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アスモデウスは告白したい  作者: enforcer
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古き友

 バンドの行列に並ぶ、のは良いが、明日野は非常に居心地が悪い。

 何故かと言えば男女の比率に、多大な問題が在るからだろう。

 

 無論、【堕天使】のファンの中には、男性が居ない訳ではないが、その比率は、八対二という、あから様なモノである。 

 つまり、今の所、明日野は前後左右を、女性に囲まれている上に、長身の彼は、遠目にも目立っていた。


 咲良と理沙には、周りの喧騒に紛れて、聞こえては居ないが、明日野は、実に低く唸っていた。

 有り難いと云うべきか、救いというべきかは知らないが、目立つ明日野だが、それでも、学校に居る時の様に、周りからはキャイキャイとは云われない。

 

 その代わりに、明日野は、古くから知る同輩の話を、ゲップが出そうなほど、周りから聞かせれていた。

  

 但し、周り中の誰よりも、コレから見るであろう人物?に対して、よくよく熟知している明日野からすると、小一時間程度、周りの小娘達に、とくとくと説教垂れたいのを我慢する。   

 外見上は、十代の明日野だが、その中身は、数えるのも面倒くさい程の年を経て居り、その辺のお婆ちゃんよりも、ずっと年上な明日野である。

 

 それでも、咲良と理沙が楽しげに話すのを見て、フゥと、鼻息を漏らした。


 いよいよ、開演なのか、行列の先頭方から、僅かにスタッフらしき声が響く。


 「お待たせしましたー! 中へどうぞー!」

 

 そんな声と共に、行列が動くわけだが、それは、ゆったりとしたモノではなく、急かすが如く、早い。

 ドスドスと背中を押され、イラッと来る少年だが、咲良の手前、怒り出すという事は無く、客席入りするまで、終始少年はムスッといていた。

 

 ライブ会場、とは言え室内はそれなりに広いが、立ち見であり、客席といったモノは無い。

 にもかかわらず、満員御礼とでも云いたくなるほどに、人口密度は高く、隣との距離は非常に狭いモノがある。

 

 だが、それは、少年明日野にとっては、実に好都合。

 何故かと言えば、高品姉妹の隣に、明日野が居る訳だが、三人の真ん中は、咲良である。

 狭いからこそ、咲良と隣合えた明日野の顔は、先程迄とは違い、実に、にこやかであった。

 反対に、咲良の妹、理沙だが、この時の彼女は、微妙に不機嫌である。

 

 そんな少女の中には、【自分が真ん中が良かったかも】と、淡い想いがあった。

 

 「ねぇ、明日野君」咲良の唐突な声に、明日野は、ブルブルと顔を振って、【見せられない顔】を消し、出来るだけの真面目な顔を取ると「なんだい? 咲良?」と、気取る。

 

 如何に気取っていは居ても、決して、咲良には自身が当たらないよう踏ん張っている明日野の姿に、咲良は、わざと、自分から横へと身体をズラした。

 手を握り締めるという事は無く、ただ、腕と腕が当たる程度なのだが、それでも、明日野の顔は、固まる。

 

 「狭いよね? …………此処」

 

 思わせ振りな咲良の声に、明日野の喉が、ゴクリと鳴った。

 

 「……さ……」と、明日野が一文字呟いた時点で、会場の灯りは落ちる。

 

 一瞬とは言え、真っ暗闇な為、咲良は、少年を見失うが、唐突に、誰かに手を握られる感覚に、我知らず彼女は微笑む。

 対して、そんな咲良の隣に居たはずの明日野も、同じく手を握られる感覚に、大悪魔らしくもなく、余りの緊張感から、プルプルと震えていた。

 

 そして、次の瞬間には、会場のステージに明かりが灯る。

   

 『えー…………本日はお越し頂き、ありがとう』

 

 まんまマイクテストでは在るものの、ステージのド真ん中には、美麗な青年が立ち、会場のお客様へと、軽い挨拶を贈る。

 

 それだけで、会場のファン達からは、黄色い歓声が飛ぶのだが、明日野自身は、ステージなど見ていない。

 

 そもそも知り合いが一々、マイクパフォーマンスを行っているよりも、【自身の手を握られた】という事の方が、遥かに意味が在る。

  

 だが、明るくなったからこそ、明日野の愕然とした顔は、鮮明。

 その理由なのだが、いつの間にか、咲良と明日野の間には、理沙が居た。


 咲良はポカンと成り、明日野は、驚愕に顔を歪める。

 そんな二人の真ん中で、理沙はと言えば、二人の間を仲介しながら、ジッとステージを見ていた。


 固まる少年を余所に、ライブの準備が着々と進められる訳だが、明日野自身、同輩よりも、今、隣に居る少女に、疑問の念を抱いていた。

 

 「り、理沙さん…………なにを、していらっしゃるのでしょうか?」

 どこか棒読みな明日野の声に、彼の手を握る、おませな中学生は、フンと鼻を鳴らす。

 「え? だってほら、大チャンたら、お手でが寂しそうなもんで……」 

 何故か勝ち誇る様な妹に、姉の咲良は、落ち着いた様に微笑むが、対して、明日野はというと、今までは違う意味で、やはりプルプルと震えていた。

   

 目ざとく、明日野を見かけたボーカルの青年は、端正な顔に、面白いと言わんばかりの笑みを見せるが、その笑顔だけでも、観客席からは黄色い声援が飛ぶ。

 

 ライブの後にでも、ゆっくり呼んで、話せば良いと、ボーカルの青年は、ライブに集中した。

 優美な見た目に、特徴的な長い黒髪、西洋の貴族的でもあるが、同時に背徳的な衣装も相まって、ボーカル【ルシフェル】は、実に蠱惑的な魅力を備えていた。

 

 無論、それは、少年の隣に居る少女も思わず見惚れる程である。


 理沙の、少女とは思えない程に、おませな態度焦る明日野だが、咲良の方へと目をやると、以外にも、楽しそうに笑うのみで、特に目立った変化は見られない。

 

 ホッと、胸をなで下ろしながら、明日野もまた、ステージに集中した。

 

 少年が、ステージに目をやるのと、ステージ脇から、ギタリストやベーシスト、ドラマーが姿を現す。

 特徴的な髪形なドラマーだが、得てして表現するならば、髪形云々以前に、【頭が燃えている】といった方が正確だろう。

 勿論、本当に燃えている訳ではないにせよ、顔立ちはボーカルと引けを取らないが、余りに目立つ頭に、明日野は、眉を潜めた。


 だが、やはり観客席からは「キャ~! ベリアル様~!!」と、黄色い歓声が飛ぶ。


 対して、ベーシストとギタリストの女性二人だが、長髪短髪という違いは在るが、その顔立ちと雰囲気が良く似て居り、どことなく、冷たい感じを明日野は想うが、知り合いである以上、性格は観客の誰よりも熟知していた。

 

 「パティンとパイモンか…………」ぼそりとそう呟く明日野。


 だが、周りの客から、ギラリと睨まれ、思わず背を反らす。

 【何故に?】という疑問が浮かぶ少年の手を、理沙はグイグイと引き、此方へと、明日野の顔を向かせた。

 

 「なんだ?」という明日野に、理沙は、「ダメダメ……【堕天使】の皆様は、キチンと様付けしないと………後が怖いよ?」と、謎理論を提示する。

   

 しかしながら、ステージ上の面子に関して云えば、全員と知り合いどころか、同胞である明日野からすれば、【様付け】という理沙の教えに、ムスッと眉を歪める。

 

 とは言え、咲良に厳めしい顔を見せる訳にも行かず、結局の所、少年の顔は、どことなく怪しい笑顔をしていた。

 

 何はともあれ、無事、ライブは始まる。


 高音のギターソロから始まるそれは、最初は静か調べであった。

    

 曲自体は、明日野は前にも聴いて居たが、違いが在ると言えば、生でその場で、録音ではないという事だろう。


 だが、徐々にに盛り上がりを見せる曲に、ルシフェルの歌が混じれば、話は変わる。

 

 機材を通しての声で在れば、明日野も気付かなかったが、こうして、生で、自分の耳で聞けば、違いは明白だろう。

 

 地に堕ちる悲しさではなく、それでも尚、立つという事を、かつての友は、同じく友に聞かせる様に歌う。

 

 それを聞いていた咲良ですら、僅かに身体を揺らし、ついでに、隣の妹さんに至っては、姉と連れの少年の手を放し、周りの観客同様に、はしゃいでいた。

 

 「…………律儀なモノだな…………」

 

 手が自由に成ったからか、明日野は、そう呟き、腕を組む。


 歌詞だけでは分からないが、友が歌っている詩は、自分が捕まったとき、助けなかった事を詫びるモノであり、それを聴いて、明日野は、我知らず笑う。


 何がどうであれ、過去に捕まった経緯に関して云えば、落ち度は自分に在る。

 だからこそ、友の詫びを聴いた明日野は、複雑な顔を浮かべていた。

  

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