表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
分身  作者: エンデバー
4/8

 小さな公園には誰もいなかった。俺は公園の時計台の下まで行くと、時計を見上げた。時計は午前九時四十五分をさしていた。彼女との待ち合わせの時間まで、後十五分ある。近くのベンチに腰を掛け、地面に視線を落とした。俺の影は依然として戻らない。どうして消えてしまったのか、未だに答えも見つからない。

 ふっとため息を漏らすと、青い空に目を向け、ぼうっと雲の流れを目で追った。雲の流れと共に、雲の影も移動する。

「なにぼうっとしてんの」

 目の前に突然大きな影が現れ、俺は我に返った。

 白いワンピースを着た麻衣が立っていた。彼女の姿に俺は目を奪われた。化粧を施した彼女の顔は、学校で見る彼女の顔とは程遠いように思えた。普段一重瞼の彼女も、今日は二重瞼になっていた。それに、いつも掛けている黒の眼鏡をかけていない。おそらくコンタクトレンズをしているのだろう。凛とした表情と、きりっとした二重瞼の彼女に、どこか清々しさを感じた。

「で、今日はどこ行くの?」

 麻衣は俺の隣に座りながら訊いた。

「遊園地に行こう。俺の記憶がなかった遊園地へ。無くしてしまった記憶を取り戻したいんだ」

「無理しなくていいのに。取り戻さなくったって、また新しい思い出を作っていけばいいんだからさ」

「それじゃ駄目なんだ」

 俺は首を横に振りながらいった。

「俺の問題の解決にならない」

「大輝の問題?」

 麻衣は怪訝な顔で俺を見つめた。俺は彼女に、これまでの不可解な出来事を全て話した。

 このまま記憶を取り戻そうとしなければ、なにも解決しないだろう。俺の周りで起こっている不可解な出来事は、これに関連することに違いないはずだ。しかし、物理的に考えれば有り得ないことだと、頭の中ではわかっている。同じ時間軸の中で、二人の自分が別々の行動をするなんて考えられない。幽体離脱やドッペルゲンガーなどの、非科学的な考え方をしたくなかった。

「そっか。それじゃ、大輝の記憶が戻れば、全ての謎が解けるかもしれないんだね」

「そうだな」

「それじゃ、行こっか」

 麻衣は俺の手を握り、立ち上がった。

 俺たちが行ったらしい遊園地は、最寄り駅から三駅離れたところにあった。そこからバスに乗り、十五分ほどで着いた。

 その遊園地は雑誌にも取り上げられるほど有名な場所で、日曜日ともあり人で溢れていた。俺は麻衣と腕を組み、遊園地の中へと足を踏み入れた。

 俺の記憶を取り戻すためといって、麻衣は以前俺と来た時と同じアトラクションを選択していった。しかし、俺には全て初めて目にするものばかりで、記憶の戻る気配は一向になかった。

「どう? 記憶戻りそう?」

 二人で少し遅い昼食をとっていると、不意に麻衣に訊かれた。俺は力なく首を横に振って答えた。

「そう」

 麻衣は沈んだ顔をした。

「ごめん。やっぱそう簡単には記憶なんて取り戻せないのかな」

「焦ることないよ。きっと取り戻せるって」

「そうかな」

 俺は苦笑した。麻衣はそういうものの、内心取り戻せないのではないかと思っていた。

 昼食後も、いくつかのアトラクションを回ったが、結局俺はなにも思い出せなかった。いや、そもそも記憶を無くしてしまったこと自体が、間違いなのかもしれない。結局、なにもわからないまま遊園地を後にすることとなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ