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ギリギリ発艦




 航空機の回収を終えると同時に孤島の爺さんとロッジ家が越して来て、空母はずいぶんと賑やかになった。

 食事も各自で用意していては無駄が多いらしく、メシの時間になると艦内放送で全員が食堂に集まって食う事になっている。

 グースとグリンの双子、それにリーネとニーニャ、ティコまで加わった年少組はいつも元気だ。

 今日も朝から、格納庫で遊び回っている。


「ヒヤマ兄ちゃん、今日は何をするんだ?」

「キマエラ族って連中が、小島に拠点を持った。土産を持って顔を出して、それからクリーチャー退治だな」

「俺達も行っていいか?」

「レベリングはもうちょっと先だ。今日は我慢して、留守番してろ」

「ええーっ。連れてってくれよー!」

「今度な。ウイ、準備はどうだ?」

「お土産も仕入れましたし、揚陸艇の整備は万全だそうです。いつでも行けますよ」

「よし。キマエラ族のガキ共が、腹を減らしてるかもしんねえ。すぐに出るぞ」


 ウイ、ミツカ、ニーニャ、ヒナ。全員いるのを確認して、揚陸艇に乗り込む。

 空母の横っ腹に揚陸艇の発艦口があり、現在の吃水では10メートルほどの高さから着水するらしい。

 艇の上部にあるコックピットには、4点シートベルトの座席が7つあった。

 その内の操縦席に座り、シートベルトを装着する。


「ハンドルにレバー。なるほど、これがアクセルなんだな」

「全員、シートベルトは大丈夫です。私もこれで、準備完了」

(よし。こちらヒヤマ、これより揚陸艇の発艦テストをはじめる)

(こちらブリッジ。いつでもいけるぞ。衝撃でバラバラになった時のための、救助ヘリも準備はできてる。安心して死神だけ沈め)

(勘弁してくれ、縁起でもねえ。プロペラ保護カバー、よし。機関砲セーフティー、よし。やってくれ、運び屋)

(よーっし。格納庫は総員、安全位置に移動せよ。グリン、もうちょっと頭を引っ込めろ。そうそう、それでいい。発艦準備に入る。リフト起動)


 ガコンと振動が来て、揚陸艇が発艦口に運ばれる。

 格納庫から、薄暗い筒状の場所へ。これが発艦口なのだろう。


(結構なスピードで運ぶんだな)

(スクランブルも想定してんだろ)

(ヒヤマ。たしかこの型の発艦口は、荒っぽくて有名だったはずだ。舌を噛むんじゃないぞ?)

(うへえ。軍人からしてもそうなんかよ。普通に川に浮かべて、河原から乗れば良かったかもな)

(もう遅えよ。発艦準備完了)

(しっかり歯を食いしばれ。そんじゃやってくれ、運び屋)

(死神以外は気をつけてな。発艦!)


 G。

 半端ではない。まるで自由落下だ。

 ハンドルを握りしめ、着水に備える。

 景色が光で満ちたと同時に、物凄い衝撃が来た。

 揚陸艇は、発艦時のスピードで川を滑っている。


(発艦ってより発射じゃねえかっ!)

(人間魚雷ってか。スクランブルだと、こんなに進むもんか。次からは、通常発艦モードのがいいな)

(黙ってキツイの試してんじゃねえよ・・・)

(イザって時のためさ。キマエラ族によろしくな)

(了解。じゃあ、行ってくる。みんな、大丈夫か?)

「うんっ。面白かったぁ」

「ギリギリ耐えたよ・・・」

「はこびやのうんてんよりいい」

「これがジェットコースターですか。怖いけど、楽しいものですね」

「ジェットコースターじゃなくて揚陸艇な。それとミツカ、何がギリギリだったか後で詳しく聞くから。保護カバー、解除。これより通常航行に移る」


 レバーをほんの少し前に倒すと、止まりかけていた揚陸艇が押されるような手応えがあった。

 運河なので波はなく、なかなかの乗り心地だ。


「重心が高えのに、よく転倒しなかったもんだ。もうシートベルトは外していいぞ。リビングに改造した格納庫で、くつろいでりゃいい」

「ヒヤマ、あたしも操縦したいぞ」

「おう、いつでも代わってやるよ」

「ヒナお姉ちゃん、リビングにいこっ。たーくんに、ラジオ流してもらおうよ!」

「ん。たーくんひとりじゃかわいそう」

「ヒヤマ、コーヒーをどうぞ」

「ありがてえ。お、サハギンがいるぞ。ウイ、銃座を試すといい。セーフティー、解除」

「了解です」


 揚陸艇には船首の機関砲の他に、回転式の銃座が装備されている。

 俺の後方にあるハシゴを、ウイが上がっていく。


「白か。いいね」

「またこの人は・・・ サハギン視認。3匹ですか。では、経験値になってもらいましょう」


 スピードを落とす必要もないらしい。

 ドンッ、そんな音が3度だけ鳴って、ウイが下りてきた。


「さすがだな。無駄弾なしかよ」

「砲手ですからね。サハギンは、のんびり甲羅干ししていましたし」

「ミツカ、操縦してみるか?」

「ああ。ぜひ頼むよ」


 操縦しながらシートベルトを外し、ミツカにコントロールを受け渡す。

 ちょっとふらついたが、揚陸艇はそのまま水面を滑るように進んでいる。


「へえっ。これしかレバーを倒してないのに、このスピードなんだね」

「かなり余力があるよな。強襲用だからか知らんけど」

「ニーニャちゃんの改造ですからね。性能が上がっているんでしょう」

「なるほどね。そういえば俺はリビング見てねえんだ。ちょっと行ってくるな」

「はい。ついでに、このジュースを2人に渡してください」


 座席の後ろのハシゴを下りると、ニーニャとヒナがすでにソファーでのんびりお喋りを楽しんでいた。

 それぞれの前のテーブルの穴に、ジュースを入れる。


「ありがとう、お兄ちゃん」

「おう。それにしても豪華だな。ベッドまであるんかよ」

「べっど、たいせつ」

「どこででも生活できるようにって、ウイお姉ちゃんが言ってたよ」

「そうだな。これなら、どこに行っても快適だろう」


 コックピットに戻り、座席の1つに座ってタバコを吸う。

 

(ヒヤマ、ちょっといい?)

(情報屋、じゃなくてタリエか。いいぞ、どうした?)

(今、運河を海に向かってるでしょ。キマエラ族の島に行くの?)

(ああ。知り合いなんでな)

(そうなると、チャンスかもしれないわね・・・)


 なんの事かはわからないが、タリエは情報をタダでくれるつもりなのだろうか。

 硬貨を要求されても、俺の小遣いでは1文字だって買えやしないだろう。


(悪いが、金はねえぞ?)

(失礼ね。自分の男からお金なんて取らないわよ。キマエラ族が今いる島から、遠くに建物が残る島が見えるの。いずれそこを、漁るつもりだと思うわ)

(ヤバイのか?)

(かなりね。砲台を置いた基地だったらしいけど、かなりの兵隊が配置されていて、それが全部クリーチャー化してる。餓死するタイプじゃないから、キマエラ族が踏み込めばあっという間に全滅するわよ)


 それは悩みどころだ。

 キマエラ族に武器や弾薬を渡してやりたいが、俺達で狩れるのだろうか。


(俺達だけじゃ危ねえか?)

(わからない。でもどうするべきかと訊かれたら、運び屋と空の英雄だけでも連れて行くべきだって答えるわよ)

(なるほどね。いい情報だ。助かったよ)

(どうするの?)

(ギルドの職員に、必要なスキルを取らせてえんだ。それに利用する。そんときゃタリエも来るといい。経験値は、いくらあっても邪魔にはなんねえだろ)

(じゃあ今回は、手出ししないのね?)

(そうなるな。1つだけ確認したい。その基地の島のクリーチャーは、海を渡れねえんだな?)

(たぶんね。でもとっさにロケットへ銃撃してきたそうだから、安心はできないわよ)


 ニーニャの姉からの情報か。

 飛んでいるロケットが通過するまでの間に銃撃してきたとなると、戦時の配置についたままなのかもしれない。

 オーガも武器を使うが、それとは次元が違いそうだ。


(ありがとうな、すぐにキマエラ族には無線で警告する)

(信じてるけど、気をつけてね)

(ああ。任せといてくれ)


 いつもの癖で無線の相手の名前にキマエラ族の長老を探したが、あの地下鉄に行ったのはまだこのスキルがない頃だった。


「ウイ、キマエラ族の長老に無線を飛ばしてくれ」

「私達が向かっている事は、もう伝えてありますよ?」

「キマエラ族の島から、軍事基地だった島が見えるらしい。そこが、とんでもなくヤバイってよ」

「どのくらい危険なんだい?」

「このまま向かうなら、アザラシ装備で俺だけ上陸して、出来るだけサイレントキル。見つかったら一目散に逃げるか、ハルトマンで戦力を測るかのどっちかだな」

「揚陸艇で接近は無理なのですか?」

「飛んでるロケットに、銃撃かましてきたらしい。無理だな」

「なるほど。すぐに伝えます」


 地図で見ると、キマエラ族の島と基地らしき島は、それなりに距離がある。

 基地のクリーチャーは今まで動いていないのだから、キマエラ族から近づかなければ、とりあえずは安全だろう。


「攻め込まれる心配はないのかと、長老さんが」

「大戦から、島を動いてねえみてえだからな。近日中に俺達がなんとかすっから、それまで警戒してろって言ってくれ」

「へえ。やるんだね?」

「ギルドのレベリングにちょうどいい。揚陸艇にみんな乗せて、射程外で待機かな」

「ホントに1人で行くつもりなのか。そのうち、ウイに撃ち殺されるよ?」

「それは勘弁だ。無理そうなら、運び屋とルーデルに出張ってもらう。それで許してもらうしかねえ」

「人に頼る事を覚えたのはいい事です。ですが、方法はゆっくり考えましょう。今日これから攻め込む訳でもないのですから」

「そうだな。いろいろ考えてみるよ」


 まずは、相手のHPが知りたい。

 対空兵器を使うクリーチャーが相手だ。ルーデルの戦闘機で偵察は避けるべきだろう。ルーデルなら嬉々として出かけて、機体に傷も付けずに帰ってきそうだが・・・


「無線で相談するか。ミツカ、悪いが操縦は頼むな」

「任せてくれ。到着まで、ゆっくり話すといいよ」


 運び屋とルーデルを選択して、映像なしで無線を繋ぐ。


(ヒヤマだ。ちょっといいか?)


 返事はすぐに返ってきた。

 手短に基地とクリーチャーの事を相談すると、やはりルーデルが偵察に出ると言い出す。


(ロケットに銃撃かます相手だぞ?)

(なあに、雲の上を飛んで、少しだけ顔を覗かせればいいだけさ。ジュモのカメラは、望遠の精度もいいんだ)

(なるほど。ただおっかねえだけじゃねえんだな)

(ずっと背中に張り付いて、耳元で怒鳴ってたもんなあ)

(頼むから、思い出させないでくれ。まだ怒鳴り声が聞こえる気がする・・・)



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