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男子高校生的な思いつき




 誰かの呼ぶ声。

 コロッセオのような場所で、剣を振りかぶる俺が見える。

 剣は奴隷のような姿をした男の肩口から入り、胃の辺りで止まった。

 歓声が地を揺らす。

 酷い臭いに顔をしかめながら、持っている剣を投げ捨てた。

 個室の観覧席に、豚のような男が見える。その手が掴んでいるのは、折れそうなほど細いウイの手首だ。ミツカにニーニャ、天使までいる。ほとんど裸の衣装を着せられて、涙ぐんで俺を見ている。

 ふざけるな!

 こんなのは嫌だ。俺は、この世界で生きてゆく。

 俺を連れて行くんじゃねえ!


「ヒヤマ、起きてください! 運び屋さんも!」

「あ?」

「起きましたか」

「・・・なんだ、夢か。おはよう、ウイ」

「おはようございます。運び屋さん、もう昼過ぎですよ!」

「ん。おお、おはよう」

「2人共、やっと起きたか。そろそろブロックタウンへ、住民を移送するぞ?」


 どうやら俺達が寝ている間に、準備はすっかり終わっていたらしい。

 俺と運び屋にコーヒー。ルーデルに牛乳を出す。


「ありがとう。住民は、5回に分けて移送する。6回目がいつものメンバーだ」

「手伝える事はないか?」

「特にないな。ああ、ウイちゃんがどのくらい空母の機能を残すべきか、聞きたがっていたよな?」

「ええ。ニーニャちゃんは鹵獲した強化外骨格パワードスーツ、8体すべてをカスタムする気ですから、鉄は多いほどいいかと」

「とりあえず手持ちと飛行機の残骸を使って、足りなきゃ内壁なりエンジン部品なり剥がせばいい。すぐに空母を使う訳じゃねえからな。ジャスティスマンの準備も、それなりに時間がかかるだろうし」


 1本目のタバコの火を、2本目に移す。


「ふああ。ってか、空母もウイ嬢ちゃんのアイテムボックスに入るのか?」

「はい。大丈夫みたいですよ」

「とんでもねえな。死神、世界征服でもしろよ」

「嫌だっての」

「ヒヤマの覇道を、俺の航空団がサポートするのか。夢があるな」

「なら、陸軍は俺だな。リタイアは、まだはええか」

「冗談でもやめてくれ。夜にはブロックタウンだろ。ルーデルとジュモは、うちに泊まるといい」

「打ち上げだな。派手に飲もうぜ」

「酒瓶を抱いて真夏の野外に転がってたのに、まだ飲むのか。とりあえず、移送をはじめるぞ?」

「気をつけてなー」

「俺は、ジャスティスマンと話しとく。そっちは任せた」


 となると、俺の仕事はない。

 どうしたもんかと考えていると、いつの間にか隣にニーニャがいた。


「どうした、ニーニャ?」

「ん。花園とわんちゃんの強化外骨格パワードスーツはコンセプトを決めてもらったから、運び屋さんのをどうするか聞きに来たの」

「そうか。改造はしてもらうが、無理だけはするなよ?」

「お兄ちゃんが言うかなあ。でも、ありがとっ」


 苦笑しながら頭を撫でて、タバコを持って立ち上がる。


「どうしたのですか?」

「仕事がねえからな。艦内を探検してくる」

「敵兵は残っていないと聞きましたが、万が一があれば危険です。私も行きますよ」

「了解。じゃあ、行こう。運び屋、ニーニャ達を頼む」

「おう。また死ぬんじゃねえぞ?」

「わかってる。今度は許して貰えそうにねえからな」


 艦橋から入る前に、爺さん達の元へ顔を出した。

 一応、確認はするべきだろう。


「爺さん、艦内に女子供は?」

「皆、ここにおります」

「そうか。艦内の探索をしてくる。私物なんかねえよな?」

「はい。僅かばかりの私物は、もうまとめてあります」

「了解。ミツカ、ニーニャを頼むぞ」

「わかった。気をつけてな」

「おう。なんかあれば、無線を飛ばす」


 艦橋まで歩いてドアを開けると、鉄の通路が長く伸びていた。

 歩くたびに足音の反響する通路の左右には、いくつものドアがある。


「これは、時間がかかるな」

「それでも小物まで回収して、全員に分配するのでしょう?」

「ああ。使い道はまだぼんやりしか見えねえが、金や物資はあればあるほどいいだろ」


 手近なドアは、食堂だった。

 ウイがテーブルの上の食器から回収する。


「使い道、あるんですか?」

「ウイは小説とかマンガは嫌いだったか?」

「また質問に質問を。悪い癖ですよ。そうですねえ。人よりは、読んだ方だと思います」


 フタが開いたままの酒瓶を集め、流しに中身をぶちまける。


「その中で冒険者ってのは、何をしてた?」

「なにって。モンスターを倒したり、ギルドで依頼を・・・」


 並べた空き瓶を収納しようとしたウイが、驚いた顔で俺を見る。

 冷蔵庫の中には、何かわからない肉やビールが乱雑に収まっていた。


「ギルドを作るのですかっ!」

「まだ運び屋とルーデルの意見は聞いてねえ。難しそうなら、素直に諦めるさ」

「個人情報を扱う組織を1から立ち上げるなんて、難しいに決まってるじゃないですか」


 冷蔵庫の中身はウイに任せ、俺は食器棚や収納の扉を開けて回る。

 この空母を街として使うなら、ここは食堂の一等地か。下にも食堂はあるだろうが、地上からすぐなら、仕入れも簡単だろう。


「まあ、年寄りの意見を聞いてからだな。この艦橋を丸ごとギルドに使ったら、設備の維持も簡単か」

「とんでもない事を思いつきましたね。ここは、これで終わりです」

「おう。じゃあ、次だ。艦長の爺さんとかに丸投げすりゃ、なんとかなると思うんだがなあ」

「また丸投げですか・・・」

「1回くれえパーティー組んで狩りに行きゃ、【嘘看破】ぐれえ取れるだろうしよ」


 食堂を出て、対面している扉を開けた。


「酷い散らかし具合ですね」

「士官用の待機室か。ギルドならホールだな」


 空き缶にエロ本、灰皿は吸い殻が山になっている。

 吸い殻の中に、フィルターを噛んだ物がかなり混じっていた。


「こりゃ、出歯亀の吸い殻か」

「似てますね。お爺さんに聞きましょうか?」

「頼む。そうだとしたら、空母はいつからこの付近にいたんだって事になる」


 ウイに背を向けてアイテムボックスに入れたエロ本が、バサリと音を立てて落ちる。

 ウイはなにも言わずにそれを収納し、無線を飛ばしているようだ。

 エロ本を取り上げるためだけに、アイテムボックスに干渉するか。能力の無駄遣いじゃねえか。


「お待たせしました。ヒヤマを奇襲で殺した男は、だいぶ前からこの付近に潜伏していたらしいです。【衛星無線】や【視覚同調】などのスキルを持っていたそうですよ」

「初耳のスキルだな・・・」


 網膜ディスプレイ、検索。

 同意を得た人間の視覚を、網膜ディスプレイに表示する、か。

 こんなスキルがあるなら、昨日までの戦闘も敵に見られていたのかもしれない。


「運び屋に連絡。スキル名と、戦闘を敵に見られていたのかもと」

「了解」


 ロッカーには弾薬や手榴弾が残されているので、全て開けて回る。


「スキル名だけで、見られてたかと言ってましたよ。見られてない事を祈るしかないとも。ここも、回収完了です」

「次だな。どんだけ時間がかかるんだこれ」

「私達だけ、泊まり込みますか?」

「そうだなあ。ちょっと3人で話してみる」

「では、私は回収していますね」

「頼む。後ろをついて回るからよ」


 パワードスーツの尻も悪くないなと思いながら、運び屋とルーデルに無線を繋ぐ。


(ヒヤマだ。ちょっといいか?)

(おう。嬢ちゃん達は子供達と遊んでるぞ)

(こっちはブロックタウンが見えてきた。ウイちゃんに指定された着陸地点がよく見えるぞ)

(空母の中に、かなりのアイテムが残されてる。回収だけで、何日もかかりそうだ。全部回収したら全員に分配するとして、しばらく帰れねえかもしんねえ)

(なら俺と相棒も回収に回る。住民を移動させたら、ルーデルも回収に加わるか?)

(そうだな。それまでは、頼んだよ)

(任せとけ。死神、俺達は最下層から上がってくる)

(ありがたい。晩メシまででいいか?)

(おう。じゃあ、行ってくらあ)


 手伝ってもらえるなら、いくらかは早く終わるだろう。


「運び屋達は、下から回収してくれるってよ」

「それは助かりますね。艦橋だけで、今日が終わりそうです」


 結局、アイテムの回収に5日を要した。

 ニーニャやミツカ、花園まで手伝ってくれたのにだ。


「いやあ、やっと終わったな」

「甲板に戦利品並べて、順番に好きなの取ってくか?」

「それだけで日が暮れるっての」

「お兄ちゃん。これだけあると、カチューシャ家だけじゃ買い取れないよ。ううん、シティーの商人を全員集めても、買い取れないかもしれない」

「考えてなかった・・・」

「俺が買い取って、少しずつ店に並べてもいいが、分配そのものが大仕事だな」


 運び屋が本屋をやるなら、それもいいかもしれない。


「全部を格安で運び屋に売って、現金を分配か?」

「額にもよるけどな」

「とりあえず金額を出して、花園と剣聖の分だけ渡したらどうだ?」

「それならなんとかなるかもな」

「じゃあ、ざっとだけど計算するねっ」


 ニーニャがウイに品物を読み上げてもらっているが、量が量なのでかなり時間がかかりそうだ。この機会に、運び屋とルーデルの意見を聞いておくべきかもしれない。


「ウイ。あの話を、運び屋とルーデルに聞いてもらうぞ?」

「はい。時間がかかるので、それがいいでしょう。あら、かわいこちゃん。なるほど。アイテムボックスに干渉、許可します。移譲完了。ありがとうね」

「わんっ」

「こうして聞くと、ちょっと人間っぽいのな。それはそうと運び屋。日本のアニメやマンガに出てくる、ギルドって知ってるか?」

「どっちも詳しくねえが、中世の職業組合とは違うのか?」


 どうしよう。その中世の職業組合を知らない・・・


「あー。説明するから、ルーデルも聞いてくれ。俺がいた国の創作物には、スキルや職業を持つ戦士達が、モンスターと戦う世界ってのがよくあった。その場合ギルドってのがあって、そこでモンスターの死体を買い取ったり、町の住民からの依頼を張り出して仲介したりしてたんだよ」

「依頼ってのは?」

「こっちで言うなら、硬貨100枚でこの遺跡品を探して来てくださいとか、硬貨100枚でブロックタウンまで護衛してくださいとか、そんな感じだ。そこで仕事を受けられるのは、ギルド登録した冒険者だけ」

「まさか、ヒヤマ達がそれをやるのか?」

「ないない。ただ、【嘘看破】を持つ職業持ちがいれば、ギルドの冒険者は犯罪歴のない冒険者だけに出来る。少しは治安が良くなるんじゃねえか?」


 運び屋とルーデルが、顔を見合わせている。

 あまりに意外すぎて、どう反応していいかわからないようだ。



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