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アスモデウスは告白したい  作者: enforcer
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習うより慣れろ

 登校初日。 


 だが、明日野は、困っていた。 


 忘れ物がどうのこうのよりも、咲良の隣に座る事は出来ず、おまけに周りから何処から来ただの趣味はなんだ、携帯電話の番号からアドレス、様々なアプリケーションの事まで聞かれたが、明日野には答え様が無い。


 サタンから一応一目スマートフォンを見せてもらってはいたが、それが何なのかすら分からず、明日野は眉を寄せ眉間に皺を作っていた。


 彼からすれば咲良以外の人間は歩く蟻か喋るキノコ程度の認識でしかない。 

 何故こうまで自分に構うのか分からない明日野だが、一応人間に化けている彼は平均以上の見た目からか、周りはキャイキャイと騒いでいた。


 ともかく、酒飲み話として一応は蠅野から現代に付いての云々は教わってはいるものの、明日野自身からすれば「へー、そーなんすねー」ぐらいにしか思っておらず、何とも退屈な朝の始まりであった。


 元々の博学さも相まって、特に授業で困る事は無いのだが、一つ在るとすれば、歴史だろう。 

 有史以前ならともかく、江戸時代以降はチンプンカンプンであり、ソレはソレで面白くもあった。 

 勉強が嫌いかと言われれば明日野自身はそうでもない。 

 そもそもやたらと長生きしているのもあってか、なかなか新鮮なモノを感じてもいた。


 「でもさー、なんで携帯もスマホも持たないの? 現代人なら持ってて当たり前でしょ?」


 一時間目が終わり、隣の名も知らない女子からそう言われたが、明日野は答えに窮す。

 そもそもその気になれば念話すら可能な大悪魔に、今更そんな玩具を持てと言われても困っていたが、【現代人には必須】と言う単語には明日野も反応する。 


 「ふぅむ…………なるほど。 では後で買いに行くか…………」ボソッと明日野がそう呟く。 


 それを、隣の女子はこれ幸いにと「…………じゃあ、私が」と、言った所で他の人間達に抑えつけられていた。  頭の上に【?】を浮かべる明日野をよそに、脱げ駆けしようと画策していた彼女は敢えなく鎮圧されてしまう。


 周りの女子がどう騒ごうと、明日野には微塵も感じる所は無い。

 彼の頭には咲良以外は無いのだ。 

 モテると言えば、例え地獄でもモテる。

 それこそ何故故にと周りの大悪魔から軍団の副官、下っ端に致までアスモデウスの固執ぶりには疑問視されていた。


 無論、業を煮やしたサキュバスの一人が、サラに化けて言い寄った事件が過去に在ったが、コンマ二秒で正体を看破され、アスモデウスが経営するカジノに置いて【3ヶ月 超ミニバニー姿で接客の刑】に処された。

 無論、力任せに言い寄る勇者も居たが、本気で怒ったアスモデウスに、氷結地獄コキュートスの嘆きの川まで追いやられ【二千キロ 個人自由型メドレーの刑】に晒された。


 と言う事も在ってか、周りが騒がしいのも気にとめず、明日野は意外にもに時限目の用意に余念が無い。

 現代人の授業成るモノは意外に面白く、興味深いとすら思っていたのだった。


 穏やかに二時間目(数学)も終わり、フムフムとノートを明日野が見ていると、彼の身体に震えが少し走る。  悪寒ではなく、サラの気配に気付いたからだが、振り向けずにいた。


 「どう? 明日野君、だいぶからかわれていたみたいだけど………やっていけそう?」


 そんな咲良の言葉を聞いても、明日野の目は泳ぐ。 

 「…えと…あの……はい…」周りを囲む級友クラスメートとはエラい違いの少年の反応に、周りも素早く順応しヒソヒソ話を展開していた。


 控え目に言っても咲良は美人の部類に入る。 

 そして、何処か惚けた様なのほほんとした雰囲気も相まってか、男女問わず人望は有るが、如何せん本人があまりにのんびりしているためなのか、それを気にはしてもいなかった。


 級友が見つめる中。

 のんびりと明日野に話し掛ける咲良と、何処かしどろもどろな明日野は見ている分には大変面白いモノである。

 

 だが、此処でも男女問わず疑問視される事は、明らかに明日野は咲良に好意を抱いているのが見え見えなのだが、一方の咲良は明日野を茶化しているようにしか見えず、寧ろ見物客ギャラリーの方がやきもきさせられる程であった。


 三時間目。

 無駄にやる気を発揮する男子が三分の一。 

 ほとんどやる気が無いのが三分の一。

 残りは微妙に有るような無いようなのが三分の一。


 そして、科目は体育であった。


 颯爽と走っていく級友に、明日野は首を傾げつつ、話すチャンスとばかりに咲良に聞いてみた。

 「…あの…高品さん……つ、次の授業は……何でしょうか?……」明日野の声は、周りが何故どもるのか聞きたくなるほどだが、聞かれた咲良はのほほんと答える。

 「あぁ……体育だよ? 確か…男子はバスケットじゃあないの?」そんな風に優しく教えてくれる咲良に感謝しつつも、明日野はバスケットとは何かと頭を捻っていた。


 やった事も見たことも無いスポーツ。

 果たしてそれをいきなり出きるのだろうか。

 だが、それ以前に明日野は体育用の体操着を持っていない事に気付いた。


 今着ているのはYシャツとスラックス、靴下と上履き、以上。

 

 ともあれ、場所を教えてあげると咲良が言えば、餌に釣られる何かの様にフラフラと明日野は彼女の後に続いた。


 バスケットボールと床がぶつかる音に混じり、ゴム底がキュッと音を鳴らす。


 何となく見ている内に、取りあえずのルールは明日野にも分かった。

 端的に端と端の間に有る輪に、ボールを入れれば良いらしく。

 フムフムと言った様子でそれを見ていた。


 同級生の一人が、興味深そうにバスケットに見入る明日野に話し掛ける。

 「よう転校生! バスケットは苦手か?」そう言う彼は、如何にもスポーツやりますといった好青年にも見えるが、明日野からすればどうでも良い。

 とは言え、せっかくなのだから彼に色々と尋ねる事にした。


 「は? え、なに?バスケット知らないの?」そんな風にからかう様な口調の男子は、少しケラケラと笑うが、訝しむ明日野に懇切丁寧にバスケットのルールを説明してくれた。

 一通りルールを聞き終え、せっかくなのだから明日野は楽しみたいとも思う。

 「おい貴様…………名前を聞いてなかったな、何という名だ?」明日野がそう言うと級友も眉を上げた。

 「…………近藤だよ、一応クラス同じなんだから覚えてくれよ…………」少年は近藤と名乗り、明日野は彼の肩をポンと叩いた。

 「そうか、では宜しく頼む」一応礼儀を返す明日野だが、実は近藤の名前は気にはしていなかった。


 とは言え、教えてくれた事には礼も在ってか、明日野は少し悩む。

 そんな少年の背中を近藤は軽く押した。


 「ほら、百聞は一見にしかずって言うだろ? 少しぐらいやって来いよ」


 級友からそう言われたが、周りのプレイ中の面々はそれぞれ顔をしかめたり笑ったりしている。

 なにせ体操着どころか、政府そのままなのだ。

 ともあれ、ルールは会得したのか、明日野は平然とコートまでスタスタ歩いた。


 だが、全てが丸く収まると言う訳ではない。

 明日野の姿を見つけた咲良が、のほほんと「頑張ってねぇ!」と、そんな軽い声援を贈ってしまったのだ。


 無論、通常の人間ならば聞こえなかったかもしれない。

 だが、生憎と少年の耳は地獄耳であり、自分に手を振る笑顔の想い人。

 咲良に微笑み返してから、明日野は目の前の敵?に集中した。


 ハシャぐ女子とは反対に、男子のコートは静まり返る。


 大悪魔の遠慮の無い殺気に当てられ、誰一人動こうとしなかった。

 明日野は真剣にバスケットをしようとしているだけなのだが、他の男子はたまったものではない。

 

 【動いたらやられる】そんな風に。


  まるで飢えたライオンか、藪に潜む獰猛な虎か、はたまた気が立っている黒熊ブラックベアの前にポツンと立たされている感覚に、男子達は声もなかった。


 明日野の思惑はどうであれ、コートにはベチベチと不器用なドリブルの音が響く。


 固まった面々を余所に、明日野は四苦八苦しながらボーを何とか操っていた。

 ある種の異様な光景でだろう。

 転校生、それもバスケットはおろか現代機器を知らないの田舎者だと男子達は見ていたが、端から見ていると正に【接待バスケット】の光景であった。 


 ハーフタイム。 と言うのは別として単に交代の時間である。


 周りのげんなりした空気とは裏腹に、明日野は初めての一人バスケットにご満足していた。

 此処で、ほとんど汗もかいてはおらず、息も乱れていない事を気にする人間は居ないだろう。


 周りが殺気に当てられていようが気にしない豪胆な物も居た。

 言わずもがなそれは咲良であり、にこやかに笑いながら明日野の元へとパタパタ歩いてくる。

 

 「なんかさぁ……明日野君は面白いよね?」ドキマギする明日野をよそに、咲良は気軽にそう言った。

 「…え?…あ、はい…そう、ですか?…」周りの男子に対する態度とはえらい違いで明日野は話す。


 「こう……ぺちぺちやってるのなんかスッゴく可愛く見えるもの」そう言うと、咲良は手を上下させる。

 益々俯き顔を赤くする明日野に、咲良は気にせず微笑んでいた。

 「でも、前の学校ではどんな事してたの? バスケットも知らないって皆言ってるけどさ」咲良の何気ない質問に、明日野は答えに窮した。


 本来は監督業であり、地獄で荒稼ぎをしながら、時には舐めた下っ端をシメてましたとも言えず、口をモゴモゴとさせる。


 だが、ふと在る事を思いつき、ソレを話すことにした。


 「あの……えと……け…建築関係とかです…なんて言うか、ほら、宮殿とか……」明日野がそんな風に言うと、咲良はキョトンとしていた。

 「…………へぇ? じゃあ凄いんだね? 将来はデザイナーとか?」そんな咲良の言葉に、【貴女を嫁にしたい】とは言えず、「…はい…まぁ……」と、曖昧に明日野は答えて、咲良は面白そうに笑っていた。 


 何とも初々しく話す明日野と咲良。 だが、体育館の窓の向こうからは、そんな二人を見る怪しげな影があった。

 お読みいただきありがとうございます。



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