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オーガと標識




 荒野を歩き続ける事3日。ようやく1つ目の遺跡が見えてきた。途中で人間にもクリーチャーにも出会わなかったのは、運が良かったのだろうか。この暑ささえなければ、快適な徒歩の旅だった。

 立ったまま構えた狙撃銃を下ろす。


「でっかいスクリーン、駐車場、売店っぽい小さな建物。ドライブインシアターかな」

「それは何なのです?」

「野外映画館だよ。車内っていう個室で映画を見るんだ」

「車にいたら、音が聞こえねえですよ」

「あの小さな建物からラジオの電波を飛ばして、車で受信するはず。僕も古いアメリカの小説で読んだだけだから、詳しい事は知らない」

「エロ目的にしか思えねえのです」

「小説ではそういうシーンだったけどね。子供が騒いでも問題ないし、個室で映画ってのが受けて繁盛したらしいよ。日本でも」

「まあそんなのはどうでも良くて、業務用ポップコーンをゲットするチャンスなのです」

「そこの瓦礫に登って、スコープで敵がいないかしっかり確認してからかな。マーカーの索敵範囲外みたいだ」


 崩れた建物のコンクリートが山になって、いい狙撃ポイントになっている。

 頂上に腹這いになって、狙撃銃を構えた。巨大なスクリーン、瓦礫、車の残骸、売店の壊れたドア。ちょっと離れた場所にバーベキューセット。いた。毛むくじゃらの、人型。足元にあるのは、携行式ガトリングガン!?


「ウイ、人型なんだけど毛むくじゃらで、オーガ兵(重火器)ってのがいる。知ってる?」

「こちらではポピュラーなクリーチャーなのです。ある程度の人語を解しますが好戦的で、人肉を好物とするです」

「人類の敵か。殺れると思う?」

「3匹より多いなら、危険かもなのです」

「今のところ、1匹しかいないなあ」

「なら、狙撃から入れば楽勝なのです」

「じゃあ殺ろっか。準備は?」

「いつでも来やがれなのです」

「オーガは大きいからテーブルに座ってる。いい的だね。いくよ。【ファーストヒット】」


 スコープの十字に頭部を捉える。さらに狙いを定め、濁った目に照準を合わせた。

 ドォンッ!

 前より反動を逃すのが楽になっている。スコープの中のオーガが交通事故のように吹っ飛び、HPバーの上に360という数字が跳ねた。獲得経験値は30。


「排除完了。銃声に反応した敵影なし」

「周囲にもマーカー無しなのです」

「漁りに行くしかないよね?」

「オーガは肉が美味らしいので回収するのです」


 あれ食べるの? 毛むくじゃらのお相撲さんみたいなクリーチャーだよ。僕は遠慮したいなあ。

 瓦礫の山から下りて、警戒しながらドライブインシアターに向かう。

 一キロもない距離を、だいぶ時間をかけて移動した。


「窓の割れた車の中に骸骨か。後部座席にエロ本あるね。売れそうだから回収する?」

「このくらいの車の数なら、回収は容易なのです。不埒なカップルの小銭までいただいてやるのです」


 駐車場の車は10台ほど。敵襲に備えて、離れずに車を回る。


「次は売店なのです!」

「そんなにポップコーン好きなの?」

「キャラメル味は乙女の友なのです!」


 女の子の心理ってわからない。

 スクリーンの左に3つの建物。右には1つだ。3つが売店で右のは映写機とラジオ用の建物かな。これだけ進んだ文明なら、スクリーンの正面に映写機がなくとも大丈夫だと思う。


「左から行こうか。狙撃銃を収納。ショットガン展開」

「ウイもいつでも撃てるのです」


 1店目に用心しながら踏み込む。屋台のような形態で、この狭いスペースは調理場だったみたいだ。冷蔵庫にシンクにフライヤー。フィッシュアンドチップス屋さんかな。冷蔵庫を開けると風化した冷凍食品がほとんどで、下の段にわずかなジュース類があるだけだった。


「ハズレだね。次に期待かな」

「ポップコーン屋さんはどこだなのです!」


 2店目は、アルコール専門店だった。未開封のものはありがたくもらったけど、ドライブインシアターでお酒を売っていいの?


「次こそはなのです!」


 まあ大丈夫でしょ。欧米っぽい生活形態の文化だったみたいだから、ポップコーン屋さんはあるはず。


「キター、なのです!」


 嬉しそうにウイが振り回すのは、でっかいダンボールだ。3店目は見事にポップコーン屋さんだったらしい。


「ちゃんと賞味期限を確認しなよ?」

「もちのろんなのです」


 ウイは確認したダンボールを根こそぎかっさらって上機嫌だ。

 最後の建物は屋台風ではなく、機械小屋。壁一面の機械に机と椅子。机には灰皿とタバコ、ビールの空き瓶に32口径。この骸骨さん何してたんだろ。


「こんなもんか。発見人数が多い割に、お酒やポップコーンは無事だったんだね」

「もしかしたら、オーガの数も含まれているのかもなのです。はっきりとは記憶してねえですけど、数が1減ってるような気がするのです」

「・・・すぐここを離れよう。オーガの巣かなんかならヤバイなんて話じゃない」

「オーガと武器を急いで回収するのです」


 バーベキューセットのある場所に走る。ウイがオーガを回収する間に、ガトリングガンを持ってみた。持ち上げるのが精一杯。それもそのはず、網膜ディスプレイに要求筋力90と出ている。


「今のマスターでは無理なのです」


 言いながらウイはガトリングガンを収納してくれた。


「じゃあ急いで離れよ、間に合わなかった。戦闘準備!」

「敵視認、重装オーガ1匹。武器は標識ハンマーなのです」

「ショットガンで前に出て僕にターゲットを固定する。ウイはヘイト考えながら攻撃っ」


 怖くないと言ったら嘘になる。ただ、あんな道路標識を引っこ抜いただけの武器でウイを殴られたらと思うと、そっちの方がずっと怖い。


「とっとと来い、ウスノロ!」


 標識が武器なら、たすき掛けにした大型タイヤは防具のつもりなのか。牙をむき出しにしてオーガが吠えた。


「オマエ、オデノツガイコロシダ。オデ、オマエクウ。マルカジリ!」

「やれるものならっ!」


 【パラライズマガジン】。念じてから撃った。タイヤに守られていない方の肩が抉れる。200のHPが20減った。


「グオオオオッ」


 オーガの動きが鈍る。【パラライズマガジン】の効果かもしれない。このショットガンの散弾が何発なのかはわからないけど、その1発1発に10パーセントの麻痺判定があるなら、1射でほぼ麻痺るだろう。


「口だけのバケモノがっ」


 もう1発。顔面に叩き込む。HPが160に落ちた。

 別の銃声。ウイだ。タタタン。5、5、5とオーガのHPが減る。もう1度3連射。

 ウイの射撃が止んだ。膝を狙って撃つ。ガクンとオーガの姿勢が傾く。ダメージは同じ20でも、部位を狙う利点はあるみたいだ。反対の膝にも、1発撃ち込んで間を取る。

 タタタン、タタタン。オーガの残りHPは60。完封勝利は目前だ。


「一気に決めるよっ!」

「了解なのですっ!」


 タタタタタタタッ。派手に連射する。ヘイトは大丈夫かな。

 男は度胸。ウイの射線を遮らないように、オーガの正面に躍り出た。


「喰らえっ!」


 撃つ。ポンプを操作して連射。これで終わ、えっ。

 急に機敏な動きになったオーガが、標識をぶん投げた。僕に当たる。避けられない!


「ごぼあっ」


 激痛。視界が回る。ヤバイ。HPは。いやそうじゃない。ウイは無事?


「マスターっ。待って、今『ドクターX』を!」


 ドク、なんだって?


「ウイ、僕はもうだめだ。君1人にしてしまってごめん。でも大丈夫、君は強い女の子じゃないか・・・」

「マスター」

「ああ、もっと良く顔を見せておくれよ・・・」

「えーっと。もうHPは全快してるのです」

「え? あれ、痛くない。なんで?」

「『ドクターX』を打ったのです。1本でHP100回復なのです」

「ゲームと同じなら、回復アイテムくらいあって当然か。わーい、恥ずかしくて死ねる」

「まあ、カッコつけたのは忘れてやるです」

「ありがと。オーガは倒したんだよね?」


 どっこらしょと立ち上がって、オーガの死体を探す。うん。倒れてる。


「倒したけど、経験値が5だけ足りなくてレベルアップしなかったのです」

「いいじゃない。5なら適当な開錠でレベル来るでしょ」

「さっき来てたら、即HP回復で痛みがなくなったはずなのです」

「油断した僕のミスだよ。いい授業料でしょ」

「あのタイミングで麻痺が切れるとか、忌々しいにもほどがあるのです」

「だね。まあ、気を取り直して行こう」


 オーガの死体に近づくと、ウイが収納してくれた。標識もタイヤもだ。あんなのが売り物になるのかな。


「出発前に、鍵を探すです。やっぱり【ワンマガジンタイムストップ】くらいないと不安なのです」

「さっきは見なかったけど、売店ならレジか持ち運び金庫があるかもね」

「探してくるです。マスターは後からゆっくり来やがれなのです」


 お言葉に甘えて、走るウイを歩いて追いかける。

 ポップコーン屋さんからはすぐに出てきた。アルコール専門店からもだ。お、フライ屋さんからは出てこない。見つけたのかな。


「あった?」

「手提げ金庫発見なのです。ちょっとだけ待ってくださいなのです」

「ゆっくりでいいよ。あのオーガは自分達を番だって言った。群れではないみたいだから、少しくらいなら休憩したっていい」


 言いながらタバコに火を点けて吸い込む。やけに美味しい。日本では食事後トイレ後やった後がタバコの美味しい時だというけれど、敵を殺して生き延びた後の方が美味しいんじゃないかな。


「飲み物は何にするですか?」

「スポーツドリンクかなあ。ウイも飲みなよ。この暑さで、ましてや戦闘をこなした後なんだから」

「りょーかいなのです。はいよ、『ぬるいスポーツドリンク』1丁なのです」

「わざわざ言わなくていいって。冷たいのは冬までおあずけだもん」


 『ぬるいスポーツドリンク』を飲み、タバコを吸う。

 パッパラー!

 おお、来た来た。


「お疲れ様。そしておめー」

「ありー、おめ返しーなのです」

「さっさと取っちゃうね、【ワンマガジンタイムストップ】」

「ですです。ウイは少し溜めとくのです」

「リキャストタイムが1時間だって。必殺技みたいなものかなあ」

「さっきの戦闘みたいにスキルをケチったら、またいらない怪我をするのです。心配だから、使いすぎくらいにして欲しいのです」

「そうだね。タバコを吸いながら思ったよ、あのまま死んでたらウイはどうなるんだってね」

「決まってるです。頭を撃ち抜いてついて行くのです」


 本当にやりそうで怖いよ。



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