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アスモデウスは告白したい  作者: enforcer
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少年の言葉

 負けた天使を見下ろす少年ではあるが、その顔には、勝った爽快感よりも、つまらなそうな趣がある。

 

 「申し開きねぇ……そんなもん、有りはしませんよ」

 

 羽も消え、輪すら消え去ったラファエル。

 中学校の校舎を抉りながら、彼はやんわりと首を横へ振った。

 

 今や、街中でも他の天使も負けている。

 そもそも、勝てる通りが無いのでは、それも無理はないだろう。

 

「……言い訳はそれだけか? どの道、協定違反はお前のせいだろう……お前の処遇など、俺様の知った事ではないが、恐らくは、天界にてミルクセーキ造りの刑だろうな……」  

 明日野の声を聞いたラファエルは、つまらなそうに溜め息を吐いた。

「死人相手に、未来永劫の奉公……サタンが、嫌気が差した理由……今は何となく分かりますよ……骨身に染みてね……」

 

 相手が動こうが、今の明日野には知った事ではない。

 が、問題が無いわけでもない。

 古代魔法、【戦の陣】が消えた以上、街には普通の価値観が戻る。

 至る所で、パトカーや消防車が、思い出した様に高らかにサイレンを鳴らし始めていた。

 そして勿論、校舎が大々的に破壊された理沙の中学校にも、そんな車はどんどん近付いてくる。

「やっば…………」

 先にそれに気付いた安藤はと云うと、急ぎバイクに跨がり、キーを捻った。

 火が入ったエンジン唸り、マフラーからは排気音。 

 

「おーい! 明日野君!! 僕さ、先にずらかるから!!」そんな言葉と共に、安藤操るバイクはとっとと逃げ出していた。

 

 実に気まずい空気である。

 

 戦いが終わったからか、理沙はハッと成るが、子猫はと云うと、いつもの子猫姿へと戻っていた。

「あんた、ズルくない?」

『そうでやんすか? 別に、あっしに文句を言わにゃいで頂きたい……なんせ、あっしには理沙のお嬢を守れとしか云われておりやせんので』

 理沙は、子猫とのやりとりを諦め、さっと子猫を拾い上げると、足早に明日野へ駆け寄った。

 ウンと唸る明日野の頭を、理沙は、ぺちんと平手で叩く。

 だが、この時ばかりは、明日野はむっとしていた。

「理沙よ………今がどんな時か、分かっているのか?」

「そんな事、どーだって良いでしょ?」

 明日野の苦言はともかくと、理沙は、校舎の天辺を指差した。

 

 其処では、咲良が実に困った顔で手を振っている。

 勿論、それを見た明日野は、かつての同胞よりも、彼女の事を案じていた。

 サッと、理沙の腰に手を回す少年だが、それをされた理沙は、僅かに頬を染めながら、そっぽを向く。

 もはや、正体も見せているからか、明日野は、実に軽い跳躍にて、中学校の屋上へと駆け上がっていた。

 協定もくそもないと、開き直った明日野を見送りながら、ラファエルもまた、諦めた様にスゥッと消える。

 妹を伴い現れた少年だが、咲良は、困ったように眉を寄せていた。

 だが、同時に、明日野も眉を潜める。

 

 高校生同士の二人ではあるが、在る意味、お互いに実に気まずいモノがあった。

 

 だが、もはやこれまでと、明日野は、地獄へ戻らされる前にやるべき事を思い出すと、ソッと咲良の前へと足を延ばす。

 理沙は、実に複雑であった。

 姉と大悪魔が、恋人同士など、どうなのかと。

 だが、二人の成り行きを、黙って見守るのみである。

 

「なんか、凄かったよ? えーと………」

 先に口を開いたのは、咲良である。

 だが、恐れるというよりは、困って居るだけでもあった。

 そんな彼女に、明日野も、実に困った様に手で頭を掻いた。

「咲良……えっとな、大事な……話が在るんだけど……」 

 そう言う明日野の声は、告白寸前のモノである。

 

 悪魔が、神聖な瞬間と言うのも無理があるが、それでも、神聖でもある。

 

「ずっと……色々考えてたんだ……でも……えぇと……」

 そんな明日野の声に、理沙と彼女に抱かれる子猫は、お互いに目を細める。

 いい加減、ちゃっちゃと告白せよと。

 ただ、明日野を前にした咲良にしても、何故かモジモジとした様子を見せる。

 そんな咲良の態度は、云うことが在るなら聞きます、というモノである。


「ずっと……ずうっと……好きだった……」

 敢えて、明日野の言葉が過去形なのは、在る意味過去のサラへと贈る言葉なのだろう。  

 それでも、顔を持ち上げ、咲良の目をじっと見つめる明日野は、唾を飲み込む。


「高品咲良さん……俺と、付き合ってくれませんか?」

 

 千年の時を経て、アスモデウスは、ようやくその言葉を口にしていた。




お読み頂き、ありがとうございました。

大変に中途半端ではあります。

ですが、だらだら書いていても意味がありませんので、此処で終わりとさせて頂きます。

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