試射
「まずは、アザラシ装備を見てくれ」
「これがそうです」
ウイがテーブルにパワードスーツと水中銃、水陸両用拳銃を出す。
「プラスチック爆薬と信管も持ってたが、今回は使わねえだろ」
「イワンの店で、対人地雷なんかは仕入れてきたからな。それと、死神にはこれだ」
水中銃の隣に運び屋が置いたのは、黒く塗られた長い銃だ。スコープも付いているし、スナイパーライフルなのだろう。
「これは?」
「ヒナのアイテムボックスに眠ってた、特殊部隊用のレーザースナイパーライフルだ。威力はかなりのもんなのに、無色で敵にバレねえらしいぞ。それと、これが共用のサプレッサー付きアサルトライフルに自動拳銃。どっちも、あの店で1番音が静かなやつだ」
「1人ずつの潜入だもんな。隠密から1発で殺れるなら、俺は狙撃がメインか」
「俺はゲリラ戦をやるつもりだが、運び屋はどうする気だ。まさか、ソードオフショットガンは使わないよな?」
「俺も、罠とサイレントキルでゲリラ戦さ。まあ接近戦になったら、ソードオフショットガンでぶん殴る」
「ぶん殴って、500のHPを削りきれるのかよ・・・」
山賊の皮を被ったゴリラ。
そんな事を考えていると、運び屋にギロリと睨まれた。
「誰から行く?」
「俺が手伝いを頼んだんだ。俺から行って探るよ」
「死神は、名前のわりに自分が死にかけるからなあ・・・」
「なら俺だ。これでも、破壊工作の経験もある」
「おおっ、マデラ基地侵入破壊作戦ですな!」
瞳をキラキラさせた長老が、思わずといった感じに言葉を挟む。
「映画のシーンか、爺さん?」
「コミックですな。あれはたしか、12巻でした」
「惜しいな。あったのは、8巻と13巻だけだ」
「あったのかよ。楽しみだな」
「ぐぬう・・・」
早く読んでみたいが、そんな場合でもないので話を戻す。
「いいのか、ルーデル?」
「順番だよな、俺からでいい。まずは汎用装備を試さないとな。ここにいるメンバーにならスキル構成を知られても良いから、酒でも飲みながら見ててくれ」
「デカブツを挽き肉にしてやるデス!」
「え。ジュモも行くんか?」
「当然デス!」
「まさか、水中でも稼働できるとは・・・」
「だから俺からでいいのさ。1人じゃないからな」
「わかった。じゃあ、俺はその次だ」
「俺が最後か。どうせ長丁場になる。のんびりやろうぜ」
ルーデルが、スナイパーライフル以外の装備をアイテムボックスに入れる。
「スナイパーライフルは?」
「いらんよ。スキルもないし、レーザーは癖が強い。使いこなせやしないさ」
「なるほど。運び屋、コイツいくらだ?」
「金なら気にすんな」
「そうもいかねえって。隠密向きだから、この先も夜戦で使いたい」
「そのうち酒でもおごれ」
金を受け取る気はないらしい。
飲みに行けばタリエにも会えるので、暇があれば2人を誘うとしよう。ただし、それぞれの嫁が許すのならだ。
だいたいの話が決まると、そのまま遅い昼食になった。
「食い終わったら、揚陸艇で夕方まで出かけてくる」
「スナイパーライフルの試射か?」
「それと、ロッジ家とヨハンとティコのレベル上げ。特にヨハンは、早めに空母に戻ってもらわねえと」
「パーティー人数に制限はない。俺とジュモのパーティーに全員入って、夜を待てばいいさ」
「ルーデルさん、申し訳ないが私達は3レベル来たら、パーティー離脱でいいでしょうか?」
「構いませんが、レベルはどれだけあっても邪魔にはならないでしょう。最後まで経験値を受け取った方がいいと思いますよ」
「いいえ。子供達には何もしないで得たレベルで、冒険者になったりはして欲しくないのです。お言葉はありがたいですが、どうか」
そういう理由ならばと、ルーデルはエルビンさんの申し入れを快く受け入れた。
最後のパンを口に押し込み、ロッジ家とヨハン兄妹、タリエにパーティー申請を飛ばす。
「あら、私も?」
「情報料の足しにしてくれ。ミツカ、揚陸艇の操縦は任せていいか?」
「いいよ。ヒヤマは屋根かい?」
「ああ。いつものやり方だ」
「揺れる船の上で、大丈夫なのですか?」
「たぶんな。泳ぎは得意だし、落ちても平気だろ」
「ヒヤマ殿、この辺りには大きな鮫がおりますよ?」
「絶対に落ちねえ。海中で鮫とやりあうなんて、考えたくもねえや」
「じゃあ行こう、ヒヤマ」
ミツカと席を立つと、ウイが慌てて立ち上がった。
「2人で行くのですか!?」
「ああ、グリン達も行くか? ニーニャは他にも修理する物があるだろうから、ウイとヒナはその手伝いと護衛だ」
「行くっ!」
「ティコもー!」
「おう。じゃあ、揚陸艇に来い。頼むな、ミツカ」
「了解。約2時間のクルージングだね」
ドルフィン号の屋根で銃座に寄りかかり、タバコを吸いながら出港を待つ。
はじめて使う【パーティー無線】がよほど楽しいのか、年少組は喋りっぱなしだ。
(はい、ちょっと静かに。ヒヤマ、ドルフィン号を出すよ。なるべく静かに動かすけど、気をつけてね)
(狙撃をはじめるまでは銃座に掴まってるから、そんなに気にしなくて良い。時間もねえから、飛ばすといいさ。とりあえず砂浜まで1キロの距離へ。そこからは、東に進路を取ろう)
(了解。みんな、ちゃんと掴まってなよ? ドルフィン号、発進!)
ノリノリのミツカのセリフに、年少組が歓声を上げる。
(そっちはどうだ、死神?)
(まるで遠足だ。ミツカがノリノリで、引率の先生してるよ)
(そうか。ルーデルは夜に備えて仮眠してら。女に肩を揉んでもらいながらコミックを読んでるがよ、やっぱあの男はとんでもねえぞ)
(そんなにか?)
(うろ覚えのルーデル閣下の撃破数、その倍は落としてるらしい)
(あんなもん、敵しかいねえ国だからこそのスコアだろ。ルーデルがいた国も、そうだったってのか?)
運び屋が姐さんに礼を言っている。
揉んでもらった礼か、それとも冷たいビールでも貰ったか。
(カーッ。クーラーがねえときゃ、やっぱこれだな)
(ビールか。俺はドルフィン号でルーデル達の送り迎えがあるから、朝までおあずけだな)
(敵の話だったな。相手は、悪の秘密組織だったらしい)
(はあっ!?)
(これがどうも、コミックの創作じゃなさそうなんだよ。こっちに来てずいぶん本を読んだが、海の向こうの大陸が悪の組織に牛耳られて、そこと世界大戦がはじまったって記述は結構な数を読んだ)
(独裁者とかじゃなくて、悪の組織かよ・・・)
なんとも気の抜ける世界の滅び方だ。
そこと戦うルーデル達が、正義のヒーロー扱いされるのは当然か。
(クリーチャー、グール、キマエラ族。それらはその組織のトンデモ化学兵器で、こうなったって事らしい)
(敵はどんなのなんだ?)
(機械兵に野獣兵。機械兵は、ガラクタで組み上げた巨大ロボ。野獣兵は、まんまオーガだな)
(機械兵ってのが厄介そうだな)
(本物にお目にかかったことはねえが、強化外骨格パワードスーツがなきゃ太刀打ち出来そうにねえな)
ミツカから予定地点に到着したので、東に進路を変えると報告が来た。
(うはー。海水浴した砂浜の東、サハギンだらけの岩場だぞ。よくあんな場所で、キャンプなんかしたな)
(花園の姉ちゃん達は海水浴の真っ最中だぞ。この島でだがな)
(本気でリゾート気分か。優雅なもんだ)
ミツカがアクセルレバーを離したらしいドルフィン号が安定してきたので、運び屋に貰ったスナイパーライフルでサハギンを狙う。
(さあて、試させてもらうぜ。まずは1匹目だ)
目でサハギンを狙いながら、体で波を読む。
ドルフィン号が波で浮いては沈むを繰り返す。
体の力を抜いて、沈みきった瞬間にトリガーを引いた。
(あれっ!?)
(なんだ、外したんか?)
(いや、当たったし即死なんだけど、ダメージが思ったより少ねえ)
(あー、忘れてた。それはチャージするんだよ)
(チャージ?)
(トリガーを引きっぱなしでチャージ。離せばレーザーが出るんだとよ)
(なるほど。やってみる)
トリガーを引きながら、次のサハギンに狙いを定める。
3秒ほどで効果音と共に、チャージ最大と網膜ディスプレイに文字が浮かんだ。
また波の谷間の底で、トリガーを離す。
(おっ。900ダメージ。これならあのでっかいのが防御力高くても、なんとかなるかな)
(そりゃ良かった。どら、映像をよこせよ)
(あいよ。見てても楽しくねえだろうけどな)
3秒。沈んだら撃つ。チャージ。沈んだら撃つ。
それを無心で繰り返していると、20ほどで【パーティー無線】からエルビンさんの静止する声が聞こえた。
どうやら、エルビンさん以外は3レベル来たらしい。
双子とリーネと奥さんがパーティーを離脱するのを待って、狙撃を再開する。
パッパラー。
(お、すんげえ久しぶりのレベルアップ)
(そりゃめでてえ。しかし、1発も外さねえのかよ)
(後30くれえか、足りっかな。こんな職業を選んだんだ。外したら、本物に怒られるだろ)
(揺れるボートの上だぞ。とんでもねえ変態野郎だ)
(変態言うな。マガジン交換なしで30連射して、カートリッジは半分も減ってねえ。燃費がいいなんてもんじゃねえや)
(気に入ったか?)
(すこぶる。大切にするよ)
ヨハンとティコからもパーティーを離脱すると言われたが、せっかくだから経験値を取っておけと断った。
見えていた50を狩り尽くしたところで、エルビンさんもちょうど3レベル来たらしい。
(全員が3レベル来たってよ。タリエは別だけど)
(良かったじゃねえか。双子と兄妹と夫妻は【嘘看破】と【犯罪者察知】に分けるだろ。リーネ嬢ちゃんは、【嘘看破】の方だな)
(理由があるんか?)
(嫁入り前の娘だからな。甘い言葉には、用心が必要なのさ)
(運び屋は、子供には優しいよなあ。双子もリーネも、かなり懐いてるし)
(優しさがにじみ出てるんだよ)
(へいへい。さっさと戻って、夜を待つか)
ミツカに島に戻ってくれと言うと、ギリギリまで岩場に接近するからサハギンを回収してくれと頼まれた。
どうやら、キマエラ族への土産にしたいらしい。
冷凍できるならそれもいいかとOKを出した。
(ミツカ嬢ちゃんも人がいいなあ)
(うちの女達は、みんな優しいのさ)
スナイパーライフルを収納して、近づいてきた岩場に飛び移る。
俺の筋力と体力ではすべてのサハギンをアイテムボックスに入れられず、ミツカと交代してやっと回収を終えた。
島に帰り着いたのは夕暮れで、桟橋にはオンボロ漁船とそれを掃除するキマエラ族の姿がある。
挨拶を交わしながらドルフィン号を降りると、1人の少年が90度になるほど頭を下げて立っていた。
「いっぺん間違えたら、次は間違わずに済む。気にせずに、好きに生きろ」
「ありがとう、ございます・・・」
「泣くな泣くな。今夜はごちそうだぞ?」
「お、俺、ずっと謝りたくてっ・・・」
「おう。だからもう、気にしてねえさ。こんな真剣に、謝ってくれたんだからよ。ありがとうな」
泣きじゃくる少年の頭を撫で、キマエラ族の漁師と一緒に食堂まで戻る。
サハギン料理は好きかと訊くと、少年は泣き笑いの表情で何度も頷いてくれた。