レア宝箱
「ただいま。土産があるぞー」
「お兄ちゃん、おかえりなさいっ。早く開けよっ!」
「待て待て。宴会でのお楽しみだ」
「はーい。楽しみだねっ。ちっちゃいロボットちゃんだと嬉しいなあ」
アザラシ装備をジーンズとシャツに変え、ニーニャの頭を撫でて操縦席に上がる。
ハシゴを上り切ると、冷たい缶ビールが飛んできた。
「また派手に死にやがって。テメエなら、躱せただろうに」
「それじゃアイツを殺せなかった。あの距離であの早さの索敵して、正確に眉間を撃ち抜く狙撃手をだぜ?」
「ヒヤマには劣っても、凄腕だったよな」
「俺より上さ。アイツから倒してりゃ、死なずに済んだんだ」
「そうだな。他のよりHPが高かったんだから、あれから狙撃してりゃ良かったんだ。経験が足りねえな」
「まったくだよ。ああ、ビールがうんめー」
「乾杯もしねえで飲んでんじゃねえ」
「誰がするか。どうせ、スナイパーライフルでドタマ撃ち抜かれたマヌケな狙撃手に! とか言うんだろ?」
「わかってんじゃねえか」
タバコに火を点けて肺に入れた煙を吐くと、生き残ったのだという実感が湧いてくる。
やれる事はやった。
それは自己満足でしかないだろうが、気分は悪くない。
「ヒヤマ、タリエさんが呆れてましたよ。無茶はしないでとあれほど・・・」
「まあまあ、ウイ嬢ちゃん。今回は俺とルーデルのために、死神は無茶して狙撃班を片付けてくれたんだ。まだまだつまらんミスもするが、瞬間的な判断力も身に付いてきてる。ここから3日は絶対に戦闘には出さねえから、許してやってくれ」
「・・・運び屋さんに言われては、頷くしかありませんね」
「たしかにあの3匹は、基地でトップ3の狙撃手達だっただろうからな。明日からは狙撃手が配置されるかも知れんが、腕はあれほどではないだろう」
「明日の俺の番が終わったら、2日の休暇だな。死神のリキャストタイム待ちだ」
「申し訳ねえ。2日あるなら、ブロックタウンの狩人と羊飼いをスカウトに行くかな」
どんな連中かは知らないが、街に住民を受け入れると同時に少しでも働き口が欲しい。
気のいいヤツラなら、ギルドの職員にしてもいいのだ。
「やっべ。ギルドの運営資金、現金化しねえと・・・」
「遺跡品はたくさんありますし、番の家畜を何頭か買って増やすなら、物々交換で大丈夫だと思いますよ。狩人と羊飼いは孫なんですから、吹っかけたりはしないでしょうし」
「出来ればそれなりの数を揃えたい。住民を雇用するのが、そもそもの目的だからな。お、到着か。夜中だから、このままドルフィン号のリビングで飲もうぜ」
「それは嬉しいな。キマエラ族はいい人ばかりだが、あの視線がな・・・」
「英雄だからなあ」
「アンカーは入れたよ。さあ、乾杯しに行こうじゃないか」
リビングに下り、各々が好きな場所に座る。
酒が配られて飲みはじめると、ニーニャが隣にきてソワソワしだした。
「そんなに楽しみか、ニーニャ?」
「うんっ。なんだろうね、中身」
「海底に落ちてたトランクか。開けてみろよ、死神」
「わかった。ミツカ、あれ頼む」
「はいよ。【危険物探査】発動。・・・うわー、危険物だよ」
「ミツカ嬢ちゃんは、伸ばしてねえのか。【危険物探査】っと、大丈夫だな。開けていいぞ、死神」
「運び屋も持ってるんかよ、【危険物探査】」
「運ぶ荷物が、自分を殺す爆弾だったりするからな。初期スキルだ」
「なるほどなあ。って、やっぱ開かねえ。ウイ、頼む」
「はいはい。少し待ってくださいね」
中身が危険物だと聞いて、わかりやすく落ち込むニーニャの頭を撫でる。
グラスを傾け、バーボンを飲んで灼けた喉を、ビールで洗った。
「ダメですね。鍵が錆びて、【鍵開け】では歯が立ちません」
「貸してみな、ウイ嬢ちゃん」
運び屋が出したのは、大きなバールだ。
それを隙間に押し込み、テコの原理で力を込める。
鉄が折れる派手な音がして、アタッシュケースは開いた。
「どんな危険物が入ってんだ?」
「危険物にゃちげえねえが、ここまで来ると芸術品だな」
「なんだそりゃ」
身を乗り出して、アタッシュケースを覗き込む。
宝石のような輝き。いや、実際に宝石が使われているのだろう。
7丁の拳銃はどれも、武器とは思えないほどの装飾が施されている。
「えーっとねえ、『王妃の銃』に第1王女から『第5王女の銃』。それと、『傾国の隠し爪』だって」
「隠し爪ってのはデリンジャーだな」
「まさか、王族の特注品か!?」
「王族なんていたのか、ルーデル?」
「ああ。何度か謁見したが、民を思う良き統治者だった」
「子沢山で、愛人までいたみてえだな。どうする?」
「これを返す相手はいるのか、ルーデル?」
「いないだろう。王族は1人残らず、首都ごと焼かれたんだ」
「なら貰っときゃいいさ。ちょうど、ここにいる女の人数分ある」
たしかに、女は7人。
だがそれだと、うちのパーティーが取り過ぎになる。
「2丁と3丁ずつでいいぞ。うちが貰い過ぎになる」
「死神が見っけてきたんだし、俺やルーデルがこんなキラキラした銃を使ってたら、気味悪いだろ。いいから女で分けちまえ」
「んっとね、『王妃の銃』は22口径の扱いやすい銃で、固有効果が麻痺絶対発動だよっ」
「とんでもない銃です。軽そうだし、姐さん用ですね」
「あ、あたしはいらないよ。田舎の武器屋が、こんなもん持っててどうすんのさ。商品じゃなくてこれを、強盗に狙われちまうよっ!」
「だいじょぶ。はこびや?」
「あー、そういう事か。おい、アンナ。テメエは、俺と添い遂げる気はあるか?」
「なに言ってんだい、こんな人前で!」
「いいから答えろ。ただし、嘘はなしだ」
姐さんが頬を赤らめる。
30を越えてはいるが、その照れ方はかわいらしい。
「そりゃ、あたしもいい年だし、そのつもりさ・・・」
「ならいいか。婚姻申請っと、もうOKが出たな。網膜ディスプレイとアイテムボックスの使い方は知ってるな?」
姐さんのHPバーの上に、荒野の運び屋の妻と文字が出ている。
これはまさか・・・
「婚姻で職業が付くのか?」
「ああ。ただし、神とやらが相手の本心をスキャンするらしい。偽装結婚して職業持ちを増やすのは無理だぞ」
「ノロケかよ・・・」
「ちげえよ、タコ。俺とパーティー組みっぱなしにしとくから、レベルはそのうち上がるだろ」
「『王妃の銃』は、運び屋さんが渡してあげてくださいね。結婚指輪ならぬ、結婚拳銃です」
「やめてくれ、こっ恥ずかしい」
「おかーさん、これうっていいよ?」
「父親をこれとか言うな! あーもう、なんだこれ。ほら、肌身離さず持ってろ」
「あんた、ヒナ・・・」
感極まって涙を流しながら銃を受け取る姐さんを見て、女連中はもらい泣きしている。
「ジュモまで泣いてっし・・・」
「次は、ジュモがプロポーズされるのデス! グスッ」
「無理だぞ。婚姻で職業が貰えるのは、稀人だけに許された神の奇跡だ」
「ルーデルさん、そういう意味ではないと思いますよ・・・」
ジュモは唸りながら、ルーデルを睨みつけている。
身の危険を感じたらしいルーデルが助けを求めるように、銃を調べているニーニャを見た。
「ニーニャに助けを求めんなっての・・・」
「え、えっとねー、『第1王女の銃』は、スナイパーライフルの弾を撃ち出すみたい。固有効果は絶対貫通。綺麗でカッコいいから、ジュモお姉ちゃんにピッタリだねっ」
そう言って、ルーデルに銃を渡す。
「言っときますが、間違えたら10日は背中に張り付いて叫び続けてやるデス!」
「・・・お、俺と添い遂げてくれ」
ジュモの眉がピクリと動く。
ルーデルは冷や汗を流したようだが、ジュモはすぐに銃を受け取った。
「オリジナリティに欠けるのは、仕方ないので許してやるデス」
「そうか、それはありがたい」
ジュモはルーデルにくっつき、銃を弄り回している。
ルーデルが見ていれば、暴発の危険はないだろう。
見れば運び屋も、姐さんに銃の扱い方をレクチャーしていた。
「後はどうしましょうか。この、デリンジャーっていうのは、タリエさんが使いますか?」
「私は戦場に出ないから護身用なのは助かるけど、いいのかしら?」
「銃の名前が、『傾国の隠し爪』ですからね。お似合いですよ」
「おい、死神のプロポーズはなしかよ?」
タリエがデリンジャーを手に取ったのを見て、運び屋が口を出す。
艶然と、タリエは微笑んだ。
余計な事は言うなと釘を刺そうとしたが、間に合わない。
「ヒヤマは情熱的ですから、いつも言われてますわ。寝室で」
「こんの種馬ヤロウは・・・」
「いや、なんかごめん・・・」
残りは自動拳銃がウイ。リボルバーがミツカ。ショットガンを無理矢理拳銃にしたようなのがヒナ。レーザー拳銃がニーニャになったらしい。
どれも強力な固有効果があるらしく、近いうちに戦闘に行こうと話している。
「やれやれだ・・・」
「飲み直そうぜ、ルーデル」
「そうだな。それにしても、海底から王族シリーズを拾ってくるとは。ヒヤマの運はどうなってるんだ」
「ステータスに運の数値があったら、とんでもねえんだろうな」
「自慢じゃねえが、運だけで生き残ってる」
「ホントに自慢にならねえな。王族装備ってのは、それなりに発見されてんのか?」
「まさか。友人が、陸軍で王子の部隊にいた。ソイツの話では、スキルなしで機械兵を倒せるのは、王族シリーズだけだったらしい」
「ソイツは?」
「敵の大陸に上陸して、消息が途絶えた」
「まさか、陸の英雄か?」
ルーデルが頷く。
英雄はどうなったのか、ルーデルが知らないなら、それを知る者などいないのかもしれない。
「アイツも稀人だった。そう簡単にくたばる男じゃなかったが、すべては遠い昔の話だ」
運び屋がルーデルのグラスに酒を満たす。
それを呷ったルーデルが、いい笑顔を見せた。
「2人も飲め。そういえばヒヤマは、どこかアイツに似ているな」
「それは光栄だ。俺もその人みてえに、強くなりてえな」
「なれるさ。ヒヤマなら、誰よりも強く」
そう言われながら酒を注がれたので、なんとなく神妙な感じでグラスを干した。
そんな俺が可笑しかったのか、運び屋が笑いながらナッツを齧る。
バカ話をしながら飲み続けるうちに女連中は眠り、俺も運び屋とルーデルを残して意識を手放した。