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戦争と少年




(ヒヤマ、ここからはいつ敵機が来るかわからねえ。おまえも寝てろ)

(おはよう、運び屋。やっぱ、深夜と明け方が怪しいのか?)

(多分な。なんかありゃ無線で叩き起こすから、そこで寝てるといい)

(わかった。なあ、運び屋)

(なんだ?)

(戦争って、どんなもんなんだろう)

(理不尽で無慈悲な、ただの殺し合いだよ。あまり考えずに殺せ。今は、それでいい)

(そっか。おやすみ)


 コックピットで丸くなると、まるで子供に戻ったような気分になった。もしかして、俺は怯えているのだろうか。誰に聞く訳にもいかないが、たぶんそうなのだろうと思う。

 ウイ達はテントで寝ている時間だ。1人で不安に耐えるしかない。

 さらに、体を縮こめた。

 スピーカーから、小さな歌声が聞こえる。運び屋の声だろう。抑えた低音。

 アメリカかどこかの、子守唄だ。

 朝になれば、お金持ちになっているから、安心してお眠りなさい。そんな意味だったと思う。

 生き残れば朝が来る。何も考えず眠れ。そう言われている気分だ。

 目を閉じると、床に体が沈んでしまうように感じた。


(死神、来たぞ!)

(数はっ!?)


 叫びながら飛び起きて、ハルトマンを起動する。


(3機。軽戦2機と、重爆撃機っぽいのが1機だ)


 軽戦闘機は護衛と行方不明機の捜索で、ついでに爆撃をしようってのか。

 すぐにカメラは朝焼けの空の、3機を写した。


(いた。距離、約15000。ルーデルは起こしたのか?)

(ああ。すぐに来る)

(爆撃機のどこを狙撃するべきか聞いてくれ。俺は最大望遠で、職持ちがいるか確認する)

(了解)


 やはり、俺も無線スキルを取るべきだったか。

 今あるスキルポイントは2。昨日の狙撃で得た経験値は10でしかなかったから、しばらく取得は無理だろう。戦争中に取れれば上等か。

 軽戦闘機、爆撃機とパイロットのHPと名前を確認する。爆撃機には8人も乗っているが、職業名が表示されている乗組員はいないようだ。


(待たせた、ヒヤマ。あの爆撃機は、そんなに硬くない。しかも、爆弾倉は翼内だ。付け根寄りを狙えば、誘爆して木っ端微塵だぞ)

(どっちも壊していいのか?)

(ああ。ミアットがあればそれでいい)

(了解。悪いが、運び屋に無線を寄こせと伝えてくれねえかな)

(わかった。待ってろ)


 申し訳ない気持ちで頼みながらも、視線は爆撃機から外さない。


(どうした、死神)

(軽戦闘機から狙撃でいいか?)

(ああ。任せるぞ)

(了解。射程内に入って、5秒後に狙撃する)

(気楽にやりな)


 そう言われてもな。

 だが、なにか言えば、運び屋に気を使わせる。

 黙って伏せて、狙撃モードで照星を軽戦闘機に合わせた。

 見えない重さが、両腕にかかる。撫でるように手を動かして、スナイパーライフルの形を手になじませた。

 突然、軽戦闘機の横に詳細な距離が表示される。ウイか。


(お待たせしました、狙撃するのですか?)

(ああ。準備は出来てる。鼓膜をかばえと、全員に伝えてくれ)

(了解)


 距離は10000を切っている。

 試し撃ちしたボウリング場の看板まで、2000。

 爆撃機には、双眼鏡やらで索敵する余裕のある乗組員もいるだろう。発見されれば、即座に逃げられる可能性もある。


(距離8000を切ったら、5秒後に狙撃する)

(了解。こちらの事は、気にしないでください)


 距離は見る間に縮まってゆく。

 8000。そこから、心の中で5つ数えた。


(狙撃、どうぞ)


 衝撃。

 火の玉になる軽戦闘機。

 押し戻されながら、カメラを2機目に切り替えた。ためらいなく、2射目。

 巨大な薬莢が、シティーの屋根を叩く。

 その時にはもう軽戦闘機は爆散し、照星の向こうには爆撃機の翼があった。

 回避動作すらない。良い的だ。

 ドンッ!

 1発で爆弾倉を撃ち抜いたらしく、爆撃機はまるで1発の爆弾のように爆発した。


(3機撃墜。生存者なし。お疲れ様でした)

(なんとか、やれたか・・・)

(見事なものでしたよ。それにしても、凄い経験値ですね)


 なんだって?

 慌ててステータスを確認する。

 驚いた事に、レベルは56になっていた。


(なんだこりゃ。経験値どんだけ来たんだよ)

(軽戦闘機がパイロット込みで500。爆撃機は1000ですよ)

(全然気づかなかった。ウイ、悪いが【衛星無線】を取っていいか?)

(それなら、【映像無線】を取ったらどうですか。アドレス登録が必要ですが、任意で自分が見ている映像も送れますよ)

(これか。許可を取った相手にしか通じない無線。任意で視界を映像として見せられる。レベルに応じた人数の同時接続可能)

(【衛星無線】は長距離でも届きますが、同時接続は出来ません)

(わかった。これにする。取ったら外に出て、許可を取って回るよ)

(皆には伝えておきますね)


 【映像無線】を取得して、ハルトマンから降りる。


「運び屋、ルーデル、【映像無線】を取った。繋ぐ許可くれ」

「おう。いいスキル取ったな。申請承認、っと」

「俺も承認。ジュモも登録しといてくれないか? ミアットを複座にするから、映像を飛ばせるのはありがたい」

「うちのかわいこちゃんもな」

「了解。行ってくる」


 朝メシの準備をする女達も全員登録して、ハルトマンのそばに戻った。


「この後は?」

「軽戦が撃墜されたかもしれないという疑念が、確信に変わるまで半日。そこから、組織がしっかりしていれば増援要請。雑魚の集まりなら、相手を確認しないで増援要請はないと思う。俺が見た感じじゃ、後者だな」

「様子見の侵攻か。引きつけて叩いて、空母まで沈めたいな」

「軽戦闘機でやれんのか、ルーデル?」

「船は足が遅いからな。初撃で足を止めさせれば、こちらの勝ちだ。ニーニャちゃんが魚雷を作ってくれるらしいから、なんとかなると思う」

「運び屋。ハルトマンを沿岸まで出して、連絡役の飛行機を落とすか?」


 運び屋が目を閉じて考え込む。

 じっと待っていると、ルーデルにタバコを差し出された。

 煙を吐きながら待つ。


「条件がキツイぞ。上がった航空機はすべて落として、地上部隊を引き付けた上で殲滅して、それから道路を進むんだ」

「観戦武官でもいれば、すぐに船に戻って逃げるかもな」

「普通に迎え撃ったら、どうなるんだ?」

「ハルトマンとルーデルの軽戦を見られて、それに勝てる戦力を集めて、そのうちまた来るだろ」

「ヒヤマのハルトマンに勝てる兵器なんて、そうはないと思うぞ」

「巨大ロボットとか、なかったのか?」

「外骨格パワードスーツはそれなりにあったが、当時のものよりハルトマンの方が高性能だと思う」


 それなら大規模戦闘は、強化外骨格パワードスーツが入り乱れる戦場になるかもしれないのか。

 とてもじゃないが、ハンキーを前に出せやしないな。


「とりあえず、ハルトマンに保護色の布でもかぶせて、ここから狙撃する。下は運び屋に任せるぞ」

「俺とジュモは、いつでも上がれるように、コックピットで待機だな」

「そうか。ウイ嬢ちゃん、レニー、ちょっと来てくれ!」


 大声で運び屋が呼ぶと、2人はすぐにやって来て輪に加わる。


「どうしたんだい、運び屋?」

「なあに、はっきりさせておかにゃならん事があってな」

「聞こうか」

「ルーデルは軽戦で空に上がるし、死神はここで狙撃だ。だから、地上の指揮は俺が執る事になる。納得できるか?」

「妥当だと思いますが?」

「そうだね。潜り抜けた修羅場は、俺達花園よりずっと多いんだろ」

「指示には、従ってもらうぞ?」


 ウイとレニーが、顔を見合わせる。


「はい。問題ありません」

「花園もだ」

「よし。死神、お前の女は1人たりとも死なせねえ。どうか、俺に預けてくれ」

「どいつもこいつもジャジャ馬だが、よろしく頼む」

「ちょっと不安になったじゃねえか。じゃあ、嬢ちゃん達はハンキー出して、ルーデルの軽戦にいつでも爆弾積めるように準備。花園は剣聖と冒険者を集めて、橋の前に布陣」

「わかりました。ルーデルさん、ご一緒させてください」

「俺達も行くよ。朝メシはアイテムボックスに入れて、橋の前で食いな」


 全員が動き出した。

 俺は1人で、テントを1枚の布状にする。

 最後に下りる運び屋に、それをハルトマンの上半身にかけてくれと頼んだ。

 布団から顔だけ出す無精者のような格好で、身じろぎもせず北を見張る。


(ヒヤマ、無理はしないでくださいね)

(そっちこそな。運び屋の指示に従って、絶対に無理はするな)

(わかってますよ。ねえ、ミツカ、ニーニャちゃん)

(そうだぞ。心配はいらないさ。早く終わらせて、フロートヴィレッジでリゾートだ)

(楽しみだねっ)

(ならいいが、とにかく気をつけてな)



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