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ヒヤマ、はじめてのおつかい




「おはよう・・・」

「おう、よく寝たもんだな。もうすぐ日が暮れるぞ」

「寝る前に運び屋とルーデルの話をノートにまとめてたら、酔いが覚めて寝られなくなった」

「慣れねえ事をすっからだ。迎え酒、やっとくか?」

「無理だっての、これから出撃なんだぞ。ウイ、水をくれ」

「はいはい。まずは座ってくださいね」


 食堂のテーブルに座るとすぐに、ミネラルウォーターのボトルを渡される。

 昨日はこの食堂で派手な宴会をして、余っている部屋で眠った。

 キマエラ族の暮らしは穏やかでのんびりしたものらしく、こんな時間まで眠っていられたのは嬉しい。


「狙撃はいいが、兵器を鹵獲するならハルトマンはなしだよな」

「いい的になるだろうしな」

「怖っ。お、おはよう、ルーデル」

「おはよう。よく眠れたみたいだな。ニーニャちゃんとヨハンが、水中を進む装備を作ってたぞ」

「ヨハンと嫁さん2人は、空母に帰ったんじゃねえのか?」

「昼過ぎに送っていったよ。早起きして作ってたんだ」

「後で礼を言っとくよ」


 ウイが皿を俺の前に置く。

 朝食にしてはボリューミーなのは、これがキマエラ族の夕食になるからだろう。

 兵士は食うのも仕事だと、ルーデルが言っていた。

 黙々とメシを食う俺を、ウイは嬉しそうに見ている。


「どした?」

「いえ、ヒヤマは食が細いですから、良い事だなあと」

「人並みだろ」

「動く仕事の割りには、ですよ」

「そんなもんかねえ。ごちそうさま、美味かったよ」

「お粗末さまでした。広場でニーニャちゃんが、装備を点検してくれてます。今のうちに、受け取っておいてくださいね」

「了解。このまま行くよ」


 玄関を出てタバコを吸ってから広場に出ると、年少組がキマエラ族の子供達とハルトマンを囲んで、ああでもないこうでもないと話をしていた。

 皆がニーニャに、何かを言っているようだ。

 まさかイジメではないだろうが、ニーニャは難しい顔をして腕を組んで話を聞いている。


「おい、ミツカ。まさかニーニャ、イジメられてんじゃねえだろうな?」

「おはよう、ヒヤマ。それはないよ。子供達はどうすればハルトマンがもっと格好良くなるか、思った案をニーニャちゃんに話して聞かせてるんだ」

「なんだそりゃ。目からビームとか勘弁だぞ?」

「カメラがあるから無理だって、ニーニャちゃんも言ってたよ」


 とりあえず邪魔になりそうなので、ミツカの隣に腰を下ろす。

 反対側ではヒナが、ミツカの柔らかな膝枕で気持ちよさそうに昼寝中だ。


「たーくんはどこ行った?」

「奥様方の仕事場で、ラジオを流してる。凄く喜ばれてるみたいだよ」

「なるほど。町長の娘から見て、この島に足りないと思う物は?」

「単純に人手。それから、耕作地だね。魚もいいけど、人間は穀物がなけりゃ生きられない」

「かろうじて建物が残ってるだけの、草木もない荒れ地だもんな。砲台島にゃ、植物がたくさん残ってる。いくらか田畑にすれば麦や大豆、イモなんかも作れるだろう」

「労働力は、ニーニャちゃんに考えがあるらしいね。あの島をキマエラ族のものに出来てはじめて、キマエラ族は一族を増やす事に取り組めると思うよ」


 ニーニャの考えとやらは気になるが、ミツカが言わないなら、俺がここで聞く必要はないのだろう。

 しばらく子供会議を見学していると、ウイが建物から出てきた。


「あら、何してるんですか?」

「子供会議を邪魔すんのも悪くてな。ボーっと見てた」

「もう暗くなってきましたから、早く装備を確認してください。みんな、そろそろ晩ご飯ですよー!」


 子供達は歓声を上げて、一目散に建物に駆け込んでいく。

 残ったのは、ニーニャだけだ。


「ニーニャもメシ行って来い」

「ううん、まだ平気。それよりお兄ちゃん、こっち来て」


 ハルトマンの足元に並べられているのは、黒く塗られたアザラシ装備と、扇風機のような不思議な機械だ。


「アザラシ装備、黒にしてくれたのか。この扇風機みてえなのは?」

「スクリューを持って歩けるようにしたの。ジュモお姉ちゃんみたいには無理でも、小型船くらいのスピードなら出せるよ」

「水中スクーターってやつか。これはありがたい、助かるよ」

「ヨハンさんが考えたの。後でお礼を言ってね?」

「わかった。使う時に映像を飛ばすから、必ず言うよ。ハルトマンもイジったんか?」

「ううん。ハルちゃんはこれ以上、手を付けられないの。お兄ちゃん、今のレベルは?」


 網膜ディスプレイで確認する。


「65だな」

「わあっ、もうそんな高レベルなんだっ。75になったら少し余裕ができて、何か積めるかも」

「楽しみにしとくよ。これらは収納していいか?」

「うんっ。じゃあ、ゴハン食べてくるー!」

「私達も、食事にしましょう。ヒナ、起きなさい。ご飯ですよ」

「ん。まま、だっこ・・・」

「誰がママですか。ヒヤマはどうします?」

「ドルフィン号に行って、用意しとく。そっちの準備ができたら、来てくれ」

「了解です。ほら、ヒナ!」


 アザラシ装備をその場で身に着け、水中スクーターとハルトマンをアイテムボックスに収納する。

 ヘルメットだけ外して、咥えタバコで歩き出した。

 

「夜間狙撃なら、ヘルメットは邪魔か。防弾レンズが光を照り返すのはマズイ。そうなると、スコープもかよ・・・」


 思わず出た独り言に苦笑いしながら、網膜ディスプレイにスキルツリーを表示する。

 【鷹の目】の上が【夜鷹の目】。次が動体視力上昇効果の【隼の目】、瞬き抑制効果の【梟の目】となっていた。

 そしてその上が、【機械の目】・パッシブ。使用した事のある機械等の視覚的システムを、自身の眼球に設定可能。設定変更後24時間は再変更不可。ズーム等も設定機械の性能を引き継ぐ。

 今あるスキルポイントは5。取ってしまえば砲台島で有用なスキルに気づいたとしても取れないかもしれないが、今日の狙撃が安全にこなせるなら取るべきだろう。


「ッ!」


 【機械の目】を取得した瞬間、眼の奥を針で刺されたような痛みが走った。

 それは一瞬で消え、俺の目はいつものように夜の桟橋を見ている。


「まさか、本当に機械の眼球になったんじゃねえだろうな・・・」


 月明かりしかない桟橋は、いつものように細部まで見通せた。元からある、【夜鷹の目】の効果だ。

 遠くに見える砲台島を、ハルトマンのコックピットにいる時の感覚で眺める。

 ズームイン、ズームアウト。思った通りに、眼球は応えた。

 砲台島の本営だろうか。大きな建物を、最大望遠で観察する。

 大戦時からそのままらしい、屋上のボロ布のような旗が風に揺れるのまで見えた。


「ついに人間やめちまったか、こりゃ・・・」


 それでも強くなるならいいじゃないかと自分に言い聞かせ、ドルフィン号の屋根で手持ちのスナイパーライフルからすべてスコープを外した。

 タバコを3本も灰にすると、運び屋とルーデルを先頭に皆が歩いてくる。


「準備は出来たか、死神?」

「ああ、スキルも伸ばした。いつでもいける」

「大一番を前にか。どんなスキルを伸ばしたんだ?」

「【機械の目】。ハルトマンの狙撃システムを、肉眼で再現できる。いい感じだよ、ルーデル」


 運び屋の口笛が、桟橋に響く。


「思い切ったじゃねえか。そのスキルツリーなら、最上スキルは【武神の目】だ。敵の攻撃がレーザーポインターの光みてえになって見える、反則級のシロモンだぜ」

「いつか、取ると思う。ミツカ、操縦よろしくな」

「任せてくれ。屋根に乗って行くのかい?」

「面倒だからな。ここから飛び込むさ」


 無理はするなと誰もが俺に言ってから、ドルフィン号に乗り込んでいく。

 ヘルメットを装備して、水中銃を背中に、水陸両用拳銃を腰にぶら下げる。

 水中スクーターを赤ん坊を抱っこするように持って波に揺られていると、不思議と落ち着いた。


(こちらヒヤマ。これから新種のクリーチャーを叩きに行く。どこにでもいるクリーチャーじゃねえとは思うが、見ておきたい奴は映像を見ておくといい。必要がないなら切っていいからな。ヨハン、水中スクーターありがとな)


 リストにある全員に無線を飛ばした。

 年少組に、俺が死にゆく瞬間なんて見せられない。

 意地でも生き残る。


(予定地点だ、死神)

(了解。潜入を開始する)


 海に飛び込む。

 海底近くで水中スクーターの持ち手を握りこむと、それは素晴らしい速さで俺を引っ張ってくれた。


(こりゃいいな。速いし、何よりラクチンだ)

(ニーニャちゃんが、お兄ちゃんのためにって頑張ったんだよ。だからヒヤマ、無事に帰るんだぞ?)

(もちろんだ。島が見えたな。ここからが、本番だ)

(気をつけて、ヒヤマ)

(あいよ。まずは山登りだ)


 浮上して、目だけを出して崖を確認する。

 思った通り、ここが崖の下辺りだ。これなら飛び降りても、岩に打ち付けられる心配はない。

 崖に取り付いて水中スクーターを収納し、登りやすそうなルートを探す。


「ここだな。【熱き血の拳】発動」


 スキルで上がった腕力に物を言わせて、オーバーハングのないルートを登る。

 ロッククライミングどころか、ろくに登山の経験すらないのだ。


(怖えー。もうこんな高さなんかよ・・・)

(ロッククライミングでは、下を見てはいけないんじゃなかったですか?)

(そりゃジェットコースターだろ、ウイ嬢ちゃん)

(いやいや。高所作業の注意事項だろう、それは)

(どうでもいいさ。もう登り切る)


 頂上に到着しても立ち上がったりはせず、すぐに伏せて息を潜めた。

 島の全景を視界に入れられるこの場所は、思った通り最高の狙撃ポイントだろう。

 【機械の目】で、素早くトロッグ兵の配置を確認する。


(ヒヤマ、写真に配置を書いておいたわ。運び屋さんの潜入時に役立つでしょう)

(さすが情報のプロ、仕事が早え。ありがとな、タリエ)

(これくらいしか、出来る事がないもの。これからの狙撃で変化したら、それも書いておくわね)

(頼んだ。見張り台は多いが、配置が1人ずつなのは助かるな。狙撃を開始する)


 ヘルメットを外してアイテムボックスに入れ、運び屋に貰った特殊部隊仕様のレーザースナイパーライフルを出す。

 ハルトマンでの狙撃時と同じように、思った場所を思った通りにズーム出来る。

 これなら外さない。

 南国の小屋のような見張り台の上で周囲を警戒するトロッグ兵に照星を重ね、ゆっくりとトリガーを引いてチャージを開始した。



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