそり抜け落ちているにも関わらずそこには人っ子一人おらず、まるで僕が本をちらかしているような状況。


 おかしい、どうしてこんなにも大量の本が勝手に落ちるんだろう・・・・・・そんな散らかった状況を見た僕は仕方なく落ちている本を片付ける事にした、身体が勝手に動いたたというか、誰かがやらないとこれが放置されたままでは本達がいたたまれない。


 まぁ、本当ならこうやって抜け落ちた本はなるべく返却棚に置いておいたほうが後々司書の人が困らないとは思うけど、わざわざこれだけの本を棚に持っていくのはめんどくさいし、それならば直接直したほうが楽だ。


 それに、記号を見ればなんとなく本くらい並べられると思った僕は本を棚にしまうことにした。


 しかし、どうしてこれだけの本が急に落っこちたのだろう、もしかして、この地下書庫には幽霊がいて、そいつがポルターガイスト的なものを引き起こしていたりするのだろうか?


 そんな日現実的な事を考えていると、僕の耳に突然人の声のような音が聞こえて僕は思わず手にとっていた本を落とした。何かの聞き間違い、あるいは人が来たのかもしれない、そう思い落ちた本を拾い上げ棚に戻そうとすると、今度ははっきりと、「あー」という風な人の声を聞き取ることが出来た。


 僕は不安になって、もう一度辺りを見渡すと何やら本棚の影から僕を見つめる人のような姿を発見した僕は再び本を地面に落とし、後ずさった。本棚から僕の姿を見る人はまるで小学生の制服を来てメガネを掛けており、そして長い髪の毛で顔の大半を隠しているぶきみな少女だった。


 まさか小学生の幽霊?


 個人的にはそんな幽霊がいるのならばぜひとも取り憑かれたり、お友達になりたいところだが、どうにも僕はそんなメガネっ娘の顔に少し見覚えが合った。僕は恐怖心を一旦抑えて、ポケットに入っていた魔法少女の写真と見比べた。


 はっきりと顔が見えたわけではないが、写真に映る魔法少女の一人と目の前にいるメガネっ娘はそっくりだった。違うところがあるとすればメガネを掛けてるか、いないかの違いしかなく、可能性的に彼女は僕が探している魔法少女なのかもしれないと思った。


 そんな事実を確かめるべく僕は彼女に近づいた。しかし、メガネっ娘は僕が近づくと突然その場でうずくまり何度も「ごめんなさい」という言葉をつぶやき始めた。


「え、どうしたの?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 僕が話しかけて見てもメガネっ娘はひたすら謝ることしかしなかった。


 そんな彼女に対し、頭でもなでてやれば・・・・・・なんて妄想を繰り広げたが、不用意に彼女にふれて問題になったら困る、そう思った僕はひたすら泣きじゃくるメガネっ娘を放置して、とりあえず泣き止むのを待ちながら本を棚に戻すことにした。


 きっと僕が無言でいると彼女も不思議に思ってすぐに泣き止んでくれるだろう、そう思いながら鼻をすする音を立てる彼女を横目に本を片付けていると、いつの間にかメガネっ娘が僕の隣で必死に背伸びして本を片付けようとしていた。


「あ、大丈夫?」

「・・・・・・あっ」


 僕はメガネっ娘亜から本を取り上げ、棚の上段に本を入れた。メガネっ娘はまだ目を赤くしているが、彼女は泣き止んだようで、僕の事をチラチラと見ながら申し訳無さそうにお辞儀した。


「もう、大丈夫?」

「はい」


「そっか、すぐに片付けるから」

「あのっ」


 メガネっ娘は突然声を上げた。


「なに?」

「・・・・・・あの、実はこの本落としたの私なんです」


 まぁ、いきなり僕に謝っていた辺りからそんな気はしていたけど、そこまで悲観的になることないのに。


 そんな突然の告白を受けた所でようやく大体のこと把握した僕は落ちた本をあっという間に片付けてみせ、その間メガネっ娘はただひたすら僕のために本を手渡してくれていた。


 すると、彼女は安心したのか、全部の本を片付け終わるとその場で座り込み、また泣きそうになっていた。


 僕はそんなメガネっ娘をとりあえず椅子に座るよう促した後、どうして大量の本が散らばっていたのかを尋ねると、彼女はゆっくりと、そして丁寧に事の顛末を喋ってくれた。


 どうも、この地下図書でお目当ての本をさがしていたらしいが、彼女はこの地下図書が暗くて静すぎる感じが非常に不気味で怖かったらしく、急いで上段にある本を引き抜いた所、隣接していた本までを道連れにしてしまったそうだ。


 こうして出来上がった本の山にメガネっ娘はたまらずパニックに陥ってしまい、しかもその直後に僕が現れたことによって、彼女は怒られると思い、近くの本棚に身を隠していたらしい。


 しかし、大好きな本を床に落としえしまったことの罪悪感が心のなかで渦巻き、そして無関係な僕が大量の本を片付けている様子に耐えられなくなったメガネっ娘は僕に話しかけたということらしい。


 なんとも可愛らしくも清らかの心を持った小学生だ、普通の小学生なら本を落としたら不安になりながらもその場から逃げ出してしまうだろうに。


 まぁ、それだけこの子は本のことを大切に思っているんだろう。


 そんな事を思うと、僕は無意識のうちにメガネっ娘の頭をポンポンと優しく慰めた。すると彼女は恥ずかしそうに顔を俯けて、決して嫌がる様子は無く少し安心した。


 そんな一時の癒し空間に浸っていると、突如としてバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきたと思ったら、何やら視線の先には全力疾走で走ってくる野球のユニフォーム姿の少女がいた。


 そんな野球少女の表情はまさにサヨナラのチャンスでホームベースへと帰還してくるランナーのような形相でで、僕は思わずホームベースを守るキャッチャーのように姿勢を低くしてブロッキングの構えをとったが、なんとその野球少女、僕の顔めがけて格闘家ばりの飛び蹴りをかまして来た。


「うぉぉっ」

「何しとんのやこのロリコンのおっさんー」


 そんな言葉を吐きながら野球少女は結構な威力の蹴りを僕の脇腹にきめてきて僕は思わずその場でうずくまり、そして、そんな僕の後頭部に今度は新たな衝撃が走った。


「ほんま最低やなロリコンは、警察に通報して死刑にしてもらわなな」


 し、死刑だと、僕はなんにもしてないのに死刑だと?いや、それよりもさっきからこの声になんだか聞き覚えがあるような気がするんだけど気のせいかな?


「し、死刑は嫌だ」

「死刑が嫌なんか?」


「嫌だ、死ぬのは嫌だ」

「そうか、ほな死刑は止めたる」

「やったっ」


「じゃあ・・・・・・死刑やのうて終身刑や」

「え?」


 ほぼ同じような刑を言い渡した子ども裁判官は相変わらず僕の頭をグリグリと踏みつけている。


 しかし、やっぱり聞き覚えのある声だ、そう思いながら踏みつけられている頭をゆっくりと捻り関西弁を喋る子の姿を確認しようとすると、先程よりもさらに体重を掛けられ僕は顔が変形しそうなくらいの痛みに打ち震えた。


「痛い、いたい、いたい、ちょっと止めて」

「あかん、今から警察呼ぶさかい」


「警察は嫌だっ」

「ほなSWATに始末してもらおか?」


「SWATも嫌だ、突入されたくないっ」

「何や文句ばっかやな犯罪者のくせに」


 なんてやりとりをしてると、突然「止めてっ」という声が響き渡った。そして数秒の間、時が止まったかのような感覚に陥った僕は、ふと後頭部に乗せられている足の重みが和らいだ瞬間を狙い声ががするほうへ顔を向けると、さきほどのメガネっ娘がプルプルと震えながら「止めて」と、今度は静かに呟いた。


「な、なんやアキどないしたんや急に?」

「あ、あのねナツミちゃん違うの、この人は私を助けてくれた人で、悪い人じゃないのっ」


 アキ、メガネっ娘はアキちゃんというのか、それにナツミとな・・・・・・しかし、アキちゃんとやらの必死な叫びはなんとも言えない心地良い声だな


「・・・・・・へ?」

「だから、その人は私を助けてくれた人なの」


 そう言って僕の頭から足がどけられて、僕はすぐに立ち上がると、目の前にはメガネっ娘アキちゃんとは対照的で活発そうなショートカットのナツミちゃんの姿が視界に入ってきた。


 ナツミちゃんは相変わらず疑いの目で僕をみつめてきているが、アキちゃんがナツミちゃんの手を引っ張って注意を引くと、事の顛末を詳しくそしてゆっくりとした口調で彼女に話してくれた。そして、それを聞いたナツミちゃんは徐々に表情を歪ませていき最期には僕の目の前に立ち頭を下げてきた。


「ごめんなさい」

「まぁ、わかってくれたならいいんだけど」


 僕はようやく床から開放され服についた埃を払いながら立ち上がると、アキちゃんは僕をみあげながら 気まずそうな顔をしていた。


「せやけどアキがうちの携帯に助けてって、連絡してきたもんやからてっきり悪いやつになんかされとんのかなって思って」

「あ、あははは悪いことなんてするわけ無いじゃん・・・・・・」


 僕は微妙な笑い見せながら数歩後ずさると、ナツミちゃんはアキちゃんに駆け寄って手をぎゅっと握った。


「でも、アキも詳しく連絡してくれればええのに」

「で、でも本当に助けて欲しかったから」


「本くらい自分で何とかせなあかんで、うちらは幼稚園児とちゃうんやから」

「う、うん」


 どうやら二人は結構仲が良いみたいだ、なんだかこういうやりとりを自分が幼かった頃を思い出してなんだか感傷的になりそうだ。そしてそんな気分の僕を不思議そうに見つめるナツミちゃん


「なんや、どないしたん?」

「いや、何でもない」

「ふーん」


 間違いない、魔王城で関西弁を喋っていた子だ、そう思い再びポケットから魔法少女の写真をこっそりと取り出して見比べると、やはり顔もそっくり、おそらく彼女たち二人が魔法少女であることは確定的だ。


 まさかこんなにもスムーズに魔法少女二人と出会えるなんて、もしかしたらこのままトントン拍子で小春ちゃん似の子と出会えるのも時間の問題かもしれない。


 だがしかし、これからどうすれば良いんだろう、このまま小学生に「カフェでもどう?」なんて少し頭の狂ったような事は出来ないし、そもそもまだ彼女たちが魔法少女ときまったわけじゃないから、なんとか関係を取り持って魔法少女だという証拠を手に入れたいんだけど、どうしようか・・・・・・


 なんてことを考えている間にも魔法少女の二人は頭を下げて僕から離れようとしている。


「あ、ちょっと」

「何ですか?」


 ナツミちゃんは刺のある口調で返事をして僕は思わず頭に思い描いていた妄想をかき消してしまった。


「え、あ、いやー、なんて言うかな」

「ちゃんと謝りましたし、本も片付いてるよなんでうちらは行かせてもらいます、アキがご迷惑おかけしました」


 なんだかナツミちゃんは冷たい目で僕をジッと見つめた後、そっぽをむいた、やはり僕が普通の人とはいえ一応警戒はされているようだ。


 まぁ、幼い子供を相手取った悪質な事件が多い現代、子どもたちがこうして自己防衛の心を持つことこそが一番必要なことなんだろうな。


「・・・・・・あぁ、うんそうだね、バイバイ」


 僕は為す術がなくただ彼女たちに向かって手を振りながら見送った。そしてナツミちゃんはアキちゃんの手を引いて足早に僕のもとから離れていってしまった。


 そりゃそうだ、普通に考えたら小学生とかかわり合いを持つなんて僕がおしゃれな格好をして美人な彼女を連れながらおしゃれなカフェに入ってコーヒーの注文を難なく言えるくらいありえないことだもんな。とりあえずはあのアキちゃんという子とナツミちゃんをマークしておけば確実に残りの二人の魔法少女も姿を現すだろう、そう考えれば今日はとても収穫のあった一日だった。


 アキちゃんって子は本が好きみたいだいし、ここに来ればまた会えるかもしれない、そしてあのナツミちゃんという子は完全に野球部の格好してたから小学校のグラウンドに行けばであえる確率は高い。


 そう考えると意外とこの魔法少女観察もうまくいくんじゃないか、よし、帰ったら魔法少女所観察日記一日目のレポートを作成せねば。

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