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虐殺フィスト




 全員が乗り込んでハッチが閉まったのを確認し、久しぶりにハンキーを走らせる。

 【静音走行】がないのでかなりの騒音だが、こればかりは我慢してもらう他にない。


「違うものですね」

「音か? 悪いなあ」

「いいえ。今、ミツカ達が帰るついでに、町長さんに新居の鍵を貰いに行きました」

「もう夕方だもんな。ブロックタウンに着くのは深夜か」


 ウイは運転席の後ろに座っている。

 その後ろから、リーネの鈴を転がすような笑い声が聞こえた。


「なあ、ヒヤマ兄ちゃん。俺もレベルが上ったら、こんなカッコイイのに乗れるかなあ?」

「どうだろうなあ。まず、冒険者になっても安心だって、家族に言ってもらえるようになんねえとな。グースとグリンは、何歳なんだ?」

「15! リーネは13!」

「そうか。頑張っていい男になれ。そしたら、親父さんの許しも出るだろ」

「何をどう頑張るのさ?」

「親に心配をかけずに、生きていけるようにだ」

(親不孝の代表格が、なに言ってやがんだか)

(聞いてたんかよ、運び屋。エルビンさんが良い人過ぎっからよ。援護射撃をちょっとな)

(明日の午前から、ヒナと回収に出る。川より西側だ)

(了解。気をつけてな)

(こっちのセリフだっての。じゃあ、またな)


 ハルトマンで直線にした道は走りやすく、ウイや双子と話しながらなので退屈もしない。

 たまにハンキーを停め、ミツカが勝手にニーニャに作らせた運転席上部ハッチから顔を出して、タバコを1本だけ吸う。

 午後8時を回ると、ウイとエルビンさん以外は眠ってしまったらしい。


「ヒヤマ君。子供達には見せなかったが、重爆撃機の乗員は武装していたんだ。ここに出すよ」

「いや、取っといてくれ。むしろ、足りねえならもっと渡す。何がどのくらいあるんだ?」

「拳銃とアサルトライフルが8ずつ。使えるのは、どちらも6かな。それとナイフが8。レーションや回復アイテムもある」

「使えねえ銃は、俺のパーティーの修理屋が直す。弾は足りるか?」

「ああ。だが私は、武器は好かんのだよ」

「だろうな。それでも女房子供を守るために、武器が必要な時もあるだろ。それに双子は、いつか冒険者になるって言い出しそうだ」

「もう言っているよ。自分達が危険な仕事をして、私達に楽をさせるんだとね」


 親の心、子知らず。その逆もまた真なり。

 どんな世界でも、それは変わらないらしい。人の営み、それがあればこその悩みなのだろう。


「今のうちからギルドで働けば、冒険者のいい所も悪い所も見る事になる。とりあえず18まで働けば、それだけで6レベルアップだ。なんとかなるだろ」

「18なら、大人だものな。黙って見守るしかないかな」

「へえ。俺達の故郷では、20で成人だったよ」

「うちは18だ。ろくでもない世界だったが、今となれば懐かしいね」

「誰かに都合良く作られた世界と、誰の都合も受け付けない世界。どっちがいいんだろな」

「わからないね。それでも、ヒヤマ君はこの世界に筋を通すつもりなんだろう?」


 筋を通す、そんな考え方はした事がない。

 ただ、強い人間だけが得をしていたら、それ以外の人間は納得できないだろうと思うだけだ。


「この世界だって、権力者がルールを創るだろう。それを歴史として繰り返して、いつか金持ち達が結託して新たなルールを創るはずだ。そんな時代に、冒険者なんてのは邪魔なだけだろう。居場所だけは、確保してやりてえな」

「自由を愛するがゆえに、冒険者に秩序を求めるのか・・・」

「そんな難しい話じゃねえさ。いいから一眠りしてなよ、疲れてるんだろ」

「では、そうさせてもらおうかな。光栄だよ、君の手伝いができるのは。おやすみ」

「ああ。ゆっくり眠ってくれ」


 百年、いや、何百年も先まで、エルビンさんは見ているようだ。

 そんな男にギルドを任せられると思うと、いくらか気持ちが軽くなる。

 誰がどんなに持ち上げようと、俺は17のガキでしかないのだ。


「エルビンさん達と、出会えて良かったですね」

「そうだな。こっちに来てから、友人に恵まれ過ぎてる。俺は、幸せ者だ」


 たまにポツポツ話しながら、ブロックタウンまでハンキーを走らせた。

 門には歩哨の自警団員とミツカ達がいて、屋根に乗り込んでロッジ家の新居まで案内をしてもらう。


「じゃあ、しばらくはのんびり暮らしてるといい。そのうち、段取りの相談とレベリングの誘いで無線を飛ばす」

「ありがとう。いつでも働けるようにしておくよ」

「ヒヤマ兄ちゃん、俺達も無線していいか?」

「おう。このニーニャ達は、ルーデルっておっさんのトコで毎日機械をイジってる。友達が出来るまで、いつでも遊びに来るといい。な、ニーニャ?」

「うんっ。飛行機と強化外骨格パワードスーツと武器しかないけど、興味があるなら暇つぶしにはなるよっ!」


 まだ眠そうな双子とリーネが、嬉しそうに微笑んだ。

 友達のいない異国の街に、やはり不安を感じていたのだろう。人懐っこいニーニャと友達になれば、すぐにブロックタウンにも慣れると思う。

 奥さんにウイが缶詰や飲み物をたっぷり渡していたので、子供らしい健康的な体になるのも早いはずだ。長い旅の影響か、家族全員が痩せすぎている。

 ハンキーは音が出るので、歩いて家まで戻った。


「ウイ、明日から川の東側を回ろう。チョッパヤでな」

「何語ですかそれは。わかったので、お風呂に入って早く寝ましょう。明日も早いんです」

「はいよ。みんな、お疲れさんな。明日もよろしく頼む」


 風呂に浸かって、火照った体をビールで冷やす。

 早く寝るの意味を理解していなかったのは俺だけのようで、一仕事させられてから眠った。


「今日も晴れてやがるな」

「ええ。なんでも水は地下水を汲み上げているとかで、この暑さでも大丈夫だそうですよ」

「世界のあり方までデタラメだな」


 朝の涼しさを楽しみながら、ウイとシェパード姿のヒナと門まで歩く。

 バギーの横で、運び屋とダンさんが立ち話をしていた。


「おはよう。ダンさんに絡んでんじゃねえよ、運び屋」

「ほう。じゃあ、死神は絡まねえんだな? ダンが広場で、派手な公開プロポーズをやらかしたって言ってもよ?」

「それは、興味がありますね」

「さすがウイ嬢ちゃんだ。ほら、キリキリ吐けよ、ダン」

「公開って、逃げ道を塞ぐためにか?」

「ひ、人聞きの悪い。勘弁して下さいよ、ヒヤマさん。えーとですね・・・」


 嬉しそうに話すノロケを要約すると、空母にいた美人に一目惚れしたダンさんが、人通りの多い夕方の広場で彼女を見つけて、元気そうになってて嬉しかったので話しかけたら、笑顔に舞い上がって勢いでプロポーズしてしまったらしい。

 お恥ずかしい、なんてデレデレの笑顔で言うところを見ると、それは受け入れられたのだろう。


「良かったなあ、おめでとう。結婚祝い、希望はあるか?」

「とんでもない。その言葉だけで充分ですよ」

「死神はもう、ブロックタウンの名士だ。そうもいかねえだろう。俺達からも、何か贈らねえとな」

「ギルドを起ち上げるまでには用意するよ。そろそろ行こうか、ウイ」

「はい。本当におめでとうございます、ダンさん」

「ありがとうございます、ウイさん。では、開門しますね」


 運び屋とヒナがバギーに乗り込む。

 俺とウイもパワードスーツ姿でローザに跨がり、門が開くのを待った。


「お気をつけて」

「おう。またな、新郎」


 土煙を巻き上げて、バギーが飛び出した。

 俺達も門を出て、ダンさんに手を振って鉄塔を目指す。


「ハンターズネストには、寄らずに行くぞ」

「はい。結婚祝い、どうしましょうか?」

「嫁さんに華やかな婦人服と、いくらかの硬貨。ダンさんのはどうすっかなあ」

「武器なんかは、祝いの品には向かないでしょうからね」

「カメラはどうだ?」

「ああ、変態夫婦の家にありましたね。ダンさんなら、大丈夫、・・・でしょうか?」

「あのノロケようじゃ、いまいち信用できねえかもな」

「なら、何かないかアイテムボックスを探してみますよ」

「そうしてくれ」


 重爆撃機があった場所から少しだけシティー寄りで、1機目のミアットを回収。そこで昼メシを食って、2機目に向かった。

 双発の残骸。

 蟻のように男達が群がって、部品をバラして積み上げている。

 ミツカに映像を見てもらうため、無線を繋いでからゆっくり接近した。


(ああ、もう。やってない犯罪の方が少ないよ。とんでもないクズ共だね。あたしがいたら、デコピンだけで殺してやれるのに)

(じゃあ、全員死んでもらうか)

(部品を工具でバラしてるのは、犯罪者じゃない。あれまで殺したら、ヒヤマも犯罪者になるよ)

(了解。終わったら話を聞くから、嘘があれば教えてくれ)

(職業持ちはいないから大丈夫だとは思うけど、気をつけてよ?)

(おう。ウイはここで待ってな)


 双発の200メートルほど手前にローザを停め、俺1人で歩いてゆく。

 気の早いのは、もう剣を抜いているようだ。

 銃を持っているのは、1人しかいない。それも、手垢で汚れた22口径がたった1つ。


「なんだ、テメエ。それ以上、近寄るんじゃねえ!」

「ソイツを落としたのは俺だ。自分のもんに近づいてなにが悪いんだ、コソドロ?」

「うるせえ。誰が落としたとしても、これは俺達のもんだ!」

「おい。こんなガキ、さっさと殺そうぜ。あっちの鎧は、女みてえだ。ツラは見えねえが、楽しめそうだぜ」

「俺を殺せるなら、戦争から逃げねえだろうによ」


 俺の言葉を、男達は聞いていないようだ。

 どうやってウイを嬲るか、楽しそうに話し合っている。


(耳が腐りそうだ。今すぐ飛んでいって殺してやりたいよ)

(同感です。ヒヤマ、ここから撃ち殺していいですか?)

(ここは俺に譲ってくれって。【熱き血の拳】取得、発動)

「さあ、ゴングが鳴ったぜ!」


 叫びながら、先頭のクズをぶん殴った。

 鈍い音と共に頭部が飛び散って、脳や肉片を撒き散らす。


「な、なんだって!?」

「バケモノだ。逃げ、ゴバアッ!」


 逃げようとした男の腹は、突き蹴りであっさり腹から千切れた。

 破れた内臓から溢れた糞が、酷く臭う。


「誰が、誰を、輪姦すんだって!?」

「ぎぃやあああっ!」

(ヒヤマ、怒ってくれるのは嬉しいですが、首を素手で捩じ切るのはやめてください。返り血で、大変な事になってますよ)


 残りは2人。

 逃げようとする男の頭を掴み、膝に打ち付けた。


「な、なんなんだよ。オメエみてえな、バケモノがいてたまるかようっ・・・」

「そのバケモノを殺して、女をどうこうするって言ってたのは、テメエらだろうがっ!」

「ひっ・・・」


 涙と鼻水で顔をグチャグチャにした男が、小便を漏らしながら腰を抜かす。

 胸ぐらを掴んで立ち上がらせ、拳をコメカミに当てた。


「や、やめてくれ、死にたくねえんだ。頼む、頼むからっ」

「テメエが輪姦した女は、それから殺した女は、見逃してやったってのか?」

「そうだ。俺は、俺は逃した。だからっ!」

(嘘だね。言葉にしかねるほどの犯罪を、昨日の夜にも犯してる)

「そうか。ちなみに今、嘘と犯罪歴がわかる仲間が、オマエを見てるんだ。あばよ、クズ野郎」


 レーザー、連射。

 思うだけで、パワードスーツの拳からレーザーが発射された。


「妹が、人質として捕まっている。僕は行ってもいいか?」


 白衣を着た青年が、まっすぐに俺を見て言った。

 人質の妹。殺したクズ野郎達の、昨夜の犯罪。

 なんと言えばいいのか。

 言葉が喉に詰まって、怒りが哀しみに色を変えた。



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