若さってなんだ?
「ここがパイロットの待機室、って。どうしたんだ、ヒヤマ」
「い、いや、あれって・・・」
「ああ。無反動砲に榴弾砲。対戦車砲まであるな」
「そんなあっさりかよ」
「もう、マレビト達のやる事に驚くのはやめた。ハンガーを見た時に、そう決めたんだ」
「俺以外は、化け物じみてるからなあ・・・」
「ヒヤマも大概だろうに。まずは、シャッターを見よう」
ルーデルの後を追って、格納庫に入った。
兵器が並んでいるのは待機室の前だけだったらしく、だだっ広い空間に靴音を響かせて歩く。
「これだ」
ルーデルが壁に取り付けられた箱を開け、言いながらスイッチを押した。
ガラガラと音を立てながら、シャッターが開いていく。
「よく動いたな」
「ハンガーは爆撃されるからな。独立した動力のスイッチが、いくつもあるんだ。これがダメでも、どれかは動いたさ」
「なるほどねえ」
(ヒヤマ、カリーネさんが測量を終えました。1度ハンガーを収納してから穴を掘るそうなので、ルーデルさんと戻ってきてください)
(了解。すぐに戻る)
「無線か?」
「ああ。収納してから、穴掘りだってよ。戻ろうぜ」
俺とルーデルが土台から飛び降りると、ハンガーはすぐに消えた。
カリーネが前に出て、俺の顔を見る。迷う事なく、頷きを返す。
「では、【大規模土木工事】発動!」
見慣れた光が、ハンガーのあった地面を包む。
それが消えた時には、荒れ果てた農地に大きな穴が口を開けていた。
「これでいいわよ。土の硬さはコンクリート並になってるから、なんの心配もないわ」
「ありがとう、カリーネさん。助かったよ」
「カリーネでいいですよ。ヒヤマ、送ってくれなくていいわよ?」
「もうエンジンをかけた。それに、シティーの川の工事も頼みてえんだ。点数を稼がせてくれ」
「ふふっ。なら、広場までお願いしようかな。お肉を買って帰りたいの」
カリーネが、タンデムシートに跨る。
「お、お兄ちゃん、あの武器はなにっ!?」
「ヒナが入れてたんだろ?」
「うん。ついでに。にーにゃ、つかう?」
「い、いいのっ!?」
「うん」
「うひゃー。ありがとう、ヒナお姉ちゃん! これで強化外骨格パワードスーツに、大砲を積めるよっ!」
「良かったな、ニーニャ。じゃあ、カリーネを送ってくる」
「カリーネさん、後で強化外骨格パワードスーツの相談をしに行くねっ」
「はい。待ってるわね」
「そしてお兄ちゃん、剣聖さんとニーニャを、無線で繋いで。お願い!」
言われた通り俺、剣聖、ニーニャを同時接続した瞬間、剣聖の都合も聞かずにニーニャは喋りだした。
カリーネを乗せて、広場までのんびり走る。
「ここでいいのか?」
「ええ。ありがとうね」
「礼を言うのはこっちだ。買い物と、荷物持ちも付き合うぞ?」
「ううん。ちょうど運び屋さんも来たし、私は気にしないで」
「あー、悪い。デートの邪魔しちまったか」
「いいえ。ハンガーの工事をしてきたんですよ。ニーニャちゃんが強化外骨格パワードスーツの打ち合わせをやり直すと言っていたので、運び屋さんも見学してきたらどうですか?」
運び屋が俺を見る。
なんでだよ、そう顔に書いてあるみたいだ。
「ヒナがハンガーに、無反動砲やら何やらを入れてたんだ。ニーニャのテンションが、恐ろしい事になってんぞ」
「かなり昔に行った基地か。なら、顔を出しに行くかな」
「乗っけてくよ。カリーネ、本当にありがとうな」
「こちらこそ。じゃあ、またね」
カリーネが食料品店に入ると、運び屋がローザに乗った。
優しくクラッチを繋いで、ゆっくりと走り出す。
「何やってんだ。もっとブン回せっての」
「街中で、無茶を言うんじゃねえ!」
「つまんねえなー」
それでもカリーネを乗せている時より気は使わないので、あっと言う間にハンガーに到着した。
すでに格納されているヘリや戦闘機の前に、ローザを停める。
「ブレーキングやクラッチ、アクセルワークは悪くねえな。ろくに運転スキルもねえのにこれなら、大したもんだ」
「ありがとよ。もうイジってんのか、剣聖の強化外骨格パワードスーツ」
「なんだ、あのバカでかい盾と剣は」
「ローザの遺品だよ。剣聖は銃器スキルがねえから、強化外骨格パワードスーツに持たせるんじゃねえか?」
「違うみてえだな。ニーニャ嬢ちゃんが、スキルで剣を作った」
続いて盾を作るニーニャを見ながら、強化外骨格パワードスーツの前に立った。
まだ顔はおろか、装甲板すら貼られていない。
「おかえり、ヒヤマ。運び屋はおはようだな」
「おう、ルーデル。いいハンガーじゃねえか。これなら使えるな」
「ヒナちゃんのおかげだよ。感謝してる」
「ヒナ、ねえ。安直な名前にしやがって、まったく」
そう言われると、返す言葉もない。
ルーデルが差し出した紙を受け取って眺めると、海と川、シティーにハンターズネストにブロックタウン、それとバツ印が書き込まれていた。
「これ、敵の航空機の墜落場所か?」
「ああ。正確な物ではないが、闇雲に探すよりマシだと思う。運び屋のも、後で書いておくよ」
「ありがてえ。よう、ウイ嬢ちゃん。うちの娘は、さぞや迷惑をかけてるだろう。すまねえな」
「いいえ。ヒヤマよりよっぽど聞き分けがいいですし、明るい子なので楽しく過ごしていますよ」
「そう言ってもらえるなら、少しは安心だ。街中でパワードスーツとは、どこかに出かけるのか?」
「はい。ハンターズネストの手前まで、物を取りに」
「ヘリを出すと言ったんだが、断られてしまってな」
「ルーデルさんだって、戦闘機の改造があるでしょう。ヒヤマと私は、何も仕事がないので。ヒヤマ、パワードスーツを着てくださいね」
「はいよ。さっさと行って、鉄も1つくれえ回収すっか」
パワードスーツは、戦闘服の上から装備する防具だ。
ジーンズとシャツの上に、そのまま装備した。
「1日くれえ、休んだらいいものを」
「水道が来ていないので、このままではトイレも遠いんです。ニーニャちゃん達が大変なので、少しでも急がなくては。ヒヤマ、行きましょう。飛行機の残骸は、明日からです」
「了解。ルーデル、騒がしいとは思うが、ニーニャ達を頼む」
「任せてくれ。気をつけてな」
「せっかくの陸王だ。こかすんじゃねえぞ」
「あいよ。じゃあな」
ローザに乗り込んで、エンジンをかける。
腹に回されたウイの手を撫でてから、ゆっくりと走らせた。
「そうだ。【専用装備化】ってスキルを、ちょっと見てくれねえか」
「はい。・・・これは」
「取っていいか?」
「もちろんです。ローザとハルトマンをアイテムボックスに入れておけるなら、生存率は飛躍的に向上しますよ」
「ありがとな。取得っと」
広場を過ぎてしばらくすると、見張り台と門が見えてきた。
「お久しぶりです」
「あ、ダンさん。今回はヘリで来たので、ずいぶん久しぶりな感じですね」
「よう。開門を頼む」
門が音を立てて開いてゆく。
「はい、どうぞ。お気をつけて」
「これ、今回の土産な」
「そんな、こんなにたくさんのタバコなんて!」
「貰ってあげてください。では、私達はこれで」
鉄塔を目印に、雑談しながら進む。
別荘を使っていた頃は1日かかった道も、ローザなら2時間で済むようだ。
道路に停車し、【専用装備化】を使った。
『軍用バイク・改 ローザ(ヒヤマ専用)』と名前が変化している。
それに満足しながら、アイテムボックスに収納してみた。
重量表示の数字は1も上がらず、ローザは俺のアイテムボックスに入っている。
「バッチリだ」
「なら、ハルトマンも出しますね」
ハルトマンも専用装備登録して、アイテムボックスに入れる。
「別荘、合鍵もあったよな?」
「ええ。2つありますから、ニーニャちゃんとルーデルさんに渡しますね」
ウイが、別荘として使っていたキャンピングカーを収納する。
「サハギン、いねえな」
「人の行き来が増えたので、数を減らしているのでしょう」
「スクランブルの練習してえのにな」
「出してみればいいじゃないですか。試しもせずに戦闘は、不安ですよ」
「まあな。悪いが、道路に上がってくれ。試したらすぐに行く」
「はい。ではお先に」
蒸着、そう声を出しかけたが、ツッコミは貰えそうにないので、普通にハルトマンを装備する。
ジーンズとTシャツ。強化外骨格パワードスーツの靴からヘットギアまで身につけた状態で、俺の視界はハルトマンのカメラのものになっていた。
姿勢は、装備した時のままらしい。
小学生の頃を思い出して想乱、ボクシングで言うシャドーをしてみるが、動きに支障はない。
少し怖いが、装備解除して収納も試してみる。
ハルトマンの全高は6メートルと少し。
空中に放り出されたとしても、心構えしていれば怪我はしないだろう。
装備解除。回収。
「おわあっ」
心構えしていても、キン◯マが縮み上がった。
3メートルほど落ちて、河原に着地する。
「大丈夫ですか、ヒヤマ!?」
「・・・おう。いいスキルだ。戻るか」
パワードスーツを装備しなおして、ウイの待つ道路に戻る。
ローザを出して跨ると、呆れ顔のウイも続いた。
「あまり、心配させないでください」
「悪い。気をつけるよ」
ブロックタウンに戻りながら、ウイの取りたいスキルの話を聞いた。
拠点防衛に効果的なスキルが多い。
自分が決めた境界線に侵入した者を網膜ディスプレイに表示する、監視カメラのような最上スキルまで取りたいらしい。
どうやらブラザーズオブザヘッドが、また攻めてくると読んでいるようだ。
「しかし、この辺りはクリーチャーがいなくなったな」
「いい事です。それでも、油断はできませんが」
たしかにそうだ。
ゲームのように決まった時間でリポップする事はないが、流れて来た群れが縄張りを作るのはあり得るだろう。
遠く見えてきたブロックタウンは、平和そうな荒野のオアシスのようにしか思えない。
「いい街だ」
「ええ。もっと良くなりますよ。ギルドが出来れば冒険者同士の疑心暗鬼も減り、パーティーを組みやすくなります。人もクリーチャーも、群れれば生存率は上がりますから、ブロックタウンの南を狩り場とするパーティーも多くなるでしょう」
「そうなったら、俺達は海沿いか」
「ロボット王国の物資は足りています。キマエラ族のお手伝いを優先させるためにも、敵の襲来を早期に察知するためにも、揚陸艇はありがたいですね」
揚陸艇には、兵士や強化外骨格パワードスーツを乗せるスペースがある。そこにベッドやテーブルを置けば、キャンピングカーのようなものだ。
アザラシ兵のパワードスーツで、海に潜って魚や貝も獲れるだろう。
はじめての船旅、浜焼きとビール、まだ見ぬ遺跡。いや、未だ誰も知らぬ大地にまで、いつか辿り着けるのかもしれない。