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「あんた、今日ちゃんと学校に行ったわよね。途中学校を抜けたりしなかった?」
玄関で靴を脱いでいると、母が怪訝な顔をして尋ねてきた。
「ちゃんと行った。それに、抜け出してもないよ」
「そう」
母は納得のいかなさそうな顔をしていた。そして、続けて独り言でも呟くようにいった。
「おかしいわね。昼過ぎに見たのは一体なんだったのかしら。間違いなく大輝だと思ったんだけど」
「どうかしたの?」
「昼過ぎに、ゲームセンターで大輝を見かけたのよ。しかも、制服じゃなくて私服だった」
おそらく人違いなのだろう。昼過ぎといえば、俺は教室で昼食を食べていた最中だ。無論、学校を抜け出したりもしていない。その後、五時限目に提出しなければならない数学の宿題を写していたのだ。
「きっと人違いでしょ。俺は学校を抜け出したりしてないんだから」
「そうなのかな」
依然として母の顔はぱっとしない。なにかもやもやとしたものでも残しているかのようだ。
「学校を抜け出して、ゲーセンに行くような不良じゃないって」
「それもそうね。きっと私の見間違いね」
そういって、母は台所に戻って行った。
ズボンのポケットに手を突っ込むと、財布が無くなっていることに気付いた。昨夜、確かにポケットに入れておいたはずだった。どこかに落としてしまったのだろうか。だが、いくら考えても、思い当たる節はなかった。財布には大してお金は入っていなかったし、高い財布でもなかったのでまた買えば済むことだ。
二階の自室に行き、クローゼットを開けると、今度はお気に入りのワンポイント入りのティーシャツ一着とジーンズが一着無くなっていた。どうして、無くなってしまっているのか、俺にはさっぱりわからなかった。仕方なく、他のティーシャツを着て、ジーンズを穿くことにした。
その後も、俺の周りではなにかが忽然と消えたりすることが続いていた。消えた物はそこら中を探しても、一つも見つからなかった。俺にはそれらの原因がさっぱりわからずにいた。ただ一つわかっていることは、全て日中に起こっているということだけだ。
俺は暗い闇の中に立っていた。あの時と同じだ。そして、ぱっと視界が明るくなった。黒い人の形をしたシルエットの影が、俺の目の前に立っている。
「一体お前は誰なんだよ? どうして俺の前に現れる?」
「前にもいったことだ。二度も答える必要はないだろう」
黒い影は、白い歯を覗かせ、笑った。その瞬間、俺はぞっと、鳥肌が立つのを覚えた。
「だから、『俺はお前。お前は俺』ってどういうことなんだよ。意味わからないって」
「明日にでもわかるだろう」
黒い影はそういい残し、光の中へと消えていった。
うるさい目覚まし時計の音で、俺は目を覚ました。背中はぐっしょりと、汗でべたべたとなっていた。あの黒い影はなにがいいたいのだろうか。今日にわかるといっていたが、果たして本当なのだろうか。