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漁れ漁れ、遺跡を漁れーえぇー




 1泊した部屋を出た僕達を迎えたのは、酷い臭いのゾンビの死体だった。


「ちょっとウイ、なに自分だけガスマスクなんてしてんのさ!」

「支給されたUI専用装備品なんだから仕方ないのです。それよりウイは片っ端から部屋を開錠するので、マスターは食料と金目の物と硬貨を探しやがれなのです」

「わかったよ。ゾンビドックのいた部屋から行くね。何かあったら、大声で呼んでよ?」

「もちろんなのです。では、お互い頑張りましょうなのです」


 盾に使ったダイニングテーブルの横、ドアが開いたままの部屋に入る。


「土足で失礼しますよー」


 靴脱ぎ場のない玄関。靴箱を開け、ありふれた靴しかないのを見て次に向かう。

 閉じたドアを開けようとすると、何かに引っかかって開かない。元の住人に遠慮する気持ちもあるけど、僕達にも生活がある。レベルと一緒に上がった筋力に物を言わせてこじ開けた。

 大きなタンスでドアを塞いでいたらしい。ベッドに大きなくまのぬいぐるみと、服を着た骸骨が2人分。服装からすると、母娘なのだろう。抱き合うように、横たわっている。手を合わせて祈る。成仏してくださいと。

 タンスのきれいな子供服は、ろくに確認もせずにアイテムボックスに放り込む。窓辺の家族写真を見ていると泣きそうだ。貴重品がないか、ざっと確認して足早に部屋を出る。

 キッチン。缶詰を探す。袋で密閉されている食品がたくさんあった。パッケージの裏の説明書きを見ると、空気が漏れていなければ食べられますと書いてあった。それならばとアイテムボックスにすべて入れる。


「冷蔵庫を開けるのは怖いなあ。虫とかいたら嫌だ」


 冷蔵庫を、恐る恐る開ける。虫もいないし、異臭もしない。どうやら、開封済みの食品は風化してしまったようだ。澄み切ったミネラルウォーターのボトルと、オレンジ色のジュースがこれでもかと入れられている。ラベルを確認すると、ミネラルウォーターとオレンジジュースの瓶だった。未開封なら永久的にお飲みいただけますとある。当然、根こそぎいただく。

 リビングはずいぶんと散らかっていた。ゾンビドック達の生活スペースだったのだろう。隅に骸骨。1人分だ。父親かな。なぜか服はない。この人にも手を合わせてご冥福を祈る。そばにナタと猟銃。収納と念じるとそれは消えた。

 アイテムボックスのリストを出す。『素人ハンターの猟銃』。猟銃弾5発。『猟師のナタ』。

 ナタを出すと、鞘にベルトを通す大きな革があった。空いている左腰に装備する。侍みたいでカッコイイかも。

 キャビネットとテレビテーブルからは、硬貨が30枚ほど回収できた。


「あと2部屋か。エグいのないといいなあ・・・」


 リビングの右の部屋を開けた。大きなベッド。夫婦の寝室かな。骸骨はない。これなら安心して探索できる。タンスから成人男女の衣類、未開封のもあった。それも過激な下着と大人のおもちゃ。・・・ありがたく頂戴します。

 最後の部屋は、書斎らしい。壁にでっかい斧が飾られている。高そうな木製の大きな机。木製のラックもある。

 引き出しを開けようと椅子の前に立つと、画面の消えたパソコンの前に写真がたくさん並べてあった。卑猥なポーズで局部を晒す金髪美人。横にはティッシュらしき箱。足元には脱ぎ散らかした服。


「なにしてんのお父さん!」


 自分で楽しんでる最中に、飼い犬と飼い猫がゾンビになったのか。それにしてもエロいなあ。変態が美人な奥さん貰うとこうなるのか。うちも気をつけよう。

 引き出しからは硬貨が少しと、大量のエロ写真が出てきた。故人へ哀悼の意を表する意味で、すべて回収する。

 木製のラックには、さっきと同じ猟銃が1丁と猟銃弾が120発。これは美味しい。

 最後に飾られている斧をアイテムボックスに入れると、いきなり体が重くなった。歩けないほどじゃないけど、機敏には動けない。這うような歩みで廊下を目指した。


「ウイ、ウイー!」


 大声を張り上げると、廊下から駆け出す靴音が聞こえた。


「どうしたのですっ!」

「なんか急に体が重くなった。どうしよう」

「ああ。もう重量オーバーなのですか。モヤシっ子を舐めてたのです」

「重量オーバー?」

「アイテムボックスの所持品欄、右上にある数字を見るです」


 117の103。これが重量制限かあ。


「じゃあ、どれか捨てなきゃダメなんだね」

「もったいないから許しませんなのです。ウイのアイテムボックスは制限なしなので、こっちに移すです。マスターのアイテムボックスに干渉開始。接続完了。武器以外はこちらに・・・ほう。『エロ本』に『変態夫婦のエロ写真』、ですか。もうずっと重量オーバーで暮らしやがれ変態マスター、なのです」

「ち、違うよ! 換金目的だよ! 僕がウイ以外の女性に反応する訳ないじゃないか、やだなあもう!」

「前科者がよく言いやがるのです。ならこれは一番最初に売り払うのですよ?」

「あ、当たり前じゃないか。僕は最初からそのつもりだったよ」


 フンと鼻を鳴らして、ウイはアイテムのほとんどを引き取ってくれた。ようやく体が軽くなる。残ったのは狙撃銃と猟銃が1丁、各種弾薬だけだ。


「助かったよ。ありがとう」

「次からは重量オーバーになる前にアイテムを預けに来てくださいなのです」

「うん、そうする。でもウイのアイテムボックス羨ましいね」

「神様が嫁入り道具だと、たくさんの恩恵を授けてくれたのです」

「いい神様だ。ほんとうに感謝だよ」

「ところで、ウイは2階すべての部屋を開錠して3部屋も探索を終えたのですが、マスターは何をやってるですか?」

「うわ、ごめん。次からは急ぐよ」

「残りは5部屋。この隣から回ってほしいのです」

「わかった。急いでやるよ」


 少しでもウイの機嫌を回復させるために、急いで部屋を漁って回る。

 その気になれば、15分もかからず1部屋を終わらせられるらしい。次とその次を終えると重量オーバーが近いので、マーカーを頼りにウイの元へ向かう。

 その調子で3階、4階と探索を終えると、5階への階段が瓦礫で塞がれていた。


「ありゃ。もう終わりかな」

「そのようなのです。1階の階段まで戻って、お昼ごはんにするのです」

「了解」


 1階の階段の1段目に並んで座る。


「今日のお昼ごはんはこれなのです」


 ウイがアイテムボックスから出したのは、2つの袋だった。パッケージには、美味しそうなラーメンの写真。


「おお。インスタントラーメン! 見つけた時から食べたかったんだよね」

「だと思ったのです。すぐに用意するです」

「ワクワクだあ。あ、煙草吸うけど離れた方がいい?」

「今さらいいのです。それを気にするくらいなら、禁煙しやがれなのです」

「それは無理」


 携帯コンロに鍋を載せたので、ライターを渡す。返されたそれでタバコに火を点け、ラーメンが出来上がるのを待ちながら吸う。


「出来たのですよ」

「おお、待ってました」


 ちょっと離れた場所に吸い殻を捨てて踏み、ラーメンを貰っていただきますをする。


「夏のラーメンも美味しいよねえ」

「海の家に行きたいのです」

「ここから海って近いの?」

「さあ。スキルがないからわからないのです」

「街探しも大変そうだね。開錠でレベルは8になったけど、街探しの役に立つスキル取得するにはスキルポイント足りないからなあ」

「どのみち【地図埋め】のスキルはエクストラスキルで、取得するには100ポイント。取得してもツリーがないのでいらねえのです」

「そんなスキルもあるのか。スキルってありすぎて把握できないよね」

「ちょっと待つのです。うん。あったのです。迷わず取得、なのです」

「なに取ったの?」

「【遺跡発見】の1つ上、【発見済み遺跡の人数表示】なのです」

「なるほど、発見人数の多い遺跡を辿って街探しか。頭いいね、ウイ」

「発見人数が凄い数なら、その遺跡はそのまま町として使用されているです」

「その可能性は高いか。ごちそうさまでした」

「外に出たら、【遺跡発見】のスキルを使うのです。ごちそうさまでした、なのです」


 食後のコーヒーの替わりにと、いろいろな飲み物が出された。ジュースやココア、チャイまである。僕がチャイを取ると、ウイもチャイを残してアイテムボックスに仕舞った。


「普通に美味しいね、これ」

「悪くない味なのです」

「僕もスキル振ろうっと。【チェインヒット】の次、【発砲反動抑制】。パッシブだね。地味だけどありがたいや」

「次で【ワンマガジンタイムストップ】。そこまで行ったら少しは安心なのです」


 たばこを2本吸う間に、2人ともチャイを飲み終えた。空き缶がアイテムボックスに収納される。


「行こうか。水も食料も余裕ができた。あとは街を探すだけだ」

「はいです」


 近代的なマンションの景色から一転、日差しの強い荒野へと踏み出す。


「凄い暑さだ。水分はマメに取って、休憩も多めにしよう。帽子を外しちゃダメだよ?」

「わかってるのです。では、異世界【遺跡発見】っ!」


 宙を見るウイを見守りながら、ショットガンを狙撃銃に変えて背負った。とっさの射撃は、左脇の32口径か右腰のサブマシンガンだと自分に言い聞かせる。


「マスターの地図に干渉開始。接続完了。白と黒のマーカーを追加したです」


 網膜ディスプレイに地図を表示する。


「あれ、索敵の場所にはあるけど、地図にはないよ?」

「ズームするです。上空に視点を上げる感じなのです」

「おお、あったあった」

「黒の発見人数が500名ちょっと。白が50以上200未満なのです」

「なるほど。とりあえず、白を辿って黒まで行こうか」

「了解なのです。目的地のマーカーを黒に設定なのです」

「うん。理想的なルートだと思うよ。最後の遺跡が町で、海も近かったらいいね」

「海水浴にバーベキューなのです」


 黒のマーカーに向かって歩き出すとすぐに、瓦礫地帯を抜けた。

 地平線と文明の残骸。なにもかも壊れた世界のようでも、この世界は生きている。


「ウイ。僕、頑張るよ」

「何を頑張るのです?」

「頑張って強くなって、ウイと一緒に生きていく」

「そんなの当たり前なのです。マスターはウイのためにこの世界に来てくれた、王子様なのです」

「バイクを発掘したら、白くタンクを塗るよ」

「白鉄馬の王子様ですか。ちょっと間抜けなのです」



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