魔界と魔法少女
目をさますと、見覚えのない天井と、背中に感じるフカフカとした感覚で目がさめた。
そう言えば夢の中で魔王だなんて呼ばれて、そして魔法少女と戦って、あ、そうだ魔法少女のあられもない姿を見ることができたんだよなぁ、いやぁ、いい夢見させてもらったよ。
なんな、のんきな事を考えながら身体を起こすと、目の前には明らかに自室とはかけ離れた洋風の薄暗い部屋が広がっており、あちこちには高そうな家具が置かれていた。
おかしい、目をさましたんだからもう自分の部屋に戻っていつもの生活に戻るはずなのに一向にその気配が感じられない。
と、なると僕が魔王となって魔法少女をひんむいたり、個性的な部下にうんざりしていたのは夢ではなかったってことになるのか?
僕は少し混乱しながら今の状況を整理しようと思っていると、突然部屋の扉がノックされ僕は反射的に返事をした。
そして、扉から現れたのは見たことのある端正な顔立ちに角を生やした男。
「魔王さまお目覚めになられたのですね」
「ライト?」
「はっ、魔王さまに名前を呼んでいただけるだけライトは至極幸せでございます」
「あぁ、うん」
「どうかされましたか?」
「いや、夢じゃなかったんだなって思って」
「夢・・・・・・夢ではございません魔王さまが魔法少女を屈辱的に辱めたお姿、大変感動いたしました」
そういえば、本当欲望のままにひんむいて可哀想なことをしてしまったけど、彼女達は大丈夫だったんだろうか?そんなのんきな事を考えている間に、僕には新たな心配事が湧き上がってきた。それは、ライトが僕の部屋に入るなり僕の身体に触れて服を脱がそうとしていることだ。
「ライト」
「はい、何でしょうか?」
「なんで服をぬがしてんの?」
「魔王さまのお召し物がありますので着替えていただこうかと思いまして」
「着替えくらい自分でできるんだけど」
「しかし、魔王補佐としてそこは譲れないというか、ぜひお手伝いをさせていただきたい所でありまして」
魔王補佐にそんな仕事はないと言ってすぐにライトを部屋から追い出し、ひとまず部屋の中で今の状況を深く考えていることにした。
よくよく考えれば、ここは一体何処なんだ?言葉は通じているし、見た目を僕達人間とはたいして違わない人達ばかりだし・・・・・・てっきりさっきまでの事は夢だと思っていたのに。
まぁ、なにはともあれ魔王のお召し物とやらを物色してみたが、まともに着れれそうなのはマントくらいしか無く、僕はそのマントだけを羽織ってすぐに部屋を出ると、ライトが跪いて僕を待っており、そんなライトを僕はため息混じりに見下ろした後、彼に早く立ってくれるよう言うとすぐに立ち上がり長い髪の毛を手でかきあげていた。
ライトって本当格好良いよな、ちょっとうっとしいけど・・・・・・
「で、なんで僕はここにいるの?」
「それは魔王さまが魔王さまだからです」
「わけわからん」
「とりあえず魔王さま、これから少し重要なお話があるのでどうか私の後に付いて来ていただけ無いでしょうか?」
そう言ってライトは僕に確認を取り、僕はライトの要求に従うことにした。
僕の前を颯爽と歩くライトの背中を見つめていると、突然ライトが話しかけてきて、何やら魔界のことについて色々と話し始めた。
どうやらこの世界は魔界と呼ばれる場所で、今いるこの場所は初代魔王が魔界の主であることを示すために建設した魔王城の城内らしい。
しかし、そんな魔界という世界は僕が想像していたものとは違い、世界征服を目論んだり悪事を働くための根城として栄えているわけではなく、ただ単純に世間からはかけ離れた少し変わった者達が集う場所として魔界は存在しているそうで、魔界に住む住人は非常に友好的で親切な者達ばかりだと言う。
一体何処の世間からはみ出したものなのかを僕は知りたかったが、ライトはそのことについては詳しく話してくれなかったし、僕自身そのことについて特別聞こうとも思わなかった。
しかし、そんな一見平和な魔界にある日突然、異変が起こった。
その異変とは、平和なはずの魔界が何者かによって攻撃を受けたという報告があったことから全ては始まった。
魔界を統べる魔王はこのことに敏感に反応し、すぐさま壊滅状態にある場所へ調査を行うことにした。
すると、そこは見るも無残な状況になっており、あちこちで住人達が見るも無残な姿となっていた。
そんな中、まだ意識のあった住人がこんなことを言った「魔法を使う少女が私達の街を壊滅させた」と、魔王はその言葉の意味が分からず魔界の者も魔法を使う少女などという物に対して全くと言って良いほど知識を有していなかった。
そして、正体の掴めない魔法を使う少女は何を目的にそのようなことを始めたのか分からないが、その後も度々魔界を訪れてはまるで親の敵のように魔界に住む者達を無差別に根絶やしにしていったらしい。
そしてそんな現状を知った魔王は、まるで悪魔ような魔法少女に対抗すべく魔界で指折りの戦士を集めて対抗しようとした。
それがこの魔王城に住むライトやキルティアさんのような人たち四天王であり、そこから魔法少女たちとの長い戦いが始まったのだという。
戦いは数的有利の魔王軍が勝つと思われていたが、あまりにも強大な魔法少女の力に圧倒された多くの魔界の者達は次々に倒されていってしまった。
そんな状況になるとは微塵も思わなかった魔王はあまりのショックに体調を崩し、心を病んだ挙句あっけなくその生命を失ってしまったのだという。
個人的には魔王ってのはもっと執念深くて強い人かと思っていたが、そうでもないらしい、まぁ、元々平和だった世界がこうも荒らされてしまえば心労を患うのもしかたのないことかもしれない・・・・・・
そして、そんな魔王を失って以来、ライト達は魔法少女に対向するため新たな魔王召喚を繰り返した。
理由は僕が初めてここを訪れた時にも聞いた、魔法少女に対向する力を有するのは魔王たる素質を持った魔王の力を扱えるものだということ、そしてそれを用いれば魔法少女を倒すことが出来ると思ったからである。
しかし魔王召喚の間にも魔法少女の侵攻はやまず、倒された魔界の住人達は多く、今となっては魔界で唯一生き残っているのは魔王城の人達だけの事だという・・・・・・
「そんなことが」
「えぇ、ですから先ほど魔王さまが魔法少女を退かせたのは実に偉大なことであり、私達魔界に住む人々の希望となられたのです」
「でも、魔王は魔法少女に対向するだけの力を持ってたのにどうしてその力をつかおうとしなかったんだろう?」
「・・・・・・魔王さまは平和を重んじていらしたお方でしたので、それに今はこうして新たな魔王さまが私達を助けて頂いているので」
「いや、ただ服をひんむいただけなんだけど」
「そのようにご謙遜なさらずに、魔王さまは本当に偉大な方です」
「そ、そうかな?」
お世辞とはいえ褒められると悪い気はしない僕は思わず口元が緩んだ。
「ところで魔王さませっかくお召し物を用意したのにマントしか羽織られていないではありませんか?」
ライトは僕の姿をまじまじと見つめ不思議そうにそう訪ねてきた。
「え、あぁ、なんかマントくらいしか着たいって思えなくて」
「しかし、魔王さまお言葉ですがこの王冠だけは装備していただかないとなりません」
「どうして・・・・・・っていうか装備ってまるで何かのゲームみたいだな」
「この王冠こそが魔王さまと証明する証ですから」
「はぁ」
そう言って僕の頭に王冠を乗せてくるライト、まぁこれくらいなら別に構わないだけど、さっきもかぶらされてたけど、こんなゲームに出てきそうな王冠って本当にあるんだな。
あと、魔王の服があんなにも重たくてしかも窮屈なものだとは思わなかった、っていうか普通の人間があんなものを躊躇なく着れるわけがないんだよな、レイヤーじゃあるまいし。
そんな事を思っていると、ライトはよほど僕に魔王の服を着て欲しかったのか残念そうにうなだれており、その姿からは魔界に住む者であるオーラは全くと言っていいほど感じ取れなかった。
「もう一つ聞きたいんだけど、僕をどうやってここに連れて来たの?」
「魔王さまは魔法陣により召喚された形となっております」
少しうなだれながらライトはそう答えた。
「魔法陣?」
「はい、人間世界で言うヘリポートと呼ばれるもの、といえばわかりやすいでしょうか?」
ヘリポートって確かに魔法陣みたいなのが書いてあるし、待ってればそこにヘリが現れるから確かにわかりやす言っちゃわかりやすいけど僕がここに連れて来られた仕組みを僕は知りたいんだが。
「ちなみに、僕はこれからどうなるの?」
「それは勿論、魔王さまとしてこの魔王城の主になりゆくゆくは平和な魔界を取り戻すべく私達の指揮をとっていただきたいと思っております。」
「は?」
・・・・・・っていうことは僕はもう現実世界には戻れないってこと?
それってつまり、僕は現実世界では失踪扱いになって、それで連絡の取れない僕を心配した親族が僕の自宅を訪れて、そして警察まで呼んじゃって僕の全てを覗かれるということなのか?
待ってくれ、もしそうなるんならあの異様な部屋を綺麗にしてからにしてくれ、そしてパソコンの中に入った僕の小春ちゃんコレクションと、自室のあの張り紙を何とかしてからじゃないと・・・・・・
「あ、あのさライト」
「何でしょう」
「僕を現実世界に戻す事は出来ないの?」
「現実・・・・・・あぁ、人間界のことですか?」
「そ、そうそう」
魔界では僕らが住んでいる所を人間界って呼ぶんだ。
それに今更だけど、僕らってちゃんと会話出来てるんだな、夢だと思ってたから普通に喋ってたけど、よくよく考えれば魔界の人と普通に喋れるっておかしなことだし。
「戻すことは可能ですが、今はそれどころじゃありませんのでもう少しお待ちいただけませんか?」
「いやっ、今すぐ帰りたいんだっ」
「ま、魔王さま?」
僕が少し怒り気味にそう言うと、ライト少し驚いた様子を見せた後、すぐに跪いた。
「ちょっ、どうした?」
「魔王さまに歯向かうなど、合ってはならぬこと、私の無礼な振る舞いをしたことをどうかお許し下さい」
「い、いや、それはいいんだけど、じゃあ人間界に返してくれないかな?」
そう言うとライトはしばらく押し黙った後、再び口を開いた。
「その、人間界への転送を行う魔法陣は生成に少し時間がかかりますので、それまでの間は私達と少しお話をしていただけないでしょうか?」
出来ることなら今すぐ返して欲しいところだけど、ライトもこんなに頭を下げて言ってるし、一応元の世界に帰れるっていうんだから、まぁ少しくらいなら大丈夫かな?
「わかった、とりあえずライトのいう話とやらに付き合うことにする」
「ありがとうございます、魔王さま」
「うん」
「では会議室までご案内します」
そんなこんなでライトに連れられるがまま会議室につくと、そこでは大きな円卓にライトを除く四天王が座って待っており、そこには先ほど体調がすぐれないと言って席を外していたジーテンベルグもいた。
「あれ、大丈夫なんですかジーテンベルグさん?」
僕がそう言うと、笑顔で深く頭を下げ小さな声で「大丈夫です落ち着きました」と答えた。
そして僕はライトに促されるまま一番奥の椅子に座り、そしてライトもすぐに席につくと、ライトが突然大きな声で「魔法少女対策会議を始める」と言い出した。
「なに魔法少女対策会議って?」
「魔王さま、私達四天王は魔王不在のあいだ、常に魔法少女に対抗すべく色々な案を考えていました、時には肉弾戦、時には頭脳戦とあらゆる手を使い尽くし私達は今日の今までこの魔王城を守り続けてきたのです」
「はぁ」
「つまり、この場は魔法少女をいかにして撃退するかを考える会議なんですっ」
ライトが大げさに説明するとキルティアさんが「もっと普通に説明出来ないの?」とボソッとつぶやき、そんな言葉にライトはむっとしてゴンゾーはケラケラ笑っていた。
「だけどライト、今日で魔法少女は追い払ったんじゃないの?」
「はい、今日は魔王さまの圧倒的お力のお陰で魔法少女を追い払うことが出来ましたが・・・・・・」
「出来ましたが?」
「いつまた魔法少女が復活してこの場所を訪れてくるかはわかったものじゃありません」
「そうなんだ?」
「はい、そしてその悪しき魔法少女は我々の手の届かない人間界でのんきに過ごしています」
僕はその人間界という言葉にくいついてすぐさまライトの話に口を挟んだ
「魔法少女って人間界にいるの?」
「はい」
まじか、魔法の国の住人とかかと思ってたけど、人間界にあの小春ちゃん似の子がいるってことになるのかな?
「魔法少女って、実際に存在したんだ・・・・・・」
「勿論です、でなければ魔界がこのような状態にはなっていません」
そんなまるでマンガやアニメのような世界観にドキドキ、ワクワクしながら話を聞いているとふとどうして彼らは魔法少女が人間界にいることを知っているのだろうかと疑問に思いた。
それに、思えば僕が召喚された時も何やら僕の名前を知っていたり僕のプライベートをかなり知っていたりと不思議な点がいくつか会ったことに気づき少し不安になってきた。
「っていうか、何で魔法少女が人間界にいることまで知ってるの?」
「魔王さま、こちらを御覧ください」
そう言ってライトは立ち上がり僕に少し大きめの手鏡を手渡してきた。
僕はその鏡を覗きこむと至って普通の鏡らしく僕の顔が映し出されていて思わず目を逸らした。
「なにこれ?」
「お待ちください」
そう言うとライトは鏡に顔を寄せて「魔法少女」と呟いた。すると不思議なことにその鏡はまるで水のようにその鏡面を揺らし、そしてそんな揺れが落ち着いてきたかと思うと、鏡には僕の顔でなく部屋の中で一人座っている女の子の映像が映しだされた。そしてその映しだされた少女をよく見ると、なんとその少女は先ほどまで僕達と争っていた小春ちゃん似の魔法少女だった。
「え、これって」
「えぇ、さきほどの魔法少女です」
「すごいなこの鏡・・・・・・欲しい」
「これは魔界の湯と言って、これは千里眼の力を有した特殊な鏡でございます。これを用いることにより魔法少女の状況を詳しく把握することが出来ます」
「それって犯罪なんじゃ・・・・・・」
「何かおっしゃいましたか魔王さま?」
「いや、なんでもない」
「しかし、この魔界の湯、非常に気まぐれですぐに・・・・・・」
ライトがそう言いかけた時魔界の湯と呼ばれる手鏡はぐにゃぐにゃと波打ちだしたかと思うと元の鏡へと戻り、僕の顔が映し出された。
「消えた」
「すさまじい力を持っていることは確かなのですが、どうにも融通が効かない鏡でして我々もたまにしかこの鏡を使えないのです」
なんだ、常にこの鏡で魔法少女たちを観察できるかと思ったのに・・・・・・
「そうなんだ」
「しかし、今の映像で確信したことがあります」
ライトは拳を握りしめ今にも突き上げそうに打ち震えている。
「なに?」
「魔法少女は確実に力を失っています」
「力?」
「はい、どういう理由かはわかりかねますが、魔王さまが魔法少女共の服を脱がした時からどうにも奴らから発せられる魔力が感じられなくなっていたのです」
「そうなの?」
「はい、そして今の様子を見た限り、魔法少女はかなりショックを受けている様子でした、間違いありません奴らは今絶体絶命のピンチに陥っているはずです」
確かに随分しょんぼりした様子だったけど、それが魔法少女としての能力を失った理由になるんだろうか?なんとも安易な考えだ。
「ふーん・・・・・・そうだ、ちなみにこれで今の魔界の状況とか見れたりするの?ちょっと興味あるんだけど」
「勿論です・・・・・・しかし」
「なに?」
「見てもあまり気持ちの良いものではないと思われます」
「いや、魔王として魔界の現実を見て置かなければならないと思う」
なんて、魔王っぽいことを言っているけど、実際は魔界の生き物に興味があるというか昔からUMA的なものに目がないだけなんだよな・・・・・・
「ま、魔王さまそんなに我々のことを・・・・・・」
「ライト頼む」
「わかりました、ではとりあえず悪魔族の方から覗いてみましょう」
そういってライトが鏡に向かって何度か「悪魔族集落」とささやいたのだが、さっきのように鏡が波打つことはなかった。
「ライト?」
「お、お待ちください・・・・・・くっ、悪魔族集落だ、はやくしろ魔王さまがお待ちになっておられるのだぞ」
ライトは懲りること無く何度も鏡に向かって言葉を口にするが、どうにも上手くかないようで、ライトからは少し焦っているように見えた。
そんな姿を見た僕は試しにと思い、ライトの側に寄り「悪魔族集落」とつぶやくと、なんと一発で鏡が波打ちだし、ボロボロの家が立ち並ぶ景色が映しだされた。
「魔王さま・・・・・・こ、これが悪魔族の集落でございます」
「う、うん」
僕の目の前には悪魔の翼を生やしたテニスボールのような形をした可愛らしい悪魔たちがふよふよと飛び回りながらキーキーと鳴いていた。
あまりの可愛さに一匹くらい連れて帰れないものかと思いながらも、隣で涙を流しながら鏡を見るライトに僕は思わず顔が引きつった。
「こ、これが悪魔族?」
「はい、以前はもっと凶悪な姿だったのに、いまではこんな惨めな姿に・・・・・・これも全て魔法少女のせいです」
ライトは嘆きながら悪魔族の次に鬼族、吸血族、不死族などなど色々な世界をみせてくれたがそのどれもが魔法少女たちに寄って可愛らしい姿に変えられた者達ばかりで、僕個人としてはかなり癒やされた気分になり、隣ではライトが滝のように涙を流し画面すら見ていなかった。
しかし、そう考えると魔法少女にやられたと言っても死んだわけじゃなくて力を失うという形で弱体化するというのが正しいのか。
その事実に少し安心しながらも鏡を見ていると、突然砂嵐が映しだされたかと思うと、先程までの悪魔族集落とは違う地平線が見えるだだっ広い土地に何やら人の影らしき姿が映し出された。
「あれ、ライト、なんか人みたいなのがいるんだけど」
「なんですとっ」
しかし、ライトが大きな声で叫んだ瞬間鏡は正常に世界を映しださなくなり、人影らしきものの正体をつかむことが出来なかった。
「本当に何かいたんですか?」
「うん、なんかスカートを履いた女の子のようなシルエットで、もしかして魔法少女なんじゃ・・・・・・」
「な、ななななな」
ライトは慌てながら先ほどの場所を囁きくまなく探そうとしたが鏡がもう何処かを映し出すことは無く、結局その人影の正体をつかむことが出来無かった僕は何だか気まずくなった。
「も、もしかしたら見間違いだったかも」
「いえ、魔王さまがおっしゃるのですから嘘ではないと私は信じます」
「そう?」
「はい、少し警戒を強めてみます・・・・・・」
そんな少し本題とはそれた所で、再び議題は魔法少女の事に戻った。
要するに「力を失った魔法少女を今すぐ排除すべきだ」というライトの意見と、「別に魔法少女は力を失ったんだし魔界には平和が戻る、放置しておけばそれでよし」というキルティアの意見が出た。
ライトの意見としてはライトはそうとう魔法少女のことが気に入っていないらしく、キルティアの場合は魔法「少女」ってだけで吐き気がするからこれ以上関わり合いたくないとのこと。
そんな二人が論争を繰り広げている間ゴンゾーとジーテンベルグはただニコニコと笑っているだけで特別意見を述べることはなく最終的にはライトとキルティアの罵り合いに発展していた。
どちらかを正解としなければならないのだが、個人的にはキルティアの意見に賛成したいところだ。
理由は勿論、魔法少女とはいえど彼女たちは小さな女の子なわけだし、魔界も被害を受けたと言っても、死んだわけじゃなく弱体化したくらいだからこれから魔界を再生していけば徐々に魔界も平和に戻っていくと踏んだからだ。
確かに悪いのは魔法少女かも知れないけど、彼女たちなりのなにか理由があるのかもしれない。
「・・・・・・僕は殺すまでやらなくていいと思う」
いろいろ考えた上で僕はそういう考えにおちついた、そして、そんな言葉に四天王は一斉に僕の顔を見た。
まずい、さすがに魔王っぽくない発言だっただろうか?
なんかライトは納得してなさそうな顔をしてるし、ゴンゾーやジーテンベルグも真面目な顔をしてる・・・・・・キルティアさんは、まぁライトの方をむいてドヤ顔を披露しているが。
「魔王さま、それは本気で言っておられるのですか?」
ライトは真剣な面持ちで僕に顔を寄せてそう言った。
「う、うんそれに今は魔法少女のことよりも魔界復興のことに力を注いだほうがこれからのためには良いんじゃないかな?」
「しかし、それでは魔界の者達があまりにも報われないのではないのですか?」
「確かに、突然やってきたかと思えば無差別になぎ倒されたら腹が立つかも知れない、ライトの言っていることは間違ってないしとても魔界の事を考えての事だと思う。」
「でしたら」
「でも、やっぱり魔界を復興する方が先だと思う」
「魔王さま・・・・・・」
そう言ってライトは僕の目をじっと見つめた。
「ここにきたばっかりの奴がこんなこと言うのはおかしいかもしれないけど、魔界に住んでいる人たちにいつまでも苦しい思いばかりさせてるのはなんか気持ち悪いし、それに、もしまた魔法少女がきたとしても僕がひんむいちゃえば良いだけの話だし・・・・・・なんて言ってみちゃったりして」
なんて、まるで自分自身が強大な力を持っている魔王のような言葉を発すると、ライトは驚いた表情をした後、四天王たちに確認を取るようにしては顔を見合わせた。
そして、皆が一斉に頷いた後、ライトは僕に視線を戻した。
「ど、どうかな?」
「四天王一同、魔王さまのご提案に賛成いたします」
ライトがそう言うと、その他の四天王は皆笑顔で頷いてくれた。
「本当に?」
「はい」
「僕みたいなのが言ったことに従ってくれるの?」
「勿論です、魔王さまは魔王さまなのですから」
理由はともかくここまで簡単に信じられてしまうとなんだか心が苦しくなるというか、どうしてライトを含めこんなにも僕のことを信頼してくれるんだろうと不思議に思った。
「と、いうわけでひとまず魔界復興に力を注ぐことは決定したわけだが、次は人間界に潜む魔法少女の監視をだれが行うかという議題に移りたいと思う、誰か立候補するものはいるか?」
「私、ガキの面倒はやーよー」
開口一番キルティアは爪をいじりながらそう答え、ライトはむっとした、しかし、魔法少女の監視だと?そんな仕事が存在したのか?
「では、キルティア以外で誰かやろうというものはいないか?」
「俺は実践派だからな、そう言う諜報活動的なのは勘弁で宜しくゴンゾー」
「・・・・・・わしも体力的にちょっと」
ゴンゾー、ジーテンベルグと立て続けに断られ、残るはライトだけになってしまった。
「き、貴様らそんなわがままばっかり言って、ジーは良いとしてキルティアにしてもゴンゾーにしても魔王さまに尽くす気はないのか?特にキルティアお前の怠慢は目にあまる」
ライトがそう言うと、キルティアはカチンと来たのか、机をバンと叩いてライトを睨みつけた。
「なによ、今怠慢の事関係ないじゃない、それに、そんなに言うならバカライトあんたがやりなさいよ」
「わ、私は魔王さまの側近なんだぞ、魔王さまから離れることなどできぬ」
別に側近だからって常に一緒にいなきゃいけないってことはないだろうに。
「おいおい、そりゃ俺らと同じでわがままだってもんだぜライト」
ゴンゾーもライトを攻め立て、なんだか不利な状況に立たされたライト。
そんなライトを見て僕は決して彼を助けようと思ったわけではないが、喧嘩をしているみんなの前ですっと手を上げた。
すると、皆は少し怖い顔をしながら僕の方を向いた。
「魔法少女を監視する必要があるんだよね」
「はい、力を失ったとは言え、いつ奴らが力を取り戻すかはわかりません、一応監視でもつけておけば力を取り戻す事を阻止出来ますし、魔界を平和に保つためには必要最低限のことだと私は考えています」
なるほど、ということはもし僕がここで魔法少女の監視を立候補したらこれから魔法少女たちの生活を見ることが出来て、そしてその内仲良くなって、お兄ちゃんなんて呼ばれるようになったり、「将来はおにいちゃんと結婚するぅ」なんてことに・・・・・・やばいよだれが。
「そ、そういうことなら、魔法少女の監視は僕に一任してもらいたいだけど」
僕がそんな淡い期待を胸に手を挙げると、再び四天王は僕の顔を一斉に見た。
「ま、魔王さま本気で言っておられるのですか?」
ライトがまるで世界の終わりを悟ったような表情で立ち上がり、僕に近づきながらそんなことを言った。
「いや、見たところ魔法少女がいる世界って僕が元いた人間界だし、それだったら僕の方がその世界については詳しいから監視役にはもってこいの人材だと思うんだけど・・・・・・?」
まぁ、正直魔法少女のことを監視できるなんてここで魔王なんかやってるよりも最高の仕事だし、変に魔界とやらに関わるより人間界と呼ばれる僕が元いた世界にいたほうが断然こっちのほうがいいだろう。
「なるほどな、たしかに魔王さまは人間界の住人だってんだから魔王さまが一番適任だわな」
ゴンゾーはあごひげを撫でながらそう答えた。
「そうね、それに魔法少女がもし力を取り戻したとしても魔王さまがすぐにひんむいちゃえば良いだけの話よね、魔王さまがあいつらの抑止力となれば良いってことね」
キルティアも同様に納得し、隣に座るジーテンベルグも二人の意見に賛同するように頭をなんども頷かせていた。もしかして、寝てるわけじゃないよな?
「しかし、それでは魔王さまの身になにかあった時はどうするというのだ?」
ここでライトの新たな意見、ライトを除く三人は困惑した様子で僕の顔を見てきた。
「大丈夫だって、僕が魔王だってばれなきゃ普通に安全に暮らせる世界だから命の危険なんて早々ないよ」
「しかし」
どんだけ僕のことを心配しているのか。なんだかライトを見ていると、心配症だった母親のことを少し思い出す。
「確かに、魔法少女のことも心配だけど今はやっぱりこの魔界をたてなおすのが先決だと思うんだよ、ほら、ちょうど魔法少女からの侵攻も途絶えた形になっているわけだから、今は魔法少女より魔界のみんなのことを考えたほうが良いと思う」
「魔王さま・・・・・・」
「僕なんかよりもみんなのほうが魔界には詳しいしできるだけ魔界の住人であるみんなが率先して魔界復興に取り組めば、また元の魔界に戻れると思うんだけど」
僕がそう言うと、キルティア、ゴンゾー、ジーテンベルグは拍手をして僕のことを褒めてくれた、なんだか気分は良いが、今の僕の心は魔法少女のことで頭がいっぱいだ。
しぶしぶながらライトも納得してくれたようで、四天王は魔界の復興、そして魔王である僕は人間界で魔法少女の観察を行うことになった。
と、そんな成り行きで僕は一先ず人間界へと戻してもらう事に。
帰る際に数十分程ライトに手を握られたまま中々離してもらえなかったが、途中でキルティアさんが乱入してきて、ライトを蹴り飛ばしたかと思うと、先ほど見た可愛らしい悪魔族を一匹を僕に手渡してくれた。
「何ですか?」
「魔王さま、これは私との連絡用、何かわからないことがあったらいつでも連絡してきてね」
なんて色っぽい言葉を口にするキルティアさんに不思議と引き寄せられる感覚に陥ったが、すぐに頭を振り乱し正気に戻した。
「えっと、これで魔界と連絡が取り合えるんですか?」
「そうよ、この子に私の名前を言えばつながるから、後、一応他の四天王にも繋がるようになってるわ、それぞれの四天王の名前を呼んでくれれば繋がるようになってるからね」
「はい」
そんな便利で可愛い悪魔族を一匹手に入れた僕は、ようやく人間界に帰らしてもらえることになった。
どうやら人間界と魔界では特別な魔法陣とやらで移動できるみたいで、僕はその魔法陣の上に立つとライトが何やら写真のようなものを渡してきた。
「なにこれ?」
「魔法少女の顔写真でございます」
写真にはさっき戦ったであろう魔法少女たちの顔が写っており、皆真剣な表情をしているためか少し悪人面に見えた・・・・・・でもかわいい
「人間界での捜索の参考にして下さい」
「うん、ありがとうライト」
「礼には及びません魔王さまの側近としてあたりまえのことをしたまでです、同化魔法少女の監視起きおつけてくださいませ」
「勿論、魔王として魔界のために魔法少女の監視をばっちりと隅から隅までやってみせるよ」
そんなやりとりをしつつライトは僕を人間界へ戻すため理解できない言語で如聞のようなものを唱えた。
すると、足元にある魔法陣が急に光だし、僕はまるで底なし沼にでも吸い込まれるように魔法陣の中に引きずり込まれていった。
そして一瞬のうちにいつの間にか僕の目の前には破壊という文字がひたすら書かれている気味の悪い部屋に戻っていて、僕は何がなんだかわからない状態のままひとまずその場に寝っ転がった。
人間界にもどったとはいえ、まさか、本当に魔王なんかになるなんて、それに魔界のために魔法少女を監視してしかもこれから魔王として魔界を背負って立つことになるなんて。
でも、魔界のことは四天王とやらに任せておけばよいだけの話だし、僕は魔法少女がこの人間界にいるって考えただけでもう幸せっていうか。今すぐにでも・・・・・・いやいや、そんなことしたら確実に犯罪者だ。そうだ、今思えばあんな小さい子を監視してたら確実に変態扱いじゃん、どうしよう浮かれすぎててそんなこと全く考えてなかった。
どうしよう、どうすれば合法的に彼女たちを監視できるんだろうか?
そんなことを思いながら布団の上で寝転がっていると突然部屋の中にピンポーンという音が鳴り響いた。
僕はすぐに玄関を開けると、そこには笑顔が素敵な女性がたっていた。
こんな知り合いを知らない僕は一体なんの用だろうと思って視線を少し下に向けると、彼女は洗剤をもってた・・・・・・引っ越しの挨拶か?
「あの、私、隣に引っ越してきた者ですよろしくお願いします」
「あぁ、はい」
そういうと彼女は僕に洗剤を渡してきた。
そして僕の髪の毛を見てぼーっととしている、なんだ、あれか、僕の髪の毛がくるくるだからってバカにしてんのか?
「何度か尋ねたんですけど、今日ようやく渡せて本当よかったです」
そう言ってぺちゃくちゃと喋りだす女性、何なんだよ一体、今時引っ越しの挨拶なんてするか普通?それに初対面の相手にどれだけ話すんだよ
っていうか正直女性とは話すの得意じゃないからとっとと帰って欲しいんだけど・・・・・・
「あ、洗剤ありがとうございます、じゃあ」
そう言って半ば無理矢理に扉を閉めようとすると、ドラマでよく見る押しかけセールスマンばりに足を突き出してきて、僕は思わず扉をしめるのを躊躇した。
「あぶねっ・・・・・・な、何なんですか?」
「あ、あの加藤さんって〇〇大学の人ですよね」
確かに、そうだけど、何で知ってるんだろう、まさか管理人さんから聞いたとかじゃないだろうな?
ていうか大学が一緒だからといって僕は君に何もしてやれない、理由は勿論、大学に友達はおらずおまけに留年してるからだ。
そんな奴にこれから大学生活を始めようとしている奴の先輩面なんて出来ないだろう、ここは無理矢理にでも話しをぶった切っていかないと。
「すみません、人違いだと思います、それじゃ」
僕は扉の隙間に足がないことを確認した後すぐに玄関を閉めた、今度はさすが足を挟む余裕がなかったようで、しっかりと扉を閉めること出来、そして鍵をした。
何やら外で喋っているようにも思えたが僕は聴覚をシャットアウトして「はぁ、よく聞こえんなぁ」なんて死んだ爺ちゃんのモノマネをしながらひとまずリビングに戻った。
それにしてもそうか、もう春か、新学期だもんな新しい住居人が来てもおかしくはないか。
大学一年、僕もあの頃に戻れたらなぁ・・・・・・なんて事何百回考えたことやら、けど、結局あの時に戻ったとしても結局何も変わらないのはわかってる。
わかってるんだけど、だけど、どうして何度もそんな想像を繰り返してしまうんだろう、その度に僕は妙に物思いにふけって、そして最期にはこの部屋で世界の崩壊することをのぞみながら呟いている。
そうさ、僕はこの世界を壊したかったんだ、だったら今のこの状況は望んでいたもの、だけど僕は魔法少女たちの敵、しかもその親玉ときた、魔法少女たちと楽しく過ごせるかもしれないけど、バレたら即終了という爆弾持ちか・・・・・・
なんて事を考える僕の肩ではキルティアさんに渡された可愛い悪魔族がプニプニとはねている。
そういや、これで魔界と連絡が取れるって聞いてたけど、本当にそんなことが出来るんだろうか?
いや、むしろそんなこと出来なくともこの可愛さならペットとして飼うってのもありか・・・・・・?
そんな事を考えているうちに僕はなんだか眠気に襲われ、悪魔族をプニプニとしながら布団の上に寝転がってそのまま眠りについた。