古参兵の実力
北の空に10以上の航空機が見えたのは、昼を過ぎて間もない時間だった。
すぐさま【映像無線】を使用して、全員に映像を送る。
(来たぞ。ミアットが8。双発が2。寸胴が2だ)
(死神、地上部隊は?)
(まだ見えねえ)
(双発は戦闘機。寸胴のは爆撃機だ。乗組員は2と3)
(運び屋、落としてもいいのか?)
(ああ。地上部隊を引きつけたいが、シティーを爆撃させる訳にはいかねえ。やっちまえ)
双発は、いかにも動きそうなシルエット。
爆撃機は朝の重爆撃機とは違い、太い胴体に爆弾を搭載しているのだろう。動きは悪そうだ。
編隊なんて知らんとでも言うように、敵機は適当に飛んでいる。
あの様子なら、士気は低いのかもしれない。
(ルーデル。双発を1機だけ残すから、直せる程度に撃って、そこに降ろさせたらどうだ?)
(捕虜か。悪くねえがやれんのか、ルーデル?)
(誰に言ってるんだ、運び屋。後席だけ残して投降させる。それでいいな?)
(任せるよ、大佐)
まだ距離はある。
離脱する機がいないか見張りながら、地上部隊を探す。
無線は繋がりっぱなしにするのが可能のようで、ウイ達に指示を出す運び屋の声が聞こえている。
ウイが双眼鏡を出したのか、詳細な距離が表示された。
(死神、捕虜は剣聖が預かってくれるとよ)
(・・・嫌な予感しかしねえんだが)
(こっちにゃ、ジュネーブ条約なんてねえさ)
(殺してやった方がいいかもな・・・)
(おい。殺すんじゃねえぞ、ルーデル)
(わかってるが、心情的にはなあ)
(剣聖だって、口を割らせるために匂わせるくれえだろ。本当にやりはしねえさ、たぶん)
不安しかねえな。
哀れな生贄は、右端の双発と決めた。
(距離、10000。7000で狙撃を開始する。残すのは右の双発だ)
(了解。地上部隊は撤退するかもしれんが、一応は見ておいてくれ)
(映像は繋がりっぱなしなんだろ?)
(ああ。いいスキルだ。ルーデルも、上がるタイミングを取りやすいだろう)
(狙撃開始と同時に離陸する。右ひねりですれ違いざまに、前席のパイロットを始末して降伏勧告だ)
カメラだけを動かして、屋根に積まれているマガジンを確認した。
スナイパーライフルには、チャンバーに1発、マガジンに6発の弾が収まっている。
(そろそろだな。敵パイロットに職持ちなし。この無線スキル、音も飛ばすんだろか)
(わからんが、コックピットから無線は飛んでるだろ。気にしねえでいいさ)
(了解。やるぞ)
左端のミアット。
照門と照星の向こうに、コックピットと飛行服のパイロットが見える。
1ミリも下がらない覚悟で、トリガーを引いた。
次。思うだけで、左から2機目にカメラが切り替わる。
(ミアット、撃墜)
ウイの声を聞きながら、トリガーを絞る。
7射。双発を落としたところで、マガジンを交換した。
残る爆撃機と戦闘機が、逃げる気配を見せる。
爆撃機のコックピットに、80ミリを叩き込んだ。
先に2機の爆撃機を片付け、残るミアットを落としていく。
(さすがだな、ヒヤマ!)
残りが双発1機となったところで、ルーデルの声が聞こえた。
マガジンを交換しながら、敵機に迫るミアットを見る。
左上から襲いかかるルーデルのミアットは、背面飛行で突っ込んでいく。
(行くのデス、ルーデル!)
(任せろ。そこのクソパイロット、さっさとそのJa10を寄こしやがれっ!)
キャノピーに手をついて叫ぶジュモも、ヘルメットを外して叫ぶルーデルも、嬉しそうでなによりだ。
(どこの山賊だっての)
(山賊顔は、運び屋なのにな)
(うっせえよ。お、1発でパイロットを始末したな。やはり、いい腕してやがる)
ルーデルは双発の隣を飛びながら、拳銃のような機械をチカチカ光らせている。
(ありゃ、こっちのモールス信号だな)
(素直に降伏すりゃいいな)
(大丈夫だろ。拒んだり妙な動きをすれば、狙撃させると脅してる)
(それより、敵さんのお出ましだ。川に揚陸艇が5。アザラシ兵の姿はなし)
(ちっ。よりによって今かよ。レニー、剣聖をこちらに向かわせてくれ。捕虜を剣聖に引き渡したら、ハンキーとバギーが合流する。それまで、無茶はするなよ?)
(わかったよ、任せときな)
網膜ディスプレイに映る揚陸艇が、河原に乗り上げて歩兵と戦車を吐き出した。1艇に戦車1と歩兵12。最後の揚陸艇は戦車ではなく、片側8つのタイヤが付いた装甲車を載せていたようだ。
(敵地上部隊、河原に上陸。悔しいが射程外だ。戦車4。兵員輸送車1。随伴歩兵が各12。パワードスーツじゃなく、普通の戦闘服だ)
(見えてるよ。戦車と兵員輸送車は任せていいんだよな)
(もちろんだ。ただ、揚陸艇はどうする?)
(Ja10なら、100キロ爆弾を3発搭載できる。ニーニャちゃんが作ってくれたら、残らず沈めてみせるぞ)
(1艇だけでも、中破で止められねえか? 島に住み着きそうな、知り合いの一族がいるんだ)
(了解。試してみる)
(ありがてえ。ニーニャ、爆弾を頼めるか?)
(もう出来てるよー)
(よし、じゃあ降りるぞ)
先に双発が着陸し、そのコックピットに運び屋が近づいていく。
両手を上げて降りたパイロットをロープで縛り上げ、運び屋はバギーに乗った。
まさかと思ってみていると、当然のように発車させる。
引きずるほどの速度ではないが、パイロットは必死で足を動かしている。飛行帽とゴーグルで顔は見えないが、何かを叫んでいるのは見てとれた。
(ルーデルさん、爆弾搭載完了。ついでに、超エネルギーバッテリーも交換したよっ)
(ありがたい。行くぞ、ジュモ)
(鬼畜敵兵を肉片にしてやるデス!)
軽戦闘機で着陸したルーデルとジュモが、双発機に乗り込んだ。
こちらはこちらで、もうすぐ戦車が射程内に入る。
道路に乗り上げた戦車は、車の残骸を踏み潰しながら進んでいるようだ。
(レニー、聞こえるか?)
(おう。聞こえてるし、見えてるぞ。網膜ディスプレイの半分は、ヒヤマの見てる景色だ)
(距離7000で戦車と兵員輸送車は潰すが、随伴歩兵と兵員輸送車内の歩兵がどう動くかわからん。運び屋が行くまで、前には出るなよ?)
(わかってるって。ここには、職持ち以外の冒険者もいるんだ。こいつらを守るのも仕事さ)
(それでこそ花園だ。グッドラック)
(ヒヤマこそ!)
話す間にも、戦車と兵員輸送車は進んでいる。
7000まで引きつけて、最後尾の兵員輸送車の、フロントフェンダーから弾を入れた。
煙を出して足を止めた兵員輸送車はそのままにして、先頭の戦車を狙う。
ふと思いつき、戦車の砲口を捉えてトリガーを引く。
戦車は内部から爆発したように、砲塔までふっ飛んだ。
(ヒヤマ、兵員輸送車から強化外骨格パワードスーツ3体。速い!)
(それでも戦車からだ。運び屋、間に合うか?)
言いながら、次の戦車を撃ち抜く。
(運び屋さん、先に行ってください。バギーなら間に合います!)
(すまねえ、ウイ嬢ちゃん。今行くぞ、レニー)
走る強化外骨格パワードスーツを尻目に、砲口をシティーに向けた戦車を潰す。
先頭と最後尾がスクラップになり、身動きが取れなくなったので、シティーに砲撃しようとしているらしい。
最後の1両を潰して、強化外骨格パワードスーツを映すウインドウを選択。
(行かせるかってんだよっ!)
バギーが強化外骨格パワードスーツの脛に突っ込み、倒れた強化外骨格パワードスーツのコックピットに、運び屋がソードオフショットガンを撃ち込んだ。
パイロットのHPバーが砕け散ったのを確認して、バギーから遠い方の強化外骨格パワードスーツに狙いをつける。
(撃つならハルトマンを降りろよ、死神っ!)
言いながら運び屋はバギーをコマのように回転させ、もう1体を転ばせてソードオフショットガンを撃った。
(もしかして俺、いらなくね?)
(生身で戦車を潰せってかよっ!)
急発進したバギーが、強化外骨格パワードスーツの足元をすり抜けて、サイドターンを決める。
その時にはすでに、パイロットのHPバーは消えてなくなっていた。
(バケモノが・・・)
(失礼なやつだな)
(こっちも終わったぞ。2艇は中破で、乗組員は河原で白旗を揚げてる。歩兵にも降伏を促す信号を送ったが、止まる気配はないな)
(俺は狙撃かな)
(俺も、機銃掃射を開始するぞ)
(レニー、ハンキーの屋根に乗って続け。ミツカ嬢ちゃん、ゆっくりでいいから道路を進め。死神はどうする?)
(おいおい。沿岸まで進むなら、俺も行くっての)
スナイパーライフルを放置して、東の川までの距離を確認する。
これなら、届きそうだ。
(ニーニャ、ハルトマンは防水仕様だよな?)
(もっちろん。でもなんで?)
(ヒヤマ、まさかっ!?)
(なんだなんだ。ルーデル、わかるか?)
(・・・屋根で踏み切りの練習してるな)
(イカれてやがる)
(褒め言葉、だよなっ!)
助走を大きく取って走り、川に向かって跳んだ。