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アスモデウスは告白したい  作者: enforcer
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黙示録の四騎士

 級友達がどうであれ、明日野は咲良と二人きりになれる口実をその手中に収めていた。 

 そう【携帯かスマートフォンを一緒に選ぶ】という立派オフィシャルな口実を。


 ウキウキと準備する明日野に、咲良はこんな事を言い出した。


 「携帯も良いんだけど、ちょっと寄りたい所在るから其処が先で良い?」


 無論、咲良の若干首を傾げて両手を合わせた可愛らしいお願いのポーズに、明日野は恥ずかしさから赤く成りつつも頷いた。

 コレだけで簡単に懐柔されてしまう大悪魔。

 もし、彼が率いる軍団が見たら、互いが互いに槍を腹へ突き立て合うだろう。


 コレは現実なのかと。


 学校から少し歩き、街をぶらつく内は明日野は大変だった。

 なにせ何を話せば良いのか分からないのだ。

 彼が恋路に疎いかと言えばそうではないのだが、何故か咲良の前では上手く喋れず、頭をポリポリと掻いていた。 

 

 そんな明日野を見て、咲良は笑い、何ともいい雰囲気である


 ここぞとばかりに、明日野が口を開こうとした瞬間、咲良が先に口を開いていた。


 「ねぇ…………明日野君」そんな咲良の声に、明日野の毛の生えた筈の心臓は高鳴り、早鐘のように打ちまくる。 明日野は、声も無く咲良の二の句を待っていた。


 だが、彼の期待とは裏腹に、アレとばかりに咲良は何かを指差す。


 「着いたよ? 町一番の二輪車屋さん。 私さ、自転車頼んでおいたの」


 そう言う咲良が指差す先には、確かに小さめの二輪車屋があった。

 所狭しと様々なバイクが並ふ。

 勿論、原動機付き自転車や普通の足こぎ自転車も在ってか、割と賑やかな店先だが、明日野は店名を見て顔をしかめた。


 【PALEペイル Ridersライダーズ


 その看板には最初の四文字が鮮やかに大きな文字で、白、赤、黒、青の順に何とも派手に装飾されていた。


 それを見て、明日野は露骨に嫌な顔を見せるが、咲良はそれを見ることは無い。

 彼女が振り向くよりも早く、明日野の顔は貼り付けた様な笑顔に成っていたからだ。


 店にはニコニコ笑う咲良が先頭で入る。

 それを見て、何故か白い溶接面を被った店員らしき人物が手を振って挨拶をしていた。


 「お、咲良チャン来たの? タイヤは変えといた…………」


 店員は、明日野の顔を見て雰囲気が変わる。

 身構える明日野と、ニコニコしている咲良を客に、店員が全部で四人集まり、それぞれが独特なポーズを取っていた。


 「白の騎士は勝利を!」「赤の騎士は戦争を!」「黒の騎士は飢餓を!」「青の騎士は死を!」


 そんな風に、四人はそれぞれが司るモノを高らかに歌う。 


 『四人揃って!黙示録の四騎士!!』当たり前の様に、最後は四人揃って決め台詞を宣っていた。


 余談ではあるが、四人が四人とも、何とも言えない動きで動きつつ言葉を紡ぐ。

 その動きは、過去の仮面ヒーローの変身中に酷似していた。

 明日野は固まり、それを見て、咲良は嬉しそうに微笑む。


 「ね? この店の店員は良い人だし、みんなおもしろいよね?」


 そんな咲良の何気ない言葉に、明日野の口は引きつりながらも笑っていた。

 自転車を受取に来た咲良は白の騎士もとい店員が相手をしており、明日野はと言うと黒い溶接面を被った店員が相手をしていた。


 「…………どうも」


 それしか言えない明日野に、黒の店員はコーヒーを差し出しつつ、赤の店員は椅子へと手で示す。

 当然なのかは分からないが、黒の店員が用意したコーヒーは【ブラックコーヒー】だった。


 何を聞かされるのかと明日野は悩んだが、それとは別に黒の店員は仮面に隠された隙間から笑い声を漏らす。 

 「いやぁ…………どうだいアスモデウス? 地上は良いとこだろ?」意外にも軽い口調の黒の店員に、明日野も合わせるように笑い「いや、まぁ、はい。 所で……この店どうしたんですか?」と、そんな明日野の声に反応したのか、赤の店員が横から現れる。


 「それがさ、聞いてくれよ? 最初はあかも黒も白もさ、この店の名前はアポカリプスにしようと思ってたんさ…………でも、青の糞がさ、酒をたんまり持ってやがってよ………で、飲み会で延々と【四十四マグナム刑事デカ四部作】を流してたのよ…………で、白は寝てて俺と黒は引き続いて同じ役者が出てる映画を見せられたんよ。 で、あの青がペイルライダーって響き良くね? ……とか言い始めてさ、俺も黒もぐでんぐでんでさ、オッケーったらこのザマだよ……ったくよぉ…」

 

 赤の店員は愚痴を言い終え満足したのか、やはりと言うか海外メーカーの赤いバイクの整備に戻っていった。  

 それを聞いて、黒の店員は、少し自嘲気味に溶接面から笑い声を漏らした。


 「…………ま、アイツの言うとおりでさ、店の名前はそんな訳よ、笑っちまうだろ? だって俺だったらONIXオニキスRiderライダーにしてるもんよ」黒の店員はそういうが、明日野には別の疑問が在る。


 赤の店員が語った【ペイルライダー】とは、青ざめた騎士を意味し、それはヨハネ黙示録に記される最終戦争を告げる【黙示録の四騎士】の第四の騎士である。

 そう、この二輪車屋【PALE Riders】は、紆余曲折が在ったとしても黙示録の四騎士が経営する店であった。

 

 最終戦争ハルマゲドンが無かった事は明日野も知っている。

 無論、それは彼等黙示録の四騎士がそれの到来を告げなかったからに過ぎないのだが、それについて明日野は疑問を感じていた。


 「でも……えーと、黒……さん。 どうしてバイク屋なんてやってんですか? だって、ほら…………色々と在るでしょ?」そんな明日野の疑問に、黒の店員が答えるよりも早く青の店員が現れた。


 「どうしてですと? ………そんな事をしてしまったら、もうバイク乗れなくなるではござらんか? 第一、バイクはアメリカンが一番なんですよ? それに、僕が専門のビッグスクーターは店二番の稼ぎなんですから……パーツとか…エアロとか…ペイントとか……走行会とか……」

 

 そんな風に、現れた時と同じく青の店員はブツブツ何やら呟きながら店の奥へと消えていった。 

 それを見て、黒の店員は笑う。

 明日野は訝しい顔を浮かべるが、黒の店員は取り合ってはくれない。


 「ま、そう言う訳よ? 白はツールドフランス目指すって言ってるし、赤はドイツのアウトバーン行きたいらしいし、青は…………まぁいいか。 で、俺は俺で来週店主催のツーリングが在るしよ…………第一、戦争起こるってもさ、俺達の誰も上から【何時いつ】とは言われてなかったんよ…………で、誰もそれを知らないだろ? 俺達だって笛吹けって言われてもよ、悪いけどいつやるなんて知らねえし…いやまぁ、たぶん起こるよ?…その内…きっと……いつか…たぶん……それにしても、バイクは良いぞ? どうだい? お前さんなら一割引きで国産を売ってやるぜ?」

 

 そんな黒の店員の誘いに、免許が在りませんからと明日野は苦笑いで返す。 

 余談ではあるが、白の店員は自転車や原付バイクを専門としており、店一番の稼ぎ頭である。

 赤の店員は外国製にこだわりがあり、欧州車を専門としている。

 黒の店員は自分でも語っていたが、国産車を愛しており、それを専門としていた。

 最後に青の店員だが、彼はアメリカンタイプやビッグスクーターを専門としており、他にも変わった車種を愛する店一番の変わり者であった。


 「ごめんなさい、お待たせしました!」


 唐突な咲良の声に、明日野は椅子から立ち上がり不動の姿勢を取る。

 それを見て、咲良を含めて赤と黒の店員も笑っていた。


 カラカラと咲良が押す自転車のタイヤが音を立てる。


 「あ! 携帯だけどさ………保護者の同意?……とな、色々必要なんだよね、どうするの?」咲良の言うことは当たり前の話である。


 携帯端末を買うには、未成年者には保護者の同意が必要である。

 どうしたものかと悩む明日野だが、コレについては後で蠅野辺りに相談しようと心に決めた。


 「あの……大丈夫だと…思います…ベル……親戚の蠅野さんにお願いしますから……」

 明日野がそういうと、咲良はアパートとは別の方向へ行こうとしてしまい、明日野は首を傾げた。

 それに答えるかの如く、咲良は振り向く。


 「ごめんなさい! 私この後バイトなの……ごめんね? ホントは携帯見に行く筈だったのに…………」


 すこぶるすまなそうに言う咲良に、明日野は両手と首を横へとブンブン振り回す。 

 「…いえ…そんな…大丈夫ですから!」そう言う明日野に、咲良は手を振りながら自転車に跨がり、颯爽と走っていった。


 一人立ち尽くす明日野。 最早、彼に取ってはのっぴきならない事態である。

 今すぐ蠅野のもとに空間転移ジャンプしてみようか悩むが、とりあえずは彼の所在地が必要である。


 明日野の頭のアホ毛が、アンテナの様に持ち上がり回転を始める。

 この当たり障りの無い【居場所特定術デビルピーピング】を用いれば、目的の蠅野の居場所は分かった。 と言うのも、蠅野は何故か明日野の自宅に居るらしい。


 周りを一目見てから、明日野は土煙を上げながら走った。


 ものの数分でアパートに到着後、盛大に足でブレーキをかけながら明日野は五メートルは滑る。

 カンカンと言う金属音を立てながら、階段を駆け上がり自室へと入るのだが、そんな明日野の姿を、高品理彩は遠くからでも見てしまっていた。


 明日野の自室では、蠅野が難しい顔をしながら手元の資料に目を落としていたが、そんな事は明日野には関係なく、蠅野に詰め寄る。


 「…………あ」と、蠅野がたった一文字呟いた瞬間、蠅野は明日野によって立たされる。 「話は後だ! 今の俺にはケイタイなるモノが必要であり、それを買うには蠅野! お前の協力が必須なんだ! 頼む! 友よ!」勢い任せの明日野の攻勢に、蠅野はウンと首を傾げる。 


 ポケットから予備のスマートフォンを取り出すと、ハイとそれを明日野に渡してくれた。 


 「まぁ、それは僕のだけど、名義は一応君だから…………それにほら、念話だと天使にバレるし、それだと詫び入れに行かないと行けなくなるだろう?」


 ご丁寧に用意してくれた蠅野に、感謝をしつつも、明日野には直ぐ別の事が頭に浮かんだ。 


 「蠅野! 咲良のバイト先は知らないか!?」

 

 そんな明日野の質問に、蠅野の眉が漢字の八の様に成ってしまう。

 蠅野の大悪魔としての勘が訴えていた。 これ以上聞いてはいけないと。


 「頼む! 友よ! 咲良と同じバイト先を紹介してくれ!!」


 案の定、明日野は蠅野が一番聞きたくない台詞をその口からぶちまけていた。


 悪魔達が愉快な生活を営む中。


 本来は蠅野が告げる筈で在ったちょっとした事件が起こっていた。


 その事件とは、学生達が暴れる事であり、あまり優等生とも言い辛い学生達は、その身に宿った力を振るっていた。

 霊感が微妙に強い者は見てしまう。

 その学生達の頭にウッスラと浮かぶ光の輪を。

 誰の思惑かは不明なのだが、その暴徒達は在る所へと向かっていた。

 それは、咲良のバイト先である薬屋ドラッグストアであった。

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