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分身  作者: エンデバー
5/8

 待ち合わせ場所の小さな公園に戻ってきた俺たちは、ブランコに腰掛けた。午前中とは違い、公園には数人の親子がいた。砂場で砂山を作っている子供たちに、少し離れたところからベンチに座って子供たちを見守る母親の姿。夕方の公園によくある光景だ。

「大輝って、ジェットコースター苦手だったよね?」

 麻衣は確かめるように訊いた。

「ああ、苦手だ」

 俺は高いところが苦手なのだ。それに、ジェットコースターともなると、スピードが加わるのだから尚更。しかし、今日は仕方なくそれにも乗ったのだった。

「今日の大輝、前とは別人のような気がした」

「別人って?」

「前行った時、ジェットコースターに乗ろうって誘ってくれたのは大輝だったの」

「俺から誘った……」

 ジェットコースターが苦手な俺が、そんなことをするはずがない。

「だけど、今日は違った。ジェットコースターに乗った時、大輝はずっと怯えてたし」

「それじゃ、麻衣と行った俺は誰なんだ」

「わからない」

 麻衣は首を振った。彼女の頭の中も混乱しているのだろう。

「確かに大輝だったわ。だけど、今日の大輝とは違った。やっぱり二重人格とかじゃないの?」

「そんなはずはない」

 俺はつい怒鳴ってしまった。

「二重人格とか多重人格って、本人には自覚がないものよ。それにその時は記憶がないんだし」

 仮に俺が二重人格としても、ほかの不可解な出来事は解決できない。突然身体に走った痛みや、忽然と物がなくなっていたりしたことの説明がつかないのだ。

 しばらくすると、子供たちは帰っていった。公園に残されたのは俺たち二人だけだ。空は赤く染まりつつある。俺は立ち上がり麻衣の前に立つと、彼女の手を引っ張って、公園の端にある大きな桜の木の下まで行った

「これ覚えてるか?」

 桜の木の幹に、二つの横線が刻み込まれている。二つの線には、三センチくらいの隙間がある。

「私たちが小学生のころに測った身長だよね。確か……小学四年生の頃だったかな」

「そう」

 上に刻まれているのが麻衣のもので、下が俺のものだ。

「あのときは、大輝ちっちゃかったもんね」

「今は違う。身長測ろうぜ」

 俺は桜の木の幹に背をつけ、背筋をぴんと伸ばした。麻衣は少し尖った石で、俺の頭上に一本横線を刻み込んだ。次に、麻衣が桜の木の幹に背をつけ、俺が彼女の頭上に横線を刻み込んだ。

「少し目を瞑ってくれないかな」

 麻衣はこくりと頷くと、目を瞑った。俺は彼女の唇にそっと唇を重ね合わせた。柔らかな感触が伝わってきた。彼女は目を開けると、驚いた表情で俺を見つめた。

「これが俺の答えだ。俺、麻衣のこと好きだよ」

 一言出てこなかった言葉。俺が出した答え。今日、俺から告白しようと決めたことだった。麻衣からすると俺に告白して、俺から告白されたことになるのだろう。

「ありがとう」

 麻衣は今にも泣き出しそうな顔をしている。俺は彼女をぎゅっと抱きしめた。

「ごめんな、俺が記憶ないばっかりに悲しい想いさせて」

「ううん、大輝の気持ち聞けたから、もうそれでいい」

 俺は桜の木に彫られた二つの横線に目を向けた。二つの線は十センチくらいの差がある。その二つの線は、俺と彼女の新たなスタートラインが刻み込まれた証でもある。


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