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魔王召喚

 例えば、この世界が全く別のものになった時、その時僕は初めて僕でいられるだろう。僕にはもっとふさわしい居場所があり、ふさわしいキャラを演じていて、ふさわしいパートナーがいる。


 そして、僕はそんな恵まれた状況の中、この世界の中心人物となり物語を紡いでいく。そしたら毎日がわくわくして、楽しくて、時には苦しいことがあれど支えてくれる仲間がいて、僕はすごくすごく充実した日々を送ることが出来るに違いないっ・・・・・・


 なんて、子どもじみた言葉を何時頃からか常に考えるようになっていた。そんな僕に、世間のみんなはもっと現実を見て早く大人になりなさいと言うだろう。さっさと社会に出て新根身にもまれなさいというだろう。


 しかし、そんなことは言われなくてもわかっている。早く大人という名のきぐるみを着ればいいんだろう、そして、着ぐるみの中から本心では思ってもないことをただひたすら言う人形にでもなれっていうんだ。


 そして、世間が言う「大人になれ」という言葉は今某が生きている世界を生きる上でとっても重要な事でとても大切な決断だ。


 ただ、僕にとってそれは違う、僕は皆が普通にやっていることがどうしても出来ない。普通に人と関わることが出来ない、普通の事をすることが出来ない。

 そして、そんな現実に打ちひしがれ、嫌になり、何もかも投げ捨てたくなったとき、誰しもが一度はこの世界が滅びれば良いと思ったことがあるはずだ。


 そう、人は誰しも世界征服を考え世界崩壊、日常の崩壊を望んでいるのだ。


 だが、多くの人間は志半ば「あぁそんなこと出来るはずがない」「あぁ、僕はなんてしょうもないことを考えていたんだ」「そんなこと考えるより仕事して、好きなもん食べて買って満足しよっ」とあきらめ世界崩壊を断念してしまう。

 そして結局は、安心安全のお気楽コースに乗って他愛もない日常アニメなんかを流し見しながら過ごす日々に決まっている。


 しかし、僕はそうはいかない、僕は絶対に世界を崩壊へと導いてみせる。世界征服をしてやるんだ。そう思いながら、はたから見ればとち狂ったような精神状態の中、僕は今まさに世界を壊そうと試みているところだ。


 自分自身、狂ってることくらいわかる。こんなばかなことをしていてもそんな世界崩壊のような馬鹿げたことが起こるわけがないが、僕は世界を壊そうと日々努力をしている。


 具体的に言えば部屋の壁には破壊という文字でびっしりと埋め尽くし、ひたすら破壊という言葉を呪文のように連呼している、後は「ろれ壊」と言ってみたり「デストローイ」って叫んでみたりもした。


 どうだ、さすがにここまでやる奴はいないだろう、僕は必ず世界を崩壊させてみせる、この世界が崩壊すれば僕の新たな輝かしい世界が待っているはずだ、こんな人間がこの世の中には必要なんだ。


 ただ、そんなカオスで馬鹿げた異空間の中で異彩を放っているものがある。それは、小さな女の子がフリフリのドレスを着ながらピースをしているアニメのポスターだ。ピースをする彼女は僕のお気に入りの女の子の小春ちゃん。


 いつも元気で活発な女の子、そんな小春ちゃんは普通の小学生でありながら魔法少女として世界の平和を守り、悪の組織との戦いで疲れた身体をいつも大好きなお風呂で癒やしているという「魔法少女コハルン」というアニメだ。


 僕の中では史上最高のアニメだ、勿論フィギアもあるしブルーレイもあるしポスターだって買った。アニメ2期のため、小春ちゃんのためたくさんの投資もしまくった・・・・・・そして、なによりも小春ちゃんは可愛かった。

 そんな世界一かわいい小春ちゃんが活躍するアニメで僕が一番お気に入りなのは小春ちゃんがお風呂に入るシーン、このシーンが好きで好きでたまらない。


 いや、お風呂シーンだけが魅力じゃないんだが、やっぱり幸せそうな小春ちゃんを見るのがいちばんすきなだけであって、決していかがわしい気持ちは持っていない。勿論その小春ちゃんお風呂ポスターも持っている、だが、そのポスターは押入れに大切にしまってある、理由は勿論、そんなポスターが見つかれば異常性癖者として罪もなく逮捕されそうなくらい際どいからだ。しかし、それも良いかもしれない、そうすることで俺の今いる世界が壊れるなら、それなら僕はなんだってしよう・・・・・・いや、少し話がそれてしまったが、元に戻そう。


 そう、僕は今この世界を壊そうとしている真っ最中だ、ぶつぶつと壊れろという言葉をつぶやきながら、時には今までにあった嫌なことを呟きながら真っ暗な部屋でただ一人、体育座りをしながらまるで呪文のようにつぶやいている。


 こんなことしても何も意味のないことかも知れない、だけど僕はただひたすらつぶやいた。ひたすらつぶやき、つぶやき、つぶやいた挙句僕はいつの間にかだだっ広い知らない場所で目を覚ましていた。


 あまりにも突発的な展開に僕はすぐに身体を起こし、目をこすって目の前に広がる光景を見渡した。床にはレッドカーペットがひかれ、辺りは豪勢な飾り物や置物で装飾されていた。そして目の前には4人の人らしき者たちが僕の前に跪いていた。


 一体何なんだろう、もしかしてまた寝落ちしてしまって変な夢でも見ているのか?そんな事を思いながらほっぺたをつねるもまったく目が覚める気配がなく、ただひたすら頬にじんじんと痛みが走る。


「魔王さまっ」


 やたらと通りの良い声が聞こえてきた。声のする方へ顔を向けると、ひれ伏していた4人組のうちの一人が顔を上げて僕の顔をじっと見つめていた。

 その顔は現実世界でいとも簡単にささやかれるイケメンというものとは比べ物にならないくらい整った顔立ちの男だった。


 そして、よくよく美男の見ると、その男の頭には角が生えていて、着てる服も派手な鎧をきていた。そんな角の生えた男前に思わず見とれていると、彼はなんだかキラキラとした目で見つめてきて、そして再び僕に向かって「あぁ魔王さま」とつぶやいた。


 魔王、まさか僕が魔王だなんてことがあるだろうか?


 いや待て、きっと俺の後ろに閻魔様みたいな巨大な図体した魔王がいてそれのことを言ってるかもしれない、そうだ、そうに違いない僕が魔王なはずがない。

 そう思い、意を決して振り向いてみるもそこには豪勢な椅子とまるで漫画やアニメにでも出てきそうな王冠がおかれており、魔王と思しき存在は見当たらなかった。


「魔王?」


 僕はついに角の生えた美男にそう尋ねると、深く頷いた後、彼は涙を流し始めた。しかし魔王、僕が魔王だってのか、嘘だろ、さっきまでただ部屋ん中でぶつぶつ呟いてただけのキチガイ野郎がいきなり魔王?


「あっははは、冗談だろ?」

「冗談ではございません、その証拠に魔王さまのお名前も存じ上げています」


「へー、言ってみて?」

加藤かとう ろう様です」


 見事に僕の名前を的中させた美男は僕のことを見つめて離さなかった。


「・・・・・・え、何で知ってんの?」

「それはもちろん魔界の王となるお方の名前ですから、そして今日から魔王様がこの城の主となり魔界の王となるのでございますから」


 一体どういう手段を用いて僕の名前を知ったのかは理解できないが名前を言い当てられた僕は再び頬をつねり夢と現実の壁を壊そうとしたがやっぱりただ頬が痛いだけだった。


 まじで、まじで世界が崩壊したっていうのか?


 なんてことを考えていると角の生えた男は突然立ち上がり、さきほどから妙に気になっていた僕の背後に置かれた椅子から王冠を持ち上げた。そしてあろうことかそれを僕の頭へとかぶせてきた。


「え?」

「私含め四天王全員、魔王さまの降臨に感無量でございます」


 突然どこかに召喚されたかと思えば王冠を被せられて魔王、そんな馬鹿な話があるか?そんなわけのわからない世界の半信半疑の僕はひとまず冷静になり、この夢の様な展開にしばらく付き合ってみることにした。


「えーっと、あなたは?」


 角の生えた男を見つめながらそう言うと、彼は深々と頭を下げた。


「魔王さまの補佐を務めさせていただきますライトともうします」

「ライト、さん」

「さん付けなど滅相もない、ライトで結構です魔王さま」


 なんかいちいちセリフが演技っぽい、まるで何かの演劇を見てるようだ。いや、もしかしたら何かのドッキリで僕は今冬させられ突然こんな場所まで連れてこられて演劇を見せられているのかもしれない。そんなしょうもない疑いすら覚える状況だった。


「ら、ライト」

「ははぁっ魔王さま、なんなりとお申し付け下さいませ」


 鼓膜すら突き破りそうな声でそう叫んだライトは一応忠実な魔王補佐といったところなのだろうが、結構めんどくさいかもしれない。


「い、いや別に申し付ける事は無いんだけど」

「そ、そんな私めは必要ないということですか?」


「いや、違くて」

「私は用無しということなんですか魔王さまっ」


 そう言ってふらふらと僕に近寄りながら足にすがりつくライト、めんどくせーな、おい


「いや、ライトそうわけじゃなくて」

「もー、うるさいわねライト」


 そう声を上げたのは褐色肌のナイスバディのお姉さんだった。そして、これまた不思議と彼女は小悪魔的な小さな角を生やし小悪魔的な尻尾をピコピコと動かしていた。個人的にこのタイプの人は好みの範囲外のはずなんだけど、目の前でこんなナイスバディを見てしまうとなんだか色々反応に困ったり反応しちゃったりしてしまうは男の性なんだろうか?


 まぁ、要するに女性の生の力は偉大というわけだ、なんてバカみたいなことを考えていると、靴の音をカツカツと鳴らしながらナイスバディのお姉さんが近寄ってきた。

 すごい、彼女に付いている2つのボインは歩くだけで揺れるものなのか、そんなに揺れて良いものなのか、そんなたわわなボインを見ていると、僕の心は大好きな小春ちゃんを忘れてしまいそうになってしまう。


「魔王さま」

「は、はい」


 近づいて来てすぐ、僕の耳元で色っぽい声を出すナイスバディのお姉さん。なんだろう、いい匂いがするし、なんだか小春ちゃん一筋だったけど、この人にくっつかれると小春ちゃんなんてどうでもよくなって。


「いやいや、だめだー」


 僕はそんな誘惑に打ち勝ち、すぐさまナイスバディなお姉ちゃんから距離を置くと、「あんっ」と色っぽい声を出した後、驚いた顔をして僕の顔を見つめてきた。


 だめだだめだ、僕には最愛の彼女小春ちゃんがいるというのに、簡単にエロに負けてしまっては男としてのプライドが、などと思いつつも彼女の谷間から目を離せない僕の目は小春信者の方々に目をくり抜いてもらって反逆者の目として未来永劫晒し者にされた方が良いのかもしれない。


「おいキルティア、魔王さまに気安く触れるな」

「なによバカライトうるさいわねぇ」


 そう言っていつの間にか復活しているライトがナイスバディなお姉ちゃんに話しかけていた。そして、先程とは打って変わって厳しい顔つきの褐色お姉さんは今にもキスしそうなくらいライトに顔を近づけて睨み合っていた。


「馬鹿だと、貴様それが上司に向かって吐く言葉か?」

「上司?あんたその言葉もう二度と口にしないで」

「あんただと?だからそれが上司に向かって吐く言葉かと聞いてるんだ」

「もう、うるさいっ」


 キルティアと呼ばれたお姉さんはライトの声に嫌気が差したのか耳を塞ぎながらライトから離れ再び僕のもとによってきた。


「ねぇ魔王さま、こんな奴放っておいて私と良いことしない?」

「い、いや、それよりあなたキルティアさんっていうんですか?」

「あら?」


 僕はそう言うとキルティアさんは再び驚いた顔をした後、とても意地悪そうな笑顔を僕に向けてきた。


「魔王さまがさん付けしてくれるなんて嬉しいわ、ぞくぞくしちゃう」

「そ、そうですか」

「そうよ、私は魔界四天王の一人キルティアよ、よろしくね」


 そういってキルティアさんは僕に顔を近づけてきた、が、すぐにライトが割って入り、キルティアを僕から引き離した。


「離れろと言っているだろキルティア、それから魔王さま」

「は、はい」

「こんなやつさん付けなどしなくて構いませんっ」


 そう言ってキルティアさんに負けず劣らず顔を近づけてくるライトに僕は少し分が悪くなった。


「ちょ、何よ、バカライト、あんたは魔王さまから用はないって言われたでしょ」

「ぐぅっ、そ、それは」


 セクシーなキルティアさんも良いけどなんだか怒っている姿はもっと可愛いな。


「お下がり、バカライト」

「ゆ、許さん、私は魔王さまの側近だぞ、キルティアこそ立場をわきまえろ」


 そう言うと、ライトとキルティアさんは取っ組み合いを始め、そしてそれを見ていた残りの二人の四天王も何やら近づいてきた。


「おう、魔王さま、俺はゴンゾーっていうんだ、宜しくゴンゾー」


 目の前には遥か巨大な背丈とまるで鎧のような筋肉を持った大男が目の前に立ちはだかった。宜しくゴンゾーってよくわからんけど、とりあえずなんかの儀式の一種だと思い僕も語尾にゴンゾーをつけてみることにした。


「よ、宜しくゴンゾー」


 そう言うと、にかっと白い歯を見せたゴンゾーは突然握手を求めてきた。僕は手を伸ばしがっちりと握手を交わしたが、がっしりと掴まれた手はいますぐにでも握り潰されそうで怖くなった。


 そして握手が終わると、ゴンゾーは「俺も仲間に入れろー」っといってライトとキルティアの喧嘩に飛び込んで三つ巴の戦いを始めた。そんな中最期に腰の曲がったおじいちゃんらしき人がゆっくりとあるいてきて、僕の前でゆっくりと頭を下げた。


「あの、あなたは?」

「私はジーテンベルグと申します、老いぼれではございますがどうかお見知りおきを」

「い、いえこちらこそ若輩者ですみません」

「ほっほっほ、今度の魔王さまは面白い方だ」


 ジーテンベルグは静かに笑いながらもとても優しい笑顔で僕を見つめてきた。こんな人までが魔王軍の配下にいるなんて、いや、もしかすると本気を出せばゴンゾー位の大男になったりするのかもしれないな?


 しかし、そんなことよりもだ。今はこの人が言った「今度の魔王さま」というのはどういうことだろう?

 その言い方だと以前にも魔王がいたってことにも思えるし、だとしたらもしかして前職の魔王は勇者とかの手によって殺されたりして、実は魔王という役職はかなり危険だったり?


「あのー、今度のってことは前にも魔王がいたんですか?」

「ええ、詳しくはライトに聞くとよいでしょう、私は少し体調がすぐれないのでひとまず部屋の戻らせていただきます」

「えっ、大丈夫ですか?」

「大丈夫です、少し寝ればすぐに元気になりますので」


 そう言って咳をしながら僕のもとを離れるジーテンベルグに「おだいじに」と一声かけると、深く礼をした後馬鹿でかい門を開いて出て行った。


 さて、ちょっとした疑問を抱いた所でちょうど三つ巴の喧嘩も終わり結果はゴンゾーの一人勝ちでライトとキルティアさんは米俵のようにして持ち上げられていた。


「あのっ、ライトちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 僕がそう言うと、ライトはゴンゾーの腕から飛び出て僕の前に跪いた。


「すごいなライト、格好いい」

「えっ?」

「それで、ちょっと話があるんだけど」

「はっ、なんなりとお申し付けくださいませ魔王さま」


 心なしかライトの鼻息を荒くして声が上ずっているように思えたが、理由はわからない。とりあえず僕は、たった今疑問に思ったこと、そしてこの場所のことについて訪ねてみることにした。


「あのさ、僕の前にも魔王っていたの?」


 そう言うと、ライトは歯を食いしばり何かに耐えるようにして俯いた、なんだろう、何か悪いことでも聞いてしまっただろうか?


「・・・・・・先代の魔王さまは逃げました」

「逃げた?」


「はい」

「っていうかやっぱり先代がいたんだ」


「はい」

「で、次が僕ってわけ?」


「左様でございます」

「ちなみに先代の方ってどんな人だった?」


 おおよそバカでかくておぞましい姿形をしていたに違いない。


「人ではありません」

「ま、まぁそりゃ魔界だから人外だろうね」


 ライトはどっから取り出したのか突然ノートのようなものを取り出しペラペラとなにかを確認し始めた。


「えー、先代魔王さまは、イヌであられまして」

「は?」


「その前はワニ、トリ、マグロ、キリン、タコ・・・・・・」

「わ、わかったから、もうそれくらいでいいから」


「はっ、失礼いたしました魔王さま」

「なんで、そんなメンツの中で僕が選ばれたんだよっ?」


「実は魔王というものには素質がありまして」

「素質」

「魔王の素質とは純粋なる悪の心、そして本能をむき出しにして生きている方にしか勤められないものでして、故に本能のまま生きる動物が選ばれる事が多いのですが、今回は人である魔王さまが選ばれたということで私達は非常に喜んでいるのです」


 そうなると僕は動物のように生きている人間以下の生物ってことになるじゃないのか、なんだあれか、ライトは僕をバカにしてんのか?


「ぼ、僕って本能のまま生きてるかな?」

「それはもう、毎日を自らの欲望に忠実に生きておられ、そして息を吐くように悪しき言葉をつぶやくそのお姿、それはもう魔王にふさわしい、あなたしか魔王を努められるものいません」


 確かに本能の赴くままに生きてあんな事やこんなことしてたけど・・・・・・


「っていうか、もしかして僕のことをずっと見ていたなんてことは?」

「勿論です」

「それはどっちの意味?」

「魔王さまのことをずっと見ていました。」


 キラキラとした笑顔で私をみつめるライトは相当変態なんじゃないだろうかと思った。そして、それと同時に僕はあらゆる行いを見られていたことに対してすごく恥ずかしくなってきた。


 もしかして、部屋の中であんなことやこんなことをしていたのも見られていたってことか?欲望に忠実って、もしかして俺が小春ちゃんへの熱い思いをぶつけているときも見られていたっていうのか、それだったらかなりまずいんじゃないか?


「特に魔王さまが素晴らしかったのは魔法少女らしき者に残虐非道な行いをしているさまです」

「ほ、ほぉ具体的には」

「それはもう魔法少女たちがぐちゃぐちゃに潰れてしまうほど抱きしめたり、魔法少女をあられもない姿にして喜ぶお姿、他にも言い尽くせないほどの所業私はその姿にひどく感動しました」


 もしかして抱きまくらとかのこととかその他もろもろの事を言っているんだろうか・・・・・・っていうか、何勝手に見てるんだよ、恥ずかしすぎんだろ。


「は、ははは、そうかな?」

「そうでございます」

「でもさ、そうやって予め僕のこと見れたならなんで犬とかを召喚したの、人間でるまで粘れば良いのに?」


「どのようにして魔王が選ばれるのかは私達はわかりません、そして、先程も申し上げたように魔王に値する素質を持ったものが選ばれ、私達はそのものを召喚するのです、結局のところ魔王としての力を行使することができればそれだけで私達にとって多大なる力となりえますから、イヌであろうとなんであろうと、魔王であることには変わりないのです」

「そういうものなの?」


「はい、ですから今こそ私共に魔王さまのお力をお貸していただきたい所存でございます」

「でも具体的には一体何をすればいいんだよ、力ってどうやって使えばいいんだよ?」


「ご説明します」

「う、うん」


「古来より魔王たるものが使役してきた呪文に『ブッカオス』というものがございます、これを王冠をかぶった状態で唱えていただきますと魔王の力を発揮することが出来ると言われています」

「ぶ、ブッカオス・・・・・・あっ、言っちゃった」

「いえ、ただ言うだけでは魔王の力は発揮できません、強い想いと信念を持たなければ効果は現れません、そこをどうかご理解ください」


 なんだ、ぶっ壊すとかそういうもののたぐいなんだろうか?

 確かに「ブッカオス」ってちょっとかっこいいかなーなんて思っちゃったけど本当にそんな事で魔王の力が発揮されんだろうか?


「な、なるほどね機会があれば使わせてもらうよ」


 と、のんきに言った途端突然馬鹿でかい扉が轟音とともに壊れた。その音に敏感に反応したライト、キルティア、ゴンゾーはその音に瞬時に反応し、僕を守るように立ちはだかった。


 そして聞こえてきたのはとてもここちの良い幼い声で「魔王」と叫ぶ声、僕は思わず聞き惚れ口元を緩ませた。

 なんだろうこの気持、小春ちゃんの活躍を見てる時と似た感じがする、そしてあの煙の中から誰が現れるんだろう? 


 そんな疑問を抱いていると、煙が徐々にはれてきた。そして煙の中から姿を表したのはフリフリの衣装を着飾った魔法少女らしき人の姿が見えた。


 そんな思いもよらぬ訪問者に僕は立ち上がり目を凝らした。すると、なにやら可愛らしいポーズを取りながら四人の少女僕らを睨みつけていた・・・・・・うわ、なんか真ん中の娘小春ちゃんに似てるなぁ。


「今日であんたらの悪行もしまいや」


 小春ちゃん似の隣にいる、活発そうな関西弁を喋る魔法少女(仮)がそう言うと、隣にいるライトが顔に手を当てながら高々と笑い始めた。なんかいちいち演技臭いんだよなライトって。


「ふ、ふふ、ふははははははっ」

「何が面白いんや?」


 少し動揺した様子でで関西弁の魔法少女(仮)が身構えた。


「魔法少女達よ、残念だったな」


 魔法少女・・・・・・今ライトは魔法少女って言ったよな


「残念?」

「今までは簡単に我が僕達をやっつけてきたかはしらんが、我が魔王軍には今日魔王様が誕生したのだ」


 と、言うことは今僕の前にいる彼女たちは正真正銘の魔法少女、そして小春ちゃん似の子も魔法少女なのか?


「なんやてっ」

「魔王様こいつらが我が魔王軍の敵、憎き魔法少女どもです、今こそこ奴らを叩きのめしましょう」


 ライトのその一言に、僕は先程から感じていた魔法少女という言葉に心の奥底から湧き上がる感情を抑制することが出来ず大声で叫んでしまった。


「うおぉぉぉぉぉぉぉ、魔法少女っ」


 僕の懇親の叫びに部屋の中にいた全員が驚いて僕の顔を見つめてきた。

 しまった、つい興奮して変な声出してしまった。


「な、なんと、魔王さまが怒りのあまり感情を制御しきれていない」


 そんな僕の姿を見たライトは震えながらこう言った、いや、ただ魔法少女に興奮して叫んじゃっただけなんだけど・・・・・・どうしよう、まぁそれでもいいか。


「魔王さま」

「な、何?」

「我ら四天王、魔王さまのためにっ」


 ライトは口を抑え涙ぐみながら僕にそうつぶやくと、キルティアとゴンゾーと共に魔法少女のもとに向かっていった。

 ライト達はそれぞれ魔法少女を一人ずつ相手しており、本来ならジーテンベルグがいて4対4のバトルをした後、僕でラスボスなんて流れなんだろうけど。どうやらジーテンベルグは体調不良でお休みのようだから仕方ない。


 そうなると、魔法少女は四人だから残りの一人が確実に僕のもとにやってくるわけだが、僕は闘うことすら出来ないただの一般人だ。そんな奴がこれからどうすればいいっていうんだろう?

 そんなことを考えていると、小春ちゃん似の魔法少女が高々とジャンプして僕の目の前に現れた。あ、小春ちゃんにそっくり娘が来てくれた。やばいな、めちゃくちゃ小春ちゃんに似ててかわいいなぁ。


「魔王、倒すっ」

「魔王・・・・・・あ、僕って魔王なんだっけ」


 そんなおとぼけた発言も目の前の魔法少女には届いていないのか僕のことなど無視して口上を述べている


「長い長い道のり、辛い道もたくさんあったけど、みんなと力を合わせてここまでこれた、だから私は世界のみんなのために魔王を倒して平和に取り戻すっ」


 そう言うと、小春ちゃん似の魔法少女はそのスカートから伸びる白くて細い足を僕の顔面めがけて振りぬいてきた。僕はそのかわいい足を拝みながら蹴りの衝撃で吹き飛ばされた。


 あぁ、魔法少女の生足蹴り、ありがとうございます。


 そんな僕はちょうどぶち当たった椅子に座りながら薄れ行く意識を必死に保とうとしていた。理由は勿論頬に伝わる魔法少女による熱いご褒美の味を味わうため。するとそんな僕の姿をいち早く発見したのか、ライトの声が僕の耳に届いてきた。


「ま、魔王さま、しっかりして下さい」


 どうして?どうせならもう少しこの痛みを味わってから死んでも良いくらいなのに。


「魔王さまー」


 ライトが叫んでる、あぁ、僕をあれだけ慕ってくれる人なんて早々いないから彼のために何かしてあげたいとは思うけど、でも僕はこのまま魔法少女ものらしい展開で魔王は死んでハッピーエンドっていう流れでも良いんじゃないかって思うんだけど。


 そうだ、僕は魔王だから可愛い魔法少女たちに殺されて、それでハッピーエンドなんだよ今更復活して魔法少女を絶望に突き落とすなんてあんまり好きじゃないって、いつだって魔法少女は勝つって決まってるんだから。


 ライトがどうしてこんなに必死になって僕の事を思ってくれているのかわからないけど、僕はこのまま死ぬよ、だって小春ちゃんに似た超絶かわいい魔法少女に殺されるなんて夢みたいじゃないか、僕は夜の魔法少女愛好家達の夢を実現したんだ、唯一の男としてあの世に逝ってしまうんだ、これほど幸せなことはない。


「だめです魔王さま、あきらめないで下さい」


 徐々に遠くなるライトのあきらめないでという声が聞こえてくる。


「諦めるな」か・・・・・・確かに諦めてばかりの人生だったけど、唯一諦めきれなかったことが僕にはあったな。せめてある程度の攻撃を加えて魔法少女たちの服をぼろぼろに破いてみたかったんだよなぁ、どうせなら最期に魔王の力とやらでそれくらい出来ないかな?


 そう思い、僕は目の前で僕を見下す小春ちゃん似の女の子に向かって小さな声で「ブッカオス」とつぶやくと、目の前の小春ちゃん似の魔法少女の服が紙のように破れ散り、あろうことかその裸体・・・・・・ではなくセパレートのアンダーウェアを僕にさらしてくれた。


 惜しいとは思いながらも、思わぬ出来事に僕はその姿をしっかり拝もうと、薄れゆく意識を正常に取り戻した。

 目の前の何が起こっているのかわからない様子の小春ちゃん似の魔法少女をしっかりと名焼き付けていると、彼女はみるみるうちに顔を赤らめ、そして手で大切な部分を隠しながらその場に座り込んでしまった。


 そして僕は夢の様な状況に興奮し雄叫びを上げた。


「す、すす、スパーッツ!?」


 そんな状況にライト率いる四天王含め、魔法少女は唖然とした表情、そしてライトは一目散に私に駆け寄ってきた。


「な、なんと、素晴らしいお力でございます魔王さま」

「そ、そうかな?」

「本当に素晴らしいお方だ、魔王様お願いします。どうか、残りの魔法少女共もそのお力で存分に痛めつけてやっていただけませんか?」


 そう言われ僕は残りの魔法少女に目を向けると、それはもう軽蔑の目を向けられていて心が少しだけ傷んだ。だが、今はそんな事よりも彼女たちのあられもない姿を見ることができることに興奮している。

 だから、僕は何の躊躇もなく魔法少女たちを見つめ「ブッカオス」とつぶやくと、残りの三人の魔法少女の服は散り散りに破れ小春ちゃん似の子同様にアンダーウェアのみの恥ずかしい姿を晒してくれた。


 服をひん剥かれ為す術もなくなってしまった様子の魔法少女、僕は本当に魔王にでもなった気分であられもない姿で並ぶ魔法少女。

 そんな彼女たちを見つめながらどう調理してやろうかと、吟味していると、一人の魔法少女が何やら携帯のようなものを取り出した。と、その瞬間部屋の中が光で満たされた。


 どうやら僕たちは目眩ましを食らってしまったようだ。


 ようやく目が慣れてきた頃には部屋の中には魔法少女はいなくなっており、残されたのはライト、キルティア、ゴンゾー、そして僕の四人となっていた。


「あ、あれ、魔法少女は?」


 これからが良い所だったと思っていると急に身体の力が抜けては思わずその場に座り込んだ。そして、そんな僕のもとにライトと残りの二人が駆け寄ってきて僕の目の前で跪いた。


「さすがです魔王さま」

「さすがね魔王さま、惚れなおしたわ」

「すげーぜ魔王さま、惚れなおしゴンゾー」


 ゴンゾー、お前はなんで俺に惚れてんだ?

 しかし、そうやって自然に慕われている僕はなんだかこことが良くて思わず笑顔を見せると、跪く三人も僕に笑顔を返してくれた。


 そんなわけもわからないまま始まってしまった僕の非日常はこうして幕を開けた、一体これから何が起こるのか、そして僕は本当に魔王になってしまったのか、そんな夢と現実の間で葛藤していると、ふと僕の意識は何処か遠くの世界へと飛ばされてしまった。

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